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Levelモルフ  作者: 太陽
第二章 『終わりへの序曲』
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第二章 第二十四話 『暗闇の攻防』

「――いたわね」


 琴音がそう言った時、出水もその姿を視認できていた。

 琴音の言った通り、たしかにそこには二体のモルフがいた。

 どれも『レベル3モルフ』以下の感染段階であり、『レベル1モルフ』か『レベル2モルフ』のどちらかだろう。

 これが『レベル3モルフ』であれば、琴音を戦わせるには厳しくなっていたわけであり、そうでなかったことは都合は良かった。


「こちらの存在に気づかれる前に仕掛けるぞ。動かれると照準が狂うからな。俺が合図を出す。いいな?」


「わかった」


 短く返事をした琴音に、出水もタイミングを見計らう。

 モルフは片方がこちらを向いていて、片方が後ろを向いているような状態だ。ライトをつけていても、こちらの存在に気づいていなかったのは幸いであった。

 なぜかは分からないが、モルフ達は二人とも目が潰れていたのだ。

 自前の再生能力が働いていないのは、恐らく感染段階が低いからだろう。

 これが『レベル4モルフ』であれば、体感でしか推測できないが、切り傷程度なら二分あれば再生するという予測である。


 だが、目が無くても、耳は良いというのがモルフの厄介な点だ。小さな物音でさえも、奴らはすぐに気づくことができるので、迂闊に足音を出せば、すぐにでも奴らはこちらへと襲いかかりにくるだろう。


