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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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最終話 『未来は自分達の手で』

 白い世界がどこまでも続いていく。

 この場所へ来るのは二度目だ。確か、日本で『フォルス』のアジトで殺されかけたあの時――。あの時は致命傷を負ってもうダメかと思われたのだが、『レベル5モルフ』の力で復活することが出来た。

 ここがどこなのか、その答えは今も分からない。

 ただ、予測は出来ていた。多分、モルフの力を持つ者だけが入れる内の世界。

 死の狭間に見ることが出来る世界なのだということ。

 でも、だからといって今、死にかけているわけではない。

 体の内にあるモルフウイルスは薬の影響で消えかけているし、健康面に関しても特段、何か悪い症状が出たわけではない。

 これも推測だが、モルフウイルスが死を前にして見せている世界なのかもしれない。

 そして、この世界では何故か、懐かしい面々と出会うことが出来るのだ。


「よう」


「よう、じゃねえよ。リク」


「元気そうだな。俺の言いつけもちゃんと守ってるじゃねえか」


「……ああ。椎名も元気にやってるよ」


「そうか」


「んで、ここって何なの? お前、俺の心に住んでたりしてんのか?」


「知らねえよ。まあ、そういうことにしといていいんじゃねえか?」


「怖いって」


 軽口のつもりだが、本当に自分でもここが何で、どうしてリクと話すことができているのか、全くもって分からなかった。


 でも、嬉しいことは事実だった。

 リクはもう死んでいて、話すこともできない親友なのだから。


「あれから、色々あったよ。本当に色々……」


「そうだな……」


「なぁ、この世界って、やっぱり悪い方向に進んでたりするのかな?」


「それを決めるのは、お前達だろう」


「……それもそうだ」


 当たり前の返答をされて、笠井修二は納得した。

 自分達の世界がどうなっていくかなんて、それを決めるのは生きている者達がこれからする行いが決めるもの。

 それを、今は生きていない者に問いかけるなんて野暮な話だ。


「人間がいる限り、可能性はどこまでも広がっていく」


「ん?」


「あれから色々考えて、色々な国を見てきたんだ。そんで、俺が考えついた結論」


「――――」


「俺一人じゃ、やっぱり世界を変えるなんて大層なことはできない。でも、警鐘することはできる。リアムが最期に俺に伝えたかったことって、そういうことな気がするんだよな」


