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夢の中で目が覚める

 瞼の裏で、光が揺れた。

 ぼんやりと目を開くと、揺れる梢の向こうに白く眩い太陽の光が見える。

 鮮やかな緑の映える、澄み切った青。

 この空を、知っている。

 涼やかな風が頬を撫でていく心地よさに、少女は小さく苦笑した。


(……また、この夢かぁ)


 少女――緒方凪おがたなぎが、『夢の中で目を覚ます』なりそんなことを考えたのは、彼女にとってこれが珍しい事態ではないからだ。

 最初にこの空の下で『目覚めた』のは、いつ頃のことだったか。両親や、年の離れた兄の証言から察するに、凪が物心ついた頃にはこの不思議な夢を見ることが日常だったように思う。

 彼女の見慣れた、どこかくすんだ空とはまるで違う蒼穹は、何度見ても切ないほどに美しい。


 だが、この美しい夢の世界は、他人に語るのは少々はばかられるものだった。

 なぜなら、この世界でインフラの基盤となっているのが電気でもガスでも石炭でもなく、魔力という大変ファンタジックな代物だったのである。


 凪は、自己評価ではあるけれど、わりと冷めたタイプの人間だ。もちろん、同年代の友人たちと全力でふざけたり、はっちゃけたりすることはある。

 だが、自分の行動にはキッチリ責任を持つよう厳しく躾けられているし、周りの子どもたちが羽目を外し過ぎそうになったときにストップをかけるのは、常に凪の役割だった。


 彼女は、兄がひとりのふたりきょうだいだ。ほんの幼い頃には『大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになる!』だの『アイドルになって、世の中を笑いの渦に巻きこみたい!』だのと、今から思うと全力で地球の裏側まで穴を掘りたくなるような、恥ずかしすぎる夢を抱いたこともある。

 しかし、八歳年の離れた兄が、大変スーパードゥラ~イな性格をしていたために、凪は早々に己の分を弁えることができた。

 ……ものすごく善意に解釈するなら、凪が年相応の子どもらしいことを口にするたび、兄はいつでも真面目に真剣に応じてくれたと言えるかもしれない。


 だが、『おれは、性犯罪者は問答無用で去勢すべきだ思っている。だが、周囲に迷惑を掛けることなく善良に生きているのならば、ロリコンやシスコンといった特殊性癖を持つ人種を、頭から否定するものではない。ただ単に、おれ自身が年上のお姉さまに可愛がられたい派だというだけなんだ』だの、『アイドルになるには、ゴリゴリの体育会系レベルの体力が必要らしいぞ。運動神経を母さんの腹の中に忘れてきたようなおまえには、ものすごく――いや、絶望的に難しいんじゃないか? 知らんけど』だのとのたまうのは、ちょっと正直すぎるのではなかろうか。


 凪だって、好きで運動音痴に生まれてきたわけではないのである。ただ、頭でイメージした自分の動きと、実際の体の動きに、なぜだか差があり過ぎるだけだ。

 そう主張すると、兄は『おまえはいつから、子育て終盤世代のマダムになったんだ』と、ものすごく哀れなものを見る目をした。腹立たしさのあまり、兄の秘蔵のエロ漫画(きれいなお姉さんが遊んでくれるOLものだった)を目の前で音読してやったのは、別にやり過ぎではなかったと思う。


 それに、凪は他人様よりも体を動かすのが下手なだけで、体力はむしろかなり立派にあるほうだ。周囲が嫌がるマラソンなどは、ぼーっと走っているだけでいいのだから、いつもいい成績が残せている。体力勝負の受験勉強だって、きっちり頑張りきることができた。

 何はともあれ、兄のお陰でだいぶ世の中の世知辛さを知っている自分が、もうすぐ中学を卒業する年になっても、メルヘンの香りが漂う夢をたびたび見ている――などという、現在進行形の黒歴史。恥ずかしくて、誰にも言えやしない。