「両方とも、向こうを向いた時が勝負だ」


 一番良い形は、二体共がこちらを向かずにいることだ。

 ほんの僅かなラグでしかないが、振り向いて走ってくるのと、そのままこちらへと向かって走ってくるのとでは全然違う。

 その僅かな差を作るために、出水はモルフの動きを見続けていた。


 そして、その時はすぐにでもやってくる。

 空洞の中をウロウロとしていたモルフは、二体が背中を見せて、出水はその瞬間に――、


「今だ、撃て!」


 合図と共に発砲を開始し、二人の持つ拳銃から銃弾が飛ぶ。

 出来る限り弾数を節約したいこともあったので、十分に狙いを合わせた上で、出水は一体のモルフの頭を撃ち抜く。

 この暗闇の中でライトだけが頼りの中、上手く当てることができたことにホッとした出水は、すぐさまもう一体のモルフへと銃口を向ける。


 琴音の撃った弾は当たっていなかった。

 それも仕方のない話だ。

 琴音は銃を撃った経験は皆無であり、ましてや、当てることなど出水ですら初めは苦労したものだった。

 すぐにもう一体のモルフへと銃口を向けて、撃とうとしたが、その直後、


「――なるほど、こういうことね」


 一言、そう言って、琴音は発砲する。

 琴音の撃った銃弾は、見事にモルフの頭部へと当たって、撃たれたモルフは力なく地面へと倒れる。

 思わず呆気に取られた出水は、驚いた様子でその状況を見ていた。


「何してるの? 早くいくよ」


「い、いや、今の狙ったのか?」


「? そうよ。一発撃ってみてどんな感じか理解できたから、すぐに修正しただけ。簡単じゃない」


 とんでもない学習能力の高さとセンスを見て、出水は開いた口が塞がらなかった。

 最初の一発目の発砲以降、二発目をすぐに撃たなかったのは、確実に当てる為の修正期間だったということだ。

 それにしても、発砲の反動と照準を合わせられたというのは簡単な話ではないのだが。


「修二みたいな才能の持ち主ってことか……」


「誰よそいつ? さっさと行かないと、またあの地震が起きるかもしれないんだけど」


「ああ、悪い。行こう」


 琴音に急かされて、出水達はモルフの死体を乗り越えて先に進む。


 弾を三発のみの使用で最小限に抑えられたことは、大いにすばらしいことだと思う。

 しかし、いくら銃の扱いに関して琴音に才能があろうと、戦闘に参加させるのは本音では反対ではあった。

 状況が状況ということで割り切ってはいるが、もしも清水や神田と合流することができれば、なんとかして琴音からは武器を取り上げるつもりではあったのだ。

 そんなことを考えながらも、出水は空洞の中を先に進んでいく。

 後ろにいる琴音が、出水の背中をジッと見つめている事に気づかずに――。


△ ▼△▼△▼


 それから、道を真っ直ぐと歩き続けて、少しずつではあるが広い道に出てきていた。

 地面や壁も今までのような砂ではなく、コンクリートのようなものとなっており、出口が近いのかもしれなかった。


「風は……きてないんだけどな」


 映画でもよく見る、洞窟の出口を知るために指先を舌で湿らせて風を探る手段を用いてみたが、そのような感覚はまるで感じなかった。

 そもそも、密室空間である可能性が高いので意味が為すものとは思えなかったのだが、やれることは何でも試していきたいと考えていたのだ。

 進んでいくごとに、とりあえずはここが地下実験施設の中であることは疑いようがない事実ではある。


「今のところ、怪物の気配は感じない。確実ではないけどね」


 琴音が、耳を澄ましながら出水へとそう報告した。

 琴音には索敵をお願いしており、できる限りの戦闘を避けようと二人で決めていた。

 実際、琴音の索敵は見事に的中しており、ここに来るまでに三回程、戦闘を回避することができていた。

 なぜ、琴音にそんな力があるのかは分かりようもないことだが、役立っていることは事実であり、出水一人ならばこうはならなったであろう。


「ここまで来たからにはそろそろ明かりの一つ二つあってもいいんだけどな」


「とやかく言っても仕方ないわ。ただ、この先に上に上がる道があったはずよ」


「よく覚えてたよな。それにしてもなんだけど、琴音はモルフのこと知っていたんだな」


 聞いていなかったことだが、琴音はモルフの存在を何故か知っている。

 それは実際に目で見てきたからだろうが、どこで見たのかは気になるところであった。


「……私が牢に囚われていた時にね。新しく囚われた男達がいたの。刺青とかが入ってた顔が厳ついおっさん達だったわ。彼らはあの怪物達と同じように既におかしくなってた状態だったのよ」


