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Levelモルフ  作者: 太陽
第二章 『終わりへの序曲』
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第二章 第二十七話 『Highway battle』

 バイクのエンジン音が高らかに鳴り、車のいない高速道路を駆け抜ける一人の男がいた。

 法定速度すら無視したその速度を、誰も咎める者はどこにもいない。

 いや、もはや取り締められることはなかっただろう。

 警察も、今は緊急事態の中で奔走している身だ。速度違反など今となっては優先順位の蚊帳の外である。


「ちっ、遅くなっちまった」


 ヘルメットすら被らずにそう忌ましめに呟いたのは、両の腰に帯剣した男、桐生であった。

 もう既に夜は更けており、風間から託された任務もかなり遅れが出てしまっていた。


「まさか、あのタイミングでモルフの群勢と戦うことになるとはな」


 風間との電話の後、桐生はすぐにでも乗り物を探してアリスと合流し、椎名真希が拐われたとされる敵のアジトへと向かおうとしていた。

 だが、あの後すぐにモルフの大群が押し寄せてきて、桐生は戦闘を余儀なくされてしまったのだ。

 御影島とは違い、感染段階が高いモルフも中にはいた為、掃討するまでにここまで時間がかかってしまったことが桐生の遅れてしまった原因だったが、むしろ早い方だったとも言える。

