伯爵令嬢メリッサの恋の行方
新作です。
誤字報告ありがとうございます。
まだまだです……。
「もう、貴族なんて嫌」
伯爵令嬢のメリッサは窓辺から羽ばたく鳥を見て悲しんだ。
メリッサが何を悲しんでいるのか、原因は彼女が通ってる学園にある。
貴族の子供たちは15歳を迎える年になると、学園へ入学しなければならない。
3年間のうちに、家のために益のある婚約者を探すようにと親から言われて、相手が決まっていない令息令嬢たちは皆躍起になっている。
魔法のあるこの世界で秀でた魔法の才を持つメリッサは、貴族からすれば嫁にするにはちょうどいい伯爵家三女の令嬢。それに、メリッサは見た目もよかった。スカイブルーの長髪に煌めく黄色い瞳、優し気な顔立ちで、夫になる男には一歩引いてくれそうな性格。
要は、メリッサは婚約者のいない令息たちに大人気。
しかし、メリッサはそれを良しとはしていなかった。
(はあ、自分勝手な男の妻なんて勘弁してほしいわ)
そもそも、メリッサは貴族らしく心に仮面をつけているだけで、内心はちょっと口の悪い女学生だ。
まあ、貴族は腹芸ができてなんぼのものなので、九割の人間が仮面をつけて生きていることだろう。
しかし、その仮面のつけ方が、メリッサにとっては最悪なのだ。
そもそも、仮面をつけずに、自分の馬鹿さ加減を周りにひけらかしている残念男もちらほら目にする。
(あんな連中に目をつけられたのは、この魔力のせいね……)
メリッサの嫌いな男たちに目をつけられてしまったメリッサは、常々自分には男運がないと嘆いていた。
メリッサに迫ってくる高位の貴族の男どもは、高圧的で、傲慢で、自意識過剰で、蹴落としあいを好んでする残忍な人が多い。加えて、高位の貴族になればなるほど、優秀な女は優秀な子を産むだけの存在と思っている馬鹿な男どもが蔓延っている。
そんなクズを見て育った令息は、女性を、メリッサをその様な目で見ている態度が見え見えだった。
だからお前たちにはいまだに婚約者がいないのだと、メリッサは声を大にしていってやりたい気分なのだ。
メリッサにしつこく絡んでくる令息たちは、皆高位の貴族。
伯爵家以下の令嬢であれば、喜んで婚約をこぎつけたい相手らしいのだが、メリッサには無理だった。
魔法関連が総じて優秀な自分の血が目的であるのが、丸わかり。
「貴族の仮面はどこへ置いてきたんだこの恥さらしが!」と、魔法をぶつけてやりたい気分のメリッサ。
そんなことをすれば、お家同士の戦争になりかねないので、一生懸命こらえていた。
父から許可は出ているので、やらかしてしまっても、殺さなければ問題ないと言われている。
貴族である以上、そんなことをすれば、もし好きな人ができた時に迷惑がかかってしまうからと、手が出そうなところを必死に堪えているのだ。
そう、まだ見ぬ旦那様のために。
メリッサは、恋に恋する乙女であった。
(私が気に入った人たちは、みんなパートナーがいるしなー。はあ、やっぱり私も政略結婚のほうがよかったかな……)
自分の相手も、自分の未来も、自分の力で掴み取りたいメリッサ。
しかし、こうも婚約者のいない人間がクズな相手しかいないと、政略結婚に選ばれる男たちはきっと人格者に違いないとメリッサは確信していた。
なにせメリッサがいいなと思う人たちに声を掛けても、婚約者がいるのでと困った笑みを浮かべていたから。聞けば、皆が皆政略結婚で結ばれた人たちだという。
(それを知っていれば、私にも素敵な人が今頃……。
って、駄目よメリッサ。過去の行動を嘆いてはいけないわ。それに、家族が政略結婚反対なのだからしょうがないわ)
メリッサの両親は、政略結婚ではなく、恋愛結婚で結ばれた2人であった。
今は政略結婚など古いと良しとしない貴族もちらほらいるのは、メリッサの両親を見て考えを変えた貴族が多くいたから。
自分の子供には幸せになってほしいと、主に母親たちが恋愛結婚を望んだのだ。
加えて、今の王もメリッサの両親に影響を受けたうちの1人だ。本来であれば、爵位が足りず王の側妃となるはずの女性が、王妃として王の隣に座っている。
まあ、王族も馬鹿ではない。優秀な子爵令嬢であるからこそ、2人の婚約を認めたのだ。
第一王子だった王も、見る目があったということだ。
そこから恋愛結婚も主流になった。
王の意見が絶対だと言い張る貴族たちだが、恋愛結婚など馬鹿馬鹿しいと内心では思っている。だが、さすがに恋愛結婚をした王の前で恋愛結婚など馬鹿馬鹿しいと大っぴらに言えるわけもなく。渋々、子供たちに恋愛結婚を勧めているのだ。
メリッサの姉2人も、恋愛結婚で幸せな家庭を築いている。
家族が恋愛結婚で幸せになっているのだ。自分だってそうしたいと思うのは至極当然。
だが、運が悪いことに、メリッサにはこれだ! とビビッとくる相手がいなかった。
