表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Levelモルフ  作者: 太陽
第二章 『終わりへの序曲』
89/237

第二章 幕間その三 『恋心』

 桐生と風間との密談を終えた修二は、同じ建物内の中にある会議室のような広い部屋の中で、椅子に腰がけ、深く息をついていた。


「ふぅ。疲れた」


「お疲れ様。これ、高尾さんが淹れてくれたコーヒーだって。はい」


 そう言って、椎名は修二に淹れ立てのコーヒーが入ったコップを渡してきた。

 それを受け取った修二は、その良い香りのするコーヒーの入ったコップに口をつけると、


「いや、美味いな。あいつヤクザじゃないの? こんな所で妙な才能発揮されても戸惑うだけなんだが」


「こらこら、そんなこと言わないの。でも、本当に美味しいよね、高尾さんの淹れたコーヒーって。桐生さんも美味しそうに飲んでたの前見たよ」


「それはそれで意外すぎる……。桐生さんの表情って常に鉄仮面みたいなもんじゃん」


「あっ、またそんなこと言っちゃう。今度チクッちゃうからね」


「すみませんでした。許して下さい」


 割と本気で洒落にならないので、修二は額を擦る勢いで謝罪した。


「そういえば、高尾さんに神田君を会わせてあげたの?」


 お互いに椅子に座りながら、椎名がふとそう尋ねてきた。

 神田と高尾は、昔馴染みの友達のような存在だったようだが、実のところ好ましい間柄というわけでもない。

 なにせ、その旧知の間柄はヤクザの頃の話であって、神田とは以前話したことはあるが、完全に過去とシャットアウトしたような様子だったのだ。

 だから、高尾から神田との面会を頼まれたことがあっても、修二の答えは決まっていた。


「いんや。神田が会いたくないってさ。まあ、色々あったらしいからな。そう簡単にはいかないだろ」


「そう……でも、いつかちゃんと仲直りできるといいよね」


「……そうだな」


 正直なところ、難しいとは思われた。

 当時、神田のいたヤクザ組織は、神田の妹の静蘭を見捨てようとした奴らだ。

 少なからず、神田自身は恨み憎しみはあるだろうし、もう二度と会いたくはないだろう。

 時間が解決するか、はたまた介入せざるをえないかは議論の余地はあるが、今は無理に野暮なことはすべきではないというのが修二の見解だ。

 出水も考えは同じだったようで、修二の意見に賛成してくれていたわけだし。


「まあ、でもこうして椎名と落ち着いて話せるときがきたのは嬉しいよ。あれから一年か? 短いようで長かったようなそんな気がする」


「――そうだね。本当に、長かったように感じる。私も、もう会えないのかなって思ってたから……」


「こうして会えたことが一番だよ。本当に、良かった」


 目を細めて、これまでのことを憂うようにして思い出す。

 本当に色々なことがあった。

 辛いことも、苦しいことも、痛いことだってたくさんあった。

 あれほどの苦難の果てが今の結果に繋がったのだとするのならば、それは喜ぶべきことではあるのだが、代償は大きくあった。


 一つは、鬼塚隊長の死。

 修二が別行動を取った後の話で、鬼塚隊長は出水達を逃がす為に自らを犠牲にしたと聞いている。

 それを聞いた時は、かなりショックだった。

 訓練生時代、修二達を鍛えてくれた恩師でもあり、父と繋がりがあった人だ。

 あの酷い惨状の中で、鬼塚隊長は自分の使命を果たしたと、出水達は話してくれた。


 修二はそのことに反論はしなかった。

 もちろん、なんとかならなかったのかと問いたかった。

 しかし、出水達の表情は皆が納得しているような、そんな様子だったのだ。

 あの場にいなかった修二には、何かを言える立場ではない。

 だから、それ以上は何も言わなかった。


 二つ目は、日本という国の滅亡。

 これは、修二達にとっても耐え難い程の苦い記憶となっていた。

 あの後、休みなどなくしてずっとモルフの制圧に動いていたのだ。

 それでも、制圧したモルフの数よりも感染する人々が上回り、撤退せざるをえなくなったのが事の顛末だった。


 一度は空からの空爆という作戦も考えられたらしいが、生存者がいる可能性があることから、すぐに断念することとなった。

 その結果、事態は悪化するばかりとなって、最終的に他国への避難という形へ移行したのだ。


 推定される死者数は、想像にし難い程の膨大な数であった。

 日本人口のおよそ九割近くの人間が死んだと聞いた時は、立ち眩みを起こすぐらいに頭がどうにかなりそうだった。


 そんな地獄を見てきた結果が今の現状だ。

 この周辺は基本、日本人しかいないが、それでも大した数はいない。

 他の日本人がどこにいるのかも分からないまま、桐生も風間も、教えてはくれなかった。


「まだ誰か……生き残ってる人が日本の中にいるのかな」


 胸に手を当てて、心配そうな面持ちでそう言う椎名。

 修二としても、どう言葉掛けをすべきか逡巡すべき側ではあったのだが、ここはきちんと本当のことを伝えるべきだろう。


「正直、絶望的だろうな。どこにいってもモルフがいるばかりで、聞くには動物にも感染してるって噂だ。電気系統は完全に遮断されているだろうし、生きている人は皆、もう日本から脱出しているとは思うけど……」