(せめて、この夢の中で自由に動けるなら、自分の脳みそがどんな愉快な妄想を爆裂させているのか、半笑いで楽しめたかもしれないけどさー……。基本的に、リオのしていることを、ただ見ているだけなんだもんなあ)


『リオ』というのは、この夢を見ているときの凪が、周囲の者たちから呼ばれている名だ。しかし、凪は今までリオを自分自身だと思ったことはない。

 なぜなら彼女は凪と違い、ものすごく純粋でお人好しな女の子なのである。そのせいで損をすることも珍しくはなく、凪はたびたびイラッとしていた。リオと凪の共通点といえば、極度の運動音痴くらいのものである。まったく、嬉しくもなんともない。


 夢は願望の表れだ、という説をどこかで聞いたことがあるけれど、もし自分が本当はリオのようなピュアっ子お人好しになりたいと思っているなら――と思考したところで、凪の脳はそれ以上の想像を拒否した。

 リオの素直で優しい性格は、別に嫌いではない。ただ、たまに彼女の後頭部を「えー加減に、少しは学習せんかーいッ!」と、全力のハリセンでしばいてやりたくなるのだ。


 優しさとあざとさは、紙一重。

 周囲にいる同年代の少年たちに対し、常ににこにこと優しく接するリオは、彼らの初恋泥棒だった。それは別にいいのだが、リオたちがある程度成長した頃、彼女を取り囲んだ少年たちに「リオは、誰が好きなんだ!?」とされた際、不思議そうに小首を傾げて「みんな、大好きよ? わたしの大切な友達だもの」とやられたときには、本気で気が遠くなりかけた。


 そのときのリオが、物陰からこちらの様子を見ていた少女たちの鋭すぎる視線に、まるで気づいていなかったのが、また恐ろしい。リオは周囲の女性陣たちの地雷を、力いっぱい無邪気に踏み抜くタイプなのである。叶うことなら、全力で遠くに逃げさせていただきたい。

 しかし、非常に残念ながら、凪は今までほとんどリオの体を動かせたことがなかった。周囲の女性陣からのヘイトを、まったく悪気なく順調に稼いでいくリオを、ひたすら黙って眺めているしかできないのである。


 ごく稀に、硬く狭いベッドで『目覚めた』ときなどに、わずかながらこの体を自由に動かせたことはあった。だが、そういうときは大抵真っ暗な夜中であるか、あるいはリオの体調が悪く寝こんでいるときだ。そのため、夢の中でもひたすら寝ているしかないという、大変暇なことになる。


 そんなリオが暮らしているのは、国境近くの田舎町にある小さな孤児院だ。この世界でポピュラーな宗教団体が運営しているものである。そのため、子どもたちに言いつけられる手伝い仕事の中には、小規模ながら荘厳な神殿の掃除や、聖職者の使い走りなどが多くあった。

 いつの間にか聞き覚えてしまった賛美歌は、とてもシンプルながら美しいメロディーで、リオもよく口ずさんでいる。

 そんなことをつらつらと思い出しているうちに、ふと素朴な疑問が湧いてきた。


(ここ……どこ?)


 今までに何度もこの夢の世界で『目覚めた』けれど、リオの行動範囲はとても狭い。ほとんどが住処である孤児院か神殿、ごく稀に活気溢れる街の市場。それらのどこにいるときであっても、日中であれば保護者の女性――厳格で愛想のないシスターたちや、きょうだい同然の可愛らしい子どもたちが、必ず近くにいたものだ。


 しかし、今はどうだろう。

 鬱蒼と茂る木々や、濃い緑のにおい。

 どう見ても、神殿の美しく整えられた庭園ではない。そして、周囲に誰かがいる様子もなかった。こんな森の中で、リオがひとり寂しく寝転がっているなど、今までのパターンからは考えられないことだ。


(まあ、なんだかんだ言っても夢だから、どんな状況でも別に驚くことはないんだけど。……って、おぉおおー!? 明るいのに体が動かせるぞ!? これはもしや、合格祝い的な!?)