相手がいないことで、メリッサは勉学に励み、学園に入学してからの一年間、己を磨いた。
すると、どうだろうか。優秀なメリッサに惚れこんだ高位の令息達が、メリッサの血を欲しがり、メリッサに群がる始末となってしまったのである。
(……まあ、私に婚約者どころか、いいなと思う人もいないってことは、私も私が嫌いな人間の部類ってことなのよね。はあ、高望みは止めて、妥協できる相手を探そうかしら。……ああ、こういうところが恋人がいない要因ね)
そんな自己嫌悪に陥ったメリッサは、深くため息を吐いた。
「あー、美人がため息なんか吐いて。いけないのよ」
「ナナリー……私って嫌な女なの」
「えー、そんなわけないよー。メリッサは優しい子だよ! だって、爵位の低い私と仲良くしてくれるんだから」
「それは、ナナリーがいい子だからよ」
「えー、そういわれると照れちゃうな」
ナナリーは、この学園、いや貴族の中でメリッサの最も仲のいい友人である。
ミルクチョコレートの巻き髪と、ハニーブラウンの瞳がマッチしたとても可愛らしい女の子であった。
可愛らしいだけではなく、しっかりと自分の考えを臆せずいえる性格に、メリッサは心惹かれたのだ。
「それで、何に悩んでたの?」
「いい人が見つからなくて焦ってるの」
「あー、メリッサに寄ってくる男どもは、クズばっかりだもんね」
可愛らしい顔で毒を吐くこの姿、メリッサは思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、相変わらずはっきり言うわね」
「本当のことだからね。メリッサの前ではいい子ぶってるけど、裏ではあくどいことやってるの知ってるから余計かな? だって、メリッサに好意を持ってる男の子はいるけど、その人たちを圧力で止めてるし」
そう、メリッサが思う理想の男子は、高位の貴族に圧力を掛けられて、話しかけられないのだ。
家族が自分のせいで不利益を買うのは許されないと、身を引いてしまう。
まさに、メリッサが好きな家族に優しい男子であるが、メリッサが近寄ることで迷惑になるならと、メリッサも遠慮してしまう。
高位貴族による圧力によって、メリッサは自分の好きな人を探せずにいた。
メリッサの家は王家に目を掛けられているため、無理やり婚約させられることがないのだけは、唯一の救いであった。
つまり、高位の貴族令息といえど、メリッサと婚約するなら、自分の力でどうにかするしかないのである。まあ、そのやり方が根本的に終わっているため、メリッサが彼らと婚約することは絶対にないのだが。
「じゃなくて、それはいつものことでしょ? それで落ち込むようなメリッサらしくないわ」
「……ほら私、恋人の一人もいないから、私も私が嫌いな人間たちと同じなんだと落ち込んでいたところなの」
「えーーー! そんなわけないよ! メリッサとあいつらが一緒なんてあり得ないよ!!」
オーバーにリアクションを取ってくれるナナリーに、メリッサは心がぽかぽかと温かくなった。
「ふふ、ありがとうナナリー」
「もう、絶対にそんなこと言っちゃだめだよ? 私の友達があんな奴らと一緒なんてあり得ない!」
「うん、ごめんね、ナナリー」
「許してあげます!」
「ありがとう」
まるで立場が逆転しているのだが、よくある光景なので、2人とも気にしていない。
メリッサにとって学園に入って唯一良かったことが、爵位を気にしない仲のいい友人を作れたことだろう。
貴族に友人など必要ないと考える人たちも多数いるが、メリッサはそうは思えなかったから。
そこから他愛ない話をしていたのだが、ナナリーがハッとした表情でメリッサに告げた。
「あ、そうだ! 今月から新入生が来るんだよ! その中に、絶対いい子がいるよ!」
「あー、もうそんな時期なんだね」
「確かに、めっちゃ早いよね! 一年生歓迎会の交流会あるし、一緒に回ろうよ!」
年下の男には確かに面識があまりないメリッサ。
ナナリーの言葉を信じて、交流会に挑んでみようと意気込んでいた。
だが、メリッサはナナリーに申し訳ないと考えている。
なにせ、ナナリーには素敵な婚約者が一緒にいるからだ。
「でも、婚約者の相手しなくていいの?」
「一緒に回るんだよ!」
「それ、私邪魔じゃない?」
「え、邪魔じゃないよ?」
「そっか」
「うん!」
満面の笑みをナナリーが見せるものだから、メリッサはかなりナナリーを羨ましく思った。
本来であれば、一年生歓迎の交流会は婚約者がいる者ならただのパーティーに変わる。交流会は、いまだ婚約者のいない先輩たちが後輩との交流をしつつ、婚約者を見つける会だから。
婚約者のいる勝ち組は婚約者同士水入らずでパーティーを楽しむのだ。しかし、ナナリーはメリッサにもいて欲しいと心から思って発言している感じがひしひしと伝わってくる。
