捨てられた聖女さま
しかし、凪がルジェンダ王国の聖女であることを公表するのは、もう少し先のことだ。どれほど劣等感に苛まれてしまったとしても、人前で堂々と愚痴るわけにはいかない。
叶うことなら、今すぐベッドに潜りこんでいじけたいほど凹んでしまったけれど、折れかけた心をどうにか気合いで立て直す。
(……ハイ。ヨソはヨソ! ウチはウチ! ハズレの聖女を引いてしまったこの国のみなさまには申し訳ありませんが、ハズレでもいないよりマシだと思って勘弁してくださいー! あははのはー!)
自分の中にある開き直りスイッチを全力で連打しつつ、どうにか午前中の授業をこなした凪だったが、昼食の時間になってもなかなか食欲が湧かなかった。
そんな彼女に、マリアンジェラが気遣わしげに声を掛けてくる。
「ナギ? なんだか顔色が優れないようですけれど、大丈夫ですの?」
「え? あ……はい、大丈夫です!」
どんよりと卑屈モードに引きずられてしまいそうになったけれど、食事は美味しく頂かなければバチが当たるのだ。今日のランチは、ミックスサンドイッチにトマトの冷製スープ。できるだけサッパリと食べやすいメニューを選んでみたつもりだったのだが――。
「……なんでサンドイッチ系のメニューだけ、今日はこんなにボリュームたっぷりなんでしょう?」
「まあ……本当に、すごいですわね。厨房の調理魔導具の設定が、変更されたのかしら」
周囲の学生たちも若干――否、かなりの戸惑いを見せているほど、今日の学食で提供されるサンドイッチの類いは、迫力満点であった。
先週までは、ミックスサンドイッチといえば通常サイズの卵サンドにハムサンド、そして日替わりの気まぐれサンドイッチに、たっぷりの野菜サラダが添えられたプレートだったはずだ。
それが今日のプレートときたら、卵サンドの具材は少なく見積もっても今までの三倍以上入っているし、ハムサンドに挟まれたハムは極薄切りのものが『え、ミルフィーユですか?』というレベルの枚数になっている。そして、最後の気まぐれサンドイッチは、美しく切られた断面も鮮やかなホイップクリームたっぷりのフルーツサンド。
とてもとても美味しそうではあるけれど、今の凪には少々重たい。
困った凪は、へにょりと眉を下げてマッチョ美少女のリディアを見た。
「ねえ、リディア。よかったら、お好きなサンドイッチをどれかひとつ食べていただけませんか?」
「え? それはいいけど……。どうしたのさ? ナギ。なんか、元気なくない?」
リディアにまで気遣われてしまい、凪は慌てて首を横に振る。
「いえいえ、元気ですよ?」
「そう? ……まあ、マクファーレン公爵はナギにとって、一応実の父親なんだもんね。複雑な気持ちになるのはわかるし、無理して元気そうに振る舞わなくてもいいんだよ?」
労る口調で言われ、凪は思いきり頭を抱えたくなった。
(……っそっちかー! イヤそりゃそうだよね!? 今のわたしがちょっとどんよりしてたら、原因がそれかと思われるのは仕方がないよね!)
