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Levelモルフ  作者: 太陽
第三章 『メキシコ国境戦線』
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第三章 第二話 『白装束の女』

 左右前方から、多数のモルフが迫ってきていた。

 どれも走ってこないことから、感染段階は『レベル1モルフ』であることはすぐに見て取れた。


「前方は桐生部隊長が何とかしてくれる! 左右にいるモルフを集中して片付けろ!!」


「了解!!」


 修二、出水、司馬が右を、樹、犬飼、佐伯が左を担当する形で陣形を組み、銃撃が開始された。

 全員、モルフウイルスについては理解していた。

 それを証明するように、皆が弱点である頭部を狙い、次々と迫るモルフを無力化していっていたのだ。


「こっちに『レベル2モルフ』が混じっています。気をつけて下さい!」


「了解だ! 作戦通りに動け!」


 樹の声を聞いて、修二は視界にいるモルフの動きを注意深く警戒していた。

 『レベル2モルフ』の厄介なところは、その走る動きにある。

 普通の人間とは違い、まるで躊躇うことなくこちらへと襲い掛かりに走ってくるので、対応が遅れてしまうのだ。

 その数が多ければ多いほど対応が難しくなることは必然で、初見で対応する軍人でも被害をゼロに抑えての掃討は厳しいところだろう。


 だから、修二達はあらかじめ、その時の対応は事前に決めていた。


「『レベル2モルフ』は脚を狙え! 機動力さえ止めれば、『レベル1モルフ』よりも処理は楽になる!」


 修二の指示に呼応して、全員がその場から足一つ動くことはなかった。

 作戦通りに動いて、対応が出来ていたのだ。

 後ろを見る余裕がない修二は、それが分かっただけでも状況を読むことができていた。


 そうして、特に困難なく修二達はモルフを掃討することができた。

 前方のモルフは一体もこちらにこなかったことから、桐生が全て片付けたのだろう。

 死体が山のように積み重なっており、その全てを斬り伏せたのだ。


「楽に片付いたな。やっぱ、事前に準備していたのが大きかったよな」


「まあな。とはいえ、先に進めば更に感染段階が高いモルフも現れるはずだ。『レベル4モルフ』は、俺は倒した経験もないからな」


 修二は、姿しか見れていないのだが、『レベル4モルフ』との戦闘経験がなかった。

 というのも、日本では生存者避難に追われていたこともあって、戦闘はほとんどすることがなかったのだ。

 モルフ襲撃にあった際、一度だけその姿を視認した時は、そのおぞましい姿に鳥肌が立つほどであった。

 避難を優先したことによって、戦闘にこそなりはしなかったものの、勝てたかどうかも怪しいところだった。

 そんな奴らを倒したという出水達の戦果を聞いた時は、ビックリしたものなのだが。


「大丈夫だよ。全感染段階に対して、準備はしてきたんだ。俺達ならなんとかなるさ」


 出水は、そう言って楽観的にしていた。

 間違っているわけではない。

 修二達の持つ武器は、対モルフを想定したものとしてあるのだ。

 状況上、感染段階の高いモルフに使用頻度が高いために、今回は使わなかったが、確実に効果が高いことは分かってはいる。


「出水さーん。俺の活躍見てくれました? 全弾、頭部に命中してやりましたよ!」


 出水の横から、樹が褒めてほしそうに話しかけてきていた。


「あのな、樹。このレベルの感染段階ならそんなの簡単に決まってるだろ? それよか佐伯達の弾数を制限する為に動いた方がいいぞ。見てないから知らないけど」


「えー、だって佐伯とか結構外してたりしてましたよ? 案外、笠井隊長と良い勝負できるかもしれないっすね」


「そりゃ、無理だよ、樹。僕達じゃ、笠井隊長には遠く及ばない」


 眼鏡を触って、そう言ったのは佐伯だ。

 彼はこの部隊の中ではエイムがあまり得意な方ではないが、撃ちもらしなどを的確に落とせるほどの対応力を持っている。


「つーか、俺そんなにエイム力すごいか? 誰だって練習したらできるようになるだろ?」


「うわっ、それはかなり嫌味っすよ。自覚持ってくださいよ。あんなポンポンと滑らかに命中させる人間、そうはいないっすから」


 そう言われると、なんだか照れるものがある。

 確かに、初めて撃った時は中学生の時だったが、その時も上手く命中させることができていた。


「皆さん、あまり呑気にお喋りはやめましょう。ここは敵地のど真ん中ですよ? 気が緩みすぎです」


 修二達を諌めるように言ったのは、佐伯と同じくらい真面目な性格をした司馬だった。

 この部隊の中で、修二と出水とタメを張れるほどに能力が高い隊員である。

 そして、唯一の女性隊員でもあった。


「その通りだな。お前ら、犬飼を見習えよ。この中で唯一何も話さず索敵してくれてるウチの有望人材なんだからな」


「ええっ!? いや、なんか皆喋ってて俺もなんか喋りたいと思ってたんですけど……」


 ふむ。どうやらこの部隊は問題児が多すぎるようだった。

 それでも、それぞれが能力に秀でた人間ばかりなのだから、修二としても頭が下がるばかりであった。

