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Levelモルフ  作者: 太陽
第二章 『終わりへの序曲』
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第二章 第二十二話 『短期決戦』

「神田! お前は前の一体を頼む! 清水は俺と一緒にもう一体を相手にするぞ!」


「「了解!」」


 指示を出して、出水は部屋の中央へと移動、清水もこちらへと近づく。

 神田は先に部屋に入ったモルフへ銃弾を撃ち込み、狙いを神田へと引きつけさせた。

 上手く分断させて、二体の『レベル4モルフ』はそれぞれ別々に相手をさせるようにすることができていた。


 ここまでは想定通りである。

 二体を分断したのは、同時に相手をするのが困難という理由からであり、乱戦になれば、モルフの毒牙にやられる可能性が高い為であった。


「それでも、厄介なことには変わりねえけどな!」


 『レベル4モルフ』は、これまで見てきたどのモルフから見ても、一番戦いずらい相手ではある。

 俊敏な動きはもとより、銃弾を受けても致命傷を避けていればすぐにも再生をするのだ。

 その再生力も、他の感染段階のモルフよりも遥かに早く、少々の傷ならばニ、三分あれば完治させるぐらいのものだ。

 故に出水達はこの戦い、長期戦を仕掛ける訳にはいかなかった。


「清水、短期決戦だ。俺がサポートするから、お前は奴に向けて銃弾を撃ち込め!」


「了解や! でも、ほんまにそれでいけるんか!?」


「問題ない! ビルの時とは条件がまるで違う! むしろ俺たちの方が有利なんだ!」


 出水がそう言っているのには理由があった。

 それは、清水が発砲したことで明らかになる。


「お、らぁ!!」


 銃弾を連射し、モルフは読んでいたように横へと飛び跳ねる。

 が、それは左右どちらかにしか飛べず、モルフは出水達から見て、右の方向へと飛び跳ねた。

 その着地点を読むように、出水は地に手足をついたモルフへと銃弾を撃ち込んだ。


「――ッ!」


 頭をこちらへ向けていたモルフは、一度動いた反動もあって、避けることもできずに銃弾を受けていく。

 手足にも当たったことにより、動きを鈍らせることに成功した出水は、そのまま弱点である頭へと照準を合わせた。


「やっぱりな。お前は狭い場所でしか、その能力を活かせないんだ」


「――――ッッ」


「ここには、お前の大好きな壁も天井も遥か遠い位置にある。仮に壁が近くとも、ここまで飛び込むことはできないし、お前の俊敏な動きは、着地点さえ読むことができれば脅威にはならない」