顔が引きつりそうになってしまったけれど、誤解から心優しい友人らに心配を掛けてしまうのはよろしくない。凪はできるだけキリッと表情を引き締め、片手を挙げた。
「お気遣いいただいて大変申し訳ないのですが、わたしにとってあの方は赤の他人以下の超他人です。ただちょっと、その……トゥイマラ王国の聖女さまがあまりにもご立派なお姿だったものですから、少し驚いてしまいまして」
後半は思わずポロリと本音を零すと、ランチ仲間の最後のひとり、ブリジットがのほほんとした口調で言う。
「うんうん、あの聖女さまはカッコよかったよねー。カッコよすぎて、はじめは殿方かと思っちゃったー」
凪から譲られたハムサンドを、あっという間に胃袋に収めてしまったリディアが興奮気味に頷く。
「あの筋肉は、ホントすごいと思う! ボク、女性を見て『あ、腕相撲をしたら普通に負けそう』って思ったのは、はじめてだよ!」
キラキラと瞳を輝かせるリディアに、マリアンジェラがくすくすと笑って口を開いた。
「リディアなら、あの聖女さまともいい勝負ができそうですけれど……。でも、そうですわね。あの聖女さまが公に活動をはじめられたら、各国でファンクラブが発足するのではないかしら」
「……ファンクラブ?」
なんだそれは、と困惑した凪に、マリアンジェラは笑みを絶やさないまま言う。
「ええ。トゥイマラ王国の聖女さまのお姿を拝見したとき、レングラー帝国に古くからある、女性ばかりのメンバーで構成されている劇団のことを思い出しましたの。そこの男性役の方々は、みなさまとても凜々しくて麗しくて……。レングラー帝国国内だけでなく、大陸中に熱狂的なファンがおりますのよ。あの聖女さまは、彼の劇団のファンの方々が、大変喜びそうなお姿でしたもの。同じようにファンクラブが発足しても、私は少しも驚きませんわ」
「まあ……そうなんですか。それは、知りませんでした」
凪は、目を丸くした。
(へー。どこの世界にも、男装の麗人に萌える文化はあるんだなあ)
役者というのは、大変体力勝負な職業であると聞く。それに加え、女性の身で『理想的な殿方』という夢を表現するのであれば、たしかにある程度の上背と鍛えられた肉体は必須だろう。
だがしかし。
(トゥイマラ王国の聖女さまの筋肉は、そんなレベルではなかった気がするでござるぞ。少なくとも、兄さんやシークヴァルトさんよりは、ずっと立派なマッチョだったし……)
これは決して、ライニールやシークヴァルトの筋肉が貧相だと思っているわけではない。彼らに何度もひょいひょい持ち上げられたことのある凪は、その素敵な細マッチョぶりをキッチリ熟知している。
だが、トゥイマラ王国の聖女は、歴代の聖女たちと同じく、一般魔術を一切使うことができない。つまり、身体強化魔術を使うことができないのだ。
そんな彼女が、ゴリゴリの戦闘職である騎士となるためには、己自身の肉体を限界まで鍛え上げる必要があったのだろう。その結果が、あのゴリマッチョ――ではなく、素晴らしくも魅惑の筋肉だということか。
彼女は、家の事情で幼い頃から騎士を目指していたということだけれど、今までいったいどれほど血の滲むような努力をしてきたのだろう。
ホントにすごいなあ、としみじみ感心していると、紅茶フレーバーのエクレアを幸せそうに食べていたブリジットが、こてんと首を傾げた。
「でも、トゥイマラ王国の聖女さまが、聖歌の代わりにするって言ってた叱咤激励? って、どんなものなんだろうねー? ずっと、『がんばれ、がんばれ』って応援してる感じなのかなー?」
その素朴な疑問に、凪も同じく首を傾げる。
(うーん……。少なくとも、わたしの『キレイになーれ』は、リピートしたからって共鳴して効果が広がっていくわけじゃなかったけどなあ)
『聖呪』はどれだけ連続して唱えたところで、効果は『聖歌』には遠く及ばない。
その事実を身をもって理解しているだけに、自分と同じく聖歌を歌わないというトゥイマラ王国の聖女が、どんなふうにしてその務めを果たすのかは大変気になる。もし自分にもできそうな方法であるならば、ぜひ参考にさせていただきたいところだ。
半年後、凪がこの国の聖女であることが公表されたなら、トゥイマラ王国の聖女と面会できる機会もあるだろうか。
そんなことを考えていたとき、食堂中央にある巨大魔導スクリーンに映し出されていた、美しい田園風景が突然消えた。目の端で捉えたその異変に思わず振り向くと、何度か画面が点滅したあと、そこに今朝公式に発表されたばかりのトゥイマラ王国の聖女が映る。
(はう! や……やっぱり、めちゃくちゃカッコいいでござるな……!)
