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Levelモルフ  作者: 太陽
第三章 『メキシコ国境戦線』
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第三章 第五話 『対モルフ専用武器』

 これは、桐生がレオとの交戦の途中、その終わりから10分も前のことだ。

 桐生との無線が繋がらないことから、やはり何者かとの交戦を推測していた修二達だったが、その余裕はすぐに無くなった。

 誰も使われていない廃墟の建物内で待機していた時に、四方からモルフが押し寄せてきたのだ。

 その感染段階は、レベル1から4に至るまで、それぞれが違う特性を持っていることから、修二達はその場から動かざるをえない状況となってしまっていた。


「樹! 犬飼! 後ろには構うな! 今は逃げることを優先しろ!」


「っ! でも出水さん! こいつらかなり速いですよ!?」


「司馬がカバーしてる! こいつらは銃声音を聞けば集まる習性があるんだ! たちまちに囲まれるぞ!」


「了解!」


 モルフの習性を忘れていた二人は、気を取り直すように出水の指示に従う。

 それを聞く余裕がなかった修二は、佐伯と共に移動ルートの確保に集中していた。


 現在、彼らは至る所から現れるモルフから逃げる選択を取っていた。

 交戦リスクを考えれば、それは誰しもがそうせざるを得ない判断だっただろう。

 先ほどの出水の指摘の通り、モルフは音などに敏感な生物だ。

 銃声音のような大きな音がすれば、周辺にいるモルフが一挙に集まってしまう。

 そうなれば、たとえ対モルフ戦闘部隊である笠井修二達でさえも太刀打ちすることは難しい。


 隊列は乱れているわけではない。

 簡単に説明するならば、六人構成である彼らの隊列は、前衛、中衛、後衛と、共に二人ずつに纏まっていた。

 前衛は笠井修二、佐伯。

 中衛は出水陽介、樹。

 後衛は司馬、犬飼となっていた。


 後方から迫り来るモルフに対し、焦りを感じた樹と犬飼が応戦しようとしてしまっていたが、今は冷静だ。

 後衛の一人である司馬が、万が一の際に牽制する役目としてカバーに入っていたからだ。

 だが、それはあくまで現状維持のみ。

 建物内は入り組んでおり、空いた部屋からは隠れていたのか、いきなり現れるなんてこともザラにある。

 その時は、中衛にいる二人が対処し、やむを得ない場合は前衛の修二と佐伯が対処している。

 前方の安全の確保も、修二と佐伯の役目だ。

 とにかく、今は囲まれないようにと動いているが、数が多すぎる。


「隊長、このままではいずれ囲まれます。対モルフ専用武器の使用許可を下さい!」


「っ! ダメだ! ここは狭すぎる。行き止まりに着くならまだしも、逃げ場を失ってまで戦闘をする意味がない!」


 佐伯の言いたいことは分からなくもない。

 その考えは間違いではないはずだ。

 後ろにいた出水も、同調するように頷いたことからも、自身の考えに間違いはないはずだと思い込む。

 ーー対モルフ専用武器、それは笠井修二ら率いる『タケミカヅチ』の持つ、モルフのみに対応させた武器だ。

 その特性故に、対人間用武器には程遠く、手持ちの銃よりも殺傷能力が低いとされているが、モルフに対しては別であった。


 だが、それを使用するにはまだ早すぎる。


「修二、どうだ!?」


「この先に広場がある。まずはそこまで出るぞ!」


 全員が頷くように了承した。

 もう既に、ここは国境を越えた地点だった。

 廃墟となった街に着いたようで、その有様はモルフによってそうなったのか、治安の悪さからなのかは分からないが、生きている人の気配はない。

 代わりにいるのは、生きた人間とは程遠い歪な姿をした化け物達のみだ。

 軍隊らしき服装に身を包んだ者、女、子どもからと、モルフになる前の生きていた頃の姿を想像できそうな姿をしている。


 だが、想像できるといえるだけだ。

 目は虚ろとして、痛々しい傷跡を残しながらも、それを気にすることすらせずに迫ってくる。

 修二達はそれを銃弾で押し退けて、退路を確保していく。


「出口だ! 全員、前方警戒!」


 出口を出た瞬間に襲われることも十分にありうる。

 それを気にして、警戒を強めたが、杞憂であった。

 広場に出た修二達は、全方位の安全を確保しながら一度立ち止まった。


 そこは噴水広場だった。

 広場の真ん中には、円形の作りをした噴水があり、その中央には時計台のようなものがあった。

 水音がかなり気になるが、それよりも先に修二達は自分達が来た建物の出口へと目をやる。


「対モルフ専用武器を使う。全員、構えろ」


 修二の合図に、全員が即座に動き出す。