 白く何もない天へと、笠井修二は手を広げてそう持論を展開する。

 世界は遠く、広い。目で見たこともない様々な国をこの目で見てきて、笠井修二の世界への見方は確かに変わった。


「どう思ったんだ?」


「……リアムの話していた通りだったよ。人は、自分の私利私欲の為だけに世界を破壊しようとしている。そんな奴ばかり目にしてきた」


「――――」


「でも、綺麗事だろうと何だろうと、俺は言い切ったつもりだったよ。その結果が何をもたらすか……まあ、中々上手くはいかなかったけど」


「……そうか」


「今はまだ、すぐには変わらない。でも、いつかは変われると俺は信じてるよ。諦めるつもりはない」


 リアムの言う通り、世界は、人類は現状に見て見ぬフリをしてきている。

 どれだけ世界が滅亡へのピンチを迎えても、それを乗り越えた後は結果的に、元の世界と何も変わることはなかった。

 それを直に目で見てきた笠井修二は、リアムの言葉通りの状況だったことを改めて実感していた。


「俺のやってることが正しいことなのかも、正直分からない。本当、挫けそうだよ」


「でも、諦めないんだろ?」


「……ああ」


「人間なんて、俺達で推し量れるようなものじゃないさ。皆、自分達のことで精一杯だろうからな」


「そうなんだよ。俺だってそうだったわけだし……」


「でも、お前はこの世界を望んだ」


「――――」


 リクの言葉が、笠井修二の心へと突き刺さる。

 選んだ。そう、選んだのだ。

 モルフウイルスによって人類が滅びる結末ではなく、現状維持という世界の行く末に――。

 自分達のもたらした選択が、世界にどういう影響をもたらすか、その責任の重みは日を追う毎に体の内へと伝わってくる。


 良い意味でも悪い意味でも、その責任の重さは心を擦り切らせるほどに厄介なものだ。


「……やっぱり、俺はお前に生きて欲しかった」


「修二?」


「お前がいないと……やっぱり、嫌だよ」


 心の持ちようなんて、笠井修二には簡単なものではない。

 笠井修二は、リクがいないこの世界で生き続けることが、辛いものと感じていたのだ。


 そんか弱気な笠井修二を見て、リクは背中をポンッと叩くと、


「不貞腐れんな。お前はホモかよ」


「……っ、リク」


「俺はいつだってお前の後ろにいる。そう、言っただろ?」


「――ああ」


「俺が生きていたら、お前をサポートできたのかもしれないけど、そんなこと、お前にとっては大した意味にはならねえよ。それに、お前の背中を押してくれる存在は、今の世界にちゃんといるじゃねえか」


「……」


「責任なんて、そんな重みを感じる必要もない。お前は、お前は自分のやりたいことをやればそれでいいんだ」


「……ぁ」


「だぁから、そんな涙目で弱気なままでいるんじゃねえ。らしくねえぞ」


 笠井修二の弱気な姿勢を正す為、そう諭しかけるリク。


 この世界のリクは、死後のリクそのものなのだろうか。

 それは違う。根本的に、それはありえないことは、笠井修二自身がよく分かっていた。

 でも、言葉遣いも性格も、リクそのものだ。


 分かっている。ここにいるリクは、笠井修二自身の記憶にあるリクが、そのままの姿としてあるだけの存在だということを。


 この世界は、単純に幻影を見せているだけに過ぎないということを。


「――リク」


「ん?」


「ありがとうな」


「んだよ、今更」


 それでもいい。今、ここにいるリクは、笠井修二にとって知るリクそのものだ。

 リクのおかげで、変わることができたのだから。


「……修二」


「ん、どうした?」


「忘れるなよ」


「――――」


 白い世界が崩れていく。それはまるで、ジグソーパズルが崩れていくかのような、彼らの世界がなくなっていく。


 そして、リクも同じくして、その体が徐々に崩れ始めていっていた。


「世界は進み出していく。だから、忘れるな。お前の背中を俺は……俺達はずっと見ているからな」


「……ああ」


 タイムリミットは近づいている。これが最後の会話だということも、もう分かっていた。

 だから、笠井修二はもう迷わない。もう、立ち止まったりなんかしない。


 リクの体が消えゆく間際、笠井修二は最後に一言、こう言い放った。


「見ていてくれ。俺達の生き様を――」


 そして、世界は白き世界から暗き暗闇へと閉じていく。

 もう二度と、ここにくることはない。

 その上で、後悔のない一言を告げた笠井修二は、元の世界へと目覚めることになる。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「――じ」