「そう……だよね。きっと、皆逃げてるよね」


 実際には、逃げ遅れた人もいるだろう。

 その人達が今生きているかどうかについて聞かれるならば、本当のところは誰にも分からない。

 だが、ほぼ死んでいるとみて間違いないとは思う。

 なにせ、国民の大多数が感染した島国だ。

 逃げる場所なんて、どこにもある筈がない。


 修二と椎名はその後、しばらく無言になる。

 あまりネガティブに答えるべきではなかったかと、少し後悔していた修二だが、


「あのね、修二……あの時は……」


「ん? どした?」


「えっと……」


 なんだかモジモジしている椎名を見て、トイレに行きたいのか? と、失礼なことを考えていた修二であったが、それを口に出してはドン引きされそうなので黙っておいた。

 何か聞きたいことでもあるのだろう。

 半年ぶりの再開だ。

 何でもドンと聞こうじゃないか。


「あの時……助けてくれた時、あ、ありがとうね。か、カッコよかったよ」


「…………」


 多分、アベル達に捕らわれていたところを助けた時の話をしているのだろう。

 実際には、修二を庇って椎名が重傷を負うハメになったので、かなり嫌な思い出にはなっているのだが。


「えっと、ね。あの時、言ってたよね。ずっと側で守ってやるって……、あれって……」


「あー……」


 そう言えばそんなことを言った。

 というかそれを今引き出されるのはなんか恥ずかしい。

 なぜ、そう言いながら椎名は顔を赤く染めてるのか。なんとなくだが、修二は察してしまった。


「え、えーと、そうだな! 言った言った! 椎名も一人寂しかったじゃん? だから、これからは皆で……」


 ずっと一緒にいよう。

 そう言おうとしたが、言葉選びを間違えてしまった気がしていた。

 というか、なんでこんなドキドキしてしまっているのだろうか。

 言いたかったことから目を背けているような気がして、胸がむず痒くなる思いになる修二であったが、椎名の表情は変わらずのままで、


「そ、そうだよね! これからは皆一緒にいれるもんね! う、うん! 嬉しい!」


 あれれ、椎名も何か納得の雰囲気だった。

 なぜかは分からないが拍子抜けしていた修二だが、それは間違っていない筈だ。

 そう思いたい。


「で、でもさ、もう危険なことはないだろうし、大丈夫だよ。いつか、日本にだって帰れる筈だしな」


 今は帰ることができない。

 でも、いつかは、アメリカ軍の日本列島内にいるモルフ掃討作戦の準備が整い、実行されれば、時間こそかかってもいつかは帰ることが出来る筈だ。


「……そうだよね。あのね、修二。少し相談があるんだけど」


「ん、どした?」


「修二ってさ、前会った時よりもすごく強くなったよね。あれって、やっぱりトレーニングとかしたからなの?」


 トレーニングとは可愛らしい表現だが、まあ実の通りそんなところだ。

 父、嵐と同じ部隊に入り、そこで訓練を経てきたことを当時の椎名は知る由もなかっただろう。


「そうだな。っても、半年だけだけどな。思えば結構過酷だったような気がする」


 過酷に思えたのは、ほとんど清水のやらかしで連帯責任ペナルティばかりなのが尺ではあるが、通常の訓練も楽と言える程ではない。


 しかし、なぜそんなことを聞くのか、修二は不思議に思っていると、椎名はすぐにその答えを出した。


「私、今のままじゃダメだと思うんだ。ほら、私も修二と同じで特別なモルフの感染者でもあるんだし、私も何か、自衛の力をつけた方がいいかなって」


「……まあ、その方向性は間違いではないかもだけどな。これから、俺達がどこぞの連中に狙われるリスクもないわけじゃないし」


 強くなりたいという椎名の意思を否定するつもりはなかった。

 たとえ、そんなことをしなくても、修二は椎名を守るつもりだが、椎名自身は守られ続けるのは良くないと感じているのだろう。

 その気持ちは、修二にも分かっていた。


「そうなの。だから、私も強くなりたいなって。でも、修二のように軍隊さんみたいな訓練って出来ないし……誰かいないかな? そういった、師匠になってくれそうな人」


「うーん」


 修二は暫し、顎に手をやりながら考えてみた。

 出来るならば椎名の意思は尊重したい。