これはナナリーが婚約者とメリッサを信頼しての発言だ。
2人きりになれる時間を、わざわざ独り身のメリッサを加えてくれる。婚約者がいるのに、パーティーで他の女が付き纏ってくるのだ。普通の令嬢であれば、あまりいい気持ちはしないだろう。
しかし、ナナリーはそう思っていない。
ナナリーの婚約者が、自分以外の女に加担するわけがないと、本気で信じている。
さらにナナリーは、メリッサが自分の婚約者にちょっかいを出すわけがないと信じているのだ。
2人を心底信頼できていなければ、こんな発言はできまい。
ナナリーは器が広いなと、改めて感じるメリッサであった。
しかしだ。
メリッサは、婚約者は良く思わないだろうと考えていた。
ナナリーの婚約者にはたまにしか会わないが、ナナリーにぞっこんという気持ちがメリッサにも分かるほど、お互いにラブラブである。
邪魔はしたくないが、2人と回ることで、メリットもある。
2人と交友関係のある後輩が入ってきた場合、声を掛けやすくなるという大きなメリットがあるのだ。
この場合のデメリットは、ナナリーの婚約者に良く思われないことと、他の貴族から見て婚約者同士の交流を邪魔していると思われて、メリッサに関する変な噂が流れてしまうことだ。
しかし、メリッサからすれば噂などはどうでもよく、周りの貴族にどう思われようが知ったこっちゃない。
メリッサは考えに考え抜いた上で、発言した。
「とりあえず、メリッサの婚約者にも聞いてみましょう。ナナリーが良くても、婚約者さんのほうが駄目かもしれないでしょ?」
「ん? もうダンには許可もらってるから大丈夫だよ!」
「え、婚約者さんはなんて?」
「メリッサがいいのであれば喜んでだって!」
なんということでしょう。
メリッサが思っている以上に、ナナリーの婚約者であるダンゲイルは、心の大きな器の持ち主だったのです。
すると、デメリットが消えて、メリットだけが残ることに。
メリッサは、ナナリーの手を握って真剣な表情でナナリーにお願いした。
「ぜひ、お願いします」
「うん、一緒にいい人見つけようね! 私たちの知り合いも来るから、独り身の人に声を掛けてみよう!」
「はい!」
持つべきものは友人様である。
メリッサは深くナナリー神に感謝するのであった。
時は流れて、一年生歓迎の交流会がやってまいりました。
さてさて、メリッサは果たして、メリッサの望むいい人を見つけることはできるのでしょうか。
「うーん、私たちの知り合いはこれで最後か」
「誠実な人ばかりだったのに……私はあの方たちが好いてる令嬢に勝てそうにないわ……」
「ごめんね、さすがにみんなに好きな人がいるとは思ってなくて……」
ナナリーたちの紹介むなしく、声をかけた令息は好きな人がいるようで、メリッサは気になる令息たちに軽く頭を下げられて終わってしまったのだ。
令息たちも、まさか伯爵家の令嬢が独り身だと思わなかったようで、目を見開いて驚いていた。
なにせ、メリッサは他の令嬢と比べて、かなり美しい部類に入るのだ。まさか、婚約者がいないなんて想像もしてなかったようだ。
ナナリーの言葉に、メリッサは貴族の仮面が剝がれ、シュンとした雰囲気を纏ってしまう。
なまじ紹介された人たちがいい人過ぎて、普段から誘われる男どもに慣れてきたメリッサには、ナナリーたちに紹介された令息は皆がとても輝いて見えていた。
恋する令嬢も美しくなると聞いているが、令息までも当てはまるとは思いもしなかったのだろう。
こんなにいい人が独り身なんてと気分を上げてからの、好きな人がいる発言で、気持ちが急降下。
上昇と急降下を続けた結果、メリッサの心は弱ってしまった。
「いいのよ……ナナリーは悪くないんだから。
ダンゲイル様も長い時間付き纏ってしまい申し訳ありません」
「こちらこそ、申し訳ないです。ナナリーがメリッサ様に良くしてもらっていると聞いているので、ぜひ力になりたいと思っていたのです。僕たちの友人は爵位が低いとはいえ、志が立派で、人間のできた者たちが多いので、ぜひメリッサ様にも紹介したいと思っていたのですが……力になれず申し訳ありません」
「ごめんね、メリッサ」
(う、心が痛いわ……)
落ち込んでいたのは、メリッサだけではない。
日ごろからお世話になっていると聞いていたダンゲイルも、ぜひメリッサの力になりたいと意気込んでいたのだ。2人の心意気に、メリッサは罪悪感に襲われてしまう。
人を思いやれる上位貴族がもっと増えてくれればいいのにと、そう思わずにはいられないほど、2人は人ができていた。
メリッサは背筋を伸ばして、笑みを浮かべる。
「あなたたちのせいではないのだから落ち込まないで。それに、2人のような友人ができて私は幸せよ」