大画面に映るその姿は、やはりどう見ても若く凜々しい騎士にしか見えない。それにしてもなぜ突然、と困惑していると、天井の音響魔導具から落ち着いた壮年男性の声が響く。
『我が王立魔導学園生徒のみなさん、学園長です。こちらは、現在リアルタイムで情報検索魔導ネットワークに配信されている映像です。トゥイマラ王国の聖女さまより、大陸全土に向けて緊急のご報告があるとのことで、王命により急遽学園中のスクリーンに転送しております。しばしの間、手を止めてこちらの映像をご覧ください』
学園長からの指示が終わるか否かのタイミングで、トゥイマラ王国の聖女――ウィルヘルミナが口を開いた。
『聖女に関する大陸国際条約加盟国のみなさま。このたびはお騒がせをしてしまい、申し訳ありません。ですが、この件につきましては一刻も早い対応が必要と思われましたので、こうしてお時間をいただいております。どうか、ご容赦いただければ幸いです』
軽く一礼をした彼女は、淡々とした口調で先を続ける。
『それでは、申し上げます。――現在、我が国の王宮にて、大陸南東のミロスラヴァ王国でお生まれになった聖女さまを保護しております』
(なんと……!? って、保護!? え、どういうことー!?)
まさかの四人目の聖女さま発見の報と、それに付随する単語の不穏当さに、生徒たちがざわつきはじめた。
そんな中、ウィルヘルミナが言う。
『聖女さまは、今朝の私の公式声明発表を受け、実戦投入可能な聖女を擁する我が国であれば、ミロスラヴァ王家より捨てられた聖女であるご自身を、中立の立場で保護してくれるのではないか、とお考えの上、ご連絡くださいました。また、我が国の研究機関における検証実験の結果、彼女が正しき聖女である事実については疑いなきことも、重ねてご報告させていただきます』
捨てられた聖女、という言葉に、生徒たちの間に困惑が広がっていく。
当然だ。
聖女というのは、地脈の乱れに唯一対処できる稀少な生物兵器。それを有する国は、他国に対して圧倒的な優位性を得ることができる。まさに、金の卵というべき存在なのだ。
そんな聖女を自ら放り捨てるなど、通常では考えられない愚行である。
しかし、ウィルヘルミナはどこまでも端然とした表情のままだ。
『そして現在、聖女さまは他国への亡命を希望しております。それに伴い、彼女の受け入れを希望する国に対してお求めになる条件を、ご本人から直接みなさまにお伝えしたいとのことです。――どうぞ、ご静聴ください。所属国なき四人目の聖女、ディアナ・ザハールカさまのお言葉です』
画面が、切り替わる。
そこに映し出されたのは、豪奢な椅子に腰掛けたひとりの少女。凛と背筋を伸ばしてこちらを見る彼女は、平民階級の少女たちが普段着として着るような、シンプルなデザインのワンピースに身を包んでいた。顎のラインで切りそろえた銀髪は艶やかに美しく、柔らかな印象のブルーグレーの瞳には、高い教養と知性を感じさせる落ち着いた光が宿っている。
とても大人びた雰囲気の、きれいな少女だ。
『――みなさま、はじめまして。トゥイマラ王国の聖女さまよりご紹介に与りました、聖女のディアナ・ザハールカと申します。まずは、わたくしを保護してくださったトゥイマラ王国のみなさまに、心からの感謝を申し上げたいと思います』
甘く穏やかな、それでいてしっかりと芯のある澄んだ声。
『わたくしは十八年前、ミロスラヴァ王国の重鎮、ドランスキー侯爵家の総領娘として生まれました。何不自由なく育てられた、世間知らずの貴族令嬢。それが、一年前のわたくしです』
一年前というと、この大陸で地脈の乱れが発生するより前のことか。
(総領娘ってことは、お婿さんを迎えて家を継ぐ立場の女の子だったのかな? そりゃあ、めちゃくちゃ大切に育てられていそうだよね。それがなんで、捨てられたとかいうお話になるんだろ?)