 そもそも、修二自身、自分が隊長に向いているとはあまり思ってはいない。指揮能力で言えば出水の方が高いし、他の隊員達も修二より秀でた才能を持っている。

 風間司令の考えは毎度の如く理解し難いが、命令とあるならば遵守するのみだ。


「とにかく、先に進もう。桐生部隊長! 進みましょう!」


 修二が桐生へと先行するように促したが、桐生は聞いていないようだった。

 どこか違う方向へと顔を向けて、何かを見ているようだ。


「桐生さん?」


 部隊長が思わず抜けてしまったが、様子が変なことに修二は違和感を抱く。


「笠井、お前達はこの先へ先に進め。俺はここで一度待機する」


「え? それはどういう――」


「早く行け!!」


 普段、落ち着きをはらっている桐生が珍しく大声でそう言い放って、修二はうろたえた。

 何かあったのだろう。

 とにかく、言うとおりにしようと、修二達は桐生を置いて先へと進む。


「何かあれば通信機で連絡下さい。すぐに後退するので」


 最後にそう言い残して、修二達はその場を後にした。


△▼△▼△▼△▼△



 誰もいない、崩れ落ちた瓦礫の中で、桐生はいまだある一点の方向を見ていた。

 それは、本能的な警戒だった。

 誰かに視られているという感覚があり、その気持ちの悪い粘ついた視線は明らかに敵がいることを桐生は理解していた。

 近いか遠いかは分からない。

 ただ、視られていることだけしか分からないのだ。

 仮に狙撃手がいるのであれば、発砲と同時に避けることは造作のないことだが、そうしてこないということは違うはずだ。


「おい、出てこい。一人になったんだ。それを待ってたんだろ?」


 誰かに言うように桐生がそう言うと、瓦礫の奥にある建物の陰から一人の男がゆっくりと出てきた。


「……何者だ?」


「――――」


 桐生の問いに答えようとせず、その男は近づきながら徐々に口元を笑みで浮かべていく。


 その手に握られているのは、見たこともない形状の武器であった。

 銃、なのだろう。銃身はショットガンのようになっており、近距離においては殺傷能力がダントツで高い武器だ。

 だが、何かが違っていた。

 柄から銃口の先までに、分厚い刃が取り付けられていたのだ。

 刃と銃が一体化したかのようなそれを片手で持ち歩き、ツーブロックの髪型をしたその男は桐生の方へとゆっくりと歩み寄りながら――、


「っ!」


 咄嗟に首を後ろにそのまま後退して、桐生はその方向を見た。


「うっそぉ。今の完全に当たるルートだったじゃん。こいつマジで化け物ね」


 そこには、桐生へと向けて銃口を向けた女がいた。

 今、桐生はギリギリのところで避けたが、頭部へと弾丸を撃ち込まれかけていたのだ。

 目の前の男に気を取られかけていたところを狙ったのだろうが、桐生は一切、周囲への警戒を解いていなかった。


「くくく、すげえな、あんた。それでこそやりがいがあるってもんだぜ」


「――もう一度聞く。お前達は何者だ?」


「えー、私達? 私達はそうね……通りすがりの生存者、かな?」


「そりゃ無理があるぜ、エレナ。そうだなぁ、俺達は通りすがりの殺し屋? かな」


 ふざけるように二人で首を傾げながら答える男女に、桐生は深く息を吐くと、


「死ね」


「はっ! 楽しませてくれよ! リンドブルムを殺したってされるあんたの実力、見させてもらうぜ!」


 互いに持つ武器を構えて、二人の男は激突した。


△▼△▼△▼△▼△


 桐生より先に進んだ修二達は、ゆっくりとではあるが、前線を進んでいっていた。

 モルフとはまだ交戦がなく、特に問題なく進めていたわけだが、何もいないということが逆に不安を感じさせた。


「桐生さん、どうしたんだろうな」


 修二の疑問を、出水が口に出してくれた。

 修二には、なんとなくだが桐生の考えていることは推測できていた。

 あの雰囲気は、敵を見つけたときのようなそんな様子だったのだ。

 修二達を先に行かせたのは、修二達の命の危険に関わるからなのかもしれないが、実際のところは分からない。

 何にしても、修二達は先に進む以上はやれることはないのだ。


「笠井隊長、少しいいですか?」


 司馬が修二に何かを聞きたそうとして、修二は「ん?」と相槌を打つと、


「さっき、どうしてモルフがあんなにいて、ここには一体もいないのでしょう。偶然、とは思えないのですが……」


「……俺も考えていたよ。いくらなんでも、気配の一つもないのはおかしい」


「そうっすか? 俺はラッキー程度に考えてましたけど」


 お前は黙ってろとばかりに佐伯が樹にチョップを食らわしていたが、本当にラッキーならば気が楽な方だ。

 だが、モルフを見つけた以上は、この近くに膨大な数のモルフがいてもおかしくないはずなのだ。

 メキシコ国内でモルフ感染者が現れたとの報道が出てから、既に一週間が経過している。

 ならば、感染者の数も膨大であるはずなのだ。


「いや、待てよ?」


「隊長?」


「そもそも、感染者がでてから一週間が経過したのに、あんな大量の『レベル1モルフ』がいきなり出てくるか? 単純に逃げ遅れた人達の感染なら分からなくもないけど、それなら感染源が近くにいてもなんらおかしくはないはず……」