 桐生でなければ、もはや救出作戦に関わることもできずにモルフに殺されるか、あの街から身動きが取れなくなるかのどちらかだからだ。


「アリスに全部終わらせられる可能性もあるが、それでも念には念を、か」


 すっかり辺りは暗くなってしまったが、桐生は落ち着いていた。

 たとえ桐生が遅れようとも、アリスがいればどうにかなると、それほどに彼女のことを信頼していたのだ。

 彼女の身体能力は、武装した人間が相手でも圧倒できるほどだった。

 それを知っているからこそ、相手が誰であろうと椎名真希を救出するのは時間の問題であることは桐生には分かっていた。


 車一つ無い高速道路の道を、桐生は一人駆け抜けていく。

 事態が発生したすぐに高速道路は全封鎖となり、誰も通ることができなくなっていた。

 桐生はそこで強行突破を図り、本来は通れない高速道路の上を走っていたのだ。

 目的地までの短縮ルートでもある為、桐生としては都合が良かった。


「ん?」


 そうして高速道路の上をバイクで走る中、視界の中に何かが捉えられる。

 直線の道の遥か先、道路の上に一人、直立不動で立っている人間がいたからだ。

 現状出せる最高時速で駆け抜けていたので、その人間との距離はぐんぐんと縮まっていき――


 お互いの視線が交錯した瞬間、道路に立っていた男が銃を取り出し、桐生へと向けた。


「――――っ!」


 たまらず、桐生はハンドルを曲げ、バイクが大きく傾いて地面の上を擦りながら落ちていく。

 そして、道路に立っていた男の近くにあった車の一台へとぶつかり、漏れていたガソリンに引火して炎上が起こった。


△▼△▼△▼


「よーっし! これで三十三人目だな」


 陽気にそんなことを口走る男が、炎上する車とバイクを見ながら、いい笑顔でそう言った。

 目つきが悪そうな顔をしたその男は、ジロジロとその炎上跡を見て、


「うーん、生きてねえかぁ。女がいたら遊んでやったのになぁ」


 遠い目をしながら、残念そうに男はそう呟く。

 彼の周囲には、おびただしい数の乗用車が道を塞ぐようにあった。

 そのほとんどは転倒しており、彼がやったように見せ付けるかのようだった。


「それにしても、まだ一人もここを抜けられねえんだもんなぁ。ほんと、日本人ってのは期待外れだなぁ。っても、通り抜けられても困るんだけど」


 真ん中だけ通れるようにしていたのは、彼なりの遊びのつもりでもあった。

 通行止めとなった高速道路だが、それでも違反してでも通り抜けようとする輩は、彼の周囲にある乗用車が証明するように、度々いた。

 その都度、彼は食い止めるようにして、乗用車を破壊し、中にいた人間でさえも殺してきたのだが、彼にとっては些細な事だ。


「まあ、いいか。俺としては十分に楽しんでいるしなぁ」


 ケラケラと笑いながら、その男は再び、新たな侵入者を排除する為に待ち構えようとする。

 しかし――、


「ん?」


 炎上するバイクとは別の方向、大型トラックの上に誰かが立っていた。

 その男は、先ほどバイクに乗っていた者であり、それを視界に入れた瞬間、その男は腰に帯びた剣を抜き、こちらへと斬りかかってきた。


「おいおい、マジかよ!」


 たまらず、左手に持っていた銃の形状をしたそれの引き金を引いて、ワイヤーのようなものが射出する。ワイヤーの先端に取り付けられた鉤詰めが、転倒した乗用車の側面に刺さり、巻き取るようにして男はその乗用車へと引き寄せられた。


△▼△▼△▼


 紙一重のタイミングで避けられたことに、桐生は舌打ちした。

 奇妙な武器を使用していることもそうだが、始めにこちらへと向けた銃を見ても、この男がただの一般人ではないことは明らかだった。


「――何者だ?」


 一本の剣を携えながら、桐生は乗用車の側面に張り付いた男に尋ねる。

 その男は、目つきの悪そうなその顔を歪ませながら、桐生の顔を見て、


「こっちの台詞だ。お前こそ何者なんだぁ? この日本にはまだ武士がいるのかよ。いきなりビックリしたじゃねえか」


「……無駄口に付き合う気はない。答える気がないなら、この場で斬り捨てるだけだ」


「おー、怖いなぁ。いいぜ、ノッてやるよ。俺の名はエンリケ。お前達のようなはみ出し者を排除する為にここに配置されたってわけ。どうせ死ぬんだから教えてやるが、『フォルス』って聞いた事がないか? 俺はそこの組織の一人なんだよ」


 軽々しくそう説明するエンリケという男は、自らの素性を語った。

 見た目からしても、外国人であることは分かっていたが、桐生が訝しんでいたのはそこではなかった。


「……『フォルス』だと?」


 短く応対して、桐生は男の言葉を反芻する。

 初めて聞くような組織の名称ではないことは、桐生は理解していた。

 『フォルス』とは、世界中に拠点があるとされる、多くの国からも指名手配がかけられるほどの極悪なマフィアの名称である。


「おっ、知ってるのか? ようやく関係者らしき奴と出会えたなぁ。お前、この国の要人とかと関わりがあるんじゃないのか?」


「答える義理はないが、もう分かっているんだろ?」


「ははは! そうだな。わかってるさぁ。となると、今、お前が来た方向は大惨事になっているわけだが、どうしてそれなのにこっちに来たんだ?」


 当たり前の疑問を、エンリケは桐生へと投げかけた。

 それを悟られるわけにはいかなかったが、もう手遅れだった。


「――お前、この先にいる女に用があるんじゃないのか?」


 続けるように尋ねてきたその瞬間、桐生は問答無用で動き出し、エンリケへと斬りかかろうとする。


「っ!? はっやぁ!」


 走り始めから既に最高速を超えた動きで、長かった間合いを一瞬で詰めにきた桐生に対し、エンリケは再び、ワイヤー銃を別の方向に向けて射出。ギリギリのところで、桐生の剣閃をかわした。


「お前、なんなんだぁ? どう見ても人間の動きじゃねえぞぉ」


 憎たらしげにそう言って、桐生の剣が届かない位置についたエンリケは、桐生の理不尽な動きに言及する。

 未だ攻撃手段を見せようとしないエンリケを追い縋ろうとはせず、桐生は涼しい顔でエンリケを見上げる。


「時間がない。さっさとケリをつけたいんだが」


「はっ! だったら、もっと遊んでやるよぉ! 俺の武器がこのワイヤー銃だけだと思ってんのかぁ!? だったら、お花畑が過ぎるぜ!」


「……興味ない」


 話していても無意味と悟った桐生は、その場で一歩踏み込む。

 全体重を乗せたその一歩から、次の一歩が繰り出される瞬間、桐生は真っ直ぐにエンリケのいる乗用車へと駆け出す。

 驚異的なスピードではあるが、今、エンリケがいるのは山積みになった乗用車の頂点にいる。登ってエンリケを追い詰めようにも、その間にワイヤー銃で逃げられるのがオチだった。