 めでたいことに凪はこのたび、無事に高校受験をクリアしたばかりなのである。四月から、憧れの可愛らしい制服を着られるのが楽しみで仕方がない。

 両親や兄も、凪の志望校合格をとても喜んでくれて、昨夜は久しぶりに家族揃っての夕飯だった。ひとり暮らしをしている兄が、お祝いだと贈ってくれた腕時計は、入学式まで大切に机の上に飾っておくつもりだ。


「へぶっ」


 指先を軽く動かせたことで、一気にテンションが上がった凪は、勢いよく体を起こそうとして失敗した。バランスを崩して倒れこみ、素っ頓狂な声を零してしまう。

 やはり、そう都合のいい展開ばかりの夢ではないらしい。横になっているときには感じなかった、わずかな違和感と痺れるような倦怠感。これは、凪が唯一親近感を覚える、リオの運動神経っぷりとは無関係の不快さだ。

 ひとつ深呼吸をしてから、改めてゆっくりと慎重に体を起こす。

 そして、どん引きした。


「うえぇー……」


 リオの声は、ちょっと羨ましくなるほど澄んだ可愛らしいものだというのに、その魅力を完全にぶち壊すような重低音でうめいてしまう。

 だが、何気なく見下ろした自分の体が血塗れの上、あちこち破れたメイド服を身につけていた場合、誰だって現実逃避のひとつやふたつはしたくなると思うのだ。


 膝丈パフスリーブのワンピースは、おそらく元々は紺色なのだろう。しかし、その上に身につけたエプロンもろとも、どす黒く変色した血で汚れまくっているため、いまひとつ自信が持てない。そして、指先に感じてた違和感の正体が、乾いた血による動かしにくさだと理解した瞬間、思わず遠くを眺めてしまった。


 しばらく現実逃避をしたあと、恐る恐る腕を持ち上げてみても、これといって痛みは感じない。素人目にも「ここ、めっちゃ景気よく切り裂かれたよね! きっと、真っ赤な血液ぶしゃーだったよね! 内臓がポロリしていなくてよかったね!」という箇所がいくつもあるのだが、やはり体に傷らしきものはなかった。

 いくらファンタジックな夢とはいえ、リアリティのかけらもない不条理さに、眉根を寄せる。


(まあ、怪我をしてないのは、ありがたい話しなんだけどさー。痛いの、イヤだし。この夢、五感がばっちりある系だし。てゆーか、なんでメイド服? あ、リオってば意外と巨乳。成長期かよ、羨ましい)


 凪はここ数ヶ月あまり、ずっと夜遅くまで受験勉強漬けだった。ベッドに入るなり、夢も見ないほど爆睡していたため、凪が覚えているリオよりも少し成長しているようだ。

 リオは、幼い頃からとても可愛らしい顔をしていた。その上、性格も単純で学習能力の低いおバカさん――もとい、大変素直で他人を信じる純粋さを失わない少女であったため、概ね周囲の少年や大人たちから愛されていたように思う。……できれば、同年代の少女のお友達がほしかった。


 それはともかく、こうして改めて見てみれば、以前は白く細いばかりだった四肢は、女性らしい柔らかさを帯びてすんなりとしなやかに伸びている。この成長具合から察するに、さぞ愛らしい美少女になっていることだろう。鏡が欲しい。

 少々ひねくれたところがあると自覚している身としては、リオのようなピュアっ子と仲よくなれる自信はないけれど、可愛いものを見るのも愛でるのも大好きだ。将来は、もふもふのシベリアンハスキーを飼うのが夢である。


 現実の凪は、ぱっと目を引くような派手さは皆無の、これといった特徴のない顔立ちだ。とはいえ、少なくとも目を背けたくなるような不細工ではないし、思春期真っ盛りの少女として清潔感にはキッチリ気を遣っている。