今の発言はメリッサの本心だ。悪意と己のメリットしか考えられない貴族たちの中に、こうして優しい友人ができたのは、本当に嬉しいことなのだ。
「メリッサ」
ナナリーは目を潤ませながら、メリッサに寄り添った。
このままでは駄目だとメリッサは思うが、いかんせん先ほどの心のダメージが残っているので、少しだけ一人になりたいと思っていた。
「ありがとう、ナナリー。少し、風を浴びてくるわ。せっかくのパーティーなんだから、短い時間だけど2人はパーティーを楽しんで」
「でも」
「ナナリー、ここはメリッサ様のお言葉に甘えさせてもらおう」
ダンゲイルはメリッサの心情を考えて、発言する。
ああ、やっぱり人ができているなと、メリッサは思わずにはいられない。
「分かった。じゃあ、行ってくるねメリッサ」
「うん、楽しんで」
「失礼します」
2人はぺこりと頭を軽く下げて、会場の中心へと向かう。
(私にもあんな素敵な人ができるといいな)
仲睦まじい姿を見て、メリッサはそう思わずにはいられなかった。
会場から離れて、人気の少ない場所へと足を運ぶメリッサ。
実は、先ほどからメリッサの苦手な令息が、メリッサを探しているのを見かけてしまったのだ。
一年生歓迎には全学生が姿を見せるので、人を探すのにも時間を要する。
メリッサは、相手の魔力を探りながら、うまく逃げられたと息を吐く。
メリッサのいる場所は、パーティー会場とはかなり離れた休憩所だ。
学園内には様々な休憩場があるのだが、メリッサの一番のお気に入りは、人気の少ない校舎裏の小さな庭園。
小さい花たちが懸命に咲き誇っている庭園が、メリッサはとても好きだ。
人が来ないのもそうなのだが、手入れのされていない花々が自然のままに咲いている姿を見ると心が落ち着くから。
メリッサはテラスに置かれている椅子に座り一息つく。
はしたないと分かっていても、靴を脱いでのんびりするのが、至福の時間であった。
「素敵な人って中々現れないわね」
独り言をぽつりと呟いてしまう。
自然を感じるこの場所では、メリッサは自然体でいられる。仮面を外して、心穏やかに過ごせるこの時間は、かけがえのないものだ。
「っち」
そんなかけがえのない場所に、侵入者の魔力を感じ取ったメリッサ。
この場所を知っている学園の生徒は皆無と言っていい。わざわざ、こんな場所まで足を運ぶ貴族の子供たちなどいないのだ。
ここに用がある人間は、大抵表にはしにくいことをする時だけ。
メリッサはすぐに靴を履きなおして、スッと立ち上がり、仮面をつける。
「こんなところにいたのね、泥棒猫」
「メガロクロス侯爵令嬢様、こんなところまでいかがなさいました? それに、そんなたくさんの人たちを連れて」
「あなたが一人になるところを待っていたのよ、アリストカレスト伯爵令嬢。いつもは邪魔者がいるから、表立って言わないけど……。あなたが一人になるのを心待ちにしていたわ」
(はあ゛ぁー……面倒くさ)
メリッサの前に並ぶのは、メガロクロス侯爵令嬢を筆頭とした10人ほどの中位と高位貴族の令嬢たち。
令嬢たちは、メリッサに寄ってくる令息に恋をしている者たちだ。メリッサに言わせれば、あんな男たちのどこがいいのだと言ってやりたいが、恋は盲目という事だろうか。
メガロクロス侯爵令嬢たちは、獲物を見つけた猛禽類のごとく瞳に炎を宿している。
嫉妬という醜い黒紫色の炎が。
「さっさとヒュブリズ様から手を引いて下さらない? それと、他の令息からも、ね」
「……何度も言ってますが、私が言い寄っているのではなく、あちらから寄ってきているのです。私に難癖付ける前に、自分磨きをして惚れさせるのがいいのでは?」
いつもなら軽く謝って適当に流すメリッサだが、今日は自分を隠せるほど、安定した心を持ち合わせていなかった。今日こそはと意気込んできた交流会も駄目で、寄ってくるのはプライドの高い男たちのみ。極めつけに、ご令嬢たちの復讐。
常日頃から嫌味を吐き捨ててくる令嬢たちを前にして、メリッサは堪忍袋の緒が切れ掛けている。
飄々とした態度で自分たちの嫌味を返してくるメリッサにもイラついている令嬢たちは、メリッサの言葉で腸が煮えくり返るほど怒りを露わにした。
「生意気な、絶対に許さないわ……。 やはり、教育が必要みたいね。あなたたち!」
「はい!!」
魔物のような顔つきに変貌したメガロクロス侯爵令嬢は、取り巻きたちに命令する。
10人の醜いどす黒い魔力が魔法となり、今にもメリッサを襲いそうだ。
「さあ、泣いて許しを請うか、それとも痛めつけられるか、選ばせてあげる!」
にやりと笑うメガロクロス令嬢は、いつも通り数十発の魔法をメリッサに向けて攻撃する。
メリッサに攻撃が被弾し、お気に入りの花々にも魔法が当たり、美しかった庭園の一部がいびつに形を変えた。
ブチ!!!