 一番始めに遭遇した『レベル4モルフ』は、その地形の性質も相まってか、銃弾の一発も当てることが困難であった。

 しかし、今は違う。

 広い地形で、壁や天井が遠い位置にあることで、『レベル4モルフ』が縦横無尽に飛び跳ねることができなくなっていたのだ。

 横にしか飛べないのであれば、照準は合わせやすく狙いも定まる。

 たとえ、こちらへ飛び向かってきたとしても、こちらは二人だ。避けたところを、もう片方が銃弾を撃ち込めば、それだけでモルフへとダメージを与えることができる。

 つまり、どうあっても出水達にとっては圧倒的に有利な状況となっていた。


『――ほう』


 拡声器から、イヴァンの感心するかのような声が聞こえる。

 大方、出水達が『レベル4モルフ』相手にどう動くかを見物しているのだろうが、今はそんなことを気にする必要はない。


「対処方法さえ分かれば、お前は『レベル3モルフ』よりも簡単に処理できる。それを悔しみながら、とっとと死んどけ!!」


 狙いが定まり、出水はよろめくモルフの頭部へと銃弾を撃ち込む。

 避けることも、頭を守ることもできないモルフは、その剥き出しの頭部へと銃弾が何発も撃ち込まれて、甲高い悲鳴を上げていく。

 清水も追い討ちを掛けるようにしてモルフへと銃弾を撃ち込み、その硬い頭部は見るも無惨なほどにぐちゃぐちゃに潰れていく。


「――やったか?」


 完全に失われた頭部を確認して、出水は発砲を止めた。

 もう完全に動かなくなったモルフは、ビルの時のように死んだフリをするかの如く、奇襲してくることはないだろう。

 あの時は完全に油断していたわけだが、あれは単純に頭部を破壊しきれていなかったことが原因であった。

 おそらく、頭部を少々傷ついたとしても、『レベル4モルフ』ならば、再生に手を回して復活させることが可能なのだろう。

 今回に限っては、完全に頭部を失ってしまったので、それもできないのだろう。再生している様子がまるでないのがその証拠だ。


「やったな、出水! こんな簡単に倒せるとは思わんかったで!」


「ああ、お前も追い討ちかけてくれて助かったよ」


 喜ぶ清水とハイタッチをして、脅威の対象であった『レベル4モルフ』を倒せたことを喜び、分かち合った。

 まだ、もう一体いることさえ忘れていたのだが、こうなればもう三体一で簡単に倒すことができるだろう。

 すぐにでも加勢に入ろうと、神田の方を確認すると、


「かん……だ?」


 仮にも一対一の状況。時間稼ぎの意味で神田に一体を任せていたのだが、出水の想定とは大きく離れていた状況がそこにあった。

 神田は一人で、『レベル4モルフ』を地に伏せさせていたのだ。

 手首の先が欠損したモルフは、その腹部と足に多量の銃弾を受けて、もがき苦しんでいた。

 まだ息があるところを見るに、止めを刺し切れていないのだろう。


「ははは……さすが神田だ」


「いや、これ俺ら必要ないやつやん。あいつどんな適応力してんねん」


 さすがの一言としか言えなかった。

 出水でさえも、『レベル4モルフ』を相手するには最低、二人以上はいないと厳しいと考えていた。

 それをたった一人で倒してしまうのだから、やはり神田は一人で戦わせる方が動きやすいのだろう。

 連携が苦手という点が、神田にとっての弱点でもあるのだが、部隊として見ればなんとも皮肉なものだった。


「神田、早くやっちまえよ」


「わかっている」


 神田は、もがき苦しむモルフへと銃口を向けた。

 モルフは再生を開始しているのか、撃たれた箇所の傷跡が徐々にだが回復しつつあった。

 あまり時間をかけすぎれば、また最初からやり合うことになり、弾の無駄遣いでもあるのですぐにでも止めを刺そうとした神田であったが、


 ふと、もがき苦しむモルフに変化があった。


『――おっと、ここでそうなるか』


 イヴァンが、出水達の状況を見た上で、一言だけそう言った。


「なんだ……?」


 取り合う必要はまるでなかったが、目の前にある変化に意識が向けざるをえなくなった。

 『レベル4モルフ』の体の一部、欠損していた手から腕の根本にかけて、突如膨張して膨れ上がったのだ。

 その瞬間、弾けるように爆発して、すぐ近くにいた神田はその衝撃から手で庇うように顔を背けた。

 それは出水達も同様で、目の前にいたモルフから目を逸らす形となった。


『どうやら、君達はこの形態を知らないようだね。さあ、第二ラウンドだ』


 イヴァンから聞こえる最悪の狼煙を聞いて、出水達は『レベル4モルフ』がいた場所を見る。


 そこには、歪な何かが立っていた。

 明らかに、先ほどもがき苦しんでいたモルフの姿とは少しだけ違っている。

 腕の部分はバットのような丸みを帯びた形状をした物体となり、その至る各所から鋭い棘のようなものが突き出ていた。


 例えるならばそれは、釘バットのようなものだった。

 棘のようなそれは、十センチほどの針のようになっており、まるで痛めつけるかのような役目をしている。

 だが、それはあくまで左腕部分に限った話だ。

 反対の右腕は、まるで盾のように平べったい形状をした物体をしている。

 両足に関しては、筋肉だけが見えた状態となっており、細い足が以前よりも太くなっていた。


「どういう……ことだ?」


 その疑問は、その場にいる全員が感じ取っていたことだった。

 モルフに感染した死した人間は通常、『レベル4モルフ』が最終的な感染段階の筈だった。

 それなのに、このモルフは更に変異を起こして、今までに見たこともない姿をしていたのだ。


『君達はこの形態を知らないようだね。『レベル4モルフ』とは、主にニパターンに分かれた感染段階に含まれているということを』


「何……?」


 イヴァンの声が聞こえて、今の状況を説明するように拡声器から声を出していた。


『元々、『レベル4モルフ』とは本来、『レベル3モルフ』から感染段階を上げるのが通例とされている。が、今先程、君達が戦闘をしていたのはもう一つのパターンである『レベル2モルフ』から感染段階を上げたものだったのだよ。『レベル3モルフ』はその性質上、全身武器という変異の特徴が見られる。今、君たちが見ているのは、その特性を後から発現させたものなのだ』