 だが――、


「ふんっ!」


 再び大きく踏み込み、桐生はその勢いで乗用車へと飛び移る。

 スピードを殺さずに近づく桐生を見たエンリケは、唇を噛んで、


「クソッ! 忍者かよてめえはぁ!!」


 ワイヤー銃を左手に見えるトラックへと向けたエンリケは、すぐにでも退避しようとアンカーを射出する。そうして、その場から引き寄せられるように体が動いた瞬間――、


「終わりだ」


 ワイヤー銃の射出方向を見ていた桐生は、エンリケの体が動いた瞬間に空中へと飛ぶ。

 そして、その飛んだ方向はエンリケが引き寄せられる道のりだった。


「なっ!?」


「自分の武器の弱点ぐらい、ちゃんと調べてこい。馬鹿が」


 ちょうど、接点になる瞬間に、桐生は横薙ぎに剣を振るって、エンリケの体が両断されようとした。

 しかし――、


「くそったれがぁ!!」


 危険を察知したエンリケは、ワイヤー銃を放棄して、本来の重力に逆らうことなく地上へと落ちる。

 それが、桐生の剣閃をギリギリ避ける形となって、助かる形となった。

 しかし、エンリケは受身の体勢すら取れなかったため、そのまま右肩から地面に落ちてしまう。


「ぐおああああああ!!」


 痛みに悶絶しながら、エンリケは必死に右肩を抑える。

 対して、桐生は着地すらも平然とこなし、すぐさまエンリケのいる方へと振り向いた。


「ま、待て待て待て! 来るなぁ!!」


「もうお前と遊んでいる時間はない。さっさと死ね」


「わ、分かった!! 話す! お前が知りたいことなら何でも話すから!!」


 急に態度を変えて、命乞いをし始めたエンリケに桐生は足を止めた。


「なら、この事件の首謀者は誰だ。『フォルス』がモルフのウイルスをばら撒いたのか? そのウイルスは……誰から提供された?」


 最後だけは強い語気を立てて、桐生はエンリケへと問いを重ねた。

 殺気が一段と増した桐生を見て、エンリケは額に汗が伝いながら、ゆっくりと話し始めた。


「首謀者は……俺たちのリーダーだ。『フォルス』を束ねている奴で、アベルっていう。ウイルスに感染した人間を放ったのに間違いはないが、実際は俺たちとは違う組織の奴らだ。一度だけ会ったことはあるが……」