 ありがたいことに、毎日栄養バランスばっちりの食事を用意してくれる母親のお陰で、健康状態に問題もない。久しぶりに会う親戚たちから、笑顔で「あら~、しばらく見ないうちにキレイになって!」と、お世辞を言ってもらえる程度の容姿である。


 しかし、そもそも香ばしい醤油の香り漂う純度百パーセントの日本人である凪と、金髪碧眼でリアルに天使の羽根が似合いそうなリオとでは、もはや比べる気にもなりはしない。何より、胸部装甲の厚みの違いときたら、人種間の格差社会とはこのことか、といっそ感心してしまうほどだ。


 ――体に傷はなくとも、不衛生極まりない血塗れの自分自身を意識した途端に、なんだか気分が悪くなってきた。どこかへ清潔な衣服を探しに行きたい気もしたけれど、立ち上がるのも億劫だ。近くの木の幹に背中を預け、息を吐く。


(このまま、ぼーっとしてたら、そのうちリアルで目が覚めるかなー。珍しく、明るいときの夢の中で動ける感じなのに、意味不明なスプラッタ仕様とか、なんか悔しい。……こんな血塗れ妄想を捻り出すとは、わたしの脳みそってば、受験勉強がそんなにストレスだったのか。なんか、すまんでござる。春休みの間は、完全ノンストレスなエブリデイの予定だから、勘弁してくれい)


 凪が通う予定の高校は、そこそこ進学率のいい公立高校だ。いずれ授業がはじまれば、また勉強で大変な毎日がはじまるのだろうから、それまで少しくらいの解放感に浸ってもバチは当たるまい。

 それにしても、受験ストレスが原因と思われる血塗れ要素はともかく、このメイド服の妄想は一体どこから来たのだろう。特に、メイド喫茶でアルバイトをしたいという願望があったわけでもないのだが――


(……ん? 誰か、近くに来てる?)


 ふと、森を渡る風の自然なざわめきとは違う、藪を揺らすガサガサという音が聞こえてきた。人の声が、わずかに混じっている。

 凪は、困った。


(血塗れドロドロはいやだけど、他人と会うのは面倒くさいなあ)


 何しろ、この血塗れスプラッタである。メイド服を着た可憐な美少女(誰がなんと言おうと、客観的に見てリオは大層な美少女だ。断じて異論は認めない)が、どんな理由でここまでぼろぼろになっているのかはわからない。

 だが、この惨状で誰かに接近遭遇した場合、大騒ぎされてしまうのは避けられないだろう。体が動かしにくい今、ろくに抵抗できない状態でもみくちゃにされるのは、全力で遠慮したいところだ。


(……五感バッチリタイプの夢って、ほんとヤダ)


 リオが幼い頃、神殿の護衛らしき屈強な男に、頭をぐりんぐりんに撫でられたときの恐怖を思い出す。あのときは、本当に首がもげるかと思ったのだ。現実で目覚めたときに、自分の首が無事かどうかを何度も確認してしまった。


 たとえ夢の中であったとしても、凪に苦痛を甘受する趣味はない。どうせ、あと数時間もすれば現実で目覚めるのだ。面倒ごとは極力回避すべし、ということで、凪は気怠さの残る体を引きずるように動かした。

 しかし、その判断は少々手遅れだったようだ。木の幹に手をかけ、よいしょと気合いを入れて立ち上がろうとした瞬間、背後から鋭い声がかけられた。


「動くな」


 低く強い、男性の声。

 反射的に振り返れば、すぐ目の前に、太陽を鋭く弾く刃があった。

 それは、現実世界ではまず目にする機会がない、全長一メートルはあろうかという人殺しの道具――剣。


(……わあ、すごい)


 凪は、感嘆した。

 もしかしたら自分の脳は、想像力や妄想力という点において、無限の可能性を秘めているのかもしれない。何しろ、その剣はまるでガラスか水晶のように透き通っている上に、淡く光を放っているのだ。

 なんという、純度の高いファンタジー仕様。随分軽そうに扱っているように見えるが、もしや金属の剣よりも相当軽かったりするのだろうか。実に興味が尽きない。


 そして、剣からその持ち主に視線を移した凪は、己の想像力の素晴らしさに、思わずぐっと親指を立てそうになる。


(ど、ストライク! です! さすが夢! ぐっじょぶ過ぎるぞ、わたしの脳ー!!)


