第三章 第一話 『新設部隊タケミカヅチ』
「うおおおおおお!!」
男は叫んだ。
両手に握られたサブマシンガンを連射させながら、銃口を生きた人間へと向けて、撃たれた人間は力なく倒れる。
だが、それで終わりはしなかった。
「クソッ! まだまだいやがる! 隊長! キリがありません!」
「押し負けるな! ここを突破されたら、補給地点までやられる! 桐生部隊長が来るまで持ち堪えろ!」
隊長と呼ばれ、黒い部隊服を着込んだ男、笠井修二は隊員へとそう告げて、手榴弾の信管を抜く。
「全員、伏せろ!」
信管が抜かれた手榴弾を敵のいる場所へと投げ込み、修二は隊員達へと指示を出す。
その瞬間、爆音が鳴り響いて、再び銃撃戦が開始される。
「数が多すぎる! 修二、桐生さんはまだなのか!?」
「もう少しだ! それに、空爆要請もかけている! あと少しだけ耐えろ! 絶対に死ぬな!」
すぐ近くで銃のリロードをしている出水陽介が、修二の言葉を聞いて「クソッ!」と悪態をつく始末であったが、修二も同じ思いであった。
「どうして生きた人間相手に戦わなきゃいけないんだよ!」
「俺だって同じだ! 減らず口を叩く前に相手の数を減らせ!」
銃声音や爆発音が入り混じり、お互いの声すら聞こえるかどうかギリギリの状況で、修二は再び銃を構える。
ここはアメリカとメキシコの国境線、そのギリギリの地帯での攻防の一幕であった。
なぜ、このような戦闘が起こってしまっているのか、それを知ったのは一週間も前のことであった。
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「正気ですか……風間司令」
静まり返った部屋の中で、笠井修二はそう言った。
その隣で、顔を青くしていた出水は修二の前へと出ると、
「俺も修二と同じ考えです。これじゃあ、まるで戦争じゃないですか。それに、前線部隊に俺たちを駆り出すだなんて、アメリカは何を考えているんだ……」
「君たちの意見はよく分かっている。確かに、我々にとってあまりにも不利益であり、あまりにも不当な扱いであることもな」
「なら、今すぐにでも断りを入れるべきです! あいつらは……俺たちを捨て駒に使いたいだけじゃないですか!」
堪えきれなくなった出水が、声を大にして風間へとそう進言するが、風間は表情を変えずに出水の顔を見て、首を振って答える。
「そうしたいが、できない。我々がアメリカに匿ってもらう条件の一つ、それは我々の保有する軍隊を有事の際に貸し出すことだからだ」
「っ! そんな……」
「今、メキシコ内ではモルフウイルスが蔓延している。これがテロかどうか、国は発表の一つもしていない状況だが、大量の移民やメキシコ国軍がアメリカ国境へと進行しつつあることはつまり、アメリカの危機というわけでもある。それは分かるな?」
理由を説明するように、風間は部隊メンバー達を見て話す。
「我々のやることは一つ。前線として部隊を派遣し、そこで進行するメキシコ軍を殲滅し、前線を押し上げて国内のモルフを一掃することだ。アメリカ軍も、全力を持ってサポートしてくれるということになっている」
「しかし、俺たちを捨て駒にする可能性は捨てきれないのでは?」
出水の後ろにいた神田が、作戦内容の裏を読むようにして風間に問いただす。
それは、修二も考えていたことだ。
もし仮に修二達が前線に出て、作戦を進行する途中、アメリカ軍が空爆を仕掛けることだってあるだろう。
そうなれば、修二達が巻き込まれる可能性も高い。
いや、わざと巻き込もうとする可能性さえある。
アメリカ人にとって、日本人は疫病神だと思われている節さえあるのだ。
「その点に関しては、桐生がいることで解決できる。彼の白兵戦特化の力はアメリカでさえも一目置いているようなものだ。むざむざ、そんなことをアメリカ側が許す筈がないだろう」
「でも……それさえ無視されたら……」
「信じるしかないだろうな。どちらにせよ、我々に拒否権は無い。この作戦に賛同する以外に、我々が生きる道はないのだよ」
風間の言葉を聞いて、部隊メンバーは全員黙り込んだ。
当然だろう。こんな無茶な作戦、進んでやりたいと考える人間がこの中にいるわけがない。
その中で、風間は全員が理解したことを判断したのか、あることを口ずさんだ。