 それと同時に、モルフが建物の出口から現れ出した。

 そして、その場にいる隊員達がその武器をモルフへと向ける。


 その武器は、モルフを速やかに排除する為に作られた武器であった。

 通常の銃器で頭を撃つことも有効打ではあるのだが、どうしても多方向から現れるモルフに対しては命中精度が落ちてしまう。

 その為に、日本での経験を元に意見を寄せ合って、開発されたものだが、その機能は単純なものだった。


 形状はスナイパーライフルのそれに近い。

 射程は大体中距離を想定し、近距離を想定した作りとはなっていない。


 出水が手始めに撃った弾丸が、先頭のモルフの胸部付近に命中する。

 それに続いて、司馬、樹と続いて迫り来るモルフへと弾丸を撃ち込んだ。


 そして、その変化は急に起きた。


 突如として、銃弾を撃ち込まれたモルフがその撃ち込まれた箇所から火が生まれ、瞬く間に全身へと燃え移ったのだ。


「ギヤァァァァァッッ!!」


「っ!」


「怯むな! 樹! 効果はありだ!」


 悲鳴を上げるモルフに、戸惑いの表情を見せる樹だが、出水が鼓舞することによって平静を保たせようとする。


 だが、効果は抜群だった。

 かつて、修二と出水はモルフに対して、同じような場面に遭遇していた。

 修二は、御影島で『レベル3モルフ』となった柊に。

 出水は、日本で敵組織の地下実験施設入り口前で『レベル3モルフ』と相対した時に。

 どちらも、決め手は同じ火を用いた戦法であった。

 お互いにその話をした時には、それが単なる偶然とは思いづらく、修二と出水はすぐに技術部へと進言をした。

 そうして作られたのが、今使用している武器、対モルフ専用武器と呼ばれるものである。


 弾丸は特殊炸裂弾と呼ばれるモノを採用している。

 着弾と同時に弾丸が炸裂し、内部に詰まった火薬がその衝撃で引火するという仕組みだ。

 本来ならば、ガソリンのようにただ一定の炎が激しく燃えるだけで済むところを、モルフに対しては効果を変える。

 どういうことか、瞬く間に炎は全身へと移り、モルフ自身も苦痛を感じているのか、その動きを止めるのだ。


 そして、それは連鎖的に起こる。


 後方から迫るモルフも、炎上するモルフに当てられて同じように炎上を繰り返す。

 そうして、弾を節約できると同時に、頭部を狙うという必要もないことから速射性に優れたものとなっていた。


「いける、いけますよ! 隊長!」


「気を抜くなよ、佐伯。火が弱点ってのは予想がついてたことだ。モルフの厄介なところは、数の暴力にあるからな」


「……了解です」


 気を抜くな、と言うのは簡単だ。

 だが、実際、その通りだと修二は考えている。

 今回、対モルフ専用武器を使用したのはこれが初めてでもあり、何かしらのデメリットは存在するものだと考えている。

 それに、これが全感染段階のモルフに通用するかどうかと言われるならば、それはまだ不明瞭な点が大きい。

 特に、『レベル4モルフ』に関しては、火が有効かについては実証の域を出ていないのだ。


 とにもかくにもだが、数十体近くものモルフがそのまま焼け死に、修二達は現状の事なきを得る。


「ふぅ……なんとかなったな」


「さすがっす! 笠井隊長! これ、隊長発案の武器っすよね!? 凄かったですよ!」


「たまたまだよ。俺と出水の過去の経験が活きたってだけだし、どこまで使えるかはこれからだしな」


「そんな謙遜しないで下さいよ。でも、火が弱点って大発見ですよ。笠井隊長も、こうやって倒したんですもんね」


 佐伯が追随するようにそう言った時、修二は過去の記憶を思い出す。

 『レベル3モルフ』となった柊。彼女は、火に当てられて、聞くにも耐えない程の悲鳴を上げて……。


「うっ……」


「ちょ、笠井隊長!?」


 嘔吐感に苛まれた修二を、司馬が肩を貸してくれた。

 あの光景を思い出しただけで、込み上げてくる感情を抑えきれなくなったのだ。

 決して、あの時のことは良い気分とはなれなかった。


「だい、じょうぶだ。すまん……」


「無理しないで下さい。嫌な記憶があったんですよね? 佐伯、もう余計な話はやめなさい」


「わ、悪い。笠井隊長も、すみません……」


「気にするな。今のは、俺が悪かった」


 佐伯に非はない。

 それを言葉に表したつもりだったが、司馬は納得いかなかったのだろう。

 佐伯の頭を軽く叩いて、修二を噴水広場の椅子に座らせた。


「大丈夫ですか? 少し、落ち着いてから動きましょう。幸い、周辺には集まる気配がありませんから」


 司馬はそう言って、修二を落ち着かせようと心配していた。

 彼女は、修二に対してはかなり世話を焼く性格をしているが、他の隊員に対してはかなり厳しい。

