あのさ、性格やばいから
☆
そして、次の日の放課後。
「平八郎はまず、その性格を直さなきゃどうしようもないよ。さっさとシャンランに謝りにいくね」
僕とリンリンは街の小さな商店街を並んで歩いていた。リンリンは買い食いした肉屋のコロッケをほおばりながら、僕に冷ややかな目を向ける。
僕は肩身の狭い思いをしながらも、ある目標に向かっていた。
「そんなに急かさないでくれよ。僕だって悪いと思ってるんだから」
僕たちは今、シャンランを尾行していた。正確に言えば、声をかけようとして、なかなか僕の決心がつかないだけなのだけど。
「ああもう、なんであんなことしちゃったのかな」
僕の脳裏に昨日、放課後で起きたことがよぎる。
あのとき僕はつい、シャンランを感情的に責めてしまった。それは、死の危険を身近に感じたことによる一種の錯乱だった。
落ち着いて考えてみたら、確かに、あのときの自分の行動はあまりにも稚拙だった。
リンリンはそんな僕を叱った。
「ちゃんとシャンランに謝るね。平八郎の性格おかしい。その人格を矯正するよろし。じゃないと私たち夫婦に未来はないね」
リンリンのまなざしは優しかったが、殺気を帯びていた。ちなみにリンリンと夫婦になった記憶はない。
だから僕は今日の放課後、リンリンと一緒にシャンランの元へやってきたのだが……。
彼女を目の前にしながら僕は、ずっと声をかけられないでいた。
僕は電信柱の影に隠れながら、商店街を歩くシャンランにただ視線を送っている。
シャンランは本人の意思で学校に通っていない。一日中、拳法の稽古をしているのだという。だがそれではあまりに浮世離れしていると、シャンランの母親は彼女に一日一回は家のことを手伝うように申し付けているのだ。
今日は、商店街に買い物をする日なのだという。
外に出ているのだから、声をかけるのに絶好の日だ。だけど……。
やはり、僕は動けなかった。
リンリンは何度目かしれないため息をついた。
「ああ、こんなのが将来の旦那になるなんて情けないよ。平八郎は私のために、その人格を矯正するよろし」
「べ、別に君のためにシャンランに謝るんじゃない」
「言っとくけど私は手伝わないよ。平八郎が平八郎の意志で、シャンランに謝りに行くのを待つね」
「うぐ……」
とはいっても、僕なりに反省しているのだ。
昨日の僕の行動はあまりに子供じみていた。
シャンランは、僕がシャンランを好きでなくなったあの瞬間、きっと悲しかったはずだ。こういうと随分、うぬぼれた言い方だけど……きっとそうなのだ。
だっていうのに僕は、そんな傷心の彼女を責め立ててしまった。
正直僕は、シャンランを女性として意識しているか、自分でよくわからない。
だけど謝るべきだとは思うんだ。
しかし気持ちと体は裏腹。
いざ、謝ろうとすると、素直に体が動いてくれない。
僕は何もしてない癖に、緊張が極限に達していた。
正直もう、疲れてしまった。
僕は電信柱から離れて、踵を返した。
「やっぱり今日はやめよう。明日また、気持ちを整えてシャンランに謝るよ」
リンリンの返事も待たず、家路につくべく歩き出す。これ以上は時間を無駄にしていると思った。
きっとシャンランも、昨日の今日で僕の顔なんか見たくないはずだ。
そのとき、突然僕の後頭部に衝撃が走った。
驚いて振り向くと、リンリンがゴミを見るような目で僕を見ている。
「本当にしょうもねー野郎だなこのひょろがりオタクが」
「えと……リンリンさん? 僕の頭を今、殴ったのかなもしかして?」
「おうそれがどうした? もっとすげぇことしてやろうか?」
まるでヤンキーのように凄まれる。僕は恐怖におののいた。
「ひぃっ……!」
「けっ雑魚が。気分悪いから帰るわ」
そう吐き捨てると、リンリンは僕にわざと肩をぶつけてから、立ち去ってしまった。
肩をぶつけられた僕はその場に尻もちをついて、呆然とする。
――どうやらリンリンのことも本気で怒らせてしまったみたいだ。
まさかあんな風に態度が豹変するなんて。中国訛りがなくなってものすごく流暢なヤンキー喋りだった。僕は恐怖のためか足が震えていた。股間付近に熱いものを感じる。
「……やっぱり僕なんか、誰ともうまくやっていけないんだ。あんなにリンリンを怒らせるなんて」
自嘲気味に呟く。それにしたって豹変しすぎな気もするけど。しかし胸の内には悲しい気持ちがこみあげていた。
「帰ろう」
すっくと立ちあがった、そのとき。
僕は目の端で異様なものをとらえた。
すぐ、シャンランのあとを目で追う。
シャンランの目の前に、見上げるほどの長身の男が立っていた。
キャップを目深に被った、ストリートファッションというのだろうか。とにかく、アクセサリーにしても靴にしても、僕なんかよりもよっぽど気を使ったお洒落な雰囲気の男だ。
そして、ものすごい美形男子である。
彼はシャンランを、妙な光のともった瞳で見つめていた。
「君、可愛いね」
「かっ、可愛い?」
「良かったら、俺と一緒に来ない? 遊ぼうよ」
長い腕が、するりとシャンランの肩を抱く。
「なんだあれっ」
僕は驚いて男の姿を凝視した。どうも、ナンパのようだ。年齢は十代か、僕たちより少し上に見える。だがその落ち着きようといったら。大人の色気がたっぷりだ。
一方、シャンランは。
「ふひ……か、可愛いだなんて」
僕は思わずずっこける。シャンランは目をハートマークにして、すっかりメロメロになっている。
いやまあ本人がいいならいいんだけどさ。
そもそもナンパに引っかかるのは本人の自由だ。それにあれだけの美形男子が相手だ。普通の女子なら、シャンランのような特殊な事情がなくとも、簡単になびくだろう。
ちょっとばかし嫌な気分ではあるが。
「あほらしい。僕もさっさと帰ろう」
今度こそ踵を返そうとした僕は、
しかし次の瞬間、男の目が一瞬、妖しくぎらついたのを目撃した。
「――っ!」
ぞくりと背筋に悪寒が走る。
間違いない。僕には第六感なんていう大層なものはないけど、あの男が純粋な好意でシャンランに声をかけているとは思えない。
そう断言できるほどの邪悪だった。
僕は考えるよりも早く、電信柱の影から飛び出した。
そして、二人に近づいていく。
勢いのまま怒鳴った。
「おらー! いちゃいちゃしてんじゃねぇぞこの野郎ぅー! こちとら彼女いない歴=年齢だぞ馬鹿野郎ぅー!」
しまった。
つい本音がでてしまった。
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