第二章 第三十一話 『尋問』
「俺って運動神経ないよな」
 
砂の上に手を突いて、疲れたように腰を下ろした笠井修二はふとそう呟いた。
独り言だとかそういうのではなく、話し相手が隣にいて言っていたのだ。
ちょうど、体育の授業で体力テストをしてクタクタの状態の笠井修二に対し、隣に同じく腰掛けた友人はそんな修二を見て、ケラケラと笑いながら、
 
「急にヒステリックになってどうしたよ。大きな壁にぶち当たってご執心か?」
 
「うっせ。お前らなんでそんな平然としてられるんだよ。俺も一応サッカー部入ってたってのに」
 
「そりゃお前、部活とか急に辞めたりすると誰だってそうなるだろ。俺も辞めたらそうなるよ」
 
自分の顔に親指を立ててそう言ったのは、幼馴染のリクだ。
彼は、この体力テストで疲れ一つ見せない表情で一番着で早く終わらしていた。
その言い分も理解できなくはないが、それだけでは納得いかない理由もあった。
 
「それでも、鉄平とかスガにまで負けるのは釈然としないわ。まあ、リュウとかは全然分かるんだけど」
 
「あいつらは教師陣との鬼ごっこを毎日やってるような奴らだぞ。ぶっちゃけ、色んな意味で前線張りすぎてるわ」
「納得いくのが腹立つな……」
 
慰めも無くそう言ったが、修二はその結果に釈然としないまま唇を曲げていた。
そもそも、教師との追いかけっこで身につく体力ってどうなのだ。
日ごろからバカばっかりやっている彼らには修二も既に呆れ返っているのだが、それで負けてしまうのは少し悔しい。
 
「俺にも才能があればなぁ」
 
ぼやくようにしてそう言うと、リクはそれを笑いもせずに綺麗な青空へと顔を向けて、
 
「修二、才能なんてもんは俺達の誰にもねえよ。リュウとかは別にしてな」
 
「なんでだよ。お前の運動神経ってどう見ても他より抜きん出ているじゃん」
 
「それは才能ってより努力だよ。俺は動くのが好きだから、単純に人一倍努力しているようなもんだ。修二だって、体力とかじゃなくても他の何かに特化して努力すれば俺らよりもすごいことできるだろうしな」
 
そんなものが本当にあるのだろうか。
努力すること自体、修二は苦手な側面もあるので、信じるには難しくも思えた。
サッカー部を辞めたのだって、ただチームの方針と合わないからに過ぎないことではあったが、それでも努力することから逃げた事実は変わらない。
だから、純粋に才能がある人や努力できる人は修二からすれば羨ましく思えた。
なにかと理由をつけては逃げ出したくなる自分とは違って、ちゃんと向き合う強さがあったのだから。
 
「……できるやつから言われても説得力ないな」
 
「おっ、言ったな。じゃあ、できるやつからのアドバイスだ。努力する為の最低条件ってのはな。コツコツ地道にやっていくことと、考え続けることだ。いつ、どんな場面においてもな」
 
「考え続けること?」
 
一点だけ、気になることがあって修二はそれを問いただした。
 
「何の意味も無く反復練習するだけじゃ意味が無いってことだよ。大事なのは、なぜできなかったのか、次はどうしたらできるようになるのか、それを考え続けることができるやつが真の努力できる人間ってことだ」
 
リクの言った事は、すごく分かりやすかった。
努力できる人間とは、正にそのようにやってきたということなのだろう。
考え続けることを放棄した経験のある修二にとっては耳の痛い話ではあったが、リクはそのことに触れる様子はない。
リクは案外、厳しそうな雰囲気があるように見えるが、こうみえてかなりのお人好しだ。
ギャップみたいなものかもしれないが、幼馴染の頃からリクを知る修二にとっては、リクが優しい人間であることはとうに知っていたことだった。
 
「努力、か。そうだな。俺も何か、努力できそうなこと探してみるよ。もう、今度は逃げない」
 
「おう。その時は俺も一緒に手伝ってやるぞ」
 
「ああ、頼むぜ」
 
拳をコツンと互いに当てて、二人は笑みを浮かべた。
何気ない会話は、チャイムが終わりを知らせるように校内に響いたことによって終わる。
修二が何かに没頭しようという、そのきっかけとなった出来事であった。
 