「そいつは誰だ? 銀髪の男か?」


 返答に問いを重ねて、桐生は強く尋ねる。


「? いや、そんな男ではない。年老いた男だが、多分、あのウイルスを研究している研究員か何かだと思う。俺も、あまりよく知らないんだ……」


「知らないだと? ここまでのことをして、仲間の素性を知らないのは無理があるだろ」


「ほ、本当だ! 俺たちはあくまで下請けみたいなもんで、奴らの素性も何も全く知らないんだよ!」


 一歩一歩近づく桐生に怯えながら、エンリケは桐生の問いに答える。

 だが、それさえも嘘くさいと感じていた桐生は、少しでも情報を聞き出そうとする。


「お前に一つ問うことがある。それだけでいい。それだけ話せば、命だけは助けてやる」


「な、なんだ?」


 桐生は持っていた剣を下げて、力を抜いた。

 問いは、この状況とは関係があって、ないものでもあった。

 意味のない質問かもしれないが、それでも桐生が知らないといけないことでもある。


「お前は――」


「馬鹿がぁ! ようやく隙を見せたな!」


 直後、エンリケは後ろに回していた手から拳銃を取り出し、桐生へと向けて引き金を引いた。

 発砲音が鳴り、至近距離まで近付いていた桐生に避ける術はないと、エンリケは確信していたのだろう。

 だが、その確信は一瞬で粉々に打ちひしがれた。


「な、ぁ!?」


 至近距離で放った銃弾を、桐生は体を曲げて避けたのだ。

 その時点でエンリケは、この男が自分だけでなく、『フォルス』という組織全体の脅威になることを改めて認識する。


「く、そっ! 死ね、死ねぇ!」


 三発程、発砲したエンリケに対し、桐生は後退してこれを軽々と避ける。

 まるで、銃弾の軌道でも見えているかのように、無駄な動きがなく避けていたのだ。

 もはや、人間の動きを超越した存在を目の当たりにして、エンリケはそこで初めて恐怖の感情に塗りつぶされる。


「ば、化け物がぁ……」


 震える手で拳銃を握り締めながらも、それが当たらないことはもう理解していた。

 それでも、銃口を桐生に向けるのは、恐怖を押し殺そうという意思ゆえのものだった。


「――もう一度聞こうか」


 ただ一言、そう言って桐生はエンリケの顔を見る。

 ここから約十メートル程の間合いだ。

 遠距離武器を持つエンリケの方が有利であるにも関わらず、桐生の方が圧倒的に有利という矛盾を抱えた状況であった。

 そして、その状況に恐怖していたエンリケの顔を見た桐生は、一つだけ聞いた。


「お前は、いや、お前達は御影島にウイルスをばら撒き、実験を起こした奴らか?」


「は? し、知らない。なんだよ、それ?」


「……なら、分かりやすく話してやる。――お前は、御影島で俺の部下を殺した連中の一味じゃないのか?」


 殺気が漏れ出し、桐生はその瞬間、今までとは比にならないスピードでエンリケへと詰め寄り、その剣で真上へと斬り上げた。

 そして、拳銃を持っていたエンリケの腕が斬り飛ばされる。


「あ、ぎゃぁぁぁおぁぁぁぁぁぁっっ!」


 想像を絶するような痛みが、エンリケへと襲いかかる。

 尋常ではない量の血が切断部分から流れ出し、先ほどまで立っていた地面は血で埋められていた。

 桐生は、苦しむエンリケを気にするまでもなく、その短い髪を掴み、顔を無理矢理上げさせると、


「お前が、俺の部下を殺したんじゃないのか? それとも、お前はその元凶を知っているんじゃないのか? 死ぬ前までに死に物狂いで思い出してみろ。それを話せば、楽に殺してやる」


「――っ」


 エンリケは、自身が狂人である自覚があった。

 だが、今目の前にいる男は、自分が可愛くみえるほど遥かに度を越した狂人だ。


 息が荒くなり、エンリケは存在しない記憶を辿る。

 たとえ意味のない行為だとしても、これ以上生き永らえたくなかった。

 このまま、この男が納得する答えを話さなければ、自分はこれから、死ぬよりも辛い生き地獄を味合わされると直感で感じていたのだ。


「し、知らない……たの、む。殺して、くれ……」


 息も絶え絶えな状態で、エンリケは懇願する。

 それが真実であることは、拷問する側である桐生ももう分かっていた。

 たとえ話したとしても、桐生はこのような状態にまで追い込むつもりではあった。

 この男はここで、幾人もの一般人を殺してきたのだ。

 周囲にある乗用車から見ても、それは明らかであり、焦げ臭い匂いの中に、焼死体に似た匂いがすることも、ここに着いた時から桐生は気づいていた。


 だから、桐生はエンリケを許さない。

 ただ殺すだけでは意味がないと考えていた桐生は、もうすぐ死ぬであろうエンリケへと止めを刺そうと、剣を振り上げる。


「最後に聞く。お前はリアムという男の名を知っているか?」


 目を細めながら、桐生は虫の息同然のエンリケに尋ねる。

 桐生としても、情報が欲しいという手前あってのものを自覚してか、先ほどまでの殺気を最大限に抑えて、刺激しないように配慮しながらではあったが、当のエンリケはもはや抵抗する余地はなさそうではあった。