 とはいえ、簡単な話でもなかった。

 椎名は『レベル5モルフ』でもあり、接触できる人間も限られている。

 ならば、椎名の状態を知る者でなければ無理だろう。


 百歩譲って、神田や出水、清水達が関わるならば話は変わるだろうが、修二と彼らもこれから忙しくなってくる。

 隠密機動特殊部隊は無くなってしまうだろうが、有事の際はまた銃を持って戦うことだってあるだろう。

 それに向けた訓練もこれからやっていくだろうし、椎名に構ってやるのも難しくなってしまう。

 ならば、修二の知る最強の男、桐生を紹介すべきだろうか。

 いや、そもそもスパルタ気質の桐生と椎名は間違いなく相性が悪い。

 修二でさえ根を上げるというのに、それを椎名に味合わせるのは少々、辛い。


 ともすれば、後は誰がいるだろうか。


「あ」


 何かに気づいたように、修二は小さく声を漏らした。

 一人だけ、いたのだ。

 椎名の状態を知りながら、かつ椎名に対して、自衛の力を授けることができるうってつけの相手が。


「あのさ、椎名。この人ならいけると思うぞ」


 紹介することに躊躇はなかった。

 どの道、監視付きの訓練になるだろうし、修二としてはその人のことを信頼している。


 だから、迷うことはなかった。


△▼△▼△▼△▼



 修二と話をしてから、一人になった時にすぐに椎名は動き出した。


 胸の高鳴りが治らない。

 どうしてなのか、椎名は分かっていた。

 分かっていて、それでもバレないよう隠そうとした。

 話を変えて、椎名を鍛えてくれる人がいないか聞いたことも本心ではあるのだが、それでも心の動悸は治らない。


 本当は気づいていた筈なのだ。

 ずっと、ずっと前から。いつからなのか、本当は分からない。


 自分の気持ち。

 それに気づいてからは、彼の顔を見るのも難しくなってしまった。

 目を合わせるのも難しいし、そんなことをして嫌われるのも怖いけど、それでも出来ない。


 そんな自分の臆病さに、嫌な気持ちにさえなる。

 でも、今じゃないと、そう感じたのだ。


 修二は優しい。

 いつだってそうだし、これからもきっとそうだろう。


 修二はいつも、椎名のことを守ってきた。

 御影島での時のことだって、修二とはずっと一緒にいた。

 その度に何があっても、修二は椎名を最優先に考えて、守ろうとしてくれた。


 日本で悪者に誘拐されて、本当に怖い思いをしていた時だって、彼は助けてくれた。

 命だって危ないのに、彼は一人でやってきて、戦おうとしたのだ。


 そんな修二は、その時に言ってくれた。


『お前は死なない。俺が、ずっと側で守り続けてやるから』


 その時だったのだと思う。

 自分の本当の気持ちに気づけたのは。

 すごく、嬉しかった。

 何も出来ない自分を、彼はずっと見てくれていたのだ。


 だからこそ、分かる。

 椎名は、修二のことを好きになっていたのだと。

 幼馴染や、友達としてではなく、異性として好きになっていたのだ。


「どうして、今の今まで気づけなかったんだろう」


 思えば、すごく鈍感だったのだろうとさえ感じた。

 その気持ちに気づいた時、それはずっと前からあったものだということにその時、気づいたのだ。

 それがどうしてなのかは、今となっても分からない。


 ただ、今は自らの心の高鳴りに対して、それどころではなかった。


「でも、今は先にやらないといけないことがあるよね」


 椎名にはやるべきことがある。

 自分の気持ちのこともそうだが、それ以前に椎名は自分の力の無さをコンプレックスにしていた。

 いつまでも守られる側でいるわけにはいかないのだ。

 修二の横に立てるよう、努力しないといけない。


 もう、連れ去られるなんてことをされて、皆に危険を晒させるわけにもいかない。

 皆と一緒に戦えるように、自分もならないといけないのだ。


 だから、椎名はある者の元へと向かっていた。

 修二の紹介してくれたその人は、椎名も知る者だった。


「――いた」


 その人はすぐに見つかった。

 何かの打ち合わせがあったのだろうが、この集落に留まっていてくれていたのだ。


 ならば、椎名は迷う必要はなかった。


