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零の灯  作者: 黒鳴
一章・一節 第零軍団長
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第二話 第三軍

◆帝国軍本部◆



 帝国には対混沌種アビスのための軍が存在する。

 他の国にも混沌種アビスと戦うための組織は存在するが、帝国にのみ存在する特別な組織ー-混沌種アビス研究機関が存在する。

 帝国ではこの研究施設を守るために国の中心部となる建物内に混沌種アビス研究機関――()()()を特別に配置した。そのため、国の中心部には、帝国の要人のための住居空間、連絡機関、混沌種アビス研究機関の三つが集中している。

 その研究機関の一室、またの名を第三軍本部にて。

 椅子に座っている第三軍団所属を示す勲章を「梟」を模った勲章を胸につけた青い長髪に青い目を持つ女性。

 その女性の前で直立の姿勢をとったままの長い茶髪に茶色の目を持つ成人になったばかりの一般兵の少女。

 二人が机を挟んで向かい合っていた。


「私が第(ゼロ)軍に配属…ですか?」


 とはいえ、一般兵の女性には驚く内容が伝えられていた。


「そうよ。第零軍については知ってるわよね?あなたが第零軍に配属される二人目ってことになるわね」


「……?なんで私が?そもそも第零軍の配属条件は専用戦術武装を持ってること。家族がいないこと。それから軍に入団する時の試験で戦闘技術と知識量が上位3位までに入っていたことですよね?私7位でしたけど」


 条件は試験に関すること以外は簡単なように見える。

 家族がいないことは、今は珍しいことではない。混沌種(アビス)は定期的に大量発生する年が何度も訪れる。大量発生によって変異速度が格段に向上することで混沌種(アビス)の強さも例年よりも強くなる。

彼女も彼女の両親が既に死んでいることは知っている。

 だから、別に特別な条件ではない。

 ただし一つだけ絶対に不可能な条件がある。

 専用戦術武装の所持。

 専用戦術武装の開発、製造、調整。どの過程においても時間と金がかかる。

 そもそも軍の関係者ですら専用戦術武装を持っている人間は少ない。

 だから、よほど高い立場の人間しか持つことは出来ない。

 彼女のような、ただの兵士が所有しているはずがないのだ。


「よく覚えてるわね。でも、これは命令だから配属条件は無視していいわ。専用戦術武装に関してだけど、三日後にあなた用の専用穿弓機(アーカス)用意してあげるから、それまでこれ使って慣らしなさい」


 机に置かれた汎用穿弓機(アーカス)

 端から端まで真っ白な弓型のそれを彼女は手に取る。


穿弓機(アーカス)

 戦術装の中でも特に扱いが難しいとされる種類。適性によっても差が出やすい。

 適性を持つ人間が少ないのに加えて、扱えるようになるまでの時間が他の戦術装に比べて圧倒的に多い。そのため穿弓機アーカス使いはほとんどいない。


「うん、問題ないわね。本当なら半年で専用穿弓機を渡すなんてあり得ないけどねえ…事情があるからね。ついてきて」


 そう言って部屋を出た第三軍団長『アリス・アクアライト』の後について歩いていく。

 両側の真っ白な壁を横目に廊下を進む。

 ここは第三軍のための研究施設。彼女は軍に入ってから半年は経っているがこの場所に足を踏み入れたのは初めてだ。

 軍は役割ごとに所属が分かれている。第一軍、第二軍、第四軍は第一に混沌種(アビス)の掃討。第二に町の犯罪防止も行う。第三軍は混沌種(アビス)の研究及び掃討。第五軍、第六軍は第一に町の防衛。第二に混沌種(アビス)の掃討。

 そして件の第零軍は、何をしているのかすら分からない。噂では所属している人間は一人しかおらず、しかも混沌種アビスを単独で討伐し続けている、という信じがたい話のみ。

 だからこそ、彼女には理解できなかった。


「どうして私なんですか?私が選ばれる理由に心当たりはありません。それに、第零軍に入ったところで今までと何も変わりませんが」


「本当に?」


「……」


「残念だけど、そういったことも含めて選ばれたのよ。多分、だけどね。あなたが所属してた第四軍自体に問題はなかったけど、あなたの同僚が問題だったからね」


 同僚。

 彼女はすぐに誰のことか分かった。彼女の同僚で問題になる人間は、一人しかいない。


「どこだったかしら…この子ね。

『笹原 風香』

あなたとの関係は軍学校、第四軍での同期ってことだけ。

でも、報告書だとそれだけじゃない」


 報告書を読みながら歩く第三軍団長の言葉を彼女は黙って聞く。


「『笹原 風香』はかつて第二軍で功績を挙げた『笹原 塵芥』の娘だったこともあって幼い頃から軍に所属することを志してた。軍学校での成績は常に上位で、教師からの評価も良く、将来は確実に軍に所属すると言われるほどだった。