△▼△▼△▼
 
「俺って本当、運動神経ないよな」
 
かつて、幼馴染に発した時と同じ呟きを修二はしていた。
前回と違う点は、それが独り言だったということだ。
 
彼は、アリスが囮役をやっている間に裏口から侵入することに成功していた。
酷く汗だくになっていたのは、内部の敵に見つからないよう奔走していたこともあってのことだが、それだけが理由ではなかった。
元々、訓練による影響で修二も体力はそれなりにはついていたはずだった。
それが、命のやり取りをする上での動きとなれば、緊張で呼吸が苦しくなってしまうのも無理はなかった。
 
御影島でも同様に、彼は移動するごとに疲れ果ててはいたが、今回とは状況が違う。
生きた人間を相手にする以上、常に全方位へと意識を集中する必要があったのだ。
 
「結構上に上がったけど、椎名はどこにいるんだ?」
 
階段をどれほど登ったのか覚えていないが、椎名が上の階にいるかどうかもまだわかってはいない。
道中、武装した人間が慌しく走っていたが、おそらくアリスのことではないかと思われた。
彼女が現在、無事でいるかどうかは確かめようも無い事ではあったが、今は自分のことだけ考えるほかに無い状況だ。
 
身を潜めつつ、やり過ごせてはいたのだが、いずれ限界がくることは目に見えていた。
その前に椎名を見つけ出す必要があるのだが、未だ手がかりが見えてきていない。
なんとしても、それだけは先に知る必要があった。
 
「やっぱ、誰かに問いただすしかないか。訓練で齧った程度だけど……気は引けるな」
 
隠密機動特殊部隊の任務の一つに、容疑者への尋問というものがある。
それは、警察がやるような事情聴取のようなものではなく、人権や倫理に反するやり方の聴取方法だ。
一概に言えば拷問の類に近いが、あくまで犯罪者への行いということで上は通しているそうだ。
公になれば当然大問題ではあるのだが、そもそも部隊の性質上が問題でもあるので、やるとこまでやるということなのだろう。
それについては、修二も何も思う事はないのだが。
元々、善悪の倫理観など、人それぞれな部分は誰にだってあるのだ。
修二にとっては、犯罪者に遠慮は必要ないと思う立場でもあり、まして日本をここまでめちゃくちゃにしようとした連中だ。
死刑は免れないだろうし、修二も遠慮をするつもりは毛頭ない。
 
「でも、一人でいるところってそうそういないんだよな。まとまって行動しているようにもみえるし」
 
これまで見てきた連中は皆、まとまって行動していた。
一人で行動していれば拘束は容易いのだが、思い通りにはいかないようだった。
――が、ここで変化が起きる。
 
「――ん?」
 
通路から先、警戒心が感じられないのんびりとした様子で歩いてくる男がいた。
見たところ、外人のようにも見えるが、たった一人で行動しているという点においては僥倖であった。
 
「――よし、あいつを捕らえよう」
 
目的が定まった修二は物陰に潜みながら、薄い髭を生やした男が通り過ぎるのを待った。
勝負は一瞬だ。
少しでもこちらの存在に勘付かれることがあれば、即座に射殺しなければいけないほどリスクの高いことをしている。
 
気配を完全に絶って、男が通り過ぎようとしたその時、修二は背後に回り、持っていた拳銃を頭に突きつけた。
 
「止まれ。両手を頭に置いて、その場から動くな」
 
「おっと。これはしてやられたね。キミは一体?」
 
「黙れ。悠長に会話するつもりはない。さっさとしないと撃つぞ」
 
拳銃の銃口を強く頭に押し付けながら、髭面の男は「おー、怖い怖い」と言いながら言われた通りに両手を頭につける。
ここまでは完璧であった。
後は、人気の少ない場所へと連れて行き、椎名の居場所を聞き出せれば御の字というところだ。
 
「それで? 両膝は地面につかなくていいのかい?」
 
「そのままの体勢ですぐそこの部屋の中に入れ。お前には聞くことがある」
 
「――なるほど」
 
焦る様子の一つも見せない髭面の男は、何かを理解した様子で言われた通りに部屋の中へと移動した。
修二は真後ろにつく形で共に移動し、男の動きに変化がないか細心の注意を払っていた。
どうにも、捕虜となった自覚が薄いように見えたのだ。
その違和感は、たとえこちらに分があったとしても安心できる材料にはならない。
 