「――――」


 修二の推測に、隊員達は押し黙っていた。

 こういうときに、修二の冷静な推測は的を得ているということを皆が知っていたのだ。


「ここにいるモルフ達は、人間の手によって感染させられた者ってことか?」


 出水が、修二の推測を口に出す前に先にそう話した。

 その可能性は、辻褄を合わせる意味では最もありうるものだろう。

 感染者確認から一週間が経過している現状、ここにいる『レベル1モルフ』は感染して間もない者達だ。

 単に感染地域が広がりを見せて、逃げ遅れた者達が感染したということならば分からなくもないが、それにしては数が少ないのがおかしい。

 その可能性を聞くと、犬飼と佐伯はお互いに顔を合わせる。


「なるほどな。確かにありえなくはないだろうな。そうなると、風間司令の読みは当たっていたってことになるな」


「ああ、この近くに、奴らが潜んでいるかもしれない」


 一週間前の作戦会議時、風間司令は話していた。

 今回の戦いにおいて、前線部隊は御影島や日本をめちゃくちゃにした未だ尻尾が見えぬ組織と出くわす可能性を。

 まだ確証が持てたわけではないが、その可能性が高まっただけでも十分なほどだ。

 なにより、修二にとっては因縁が強すぎるのだ。

 あの地獄を二度も見てきて、失った仲間達のことを思えば、対峙した時に平静を保てるかすら怪しい。

 今ですら、怒りに湧き上がりかけているほどだ。


「なら、話は早い。とっとと先に進んでそいつらの一人を捕縛しよう」


 ここにいる隊員達にその様子を悟られまいと、わざと平静を装うようにしていたが、一人だけそんな修二の様子を見て目を細めるようにしていた。


「修二、お前――」


 出水が何かを聞こうとしたときだ。

 その場にいた全員がある一方向の場所を見ていた。


 そこには、一人の女性が立っていた。

 白装束を身に纏い、腰まで伸びた長く黒い髪を束ねようとしないで、その女性は無感情な瞳でこちらを見ていた。

 その腰には、種類の違うような二本の剣を帯びており、明らかにこの場に似つかわしくもない、いや、どこにいてもそれは同じだろう。

 それを見た全員は、息を呑むようにその女性を見ていたが、


「生存者、ですかね」


「いや、あいつは――」


 修二は見たことがあった。

 日本で一度だけだが、見たことがあったのだ。

 修二が椎名を奪還して、アベル達が椎名の引渡し場所としていたあのビルの屋上でヘリに乗っていた女。

 見間違うわけがない。ならば、あの女は、


「やっと、会えた」


「っ!」


 その言葉の意味を考える余裕すらなかった。

 白装束を纏った女は、いつの間に剣を抜いたのか、初速から目で追えないほどの速度で接近し、修二へと斬りかかったのだ。

 咄嗟に、持っていた銃でガードしてその剣戟を逃れる。とはいかなかった。

 その瞬間、女は修二の持つ銃を蹴り上げて、武器を放させた。


「しまったっ!」


 多彩な攻撃手段に、修二もタダではやられない。

 迫る刺突を間一髪で避けて、カウンターの隙を狙う。


「笠井隊長!!」


「待て、司馬! この距離じゃあ隊長にまで被弾する!」


 出水達が銃を構えるも、撃つことができない状況となってしまっていた。

 それほどに接近されすぎたこともそうだが、修二としては絶対に撃ってはならないという確信があった。

 なぜかは分からないが、この女には危険な匂いがするのだ。

 桐生のような素早い動き、いや、これはどっちかというと――、