メリッサの我慢もここまでだ。
(ああ、ごめん、お父様、お母様、お姉ちゃん。もう、限界)
メリッサは家族には迷惑はかからないことを分かりつつも、難癖をつけてくる令嬢や、過度に言い寄ってくる令息には手を出さなかった。あまりにも強い力を持ち合わせているメリッサが、自分の力を示すために貴族の子をぼこぼこにすれば、王家から何かしらのお声がかかることを知っているから。
ただでさえ王家に目をかけられている、というより、国から目をつけられているアリストカレスト伯爵家。
父は最高級の魔法使いで、母は最高級の回復魔法使い。一番上の姉は父の力を、二番目の姉は母の力を。
両親はかたくなに王家に娘たちを紹介しなかった。
自分の好きな人は自分で決めなさい。自分の幸せは自分で掴み取りなさい。
そういわれてきたおかげで、権力にも負けない愛する家族を作ることができている。
三番目の子供にも、そう教えようとした矢先のこと。生まれてきたメリッサは、両親から両方の力を受け継いだ。両親は驚愕しながらも、父親の力を受け継いだことにした。両方の力を持ち合わせているなど、王家にバレれば、今度こそ本当に娘が自由を奪われる身になると確信しているから。
幸いにも、メリッサの力はいまだに王家には隠し通せている。
自分たちの子供にも自由に生きて欲しい両親、姉二人は今でも自由気ままに人生を楽しんでいる。
最高の婚約者に出会えたからだ。
しかし、メリッサはまだ独身で、そのうえ国の重鎮たちが欲しがる力を有している。
これがバレれば、メリッサの自由は完全に無くなることだろう。
力があるものは、力なきものに手を差し伸べよ。
国の重鎮たちはすでに力があるにも関わらず、アリストカレスト家の力を欲している。
矛盾した言葉に両親は苛立つも、自分たちは貴族の義務を誰よりも率先して行ってる。王家がというより、お前ら重鎮どもがさらに力を欲するなどおかしいと反発した。
アリストカレスト家に逃げられては、国として大ダメージを受けると思った王家は、重鎮たちを力づくで押し込めていた。なぜなら、今の王は少なくともアリストカレスト家に感謝しているのだ。2人のお陰で、大好きな令嬢を王妃にできたのだから。
しかし、三人もいるのだからと、権力を握ってくる貴族の重鎮たちが偉そうに口にする。
今は王家が何とか抑えているが、メリッサの力がバレれば、確実に我が物にしようとあの手この手を使ってくるに違いないと、両親は確信しているのだ。
それが分かっているからこそ、メリッサも今まで我慢していた。
家族の努力が水の泡になるのを避けたかったのだ。王家の息子たちにもいい人はいるが、自由がない。
それに、王家の息子たちにも愛するパートナーが既にいる。いないのは、まだ幼い第五王子くらいのものだろう。
しかし、重鎮どもは、メリッサに第五王子をあてがおうとしている。
メリッサは今年で16歳、第五王子は8歳。8歳差程度なら、貴族としては全然問題ない。
しかし、第五王子の心も、メリッサの心も無視したその行動は、王家とアリストカレスト家とアリストカレスト家を支持している貴族たちが猛反対している。
貴族にも恋する権利を。
このままでは、居場所を奪われると、さすがの重鎮たちも息を潜めたのだが。
国の獣は今か今かと、メリッサを王家に飲み込ませようと、静かに狙っている。
それを分かっているからこそ、メリッサはいままで大人しくしていた。
だが、もはや限界だ。
メリッサにだって限界はあるし、言いたい放題言われて、我慢できるほど器が大きくない。
いや、この一年間、よく我慢したものだろう。学園に入る前でも、ちらほら縁談の誘いと、それに対する陰口と悪意に当てられていたメリッサ。
学園に入ったら入ったで、嫉妬と家との繋がりと血だけを求めた視線にうんざりしていた。
嫉妬にかられた令嬢たちからの嫌がらせにも耐え抜いてきた。
物はずたずたにされ、衣類も破かれて放置され、汚い言葉をぶつけられ、時には魔法で嫌がらせも受けた。傷がついても治すことは可能だが、痛みがないわけではない。
そんな最悪の一年間だったのだ。
メリッサが怒りに支配されるのも無理はないだろう。
「もう、いいや」
メリッサの瞳から、ハイライトが消えた。
堪忍袋の緒が切れて、メリッサの魔力がどんどん、どんどん膨れ上がる。
限界を知らないのか、魔力量も濃度も上がっていく。
そして、目の前で笑っている令嬢たちに、視線を向けて、言葉を発した。
「ねえ、あんたら……私に勝てると思ってるの?」
「!!」
メガロクロス令嬢を含めた全員が、メリッサの言葉に対して体が勝手に一歩後ずさる。
歯がカチカチ上下し、体は震え、背中から大量の冷や汗が浮かぶ。
「っ……」
メリッサが一歩足を動かしただけなのに、メガロクロス令嬢たちからしたら、とんでもない魔力と重圧を受けて、顔が真っ青を通り越して真っ白に変わる。
その様子を見ても何とも思わないメリッサは、ついつい今まで溜めていた鬱憤をぶちまける。
「もういいわ、この国を出ていく。もともと貴族なんて私に合ってなかったのよ。
冒険者にでもなって広い世界を見て、人生を楽しむことにする。冒険者には男が多いっていうし、きっと私の理想の人も見つかると思うし……。それに強い人がいい。わたしがこうして暴走したら、止めてくれる人。ストレス発散に付き合ってくれるくらい強くないと、絶対幸せな結婚なんてできないと思うし。
あー、でも家族に会えなくなるのはいやだな。私、この人たち傷つけようとしてるし。
まあ、でも先に攻撃の意思を見せたのはそっちなんだから、別にいいよね?