「そこの壁に手を突け。妙な動きをしたら即座に撃つぞ」
 
「はいはい。わかりましたよっと。これでいいかい?」
 
呑気な様子で、それでも言う通りにした髭面の男に対し、修二は焦らずに要点を問いただそうとした。
 
「お前は何者だ。どこの組織で、日本全域にモルフをばら撒いたことにも関係しているのか?」
 
「おや、モルフのことを知っているのか。いや、俺も詳しく知っているわけじゃないんだけどね。俺の名はクラウス。組織名は『フォルス』といって、世界を股にかけるマフィア集団ってところだよ。日本にモルフウイルスをばら撒いたのも、ある意味間違いではないが、俺達は雇われ人だ。指示を出したのは違う組織だよ」
 
思ったよりもぺらぺらと喋るクラウスと名乗る男に、呆気に取られていた修二であったが、この男の言うことが本当ならば、幾つか気になる点があった。
 
「指示を出した組織とは?」
 
「悪いが、それは俺も知らない。クライアントの情報を隠すつもりは別にないし、奴らは俺たちに自分達の素性を知られるのをかたくなに拒んでいたからな。その代わり、依頼料は尋常じゃなかったから、うちのボスも了承したわけだし」
 
「そんな妄言が通ると思うか? 知らないなら、お前の体から聞くことになるが」
 
「おいおい、拷問とかしちゃうのかよ。知らないのは本当だ。冷静に考えてみろよ。こんなイカれたウイルスをこそこそ作ってばら撒くような連中だぜ? 前線で動いて、わざわざ捕まるリスクがある俺達に素性を明かすと思うか?」
 
「――――」
 
脚に一発ぶち込むかどうか悩んでいた修二であったが、クラウスは嘘をついていないようにも思えた。
確かに、このアジトが割れた時点で、この『フォルス』と呼ばれる組織に杜撰な部分があることは否めない。
対して、御影島での騒動を引き起こした連中は、一切の痕跡すら残さずに消えてしまったのだ。
この差は、実際に見てきた修二だからこそクラウスの証言に納得できうる要素でもあった。
 
「じゃあ、お前達が攫った女は知っているか? 椎名真希って名前の女の子だ、名前まで知っているかはともかくとして……ここにいる事はもう分かっているんだ。どこに匿っているのか、それを教えろ」
 
質問を変えて、修二は本来の目的である椎名のことを問いただす。
それを聞いたクラウスは、にやりと口元を歪めた。
――まるで、何かに納得したかのように。
 
「……その前に、俺からも一つ聞いてもいいかい? それに答えてくれたら、俺もキミの質問に答えるよ」
 
「……何だ?」
 
聞く必要は全く無かったのだが、そこは修二のミスでもあった。
本来は徹底すべき事柄でもあったが、まだ慣れていないこともあって甘さがでてしまったのだ。
そうして、クラウスが何を問おうとしているのか、注意深く見続けていると、
 
「――お前、もしかして笠井修二じゃないのかい?」
 
突然、自分の名前を知っているようにそう話したクラウスに対し、修二は思わず硬直した。
 
――その隙を、クラウスは見逃さなかった。
 
「噂通り、甘い奴なんだなぁ。お前は」
 
服の袖から細長い針のようなものを取り出したクラウスは、身を捻って持っていた針を修二の持つ拳銃の銃口の中へと突き刺した。
 
「なっ!?」
 
修二ではなく、あえて武器破壊をしてきたクラウスに対し、驚愕した。
拳銃は、内部の弾薬と薬莢を超えたストライカー部分にまで針が刺さってしまったのか、引き金がまるで引けなくなっていたのだ。
的確に小さな銃口の中に針を押し込んだことも驚異的だが、修二はそれ以上にクラウスに対して接近しすぎていたことに歯噛みした。
 
「あの御影島で生き残ったんだろ? どれほどの実力か、俺に見せてくれよ」
 
クラウスは、武器も持たずに修二へと向き直る。
修二は、背中にかけていたサブマシンガンを手に取ろうとするが、
 
「遅いな」
 
片手の手のひらを開けた状態で修二へと向けてきたことに、嫌な予感を感じた。
 
危険を感じた修二は、すぐさま回避行動をとり、その判断が正解だったことをすぐに理解する。
先ほど修二がいた場所へと、何か細長い物が通り過ぎたのだ。一体、何なのか、壁に突き刺さったそれを見た修二は目を見開く。
 