 片手で剣をこちらに向けたまま、軽く眉根を寄せてこちらを見据えているのは、びっくりするほど整った顔立ちの青年だった。凪が空気を読む能力に長けた日本人でなければ、その場で五体投地でもしていたかもしれない。

 年齢は、二十歳前後だろうか。健康的に日に焼けた肌、少しだけ癖のあるラフな印象の黒髪に、野生の獣を思わせる鋭い金色の瞳。

 できれば、中二臭漂う瞳の色は、凪の見慣れた黒か焦げ茶色だと理想的だった。だが、この夢がそもそもファンタジー仕様である以上、あまり文句を言うわけにもいくまい。


 それにしても、寸前まで何もなかった場所にいきなり現れるとは、この青年はいったいどんな身体能力をしているのだろう。不思議で仕方がないけれど、ここは「だって、夢だもの」で流しておくことにする。

 しかし、どれほど凪の好みにどストライクなイケメンであっても、『これは、ヒトを殺すためのものでございます!』と全力で主張する凶器を自分に向けてくるのは、まったくもっていただけない。


 青年は、黒地に赤いラインで縁取りをした、詰め襟の衣服を着ている。襟には金色の小さな徽章。一瞬、派手な学ランかと思ったものの、上着のウエストを白いベルトで締めており、両胸のポケットも赤い紐で飾られていた。

 たしかイタリアの警察か何かが、こんな感じのやたらとスタイリッシュな制服を採用していた記憶がある。さすがはイタリア、世界のおしゃれ番長だ。


 そうやって凪が現実逃避しかけたのは、目の前の青年と同じデザインの衣服を着た男たちが、次々に姿を現したからである。全員がもれなく抜き身の剣を手にしており、彼らの険しい表情と相俟って、威圧感がハンパではない。

 凪は、深々とため息をつきたくなった。


(あー……。全員、美形ですかー。いや、普通にイケメンは好きですよ? 目の保養になりますし。眺めていて楽しいですし。ただし、どんなにイケメンだろうと、こっちに武器を向けて敵意マシマシな時点で、好感度は底辺を突き抜けてマイナスでござる。それにしても、ここまで各種イケメンを豪勢に取りそろえるとか、わたしの脳も随分がんばるなあ。疲れない? あんまり、無理はしなくていいのよ?)


 黒髪青年の仲間らしい彼らは、ぱっと見ただけでもムッキムキの筋肉マッチョなナイスガイを筆頭に、さらさら金髪の正統派王子さまタイプ、中性的な長髪クール系美青年、そして少女と見紛うような童顔美少年まで、実にバラエティに富んでいる。

 彼らの背後に隠れてよく見えない者たちは、できればもう少し平凡な容姿であっていただきたい。そうでなければ、この辺りだけ美形濃度が高すぎて、飽和状態になってしまいそうだ。


 とはいえ、巨大な凶器を持ち、いつでも自分を害することができる相手に囲まれる――それは、生き物としての根源に関わる、純然たる恐怖だ。たとえ夢だとわかっていても、あまり気分のいいものではない。

 最初に動くな、と言われたから素直にじっとしているけれど、イケメンたちのご尊顔は充分堪能できたことだし、そろそろ現実で目覚めたいところだ。

 凪がぼんやりと目の前の透明な刃を眺めていると、その持ち主である青年が、低く感情の透けない声で口を開いた。


「どうした。抵抗しないのか? 何を考えている?」

「……え?」


 きょとんと瞬きをした凪は、少し考えて首を傾げる。そして、ぽつりと呟いた。


「夢の中で殺されたら、目が覚めるのかな」


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