 何度も繰り出される刺突を避けていき、そのまま後退していこうとする。

 そして、女は左手に持つ細い剣を修二へと向けて槍のように投げつけてきた。


「――っ!!」


 ギリギリで避けて、修二の頬に掠り傷だが血が流れる。


「修二!」


 その一瞬の合間に、出水が修二へとサブマシンガンを投げて渡した。


「ナイス! 喰らいやがれ!」


 この距離ならば、当てられる。

 不意を突かれて接近されたさっきと違い、修二には当てられる確信があった。


 しかし、


「なっ!?」


 連射したサブマシンガンの弾丸を全て避けて、女は近くの壁を走りだしたのだ。


「こいつっ!」


 まるで忍者のように駆け回りながら、修二の放つ弾丸を全て避けていく女は、そのままある方向へと向かっていった。

 先ほど修二へと投げつけて、壁へと刺さった剣がある壁へと。


「まさか……」


 銃弾をかわしながら、女は剣を引き抜き、そのまま修二の方へと接近してくる。

 完全に、殺しに来ていた。

 当たらない銃弾に、そしてこの異常なまでの身体能力に修二は悟った。


「まさか、『レベル5モルフ』か!?」


 その言葉を発したと同時だった。

 修二の顔の目の前で、女が繰り出した刺突が止まり、間一髪で死を免れた。

 なぜ、殺さなかったのか、修二の頭では理解が及ばない。


「どうして、使わない?」


「は?」


「どうして、『レベル5モルフ』の力、使わない?」


「な……に?」


 この会話の意味よりも先に、修二にとっては最悪の情報を得てしまっていた。

 この女は、修二が『レベル5モルフ』であることを知っていたのだ。

 修二と椎名、風間司令と桐生とアリス以外が知らないはずの情報を、何故この女が知っているのか。

 どこでその情報が漏れてしまっていたのか。

 それを考えていたのは、明らかにミスマッチであった。


「修二!!」


 修二の名を呼んだ出水がいつの間にか位置を変えて、白装束の女だけが当たる位置へと移動して銃弾を撃ちこもうとした。

 白装束の女は後方へと下がって軽々と銃弾を避けたが、それで終わるほど甘い話はない。

 すぐに追撃せんと、隊員達全員が銃口を向けるが、


「待て!! こいつは『レベル5モルフ』だ! 俺達の武器では倒せない!」


「なん……だと?」


 出水が目を見開いて驚く中、それは他の隊員達も同じだった。

 追撃を止めたのは恐らく、このまま銃撃をしても当たらないと悟ってのことだ。

 下手に交戦して、仲間が殺されるリスクを修二は取りたくなかったのだ。


「お前は……何だ? 何で急に攻撃を仕掛けてきたんだよ?」


 敵であることを認識していても、会話で正体を探れるならばと、修二は白装束の女へと問う。

 そして、一白の間があり、白装束の女は修二の目を見て答えた。


「私は、あなたと同類。そして、伝言。私の父さんから」


「父さん?」


 聞き逃せない言葉もあったが、それよりも気になる単語を言ったことに修二は聞き返す。

 この女の言う父さんとは何者か。それがただの親族的な意味合いに聞こえなかったのだ。


「もうすぐ、世界が変わる。どうか、それまで生きていてくれ。……私からはそれだけ。じゃあ――」


「ま、待て!」


 白装束の女はそれだけ言い残して、とんでもない脚力で壁蹴りをして、割れた天井から二階へと行ってしまった。

 今から追いかけたとしても、もう追いつかないだろう。


「隊長、良かったのですか? ここで仕留めておけば……」