誰もが抱いたに違いない疑問に答えるように、けれど、とディアナはどこまでも静かな口調で言う。
『一年前、わたくしの婚約者だった方がミロスラヴァ王家の第三王女殿下に見初められたことで、すべてが変わってしまいました。王命によりわたくしたちの婚約は解消され、その代価として、王家からドランスキー侯爵家には多額の見舞金と、妹たちの良縁が約束されました。元婚約者は第三王女殿下と婚約し、それに伴い新たな爵位を与えられたと聞きます。そしてわたくしは、第三王女殿下のご意向により、王都から遠く離れた領地に住まう老貴族との婚約を命じられたのです』
(……えー。何ソレ、全力でどん引きなんですが)
婚約者を自国の王女に奪われた傷心のディアナを、両親は金で売ったのか。王家から良縁を約束されたという妹たちも、きっと彼女の味方にはならなかったのだろう。何より、元婚約者がさっさと第三王女と婚約してしまったことで、彼女の心はさぞ傷ついたに違いない。
それだけでも本当にひどい話だが、その上でわざわざディアナを遠方の老貴族と結婚させようというところに、第三王女という女性のねちっこい悪意を感じる。彼女ほど美しく魅力的な少女が、自分の婚約者の生活圏内にいることがいやだったのかもしれないけれど、何もそこまでしなくてもいいだろう。
ディアナに対するあまりの仕打ちに顔を引きつらせた凪は、思わず同意を求めて友人たちのほうを見る。
……やめておけばよかった。マリアンジェラは無表情で危険なブリザードを背負っているし、リディアはゴキゴキと指を鳴らしているし、ブリジットは瞬きもせずその大きな目をかっぴらいている。怖い。
『そんなわたくしを救ってくれたのが、幼い頃から仕えてくれていた従者でした。彼は、老貴族との婚約が正式に結ばれる日の前夜、ただ絶望に泣くことしかできなかったわたくしの手を取り、外の世界へ連れ出してくれたのです。それ以来、彼はフリーの傭兵として、わたくしは下町のお針子として生計を立てて参りました。傭兵という命がけの仕事の中で、彼の身に汚染痕が現れることがなければ、わたくしは今も自分が聖女であることを知らずに生きていたでしょう』
そこで一度息を吐いたディアナが、にこりとほほえむ。
『改めて、聖女に関する大陸国際条約加盟国のみなさまに申し上げます。ミロスラヴァ王国ドランスキー侯爵家の娘であったディアナ・エマ・ドランスキーは、一年前に死にました。今のわたくしは、ディアナ・ザハールカ。わたくしを救ってくれた従者であった、イグナーツ・ザハールカの妻であり、そして大陸四人目の聖女です』
(まさかの人妻!)
なんとなく、聖女には婚約者はいても結婚はしていないイメージを持っていた凪は、少なからず驚いた。
『わたくしの亡命受け入れをご検討くださるのであれば、こちらからの条件として、以下の三点を提示いたします。――ひとつ、わたくしと夫の婚姻関係を認めた上で、私生活に関して一切の干渉をしないこと。ふたつ、今後どのような報酬を提示されようとも、わたくしをミロスラヴァ王国へ聖女として派遣しないこと。みっつ、わたくしたちを保護してくださったトゥイマラ王国の方々に対し、相応の謝礼を用意すること。以上の条件を厳守していただけるのであれば、わたくしは喜んでその国の聖女として働かせていただきます。その報酬に関する条件等につきましては、わたくしを受け入れてくださる国が決まった時点で、改めて個別に交渉させていただければ幸いです』
にこやかに、そして穏やかにそう言いきったディアナは、きっととても頭のいい少女なのだろう。凪は、しみじみと感心した。
(ひとつめの条件に、旦那さまとの関係への口出し無用を持ちだしてくる辺り、ものすごくラブラブなご夫婦の気配がにじみ出ているでござるな……。その次が、ミロスラヴァ王国との縁切り宣言かー。そりゃそうだよね、祖国にいたまま『我、聖女ぞ?』宣言なんてしちゃったら、自分にひどいことをした連中が、いい思いをしまくることになっちゃうもん)
ディアナの言葉の端々から感じる、『わたくし、祖国とは今後一切関わり合いになりたくありません!』という決意以上に、彼女の旦那さまへの想いは強いらしい。きっと、とてもいいご夫婦なのだろう。
(っていうか、ウィルヘルミナさんの公式発表から今まで、せいぜい四、五時間だよね? その短時間で、ディアナさんはウィルヘルミナさんに繋ぎをつけて、自分が聖女であることを証明して、今後の方針をきっちり固めてこの場に臨んでいるわけですか。……え、行動力と交渉力と決断力が凄すぎませんか? この聖女さまってば、ウィルヘルミナさんとは別方向で有能過ぎて怖いんですけど?)