「あの……アリスさん」


「あら、椎名ちゃんじゃない。ダメよ、一人でこんなところを彷徨いていたら。危ない人達に目をつけられたら大変なんだし」


 アリスは、椎名の単独行動を咎めるように、そう注意した。

 それは、単に暴漢に対してなのか、『レベル5モルフ』である椎名を狙う連中に対してのことなのかは分からない。

 恐らくは後者のことだろうが、ここは厳重な警備態勢に敷かれている。

 ともすれば、一人でいることを常習化してはいけないという意味での注意なのだろうとも考えられるが。


「相談があるんです」


「あらあら、相談ね。女子トークなんて久しぶりだから緊張するわ。女子なんて年頃じゃないのだけど」


 アリスは自嘲気味にそう言って笑う。

 それを見た椎名は少し安心した。

 怖くないということもそうだが、雰囲気からでも分かる。

 この人は信頼できる人だと。


「それで? 何を相談したいの?」


 アリスは問いかける。

 椎名は深呼吸し、頭の中で想いを馳せる彼のことを思い浮かべた。

 強く、勇ましい人だ。

 きっと、生半可な努力じゃあ追いつけないだろう。

 だから、椎名は覚悟を決めた。


 いつか、あの人の隣に立って、共に戦っていこうと。


「アリスさん」


 椎名は真っ直ぐにアリスへと視線を向ける。

 その真剣な眼差しに、アリスは首を少し曲げて聞き姿勢になりながら椎名の言葉の先を聞こうとしていた。


「私を、弟子にしてください!」


 これは、次なる戦いが始まる一年前の話。

 彼女が、強くなろうと心に決めて、初めて行動しようとした日でもあった。


 第二章はこれにて完結となります。

 第三章からまた舞台は変わりますが、今までよりもかなり重い内容に移ります。


 第二章について、思ったより主人公である笠井修二視点の話が少ないと思った方もいるかと思われますが、今後もそういうのは多くなってきます。今後の構成についてもそうですが、特に第四章は笠井修二が一切出てこない内容にもなっています。

 最終的には三人主人公?みたいなそんな雰囲気になってくるかなぁと。

 隠密機動特殊部隊の新メンバーである笠井修二、出水陽介、神田慶次、清水勇気。彼らは半年間という短い訓練からのモルフの蔓延る戦場へとでましたが、実際はそこまで戦闘経験があるわけではありません。訓練期間の短さからもそうですが、比較してしまえば、自衛隊員よりも劣ります。

 第二章では日本を舞台としてプロットを練りましたが、やはり現実世界の話を書くとなると整合性を保つという部分ではかなり難しいです。フィクションとして見ていただければそれが一番ですが、盛り上げる部分が中々上手く表現しづらいのも苦労しました。

 笠井修二が『レベル5モルフ』となった疑惑がありますが、確定的な意味合いで取っていただいて問題ありません。第一章のクライマックス時の世良との闘いで死にかけた修二はあの瀬戸際で、椎名が無意識下で『レベル5モルフ』の超速再生能力を使用し、ある条件に達したことで『レベル5モルフ』となりました。

 大した取り柄がなかった主人公ですが、ある意味ではこれからが本編になってくる、いわば焦点に当てられることがかなり大きくなってきます。

 椎名も椎名で、超速再生能力という異常な能力を有していますが、その詳細は今後、明かされていきます。

 Levelモルフは今のところ、全六章構成で考えています。

 次の第三章で折り返し地点となりますが、この作品に関しては個人的に最後まで書ききりたいという思いが強いです。

 ストックも使い切った状況ですが、なるだけ早い投稿ペースを保っていけるようにします。


 『レベル5モルフ』の謎。まだ表舞台に出てこない謎の敵組織。碓氷氷華の行方や修二サイドの裏切り者? などなど、色々と伏線を入れつつの次章ですが、全て回収するつもりで尽力していきます。

 長くなりましたが、まずはこれにて第二章のあとがきは締めたいと思います。


 次回は第二章終了後のエピソードとして番外編を数話投稿し、その後、第三章へと進む予定です。

 投稿予定日は2月15日午後19時を予定しております。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