「さっきの……針?」
 
さっき、拳銃に突き刺したものとは明らかに状況が違っていた。
先ほど、クラウスは手に持って針を突き刺してきたのだが、今のは投げる動作も何もしていなかった。
まるで、何かの術でも使ったのかと言わんばかりの奇妙な現象が、目の前で起きたのだ。
 
「見惚れているところ悪いが、自分の心配をした方がいいぞ」
 
「っ!」
 
クラウスを視界に入れる間もなく、修二はもう一度横っ飛びし、ダンボールが集まっている箇所へとダイブする。
上手くダンボールが障害物となり、クラウスからの追撃を免れることに成功、したかに思われた。
「がっ!」
修二の右肩に、クラウスが飛ばしたとされる細長い針が貫通し、鋭い痛みが右肩から全身へも駆け巡る。
痛みに悶える暇などなく、修二は刺さった針を抜こうとするが、針を引き抜く動作をするだけで余計に激痛が走っていく。
だが、それでも我慢して、修二は肩に刺さった針を無理矢理引っこ抜いた。
「俺の針に、そんなダンボール如きじゃあ障害物にもならない。もっとも、この程度の暗器武器に悩ましているようじゃダメだぜ」
「っ――」
言葉を交わす余裕もなく、修二は今いる場所から移動しようとする。
だが、不幸にも部屋の出口があるのはクラウスがいる方向だ。
隠れる場所は、あってもこのダンボールの山のみだが、それも意味を為さないことは右肩に刺さっていた針が証明している。
だから、あえて修二はクラウスの視界に入るように正面に立った。
「ん? どうした? もう諦めたのか?」
「さっき、お前は言ったな。お前の質問に答えれば俺の質問に答えると」
「ああ、そうだったそうだった。つい忘れてたよ。その雰囲気だと、やはりキミは笠井修二のようだね」
「……なぜ俺のことを知っているか、それも気になるところだが、先に俺の質問に答えてもらおうか。椎名はどこにいるんだ?」
「ふ、いいだろう。かの『レベル5モルフ』、椎名真希はこの上の階層、いや……最上階に移動している頃合いかな。今、ウチのボスと共にな」
天井を指差しながら、そう説明するクラウスに修二は冷静さを保とうとする。
――まだ、椎名はこの建物の中にいる。
それだけでも分かったことは値千金の情報であった。
既に敵勢力と共に建物からの脱出を図られていれば、今修二がここでやり合っていることは無駄骨に近かったからだ。
もっとも、それはクラウスが嘘をついていなければ、という前提にもよるのだが。
「何にしても、さっさとここを抜けて行かなければならないか……」
「おや? もう先のことを考えているのかい? 随分と余裕だね?」
先の算段を立てていることに対して否定はしなかったが、全くもって余裕ではない。
今はあえて、クラウスの攻撃範囲を読み切る為に正面に立っている状況だが、まだ対策らしき対策は何一つ考えられていないのが実状だ。
特に、武器を取り出す動作すらできない修二にとっては、今、ここでは会話という手段しか取れないまま、時間稼ぎをしつつ考えるしかないのも本音だった。
「もう一つ……聞いてもいいか?」
「ふむ、欲張りだな。構わないよ。俺も今は暇だからな」
「……さっきのやり取りの中で、どうしてお前は俺の名を知っていたんだ?」
――時間がない。
それは分かっていても、どうしても確認しておきたいことだった。
この男が御影島のことを知っていることも関係しているのだろうが、なぜ修二が生き残っていることを知っているのか、そこが釈然としなかったからだ。
「知っている、か。彼女から良く聞いていたからね。他人に甘く、それでいて分不相応な人間、だと」
「――何のことだ?」
「分からないか? かつてはキミと相対したはずの女の子、御影島での島民人体実験を起こした首謀者のことを」
「まさか……」
クラウスが少しずつ答えを教えるように、対して修二は、クラウスの言う女が誰の事を言っているのか、それはもう分かっていた。
「――世良望。彼女は、私とたった一度だけ会話をした仲であり、本来ならば今回の作戦に出向く予定だった特別な存在だよ」
聞き逃せない名前を出されて、修二は思わず固まっていた。
もう既に死んでいる世良のことを、クラウスは知っていたのだ。
「御影島での作戦に関して、俺達『フォルス』は関わることは無かった。元々、この日本全土のウイルス拡大をする為の要員でもあったわけだからね。組織の中でも交渉役の位置に立たされていた俺は、クライアントとの交渉の現場で彼女と会うことになったんだ」
 