駄目かな……でも、10対1だしな。散々今まで精神的ストレス感じてきたし、精神的に殺してもいいかな……。家族は許してくれそうだけど、この国にはいられないよね。たまに顔見せればいいか。こんなところにいるよりましか」
「な、なにを」
メガロクロス令嬢だけが立ったまま、口を動かして、話すことができた。殺す殺さないの話が出てきたからだ。それ以外の令嬢は腰を抜かして、動けないようだ。発動した魔法だけが、ふよふよと浮いていた。
メリッサはメガロクロス令嬢に少しだけ驚いた様子を見せる。
力を少しだけ示してみたが、立ったまま話せることに少しだけ凄いなと感じた。
「へー、凄いね。たかが学生の癖に、私の魔力に耐えられる子もいるんだ。でも、もったいないなー、その心の強さを違うほうに持っていけば、楽しい人生が待ってたでしょうに。馬鹿な人たちー」
瞳にコントラストが抜けたメリッサの笑顔は、令嬢たちを恐怖のどん底に落とすには十分だった。
「この靴も、ドレスも苦しいから嫌いなの」
靴を脱いで、ボロボロになったドレスを魔法で着替える。
嵐が来るような灰色の空模様のドレスを身に纏ったメリッサは、この中にいる誰よりも美しく輝いていた。
メリッサは必要なくなった靴とドレスを魔法で燃やし尽くす。
「こ、来ないでーーーー!!!」
ゆっくりと近づいて来るメリッサに対して、一人の令嬢が恐怖に怯えて魔法を放った。
すると、それを見た令嬢たちもまた、自分の命に関わると思ったのか、全力で攻撃する。
砂埃が舞い、メリッサがどうなっているのか分からない状態になる。
メガロクロス令嬢は、その光景を見て、顔に血が戻り、ひどく醜い顔で最大級の魔法をぶつけた。
それを機に、令嬢たちは立ち上がり、次々と魔法をぶつけた。今までのストレスを発散するがごとく。
砂煙が収まり、荒れ果てた庭園だけが残っていた。
どうやら、あれだけ偉そうにしてたメリッサは、自分たちの魔法で粉々になったのだと。
令嬢たちは自分たちがやったことに対して罪悪感などなく、どこかスッキリとした顔つきになっていた。
「ふふふ、あははは! よくやりましたわ、みなさま。
後のことはわたくしに任せて、勝手に暴れて襲ってきたといえば、問題ないですわ!」
高らかに宣言するメガロクロス令嬢。
それに、つられて、取り巻き達も、クスクスと笑う。
「ねえ、どうして私が死んだと思ってるの?」
「え」
メガロクロス令嬢が後ろを振りむけば、目の前にはにっこりと笑ったメリッサがいた。
「きゃああ!!」
またしても魔法を発動して、メリッサを殺そうとするメガロクロス令嬢。
「はあ、そんなもんだよね。知ってたよ、この程度だってことくらい。
でも、お父様が学園にも素敵な人はいるよって、お母様を見たから期待してたけど……本当にどいつもこいつも最悪ね」
メガロクロス令嬢は、メリッサを探すが、周りを見てもどこにもメリッサはいない。
しかし、声は聞こえてくるのだ。まさかと思い、恐る恐る上を向くと、そこには浮いているメリッサが、ゴミを見るような目で自分たちを静観していた。
メガロクロス令嬢と、他の令嬢たちは、何かを察して全力で逃げようとするも体が動かない。
そして、今度は口を動かすことすらできなくなっていた。
「もう終わりにしよう。ああ、助けなんて来ないから、期待しないほうがいいよ?
って、喋れないし動けないよね? 私の魔力を直接受けて、動ける学生なんていないもん」
メリッサは空中から地面に降りて、ゆっくりと令嬢たちの前に立つ。
そして、先ほどメガロクロス令嬢が、メリッサに選択をさせてあげると上から目線で言い放った時を再現する。
「ねえ、あなたたち。体を焼かれて火傷の痕を体につけて無様に生きるか、体は綺麗にしてあげるけど精神が死ぬのどっちがいい?」
そうして、にっこりと笑うメリッサ。
ある者は気を失い、ある者は失禁し、ある者はメリッサを化け物のような目で見つめ、ある者は憎しみの視線をぶつけた。
「うふふ、喋れないよね。じゃあ、この庭園をボロボロにしてくれたから、それと同じ感じでまずは全身の骨を砕こうかな~。え、選択肢はどこ行ったって?そんなの……」
令嬢たちが見たことがないような、悪意満面の笑みで答えた。
「嘘に決まってるじゃん」
パチン!