「桐生部隊長に俺らが総がかりで相手にするようなものだぞ。……絶対に無理だ」


 例えで説明したが、納得がいったのか、隊員達はそれで押し黙っていた。

 しかし、本当にそれぐらいの脅威はあると修二は考えていた。

 銃弾を避ける人間なんて、普通はありえないのだ。

 加えて、あの尋常ではない身体能力と胴体視力は、たとえ一個師団の兵をぶつけたとしても勝てるかどうか。それぐらい、修二はあの白装束の女を過大に評価していた。


「しかし、よく避けられましたね。あの剣での攻撃、僕なら何回殺されてるか分からないですよ」


 佐伯がそう言って、修二の戦いぶりにそう感想を述べた。


「桐生部隊長の指南のおかげだな。本当に……あれがなかったら絶対俺も死んでたよ……」


 修二は桐生の弟子のようなものだった。

 アメリカにきてから一年、修二は桐生に何度も絞られるという地獄の修行を経たのだが、白装束の女と同じ剣使いだったのが功を成したのだろう。特に、自身の致命傷になりうる頭部を防ぐ修行は嫌というほどやったものだ。


「一つ、気になることをあの女が話していたが、同類ってどういうことなんだ? 修二」


 そして、聞かれてもおかしくないその単語を出水は尋ねてきた。

 修二は、どう説明すべきか迷っていたが、この戦場下では別の理由で塗り替えるべきではないと考え、平静を装うようにして答える。


「……分からない。俺もいきなりそんなことを言われて動揺したぐらいだ」


「――――」


 誰にも話すなと、そう指示されたことを頭の中で思い起こして、修二は誤魔化すことにした。

 本当は話したい。だが、そんなことをしてしまえばこの先どうなるかが予測がつかないことも確かだ。

 修二の返答に、出水は何かを思うようにしてジッと見つめてきていたが、


「とにかく、どうしますか? 隊長の予想通り、この付近にモルフウイルスをばら撒いた組織の連中がいる可能性は確実に近いです。進むか、退くか……」


 司馬が、今の状況を確認しつつ、今後の動きを尋ねてきた。

 難しい判断であることは間違いない。

 修二の考えの範疇では、今、桐生は何者かと交戦していると考えている。

 修二達を先に行かしたのは、修二を守る意味合いが大いにあるはずだ。

 桐生が負けるなどとは微塵も考えていないが、あまり距離を離しすぎるのも良くないことは確かだ。


「桐生部隊長からの応答が来るまで、周辺のモルフを片付けよう。あの人と離れすぎるのもあまり良くないだろうしな」


 修二の意見に納得したのか、全員が頷いて了解した。


 その中で、修二は考えていた。

 あの白装束の女は、まず間違いなく『レベル5モルフ』に違いない。

 だとするならば、敵組織は『レベル5モルフ』のなりうる条件を把握したということになる。

 それがなんなのかは修二には分かっていないが、ここから出会う敵に対して、全てを疑う必要が出てきてしまう。

 もしも別の『レベル5モルフ』が現れれば、果たしてこの部隊で押し勝てるかどうか……それを不安に思いながらも、後方陣営にいる桐生のことを考えた。


「桐生部隊長、信じますよ」


 交戦している可能性がある桐生に対して、不安を感じつつも修二は自身の判断を信じることに決めた。



今回の戦い。実はかなり陰謀が渦巻いています。

日本人が前線に出ていることも、モルフが発生していることも。あと、敵側が笠井修二の実状を把握していることも。

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