どうやら本日その存在が明らかになった聖女たちは、タイプはまったくと言っていいほど違うけれど、大変有能な女性であるという共通点をお持ちであるらしい。再びずどんと落ち込みたくなった凪だったが、ここまで来ると逆に気持ちがフラットになってきた。もしやこれが、ショック療法というやつだろうか。
なんにせよ、これでこの大陸で生まれた聖女がすべて出そろったわけだ。その最後のひとりである身としては、いまだ名乗りを上げていないことに、若干落ち着かない気分になってしまう。だが、その辺りはこの国の王家の方針ということで、ひとまずスルーさせてもらうことにする。
『それではみなさま、本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。わたくしを夫とともに温かく受け入れてくださる国があることを、心から祈っております。それでは、失礼いたします』
ディアナの優雅な一礼とともに、映像が再び切り替わる。その直後、先ほどと変わらず、端然とした佇まいのウィルヘルミナが口を開く。
『我がトゥイマラ王国は、ディアナさまの所属国が確定するまでの間、彼女のお立場を全面的にバックアップさせていただくことを決定いたしております。ディアナさまの所属国となることを希望される方々は、本日中に我が国に専門の部署を設置いたしますので、明朝よりそちらのほうへご連絡ください。それから――』
すぅ、とウィルヘルミナが軽く目を細めた。
『今後どのような報酬を提示されようとも、私がミロスラヴァ王国からの聖女派遣要請に応じることはないこともまた、ここにご報告させていただきます。以上、ご静聴ありがとうございました』
ものすごく冷ややかな声での宣言に、食堂中が静まり返った。ウィルヘルミナの姿がスクリーンから消え、元の長閑な田園風景が映し出される。
その美しい光景を眺めながら、凪は小さく首を傾げた。
(……ひょっとしてこれって、ミロスラヴァ王国終了のお知らせですか?)
今の様子からして、どうやらウィルヘルミナは、ディアナに大変同情的であるようだ。幼い頃から騎士として育てられてきた彼女にとって、十代の少女に対するミロスラヴァ王家のやりようは、非常に腹立たしくも許しがたいものであったのかもしれない。
凪としても、『同族』であるディアナにひどいことをした国を、積極的に助けたいとは思わない。むしろ、できることなら関わり合いになりたくなかった。この国の上層部からどうしてもと言われれば仕方がないけれど、彼らの凪に対する甘さからして、そんなことにはならない気がする。
そうなると、残る聖女はスパーダ王国の聖女であるエステファニアと、現在十二歳で聖女としての力がいまだ不安定だというレングラー帝国の聖女のみ。
(うーん。たぶんだけど、ニアも普通にいやがりそうな気がする。レングラー帝国の聖女さまがどうするかはわからないけど、きっとどこの国だって聖女さまをいじめた国を優先的には助けないよね。世間体的に。まあ、地脈の乱れが大体キレイになって、残るはミロスラヴァ王国だけってことになったら、ほかの国からも仕方がないから誰か行ってやってー、って言われるだろうし。そのときは、ディアナさんとウィルヘルミナさん以外の三人でくじ引きでもして、ハズレを引いた聖女が行く感じになるのかな?)
何しろ、地脈の乱れは放っておくと、そこからじわじわと周囲に広がっていくらしいのだ。いくら「なんかヤダ」と思っていても、放置し続けてしまえばそこから再び大陸中に地脈の乱れが広がってしまう。
結局、いつかはミロスラヴァ王国にも、聖女の誰かが行くことになるのだ。それまでは自業自得ということで、王家のやらかしには無関係の善良な国民のためにも、たとえ孤立無援だろうとがんばっていてほしいものである。