第17話 5000万の男
「で、君が例の男子かね」
僕は立ち上がって答える。
「はい、そうです」
「そうか…君が」
何を言われるのだろうか、何をされてしまうのだろうか、いまさらながら思ったが、ここは貴族の屋敷の中、悲鳴を上げてもだれも助けてくれないじゃないか!?それに貴族ってことは、よくあるその資金力を使って不祥事もなかったことにし放題って流れもあり得るのではないか!?
と、身構えていると、イザベラさんのお母さんはすっと頭を下げて、
「うちの娘が申し訳ないことをした」
「え?」
拍子抜けである。
身構えている時にナントカは来ないといった例のセリフがあるが、しかし拍子抜けしたと同時に驚きでもある。まさか貴族が頭を下げるとは思わなかった。まぁイザベラさんも貴族は名ばかりとかなんとか言ってたし、そのあたり割と平民寄りの感性に近づいているのかもしれない。
「うちの娘が君の裸体を見てしまったと聞いた。全く、外に出すのも恥ずかしい娘だが、うちの娘も悪気があったわけではない。どうか許してやってほしい」
「そりゃ悪気があったわけではないでしょう、なにもされてないんですし、むしろやったのは僕というか…その理論だと、謝るのは僕の方だと思うんですよね」
「それでもだ、詫びの印にこれを用意した。是非受け取ってほしい」
イザベラさんのお母さんが隣にいるお付きの人にアイコンタクトをすると、お付きの人が持っていたアタッシュケースを僕の目の前に置いた。
「…これは?」
「詫びの印、5000万だ」
「いやいや!受け取れませんってホントに!」
貴族の資金力は恐ろしいな、場所にもよるけど、家を建てるこのができる金額をポンと出すとは。
「勘弁してくださいよぉ」
イザベラさんのお母さんは、僕の答えを聞いた後、僕の目をじいっとのぞき込むようにして、見た。数秒、いや一秒もなかったかもしれないが、僕にはどうしてかわからないが非常に長い時間に感じられた。
「…ふむ。いや、失礼した。少々いじわるをしてしまった。なに、悪い癖でね、かわいい子を見るとついついいじわるをしたくなってしまうのだよ」
「はぁ」
嘘つけ、絶対そんな理由ではない。もしもそれが本当なら、僕は、小学生か!という突っ込みをする必要がありそうだ。
「このことはお互い、水に流すとしよう。それでいいかな少年」
「はい、終わりにしましょう」
お互い水に流すというか、そもそも僕はなんの被害も受けてないわけで、お互いも何もないのが本音であるが、ここでそれを指摘しても話が長くなるだけなのでここは素直に頷いておくのが吉であろう。
終わりにしようこんなしょーもないこと。
「うむ、よかった。ところで、本当にうちに婿に来る気はないか?」
「おや?」
流れ変わったな、流した水が多すぎたのかな?多すぎて溢れちゃったのかな?
「うちの末っ子なんてどうだろう?」
「ちょっと待ってくださいね、頭を整理させてください」
「ちなみに末っ子は5才だ」
「絶対ダメ」
頭を整理させる必要がないくらいの情報をぶち込まれた。これは貴族の間では普通なのだろうか。
「お、お母様!流石にそれは迷惑になってしまいますわ!」
「黙りたまえ、お前には話ていない」
「も、申し訳ございません…」
イザベラさんはお母さんに睨まれて、委縮してしまった。
うっわやっば今の、これを見て婿に行こうと思うやつはいないだろ。
そもそも僕は貴族から見れば、平民で、貴族から見たら僕を取り入れるメリットは特にないように思えるのだが、違うのだろうか。
「ふむ、少年。君は自分を過小評価しているようだ」
「過小評価、ですか」
「そうだ、普通の男子は、裸を見られたら、訴訟を起こして裁判沙汰にする」
「えぇ?」
「いくら謝ったところで、返ってくるのは罵詈雑言の嵐、示談にしようものなら恐ろしい額の金を要求してくる」
「わぁ」
「自分の体には、それくらいの価値があるってね」
「ほえ」
「なんなら自分で見せつけて、お金をむしり取ろうとしてくるやつもいる」
「おっとっと」
「それに比べたら少年のなんと素晴らしいことか!心優しい、純粋で素直な少年だ。おまけに容姿もいいと来た。どうだい、自分の価値がどれだけ高いか、少しは自覚ができたかな?」
「うーん?」
そう言われたところで、僕には前の世界の常識がどうにも離れないでいるため、ピンとこない。
「…そうか、少年は少年というわけだ。立派なことだ、すべての男は少年の爪の垢を煎じて飲むべきだな」
そこまで言われても、どうしても自分にそのくらいの価値があるとは思えなかった。
「しかし、そうか、末っ子はダメか、他は全員許嫁がいるからなぁ」
「え!?イザベラさんもですか!?」
「そうだが?」
それはちょっと流せない情報だぞ。
「ちなみに相手はどんな人で…」
「少年がうちに婿に来るというなら教えてあげてもいい」
いじわるな人だ。この小学生め!
「さて、どうす…ん?どうした?」
お付きの人がイザベラさんのお母さんに耳打ちする。それを聞いたイザベラさんのお母さんは厄介ごとを聞いたのだろうか、頭を抱えた。
「いや失礼、少年、イザベラの許嫁がどんな人か知りたがっていたな」
「はい」
「すぐに、見れるぞ」
見れる?一体どういうことだろう。婿に行かなくても教えてくれるのだろうか。いやでも、見れる、ということは、つまり、……どういうことだ?
するとドアの向こうがだんだんと騒がしくなっていることに気が付く。
こちらに近づいてきているようだ。
「セヴェル!!!!セヴェルはここか!!!!」
そのセリフと共に一人の男子が入ってきた。
「おい!!セヴェル!!どういうことだ!!今月の金!!減らしただろ!!」
「あれが、イザベラの許嫁だ」
「おっとっとっと」
これは、うーんなるほど。反応に困る。
「す、すごい、ご、傲慢とういうか、自我がすごくていいですね!これからの世の中主体性が大事ですからねはい!」
「少年、無理にほめる必要はない」