「……」


 それを聞いて、誰のことを言っているのか、大体は想像はつく。

 おそらく、榊原と一緒に連れてこられたヤクザの一員だろう。

 彼らはモルフのウイルスを撃ち込まれて、全員がモルフ化したと榊原からは聞いている。

 それが、琴音が見たとされるモルフ達と見て間違いないはずだ。


「私がそうなっていないのはたまたまなのか、故意なのかどうかはもう分からないのだけどね」


「大丈夫だ。もし、奴らと同じようにされているなら、今頃はもう手遅れになっているはずだからな」


 そう、琴音が感染しているはずはない。

 噂に聞く『レベル5モルフ』ならまだしもというところではあるが、それならば地下のこんな奥深くに幽閉しっ放しであることはおかしな話である。

 連中ならば、その研究の為に是が日でも丁重に扱うはずだからだ。

 しかし、だからといって琴音に何もせず、ただ幽閉していることも違和感ではあった。


「何か別の実験に使おうとしてた可能性はあるけどな」


「あまり、聞きたくはないね。……ん?」


 立ち止まり、琴音は耳を澄ました。

 モルフの気配を感じ取ったのだろうと思っていた出水は、その間に装備を確認しようと行動に移そうとすると、


「まずいわ。とんでもない数がこっちに向かってきてる。かなり速い!」


「嘘だろ……」


 その凶報を聞いて、引き返すか、戦うかを逡巡していたが、事態はすぐに動いた。

 この道は、遠い先がカーブを描くように曲がっている。

 目視で確認できるところはその壁となっていたのだが、ライトを向けた先の壁に違和感を感じた。

 人影のような何かが多数、壁に映し出されていたのだ。

 その人影は、駆ける勢いでこちらへ向かってきていることに、さしもの出水でもすぐに気づく。


「おいおい、悪夢かよ」


「言ってる場合? どうするのよ」


 あの様子では、向こうは出水達の存在に気づいているはずだ。

 となれば、逃げの選択肢をとっても、いずれは追いつかれてしまう。


「やるしか……ないっ!」


 モルフの姿が視認できた瞬間、出水は持っていた拳銃を直し、サブマシンガンへと持ち替える。

 多勢の場合、連射性のある武器でなければ、対処しきれないからだ。

 琴音も倒す方向性で判断し、既に拳銃を構えていた。


「できる限り近づいてきた奴を撃ってくれ! 俺は遠い奴らをやる!」


「わかったわ」


 返事を聞いた瞬間に、出水は発砲を開始していた。

 響く発砲音と共に、遠くにいるモルフ達が次々と倒れていく。続々と後ろから押し寄せる形となっているが、この際、止めを刺すよりも足を止めることの方が重要だ。

 走るモルフを撃っていきながら、撃ちもらしである一体のモルフがこちらへと近づいてきていた。


「琴音! いけるか!?」


「ちょっと黙ってて! 狙いが狂うから!」


 言い合いながら、走るモルフへと琴音が拳銃を発砲。頭部を撃ちぬいて事なきをえる。

 しかし、そうしてカバーをしていっても限界がきていた。

 どんどんとこちらへと近づくモルフが溢れかえって、出水も琴音もどうしようもなく感じてきていたのだ。


「クソッ! このままじゃ!」


 愚痴っていても、状況は変わらないことは頭の中では分かってはいた。

 それでも、これ以上にやれる方法が他になかったのだ。

 弾数にしても、もう限界が近いところまできている。


 だが、弾数の限界よりも早く、モルフがこちらへと迫る方が早かった。

 一体のモルフが、少し前へと出ていた琴音の方へと迫ってきていたのだ。


「琴音! 下がれ!」


 指示を出すも、もう間に合わなかった。

 すぐそこまで来ていたモルフに対し、琴音は下がることはおろか、照準を合わせることもできない。


「クソッ! やめろぉぉぉ!」


 出水がカバーに入ろうとしたのと、琴音へとモルフが襲い掛かろうとするその同時だった。


 ――モルフは琴音へと襲い掛からず、素通りして、出水へと迫ってきたのだ。


「――は?」


 訳がわからず、出水はそれでもこちらへと近づくモルフへと発砲する。

 なんとか倒すことはできたが、それでも後方から更に近づいてくる。

 そうして、何体ものモルフがこちらへと近づくも、琴音のことは気にかけない様子で、出水だけを狙ってきていた。


「――っ! どういう、ことだよ!」


 意味が分からなかったが、とにかく琴音が無事であるならば、出水はここに留まる必要はない。

 全速力で後退しながら、近づくモルフへと発砲し、数を減らしていく。

 残り五体となったモルフを見て、出水はなんとか倒せそうだと考えていた。

 だが、引き金を引いた時、銃弾が飛ぶことはなかった。

 土壇場すぎて気づかなかったが、弾切れになったのだ。


「こんな時に弾切れかよっ!」


 運命を呪いたくなるほど、最悪すぎる状況であった。

 たまらず走るしかなかった出水は、なりふり構わず逃げようとすると、


「諦めんなや、出水!!」


 関西弁の男の声が聞こえ、追いかけてきていたモルフの二体が、頭部を撃ちぬかれて倒れていた。

 ちょうど分かれ道になったもう一つの道から、清水が発砲したのだ。


「清水! 生きてたか!」


「勝手に殺すなや! そんなん言ってる場合ちゃうで! 受け取れ!」


 清水が投げ渡した拳銃を受け取り、出水はすかさず迫るモルフへと発砲を開始する。

 後退しながら撃つのはかなり厳しかったが、清水が二体を倒してくれたおかげで、なんとか掃討することができた。

 ようやく安全を確保できたことに出水は安心して、膝が笑い、地面に膝をつく。

 それを見ていた清水は、焦ったように出水へと近づいて、


「お、おい! 大丈夫なんか!?」


「ああ、大丈夫。噛まれてないから無問題だよ。ちょっと……今回はさすがに死を覚悟したからな」