 正直なところ、その厳しさ故に彼女の能力が発揮されることもあるので、もっと厳しくしても構わないのだが。


「いや、気にしなくて大丈夫だよ。もう大分落ち着いたからさ。それより、現在地がどこか分かるか?」


「ええ、もう調べ終えています。本来の目標地点よりかなり奥深くに侵入しすぎていますから、少しだけ戻った方が良いとは思いますが……」


 さすがは司馬だ。

 彼女の仕事の早さは、部隊の中でもかなり抜きん出ている。


「んじゃ、少しだけ後退しよう。桐生部隊長と離れすぎてるしな」


「そうですね。あの、笠井隊長、いいですか?」


「ん、どした?」


 深刻そうな面持ちで、司馬は修二の目を真っ直ぐに見て尋ねてきた。


「笠井隊長も過去にモルフと対峙したことがあるんですよね……。その経験から見て、その……笠井隊長……いや、私達は今回、生きて帰れるでしょうか?」


「ん? そうだな。確かに色々死にかけたりしたこともあるけど、帰れるさ。俺が絶対にお前達を死なせない」


「……隊長」


 そう呆気らかんと答えたが、修二の覚悟は内心ではかなり重い。

 修二の背負う命の重さは、どれほどのものかは他の誰もが知る由もないだろう。

 たとえ、『レベル5モルフ』の再生力を使ってでも、隊員達を守り通すつもりだった。


「頼りに……してますね」


 司馬は、いつも見せるかのような無愛想な表情ではなく、綺麗な笑顔でそう言ってくれた。


△▼△▼△▼△▼△▼


 状況が変わった。

 モルフとの交戦はなくなったが、代わりに無線機が使用できなくなってしまったのだ。

 単に離れすぎたからなのか、それは分からないが、桐生との無線が通じないとなると話が変わる。

 一刻も早く、現在地点より引き返し、状況を精査する必要性が出てきてしまっている。


「補給部隊のいる地点はここからだと約7キロといったところか。来た道を戻るとすれば、まず間違いなくモルフと交戦するだろうな」


「なるべく、交戦は避けたいですね。距離からしても、弾数が保つかどうかが怪しいです」


 修二と司馬は、現状を説明しながら、帰路へのルート確保の話し合いをしていた。

 それを聞く形で、出水と佐伯が側に座りながら地図を眺めていた。

 犬飼と樹は、周辺の索敵をお願いしている。


「出水、どう思う?」


「そうだな。直進ルートで戻るのはオススメはできないと思う。あれだけの数のモルフがいたんだ。迂回してでも遠回りに行くのが賢明だと思うが」


「俺もそう思います。弾に余裕はありますが、俺と樹と犬飼はナイフの扱いは上手くないですから、近接戦闘になれば不利です」


 出水と佐伯は、それぞれに意見を出し合って提案してくれた。

 佐伯は、自身の苦手な部分も加味して意見を言ってくれる珍しい性格をした男だ。

 それ故に、作戦を上手く立てやすいこともあるのだが、奥手な点は短所でもあった。


「俺もそんなにナイフの扱い、上手くねえけどな」


「修二、お前、桐生部隊長の弟子だろ? それくらいお手の物じゃないのかよ?」


「俺がやったのは必要か分からない剣術の指南だよ。てか、本当に今となっては役に立つかも怪しいぐらいだ」


 生きる上での護身術を身に付けさせる為に、桐生は修二へと様々な技術を教えた。

 なぜか剣術を教えられた時は、何の役に立つのかとさえ思ったが、今となっては本当に何でそれを教えたのだろうか、修二自身も分かっていなかった。


「話が脱線してますよ。とにかく、迂回ルートを選ぶってことですよね?」


 司馬が、注意するように鋭い視線で出水と佐伯を睨む。

 なぜ、俺を睨まないのだ? と修二が思うに対して、佐伯は逆に、なぜ、俺が怒られてんだ? という表情だった。


「迂回ルートを選ぶなら、東から街の出口に向かうルートが好ましいですね。西は川がありますが、ここは先日の大雨で濁流が発生している筈です。どうですか?」


 司馬の提案に、三人は目を丸くしていた。


「あ、ああ。それでいこう。さすが司馬だな」


「えっ? は、はい。あ、ありがとうございます」


 とりあえず褒めてやると、なぜかお礼を言われた。

 なんで俺だけ怒られないんだろ……。と、修二は、信用されていないのかと不安になったが、今は司馬の提案が最適だ。

 その案で進めていこうと、修二は椅子から立ち上がる。


「全員、集合。ここから東に向かって迂回し、補給部隊のいる地点に戻る。いいな?」


「「「「「了解!」」」」」


 五人とも、否定することなく、修二の声に従った。

 目指すは補給部隊のいる地点。

 現状の確認を目的に、修二達は動き出そうとする。




次話、明日19時投稿予定

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