メリッサが指を鳴らすと、10人を一瞬で潰せそうな大岩が出現した。
「あー、これ、メガロクロス令嬢が一番最初に被害受けるね。身長が高いのも大変だね」
「……!!」
憎しみの視線から、懇願するような視線に変わるメガロクロス令嬢。
涙を流し、許してと叫びたいのに、それすらメリッサは許さない。
「結構いたいと思うけど、大丈夫……治してあげるから」
メリッサはそういうと、巨大な岩をゆっくりと下げていく。
処罰の時間である。
令嬢たちは、自分たちがした現実に目を背けて、気を失いたいが、メリッサはそうはさせなかった。
気絶してから、目覚めの魔法で、意識を無理やり起こして、目を瞑れないように細工したのだ。
「まずは、一回目」
大岩が令嬢たちに迫り……。
「それくらいにしてやったほうがいい」
迫る大岩を片手で抑える男が、姿を現した。
「だあれ?」
「俺は平民のディアヴォだ」
学生の服装をしているが、メリッサは見たことがない人だった。
高い身長と鍛え上げられた肉体と魔力、そして自分に自信のある風格。強面の顔だが、メリッサに向けられた言葉には棘がなく、向ける視線は優し気だ。
新品の服を身に纏っているので、恐らく新入生だと確信する。
今までこんなに強い人を見たことがないメリッサは、心臓が少し早く鼓動していた。
しかし、今は鉄槌の時間。
それを邪魔するのは、どんな人間でも許さないと、メリッサの心が訴えかけてくる。
今は我慢の利かないメリッサは、学生を睨む。
「私たち、いま取り込み中なんだけど、邪魔しないでくれる?」
「ああ、見ていたよ。まさか学生でこれほどの力を有している御仁に会えるとは思ってもみなかった。世界は広いな」
ディアヴォと名乗った学生は、嬉しそうに笑った。
大岩の攻撃を止めながら笑うのだ。メリッサはすでに理性のブレーキが壊れているため、今でも令嬢たちの体を粉々にしようと大岩を操っている。
にもかかわらず、大岩は動かない。
ならばと、一度彼の手から離して、今度はスピードを乗せて攻撃してやろうと考える。
しかし、上に動かそうとした大岩は、びくともしない。
メリッサは気付いた。
ディアヴォは、大岩を受け止めているのではなく、掴んで動かさないように静止させていることに。
「あなた、凄いわね……。それ受け止めてるんじゃなくて、掴んでるの?」
「ああ、そうだ。俺は身体強化が得意だからな、これくらい造作もない。
だから、こういうこともできる」
ディアヴォは大岩を掴んだ状態で大きく飛んで、庭園ではないコンクリートの地面に突き刺した。
ズドーンと大きな音と煙を立てて、大岩はそこに固定された。
メリッサは、ディアヴォの行動を見て、目を見開いた。
(この方、すごく強いわ)
魔法の発動が瞬きよりも早く、動いた体は目で追えない程の速さだったのだ。
メリッサには、突然の突風が起きて、爆音と共に地面に突き刺さった大岩が現れて、目の前に彼が現れたように見えていたのだ。
「……なるほど。分かったわ。あなたには勝てそうにないから、負けを認める。だけど、そこのゴミは私に譲って目を瞑って欲しいの。今までやられたことを何倍にもしないと気が済まない。そのあとで私を捕まえて欲しいのよ」
メリッサはじっとディアヴォを見つめてお願いする。
ディアヴォはメリッサから視線を外して、頬を赤く染めて、頭を掻いた。
「その、なんだ。これだけの美人に上目遣いでお願いされると聞きたくなるな」
「ぬわ!?」
突然の口説き文句に、メリッサは顔を真っ赤にして動揺する。
メリッサは素直な言葉と感情に弱いのだ。ナナリーの男バージョンが現れたのかと、意味の分からない言葉が出てくるくらいには動揺していた。
「しかしな……そうだ、名前を聞いてもいいか?」
「な、なによ、突然」
「教えてくれないか? 俺は尊敬できる人を、名前で呼びたいんだ」
メリッサの頭の中は、大パニックだ。
なにせ、どう見たって、いまから大事件を起こそうとしていた犯人に向かって、尊敬できる人間と言ったのだ。メリッサの心からは令嬢たちのことなど吹き飛び、目の前のディアヴォだけが溢れている。
「め、メリッサよ」
「メリッサ。うん、いい名前だ」
「きゅ」
強面から向けられる優しい笑みと、放たれる物凄い低音のエロティックな声が、メリッサの脳内を刺激し掻き乱す。
心臓がドクドクとあり得ない速度で鼓動して、顔の熱が上昇して、目に涙が溜まる。
こんな感情を知らないメリッサは、考えることができず、酒に酔ったように思考がふわふわになった。
「メリッサ、聞きたいことがある」
「な、なにかしら」
ぐっと距離を詰めてくるディアヴォに対して、メリッサはさらに顔を赤くする。
「メリッサは、それだけの力があるのに、なぜあいつらに今まで手を出さなかった?