そしてあなたは彼女と正反対。

特に目標はなく、軍学校に入ったにも関わらず成績は一位を取り続けた。人間関係の破綻が原因で教師からの評価は実力はあっても人付き合いや対話に問題がある、というもの。ただ、軍に入れば実力重視の環境だから問題なしとの判断だった」


 アリスは報告書をゴミ箱に投げ捨てた。廊下に一定間隔で配置されているゴミ箱に見事に入り回転式の蓋がクルクルと回転した後元通りに止まる。


「彼女はあなたを敵対視してる。軍学校までならそれで良かったかもしれないけど、軍に入った以上無駄な闘争心はいらない。ましてや、協力しないといけない同じ軍の仲間に対してなんて。彼女もあなたも優秀だけど、さっきも言った通り人間関係は彼女の方が優れてる。だからあなたが第零軍に選ばれた。他に質問は?」


 なるほど、と彼女は納得した。

 人と話し合うときや、関わる時に淡白な反応をしているのは彼女自身が理解していることだ。そして同時に笹原風香が異常なほど彼女に敵対心を持つ理由も当然だ、と納得した。

 彼女に目標はない。彼女はただ生きていくことだけを考えている。軍に入った理由も給金がたくさんもらえるからであって何かしら大きな理想を持っているわけでもないのだ。

 彼女と話した人間は必ず、『感情が薄い』と言う。彼女自身感情がないような気もしている。

 だから、笹原風香が彼女を嫌うのは妥当なことだとも言える。


「ま、どうでもいいことよ。第零軍は人間関係を気にする必要のない場所だから。あなたは自分の仕事をすればいいわ。その自分の仕事をするにあたって新しい上司のことは知っておくべきよね」


 話している間に廊下の突き当たりの部屋についた。

 第三軍団長がドアを開け、彼女も続いて部屋に入った。

 その部屋に並んでいるのは大量のモニター。衛星を使って記録されている任務中の軍団の映像。GPSの座標と思わしき地図のデータ。混沌種(アビス)の探知システム。

 第三軍団長は並んでいるモニターのうちの一つの前の椅子に座って通信機を耳にかけた。


「じゃあ、あなたの上司の仕事ぶりから見ていきましょうか。好きなところに座って。――【接続】――」


 いくつかの映像が流れた後。

 森の映像が出た。

 混沌種(アビス)から発生した瘴気の影響を受けた紫がかった森。ねじ曲がった長い木々、異様に伸びた雑草。

 細かなところまで詳細に画面に映っているのに肝心の人物が映っていない。


「……?」


「あれ?おかしい…あ、違うわ。【拡大】」


 映像がさらに拡大され、鮮明に映し出される。

 軍服を着た男。黒髪に黒く鋭い目。今の時代にはほとんどいないはずの色。

 左手に持っているのは2メートルに達するほどの長さもある藍色の鞘に収まった刀。


「彼が第零軍軍団長『白桜凛綾人』よ。これから彼があなたの直属の上司になるから、覚えておきなさい」


「白桜凛綾人…」


 名前を聞いて彼女は確信した。おそらく、というより間違いなく、ある出来事と共に記憶に焼き付いている。


「どうかした?もしかして、知ってる人だった?」


「…ええ」


「そういえばあなたの先輩になるのかしら?なら、知っててもおかしくないか」


 その時、無線に通信が入った。アリスは通信機に手を当てて答える。


「『………あ……あー…あー、聞こえるー?』」


『報告だ。第二形態の植物型混沌種(アビス)の《巨大花(ラフレシア)》が調査地の他全ての混沌種(アビス)を食い尽くした可能性がある。目標は現在変異中。【探知(サーチ)】による反応は一体のみ。戦装ギアの圏内には他に反応は無し。


――討伐を開始する』

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