「ん……」


「修二?」


「ああ、椎名か」


「おはよ、こんなところで寝たら風邪引くよ?」


「わり、てかこんなところで寝ること自体、不謹慎だったな」


「ふふ、そうだよ」


 桜が舞う石畳の上で寝てしまっていた笠井修二は、声を掛けて起こしてくれた椎名真希へとそう語り合う。

 彼らの前には、多くの墓があり、そこに刻まれていたのは彼らも知る者達の墓でもあった。


「やっと……皆を弔えたな」


「うん……本当に、長かったね」


 多くの仲間達の墓石に目を向けて、二人はこれまでの長い軌跡を語る。

 笠井修二と椎名真希、この二人にとって、この光景は絶対にやりたいことの一つでもあったことだ。

 これまで死んでいった仲間達は、そのほとんどが無念の気持ちでいた。だから、死んだ後も何も出来ないままでいるのは、笠井修二にとっても耐え難いものだった。


「また、夏や冬にも、ここにこよう」


「……うん」


「暑い時も寒い時も、これからもずっと……」


「そうだね」


 季節が変わっても、ここに来ることを約束した二人は、穏やかな様子だった。

 彼らの願いの一つが叶い、その達成感がここにあることもある。

 それ以上にあるのは、今、この地を踏み締めていることもそうだ。


 笠井修二は桜が舞う綺麗なこの光景を目に焼き付けて、椎名真希へと手を伸ばした。


「じゃあ、行くか」


「うん!」


 椎名真希の手を取り、彼らは多くの墓石から背を向けて歩き出していく。


 これまでも、これからも、笠井修二達は生きていく。

 人間はどこまでも欲深く、今も他の命を奪っていっている。


 それでも、笠井修二は一つの答えを見出していた。


 人間は、確かに地球にとって癌とも呼べる生物なのかもしれない。


 それでも、それでも――他の命を尊び、慈しむことができるのも人間だ。

 生きる為に、その為に足掻き続けていく。


 この手を離さない為に、笠井修二は足掻き続けていく。


 これから先、どのような苦難が待ち受けていようとも――。


 これにて『Levelモルフ』は完結となります。

 最後まで読んでいただきました方、またブックマークや評価等いただきました方も大変ありがとうございました!

 小説という読み手に読みやすい内容を作るというのはやはり難しく、初めての経験ながら拙いものだったかもしれないですが、創作という楽しさを改めて実感できたのが一番の収穫でした。

 また、ゾンビものとして展開させた本作に関して、自身の作品と他の投稿者様との作品を比べて、やはり自分の作品のレベルの低さにも改めて気づくこともできました。


 本作の主人公である笠井修二は、『レベル5モルフ』の力を得るまでは一見、取り柄があまりない青年という設定でやってみたのですが、作品を作りながら気づいたのは彼が物凄い感情に左右されやすいキャラクターとなったことでした。

 ストーリーの流れからキャラが構築され、書いていく内に笠井修二なら次にこうするだろうという、物語の動きに合わせて創作が捗っていたこともありました。


 個人的な願望で、本作は色々なキャラクターの視点を主に物語を進行させたいという想いがあり、四章や最終章などは椎名真希を含めた二代目隠密機動特殊部隊の面々をメインとして物語の軸としてきました。

 これは、私自身が好きな作品から意図して真似てみたものであり、ストーリーの荒々しい雰囲気から、主人公以外のキャラクターも死ぬかもしれないという、補正を誤魔化す意味合いもあった方向性でした。

 反面、主人公の出番も少なくなってしまったため、個人的に物足りないストーリー構成ともなりましたが、完結させた今となっては満足もしています。


 命を軽く扱うようなシーンも多くあったように思われるかと思いますが、本作のテーマは『命』という意味を持たせていたこともあり、それが最後のリアムと笠井修二の掛け合いに繋がった点ともなります。


 創作ではありますが、今のこの世界にも通じる部分があるものとして、描き出していました。

 地球温暖化や環境問題という、今の世界でも問題視されている課題を、人間全体がどう取り組んでいるか。その現実こそ、解決は難しい問題であることは分かっていても、まずは知ることが大事だと、それが笠井修二が考えついた結論でもあります。


 始めは御影島という空想の島からスタートした本作でしたが、物語が進むにつれて壮大になっていく話の内容をまとめるのもかなり難しかったです。

 恐らく、この世界で同じようなことが起きたとしても、本作のような展開にはなりえないかもしれません。

 それだけに、話を展開させることが難しかったのは私自身の力不足でした。


 笠井修二と椎名真希が二人で歩む世界がどうなっていくか、それはご想像上のものとして委ねる形となりますが、少なくとも悪い方向へと進まないものとしていくのではないかと私自身は考えております。


 二度目となりますが、ここまで読んでいただいた読者の方には本当に感謝しております。

 もしも、よろしければとなりますが、評価や感想等いただけますと次回作以降の糧にもなりますので、お手数ではございますが、何卒よろしくお願いいたします。


 次回作に関しても、既に創作を始めてもいます。

 異世界ものにはなりますが、本作同様、設定を練ったものになっておりますので、機会があれば見ていただければ嬉しいです。


 それでは最後となりますが、本話において『Levelモルフ』は完結となります。

 作者は仕事に集中しながら、空いた時間に趣味である創作は続けていくつもりです。

 今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

 また、ありがとうございました!

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