攻撃も無防備な状態で受けて、体も傷つくだろうに。なぜ我慢できたのだ」
「そ、それは、私の自由が無くなるから」
ディアヴォの言葉で、少しだけ目が醒めたメリッサは、静かに答える。
「ふむ、もう少し詳しく」
しかし、その言葉だけでは、ディアヴォに伝わらなかったようで、ディアヴォはメリッサに詳細を求めた。
「その、私は両親から強い力を受け継いだの。それで、その力を国の重鎮どもが狙うから、なるべく静かに過ごしたかったの。あと、こ、恋人も欲しくて、力が強すぎると、優しい人たちが寄ってこないと思って」
「なるほど。メリッサは今まで苦労していたんだな」
「そう、かもしれないわ」
いや、実際そうなのだが、メリッサはディアヴォに自分の弱い部分を隠した。
今までそうしてきたため、つい本音が出せなかったようだ。
「よし、決めた! メリッサ、俺と一緒に冒険の旅に出よう!」
ディアヴォは、そんな言葉など気にせずに、メリッサに対してお姫様抱っこをして、さらにはとんでもない言葉を口にした。
「ふぇ!?」
メリッサは、ディアヴォの行動に、素っ頓狂な声を上げた。
お姫様抱っこで、持ち上げられたメリッサは、ディアヴォとあまりの近さに挙動不審になる。
しかし、ディアヴォは気付かず、嬉しそうに話し始めた。
「俺は今年で18なのだが、貴族から受けた依頼で、貴族と仲良くなったんだ。年齢を伝えたら、学園に行くべきだと言われてな。しかし、学園には興味がないと伝えると、俺に相応しい伴侶がいる可能性があると言われてな。むさ苦しい冒険者の男共に囲まれて育った俺は、まんまとその言葉に乗ってしまったのだ。自分でも馬鹿だと思うが、俺は家族が欲しいし、素敵な伴侶も欲しいから入学したのだ。
入学して早々、メリッサの内なる魔力に気付いてな。こいつは凄いと思って、どんな人間か見ようと覗いた。そしたらなんと、物凄い美人じゃないかと心が沸きたった。
声をかけようと思ったんだが、俺は平民だし職業は冒険者だしで、さすがに貴族の令嬢は無理かと諦めようとしたのだ。しかし、それでも俺は諦めきれなくてな!
それくらい、メリッサの魔力にも惹かれてしまったのだ。ならばと、声を掛けて玉砕してからでも遅くはないと思ったわけよ。メリッサの魔力の跡をたどって近くに来たのだが、一人で靴を脱いでリラックスしているところを見て、着飾った姿も素敵だが、自然体でいるところも可愛く見えてしまったのだ。
俺はそこで思ったのだ。ああ、メリッサが好きだとな。
恥ずかしい話、俺はかなり理想が高いようでな。結婚したら、なるべく傍にいて欲しいから、一緒に冒険ができるような女性を探していたのだ。
俺は見つけてしまったのだ、俺の理想の相手を。
だがな、リラックスしているところをいきなり押しかけて、告白するのも無粋だろ?
だから、声をかけずに待っていたのだが……。
そしたら、俺よりも無粋な邪魔者が入ってしまったわけだ」
怒涛の自己紹介と、怒涛の口説き文句、さらには告白の言葉。
「物凄い美人、素敵、可愛い……好き」
メリッサは、メリッサが作り上げた妄想の中で男の子に言われたいランキング上位の言葉を口ずさむだけ。
これは現実なのか、夢なのか、夢なら醒めるなと、自分自身に暗示を掛けようとする始末。
「ふむ、ここでは邪魔者も多いし、今度2人でデートをしよう。そこで、また告白させてくれ」
デートに、告白。
自分の妄想が現実になるのかと、わくわくした気持ちと、嬉しい気持ちと、どうしていいかわからない想いが、脳内で暴れまわりそして、
「にゅー」
メリッサの脳は、ディアヴォの言葉によって搔き乱され過ぎてパンクした。
メリッサは、気を失ってしまう。
そのことに気付いたディアヴォは、目を見開いて驚愕する。
「? メリッサ、おい、メリッサ! なんということだ……気を失ってしまっている。保健室はどこだ? 急いで探さねば」
保健室を探しに行こうとするも、足を止めたディアヴォは、振りむいた。
「そうだ。おい、クズども」
おそらく呼ばれたのだと思った令嬢たちは、ディアヴォに顔を向ける。
助け出されたとはいえ、ディアヴォの言葉は氷のように冷たく、矢のように尖っていた。
「メリッサに手を出したら、今度こそ俺がお前等を殺してやるからな。
そん時は、覚悟しろよ?」
令嬢たちは一斉に首を振り、その様子を見たディアヴォは、彼女たちを放っておいてその場を後にした。
これは、後日談だが、交流会からしばらくして、学園から10人ほど自主退学をした学生が出たとか、出ないとか。
そんなことはどうでもいい。
さてさて、メリッサに訪れた突然の出会いに、突然の告白。
現状、気を失いながらも、理想の相手にお姫様抱っこをされて幸せそうに眠るメリッサ。
彼女の幸せな人生はここから始まっていくのだが、はてさてどうなることやら。
幸せな夢みる伯爵令嬢メリッサの恋の行方やいかに。
思ったより長くなってしまってびっくりです。
違う作品でもよろしくお願いいたします。