「まあ、さすがにあれは危機一髪やったな。神田はどうしたんや?」


「まだ……見ていない。ここでお前と遭遇したのが初だよ」


「その割にはでかい声で誰かと話してたように見えたけど」


「ああ、それは……」と、説明しようとライトを来た道へと映し出そうとすると、


「その人誰?」


 突然、目の前に現れた琴音が指を指して聞いてきていた。


「び、びっくりした!! 誰やあんた?」


 驚く清水に、出水も同じように驚いていた。

 ライトを向けた瞬間に目の前にいたのだ。

 モルフじゃないから安心したが、心臓に悪い。


「あ、ああ。説明するよ。こっちが俺がいる特殊部隊のメンバーの清水。で、こっちはこの地下で幽閉されていた八雲琴音だ。生存者だから、丁重に扱ってくれ」


 お互いの顔を見ながら、出水は互いの素性を説明していく。

 話したいことはお互いたくさんあるが、まずが現状の確認が先だろう。


「で、清水。お前は向こうからやってきたけど、一人で来たのか?」


「ん、せやで。神田も出水もおらんかったしな。ライトも壊れてもうたから何も見えんし、ぶっちゃけめっちゃ怖かったわ」


 どうやら、出水と同じように別の場所へと落ちていたようだ。

 神田がいないことを見るに、彼も別の場所にいると見て間違いないはずだ。

 とりあえずは生存を確認できたことに安心だが、問題はもう一つある。


「琴音、聞きたいことがあるんだけどさ」


「……それは私もだよ」


 考えている事は同じだろう。

 先ほどの戦闘で起きたことを、そのままそっくり聞こうとしたが。


「し、下の名前呼びやと……」


 なぜか、清水がわなわなとした様子でこちらを睨んできている。

 面倒くさいと思った出水は、ため息をついて、


「……なんやねん」


「なんやねんちゃうわ! イントネーションおかしいしな! なんでそんな親しい間柄みたいになっとんねんや。出水も修二も神田も、お前ら女繋がり多すぎやろ!」


 神田はないだろ……と思っていたが、おそらく妹の静蘭のことを言っているのだろう。

 そもそも、琴音呼びは成り行きみたいなものなのだが、それを説明するのも面倒だし、っていうか本当に面倒くさい。


「なにこいつ。めんどくさ」


「ぐはっ!」


 突然の毒を琴音が吐いて、清水は精神的ダメージを受けるように倒れる。

 まあ、出水の言いたいことを代弁してくれたので、こっちとしても助かっていた。

 清水にはご愁傷様だが、今はそれよりも琴音に聞かなければいけないことがある。


「琴音、さっきモルフがお前を素通りした件についてなんだけど……あれって何か知ってるか?」


「……分からないわ。私も何が何だか……」


 先ほどの戦闘で、モルフは琴音へと襲いかからずに出水へと向かってきていた。

 一体だけならば、たまたま琴音のことを知覚していなかったという点で納得はできたが、何体ものモルフが同じように琴音を素通りしたのだ。

 あの現象は、出水としても無視できる問題ではない。


「……モルフが襲うのは生きた人間。襲いかからないのは同じ感染した人間だけだ。でも、琴音は感染していないはず……」


 矛盾が発生している現象だ。

 その場合、琴音は『レベル5モルフ』であることになるのだが、彼女は組織から放ったらかしにされていた。

 普通に考えれば、モルフのウイルスを体内に入れられて、生きていたならば無視できる問題ではないはずなのだ。

 ならば、琴音が『レベル5モルフ』である可能性は低い。

 しかし、逆に高いとも言えるこの状況を説明できる根拠もない。


「どうなってるんだよ……」


「今は分からないけど、先に進めば分かるかもしれないよ。ここでジッとしてる方が危ない気がするけど?」


「……不安じゃないのか?」


 それは、聞いてはいけない質問だろう。

 自分が怪物かもしれないというそのような不安感を与えることは、出水の立場からすればしてはいけないことだ。

 とっさにそのことを聞いたことを後悔した出水だが、琴音はそれでも涼しげな顔をして、


「今ここでウジウジしてても、何も答えは出ないでしょ? なら、なんであろうと先に進んで答えを得にいくしかないじゃない」


「……」


 前向き、というよりかなり類稀なほどポジティブ思考だった。

 普通は、少しぐらい不安になっていてもおかしくはないのに、琴音は微塵もそれを表に出さずに前に進もうとそう言っているのだ。


「そう……だな。お前の言う通りだよ」


「さっ、早く行くよ。あっ、それと拳銃、弾切れになったから弾入れといてよ」


 ポンっと琴音に取られていた拳銃を渡されて、リロードしとけと命令された。

 そのまま彼女は先に進んでいったが、出水はそれを見て「ふっ」と笑い、倒れている清水へと目をやった。


「おい、行くぞ。いつまでしょぼくれてんだ。琴音の方が男気あるぞ、おい」


「おんな……こわい……」


 片言で何か言っているが、面倒なので出水は清水が持っていた銃弾のストックを拝借して、先に行こうとする。


「置いてくぞー、女性恐怖症もほどほどにな」


「ま、待ってくれや! てか勝手に弾持っていくなよ! あと誰が女性恐怖症やねん!」


 先に進む二人を追いかけようと、清水は立ち上がり、後を追った。



明日から五日間の出張遠征があるため、事前に三話分、ストックした分を予約投稿で投稿します。

予定では、今から六時間後の14日1時頃に次話。

15日19時頃に第二十六話。

16日19時頃に第二十七話。

18日19時頃に第二十八話で考えております。


以降の投稿については出張から帰ってきた後の投稿になります。

出来る限り、合間を離さないように投稿する予定です。

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