「なん……だと」


 だとすれば、今までに出水達が戦った『レベル4モルフ』は、真の姿をしていたわけではないことになる。

 『レベル3モルフ』の特性を引き継いだもの。それが本来の『レベル4モルフ』であり、本当の姿といえる。


 と、改めて、目の前の『レベル4モルフ』を認識していたところに、そのモルフに動きがあった。

 左腕の鈍器を振り上げ、目の前の神田へと襲い掛かってきたのだ。


「――くっ!」


「神田!!」


 距離を一瞬で詰めたモルフに対し、神田はその凶器の軌道を読んで、寸前で避けた。

 傷一つつかなかったことは幸いだが、むしろ傷つけば一大事である。

 あのバットのような何かから飛び出ている針が、どのような物質で作られているものかはわからないが、もしもあれに触れて感染することになれば致命傷は必須だ。

 間合いを一瞬で詰められた神田は距離を離そうとバックステップするが、更に追いすがろうとモルフも動きを早めた。


「こっちやボケぇ!」


 清水が、神田へと迫りつつあるモルフへと発砲し、その体へと被弾するが、モルフはそれに対応するように、右腕の盾のようなもので防ぐ。


「んなアホな!?」


「いや、ナイスだ! 神田、今の内に距離を離せ!」


 清水の発砲のおかげで、神田はモルフから距離を離すことができた。

 この『レベル4モルフ』は、身体能力もかなり高いようであった。

 それどころか、知能に関しても他の感染段階に比べればかなり優れている。あの右腕の盾を使って、身を防いだことも然り、出水達の持つ武器の脅威性を学習しているのだ。


「ど、どうするんや、出水!?」


「っ! とにかく、攻めるしかない! 多方向から銃弾を撃ち込んで、あの盾で防げないようにするんだ!」


 咄嗟に思いつく作戦など、こんなものが限界であった。

 今はとにかく、このモルフに動かれることの方が問題であった。

 流れ弾の危険もあったが、ある程度の角度をつけて防ごうとそれぞれが移動をしようとしたその時、


「出水! 避けろ!」


 神田がそう言った直後、モルフは飛びつくように出水へと向かってくる。


「くっ!」


 神田の時とは違い、突進するように向かってくるモルフにそのまま押し倒され、馬乗りのような状態になった。

 そして、身動きが取れなくなった出水へと向けて、モルフはその右腕を振り上げようとする。


「出水!! っこの化け物がぁ!!」


 焦った清水は、馬乗りになったモルフへと銃弾を撃ち込もうと、至近距離から銃弾を連射する。

 だが、自分へのダメージを気にするまでもなく、モルフはそのまま振り上げた右腕を振り下ろそうとして――、


「清水、撃つのを止めろ!!」


 神田からの制止の声が飛び、思わず発砲を止めた清水は、神田が何をしようとしているのかを目で追うと、モルフへと向かって一直線に猛ダッシュして、


「らぁっ!!」


 左腕を振り下ろそうとしたモルフへと、神田はとび蹴りを喰らわして吹っ飛ばした。

 視覚外から攻撃を受けたことにより、モルフは体勢を維持できなくなって、出水の体の上から離れる。

 地面の上を転がりながら、モルフは立て直そうとするが、両腕は地面を突くようにできていない。

 上手く立つことができないモルフを見て、出水はここがチャンスであると考える。


「今だ!! 撃て!」


 出水の合図で、神田と清水がモルフへと射撃を開始。持ち前の盾を使うこともままならず、モルフは撃たれるがまま、その肉体を抉られていく。

 ここで一気に倒しにかからなければ、出水達としても後がない状況だ。

 残弾数もそうだが、あの瞬発力と跳躍力は今の出水達ではかわしきることはできない。

 重量のある装備をつけていることも要因だが、それがなかったとしても、あの動きを読みきって動くことは難しい。

 弾がなくなり続けるまで発砲し、出水はその間に立ち上がって、落とした銃を拾おうとするが、


『……馬鹿な』


 ふと、天井に取り付けられた拡声器から、イヴァンの声が聞こえた。

 今までの調子づいた声色ではなく、なにかと真剣そうな声色をして出水達の決死の戦いに割って入ってきた。


『早すぎる、いくらなんでも……』


 それは驚きの感情か、それとも喜びの感情か。どちらでも取れるような物言いで、イヴァンがそう言った直後、


「――――ッッ!!」


 突如、耳が痛くなるような爆音が鳴り響き、感じたこともない大きな地震が起きて、全員がその場から動けなくなる。

 地震はどんどん大きくなり、もはや歩くことすらできないほどに、揺れがひどくなる一方だった。


『はははは――すば――しい!! ま――か、これ――とは!!』


 イヴァンの声がノイズで聞き取れなくなり、もはや目の前のモルフとも戦闘どころではなくなってしまう。

『レベル4モルフ』も、この大規模な揺れに動くことすらできない様子で、攻撃態勢にすら入れないようだった。


「い、出水! なんやこれは!?」


「分からない!! とにかく、今は動くな!」


「ダメだ! 床が落ちるぞ!」


 神田の叫びを聞いた直後、まるでその通りに出水が立っていた地面、いや、この部屋全体の床が崩れ落ちて、出水達は揃って宙に浮くような浮遊感を感じた。


「うわあああああああ!!」


 掴まるものも何もなく、出水達は地下実験施設の更に奥深く、深淵と呼ぶべき地帯へと堕ちていくことになった。



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