「しかし、我々にとってはこの作戦、好機でもあると捉えている」
「えっ?」
意味深にそう話されて、修二は風間の顔を見た。
「今回、メキシコ内で起きたモルフ発生の原因、これはただの事故だと思うかね?」
風間の問いに、誰も答えようとはしない。
修二はその中で一人、風間の考えを分かったかのように推測を話そうとした。
「俺たちが探している、敵組織の可能性ですか?」
「その通りだ。上手くいけば、敵の尻尾を掴める可能性が高い。前線に出るということは、そういうことなのだよ」
修二を含んだ部隊メンバー全員が息を呑み、風間の話を聞く。
リスクは高い。
だが、修二達が前線に出ることによって隠れた敵を炙り出せる可能性があることは間違いないことであった。
「部隊編成は二部隊に分ける。桐生部隊長を筆頭に、それぞれ笠井君、神田君、君達二人にそれぞれ隊長を任せようと考えている。構わないかな?」
「問題ありません」
「俺も……特に異論はないです」
「話が早くて助かるよ。さて、では問題の前線での動きについてだがーー」
修二達はその後、前線内での動きについて話し合った。
自身が隊長に任命されたこともそうだが、修二の心の中ではある不安があった。
前線に出ることのリスク。仲間や自分の死の可能性を思ってのことを。
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「空爆くるぞ!! 総員、伏せろ!」
修二の声を聞いて、隊員達が物陰に身を潜める。
修二も同じようにして、建物の裏に身を潜めて、様子を窺っていた。
「くるぞ……!」
二機の戦闘機が頭上を飛び越えて、その数秒後であった。
周りの音が消えたかと思うほどの爆撃音が鳴り響き、強烈な耳鳴りが修二達を襲う。
幸いにして、爆撃に巻き込まれることはなかったのだが、あまりにも威力が桁違いだった。
『敵の防御網を開いた! 総員、突撃しろ!』
「っ! 了解!」
通信機から聞こえる弓親の指示に従い、修二達は即座に動く。
あの爆撃にやられたのか、修二達へと銃撃を放っていた軍隊はほとんど地面に倒れ伏していた。
「笠井隊長! 右に二人います! ここは私たちに任せて、出水副隊長と先に進んで下さい!」
隊員の一人、司馬が修二へとそう言って、右方向にいる敵兵を牽制する。
「っ! 了解だ! 司馬、絶対に死ぬなよ!」
「修二! 中央の建物から侵入しよう! 桐生部隊長ももう来てる!」
出水が、桐生の通信を聞いたのか、修二へとそう報告した。
「わかった! 行くぞ!」
修二と出水は、そのまま中央の建物へと侵入した。
ここらの地帯はほとんど廃墟のようなものとなっており、天井がなく、空が見える作りになっていた。
「クリア」
敵兵の姿はなく、安全を確認できた修二は出水へと合図を出す。
「さっきの空爆でほとんどの敵兵は倒れたっぽいな。どうする? このまま進むか?」
「いや、桐生部隊長を待とう。前線を上げるにも、ここからは慎重にいったほうがいい」
崩壊した瓦礫の上を通りながら、修二は周囲の警戒を怠らなかった。
どこに敵がいるか分からない以上、指示なく進むことは危険だと考えたからだ。
「それにしても、どうしてメキシコがアメリカに攻撃を仕掛けようとまでしたんだろうな。単純に国難だというのならば、俺達みたいに助けを求めればいいのに」
「不可解ではあるけどな。勝ち目なんてないことは分かっているはずだが、風間司令が言うには、国内の事情もあってのことらしい」
「確か、カルテルだっけか」
修二も風間から聞いて初めて知ったのだが、メキシコという国の治安の悪さは想像以上のものらしい。
麻薬組織なんてものは当たり前のように蔓延り、国側でさえも取り締まろうとすることが不可能なほど肥大化しているとのことだ。
公務員の殉職率は年間二十五パーセントはあるらしく、政治家でさえも脅迫するほどのヤバい集団だ。
その中で、モルフウイルスが蔓延したこともあって、国民は大きく混乱の波を極めたのだが、国民が大移動をしている以上、クーデターさえ起こっていてもおかしくない状況と化していた。
何一つ国からの発表がないことは違和感であるが、アメリカ側からすればウイルスの侵入は絶対に防ぎたいとのことなのだろう。
「とにかく、俺達は元々モルフ専門部隊みたいなものだからな。こんな人同士の戦争なんて、やりたくねえよ」