「しら……ない。聞いたことも、ない……」


「――そうか」


 その言葉を聞いた最後、桐生は剣を振り下げ、エンリケの首を一刀両断するように綺麗に切断した。

 力なくしたエンリケは、それを最後に地面に横たわり、完全に動かなくなる。


 本当のところは、生捕にして捕らえる必要があったわけであるが、あまりにもやりすぎてしまったこともあり、楽に死なせる方法を取るしかなくなってしまった。

 あの状態では生捕にしようとも、いずれ出血多量で死ぬのが見えていた。

 感情的になった桐生に原因があったのだが、桐生としては今得られた情報で十分なものと判断したこともあって、その行動に踏み切ったのだ。


「さて、乗り物を失ったのが痛いな」


 血のついた剣を持ち合わせの布で拭きながら、辺りを見回す。

 だが、桐生の乗っていたバイクは炎上しており、使い物にはなりそうにはない。

 他の乗用車も、そのほとんどは転倒したり壊されたりしている為に、使いまわせそうにはなかった。


 一度、高速道路から降りて探すしかないと考えていた桐生は、そこで違和感を感じ取った。

 それは、桐生の真上、真っ暗になっていた夜空だ。

 その夜空から、重低音の大きい音が近づいてきていることに、その時気づいた。

 そして、その音が大きくなり、桐生の真上を通過した瞬間、音は遠ざかった。


「あれは、戦闘機?」


 桐生が視界に捉えられた戦闘機は、真っ直ぐにモルフの蔓延る渋谷の方向へと向かっていた。


「あの野郎、どういうつもりだ」


 作戦に聞いていない、まるで予定外の状況に、桐生は任務を言い渡した風間に恨み節を叩く。

 そして、タイミングを見計らったように、桐生の携帯に電話が鳴った。

 即座に携帯を取って、それを耳に当てた桐生は、


「良いタイミングだな。おい、これはどういうつもりだ?」


『桐生、話は後だ。今すぐ渋谷へと引き返せ』


 電話から聞こえる風間の声に、桐生は苛立たしげに眉を潜める。


「引き返すだと? なんの冗談だ? なら、俺のここまでの行動は――」


 無駄だった。そう言おうとした桐生だったが、それに被せるように、風間は、


『渋谷区に、想定していなかった化け物が現れた。あれをあのままにすれば、この日本は完全に滅ぶ』


「……なるほどな」


 戦闘機が向かっていった理由はよく分かった。

 だが、それでも風間の焦りように納得はいっていない。

 いくら桐生が人外染みた能力を持っていても、それはあくまで白兵戦に限った話だ。

 戦闘機のような空から圧倒的な火力で攻撃を仕掛けるものからすれば、地上にあるものは全て焦土と化せるほどに強力な兵器だ。

 そんなものがあるのに対して、どうして桐生を戻そうとするのか、その根拠が見えてこなかったのだ。


「俺を行かせる理由は何だ? 今、空を戦闘機が飛んでいってたぞ。必要ないのじゃないか?」


『……あれは俺の指示じゃない。俺より上の総括をしている陸幕長の指示だ。だが、あれは戦闘機を連れて行っても無意味なんだ』


「……説明しろ」


 要領を得ない返答を聞かされて、桐生は詳細を風間に尋ねた。

 風間の言い方は、まるで戦闘機では意味がなく、桐生でないと意味がないように聞こえたのだ。


『動きながら話せ。とにかく、お前は渋谷へと引き返すんだ』


「椎名真希はどうする?」


『彼女はアリスに任せる。幸い、笠井修二も同行しているわけだから、彼らを信じるしかないだろう』


「……了解だ」


 完全に納得できたわけではないが、風間の指示に従おうと、桐生は辺りを見回す。

 そして、エンリケが使用していたワイヤー銃を見つけ、そこに一台だけ無事なバイクを見つける。


「すぐに向かう。道中で構わん。状況を説明しろ」


 剣を納刀し、桐生は移動を開始する。

 そして、日本が誇る人類最高戦力が、再び渋谷という戦場へと戻ろうとしていた。




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