第70話 親の気持ち
さて、夕飯時だ。
お客さんは宴会場にて夕飯をとる予定になっている。
先輩から指示された僕の仕事はご飯を食べに来たお客さんに料理を持っていくことだ。
しかし、この仕事はまず料理ができていないと仕事ができない上に、元々人手自体は足りているので、料理が出来たとて、僕が運ぶ料理などほぼないに等しい。
逆に仕事がないからと言って自分で考えて動くことはあまりよろしくない。
故に僕はなにかをしているように見せて、台所近くを歩き回るという前世で修得した処世術をすることにした。
しばらくぶらぶらすると、先輩のお母さんの声が聞こえてきた。
「誰かこの小鉢持って行ってくれないかしら?」
先輩のお母さんが小鉢を作り終わったようだ。おそらく、立ち代わり入れ替わりで偶然近くに誰もいなかったのだろう。
そうそう、この時を待ってたんだよ。
普通にこの処世術は罪悪感があるからね。
「はい!僕が持っていきます」
「ふふ、ありがとう」
そう言って先輩のお母さんはふわりとほほ笑む。
うわそっくり!先輩と笑った時の笑顔がそっくりだ。
遺伝子の神秘を感じる。
僕は驚きつつも、できた小鉢をお盆に乗せて、慎重に宴会場まで運ぶ。
「はい、こちら失礼したします」
「ありがとうございます」
それぞれお客さんのテーブルをまわり、小鉢を配っていく。
うーん、お客さんたちから視線を感じる。
やはり男が働いているのが珍しいのだろうか。
そんなに見ないでくれい、見られると緊張してくるよ。
なにも緊張することはないとわかっているのに、体はそれに反して反応しちゃうんだよね。
そのあたりは前の世界から変わってない。
不甲斐ない、全く、情けない。
内心そんなことを思いながら小鉢を配り終え、台所まで戻る。
台所では先輩のお母さんがまだ料理を作っていた。
「あら、運んでくれてありがとう。……顔が暗いわよ、なにかあったの?セクハラでもされた?」
顔に出ていたか、気を付けなければ。
「いえ、セクハラとかはされてません、ご心配おかけして申し訳ないです」
「……そう、それならいいの。でもなにかあったら相談してね、なにかあってからでは遅いからね」
「はい、ありがとうございます」
久しぶりに母の愛情というものを感じた気がする。
もちろん血のつながった本物の母親ではないけれど、子供を守らんとする気持ちが伝わってきた。
もちろんそれは先輩のお母さんの人徳あってのことだろうけれど。
それでも、どこかあたたかい気持ちになった。
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はてさて、お客さんが食事をしている間、僕はおかわり担当である。
お客さんがおかわりを欲しがったらご飯やみそ汁をよそってあげるのだ。
「すみません、お代わりお願いします」
「はーい!ただいま!」
お客さんは蛇娘さんか。獣人さんたちは他の種族に比べ食事の量が多いので、お茶碗の大きさも非常に大きい、その上、ご飯の量もかなり多い。
にも関わらず、この漫画盛りにされたご飯を平らげた。さらに、おかわりとは流石というべきだな。
しかし渡されたお椀は味噌汁椀だった。味噌汁のお代わりがしたかったのか。
早合点をしてしまった。
お椀をもって味噌汁が入っている鍋まで歩く。
流石に宴会場から台所までおかわりのためにいちいち戻るのは面倒なので、宴会場の後方におかわり用の鍋がおいてあるのだ。
お椀に味噌汁をつぐ。
いや、おっも!
獣人用の大きい茶碗をなめていたか、両手で持たないと厳しいな。
あ、指入っちまった。
お客さんも僕の指が入ってしまったことに気づいたようだし、入れなおすか。
「大変申し訳ございません、入れなおしてきますね」
「いえいえいえ!!そのままでいいですよ!
「でも指が入ってしまったので」
「いや、全く問題ございませんよ!」
「しかし……」
「ほら!捨てるのももったいないし!」
「…では、こちら失礼します」
「はい!ありがとうございます!」
でへへ、高級味噌汁~美男子の指添え~ってところかな?
「……」
聞かなかったことにした。