「同感だな。……なぁ修二、一つ聞きたいんだけど――」
出水が何かを聞こうとした時だった。
言葉が途切れて、出水は突如、修二へと向かって走る。
「修二、上にいる! 避けろ!」
「っ!」
上を見ると、こちらへと向けて銃口を向けた敵兵がいた。
対応が遅れた修二は、咄嗟の判断に遅れが生じてしまう。
「死ねぇ!!」
敵兵が怨嗟の表情をこちらに向けて、修二へと撃とうとした瞬間であった。
敵兵の横合いから剣をもった男が飛び出して、敵兵の銃を弾き、そのままもう片方の剣で胸部分を貫いた。
「がっ!?」
「桐生さん!」
武器を失い、急所を貫かれた敵兵は力無く倒れる。
そこには、桐生が立っていた。
「気を抜くんじゃねぇ。状況はどうなっている?」
「先ほどの空爆で、かなりの数が倒れたようです。今、前線を広げるかどうかを迷っていたところです」
「そうか。他の隊員はどうした?」
「今、後方で敵兵と交戦中です」
修二の報告を聞いた桐生は、鞘へと刀を直し、そのまま修二達の下へと降りてくると、
「前線を広げる。とっととこの戦場の先に向かうぞ。神田の方は補給地点の近くを見てもらう予定だ」
「了解です」
桐生の指示に従い、修二は少しだけ肩の荷が下りた。
この人がいるかいないかでは、戦況は大きく変わる。
後は、後方の隊員達と合流して先に進むのみだが、
「笠井隊長、ここにいましたか。後ろは制圧しました。桐生部隊長もいらしたんですね」
そう考えていた矢先、修二の隊の隊員達が戻ってきてくれた。
特に負傷者もいないことに安堵しつつ、修二は戦闘にいた司馬を見て、
「よく戻ってきてくれた。これから前線を広げていくとのことだ。弾薬は問題ないか?」
「大丈夫です。二回目の補給地点での合流時にありったけ持ってきましたから。犬飼と樹と佐伯も、動ける準備は整っていますよ」
あまりの準備の良さに、修二は隊員に恵まれていると再認識できた。
年下なのだから敬語で話さなくてもというところなのだが、彼らは修二や出水が日本で起きたウイルス事件の際、どれだけ奔放してきたかを知っている。
それ故に、尊敬されていたのだが、このやり取りには修二ももう慣れてしまっていた。
「了解だ。――桐生部隊長、こちらは問題ありません」
「わかった。俺が先陣を切る。お前達は後から続け」
そのまま、桐生は先へと進んでいった。
修二達もお互いに顔を見合わせて頷くと、桐生の後に続くように進む。
修二達の隊は六人編成で構成されていた。
隊長は修二、副隊長は出水となっており、そこは隠密機動特殊部隊に所属していた頃と変わっていない。
新たに加わった隊員達は、ほとんどが陸上自衛隊の経験者であった。
名は司馬聡美、樹小太郎、犬飼茂、佐伯宗佑。
皆、あの地獄の日本で生き残り、戦ってきた者達であった。
部隊は主に二小隊に分けられており、修二と同じ隊長である神田も同じような編成であった。
その二小隊をまとめるのが、部隊長である桐生であり、現場での指揮が主となっている。
戦況を見て、桐生へ指示を出しているのは風間司令だが、修二達は風間司令から直接、伝令を聞くことはない。
隠密機動特殊部隊も今は解体されており、新しく作られた部隊名を名乗ることとなっていた。
「お前ら! モルフを発見した! 気をつけろ!」
「了解! 皆、いけるな!?」
「はいっ!!」
桐生の報告を聞いて、そのすぐに視認した。
感染した人間らしき、虚ろとした表情をして、痛がる素振りすら見せないのが違和感なほどに重傷を負ったまま、こちらへとゆっくり歩く存在がたくさんいる。
恐らく、感染して間もないのだろう。
こんな早くに遭遇したことに、危機感さえ感じられた修二であったが、やることは変わらない。
指示する間もなく、修二達は持っていた銃を構える。
「ここからが俺達の本当の仕事だ」
対モルフ戦闘部隊。本質的にはそれが正しかっただろう。
対人間を相手にしていたのは状況上、仕方の無いことではあったが、本来の修二達の戦場はここからだった。
「新設部隊タケミカヅチの初陣だ。全員、いくぞ!」
「はい!!」
力強い返事を聞いて、新たな部隊の本当の戦いが始まろうとしていた。
第三章もどんどんと投稿速度を高めていきます。
第一章、第二章と比べて話数はそんなに多くはないですが、内容がかなり濃密です。
次話、2月19日19時投稿予定