戦闘を中断して、クラウスは修二の名を知る経緯を話していく。
彼女、とはおそらく、世良のことだろう。
 
「世良はたまにしか会うことはなかったが、良く身の上話を語ってくれたよ。御影島で実験に使用する彼女のクラスメイト達のことをね」
 
「それで、俺の名を聞いたってことか」
 
「少なからず、いや、大いにと言ったところか。彼女はキミに嫉妬していたよ。椎名真希と幼馴染である笠井修二君。キミの事をね」
 
「それは、随分とお門違いも甚だしいけどな」
 
逆恨みも激しいというところだ。
世良の執着心は、あの御影島での行動と喋りからしても常軌を逸している。
そんな奴と同じクラスにいたこと自体、気が知れないのだが、修二は世良のことを今でも許せなかった。
ほとんどのクラスメイト達を死に追いやり、果てはそれを実験という非人道的な名目で行ったというのはふざけた行為だ。
 
「世良とは、それだけの付き合いだ。君のことも、ほんの少ししか聞いていないしね」
 
「……そうか」
 
そう締めくくったクラウスに、修二は未だに対抗策を見つけ出せないでいた。
クラウスが言っていた暗器武器、それはあの飛ばしてくる針であり、その原理も未だに分かっていない。
推測するならば、一度袖から針を出してきた事から、あの袖の中に何かを隠し持っているのだろうが、それが分かったところで対抗する術は思いつかない。
どうにかして、背中にあるサブマシンガンを手に取れればというところだが、クイックドロウの勝負になれば、手をこちらに向けるだけで射出できるクラウスに分がある。
つまり、現状はいかにしてボウガンのような武器を持つクラウスを無力化するか、もしくは逃げ切るかになる。
 
「なにか考えているな? もうお喋りはここまででいいだろう。まさか、何もせずに死ぬなんてことはあるまい」
 
「――――」
 
「正直なところ、ガッカリもしている。世良が死んだと聞いて、生き残りがキミだということも伝え聞いた時、心が躍ったのだがな。良い戦いができそうだと」
 
落胆した様子を見せながら、クラウスは右手を上げて、その五指を開けてこちらへと向ける。
その動作は、あの飛ばす針の攻撃態勢に入ったことと同義であった。
 
「逃げるだけ逃げるがいい。キミにはお似合いの結末だ」
 
その言葉を聞いたとき、修二の胸の中でなにかがつっかえるような感覚に陥った。
 
「――逃げる?」
 
その言葉だけは聞き逃せなかった。
修二は、実力が伴わない兵隊であることは自負している。
それでも、もう彼は決めていたのだ。
 
「そうだよ。逃げ続けるだけのキミにはお似合いだろう?」
 
隠密機動特殊部隊に入る時から既に決めていた。
全てを失い、たった一人の幼馴染ともう一度出会う為に頑張り、そして――、
 
「――るかよ」
 
「ん? なんか言ったか?」
 
今度こそ守ってみせると、自身に誓ったのだ。
 
「逃げるかよっ!! 俺はもう逃げない! 何があっても!」
 
修二の慟哭に、クラウスは笑みを浮かべる。
まるで、興味を失ったおもちゃに対して、新しい楽しみを見つけたかのように。
 
「だから、お前はここで必ず倒す!」
 
その瞬間が、戦闘再開の合図となった。
投稿遅れました…。次話本日19時に投稿します。
隠密機動特殊部隊は他の部隊とは違い、過激な任務が多いですが、主な活動は諜報活動が多いです。
情報を引き出すために、痛みを与える意味での尋問をするという公には出来ないリスキーなことまでやっています。
また、最初の段階では隠密機動特殊部隊は八人ぐらいの編成でプロットを練っていましたが、人数が多いのと複雑すぎる内容になりそうだったので今の人数に落ち着いた感じです。
 




