Phase7 第八十三話 『全てを懸けて』
タイトルが安直すぎたので修正します。
笠井修二と椎名真希、二人の『レベル5モルフ』が手を取り合い、共に戦うことはこれが初めてのことだった。
どうなるかは分からない。圧倒的な力の差は分かっている。
でも、二人でなら――戦える。
「はぁぁっっ!!」
「随分と立て直しが早いじゃないか! 今のキミでは足りないと、そう言った筈だが!?」
「俺だけならな!! 椎名っ!!」
「うんっ!」
リアムの剣を刃で受け止め、その隙に椎名がリアムの腰目掛けて回し蹴りを仕掛ける。
「っ!!」
当たれば腰の骨ごと折られるその一撃を、リアムはもう片方の腕で防御した。
メキメキと、筋肉を破壊する音が鳴り、そこでリアムに初めてダメージが入る。
「なるほど、二人でなら私を倒せると踏んだわけか。果たしてその選択が正しいかどうか、試してやろうか」
「ああ、できるものならやってみろ!! 椎名は俺が守る! 俺は椎名を守ってみせるっ!!」
「くく、面白いっ!!」
先ほどとは打って変わった笠井修二の意思を聞いて、リアムは笑った。
「きゃっ!?」
「くっ!」
二人の攻撃に合わせて、リアムは力で押し返し、無理やり距離を取らせた。
そして、リアムは初速から全力で地面を蹴り、椎名の方目掛けて接近を仕掛ける。
「椎名っ!!」
「大丈夫!!」
「ほう、ではこれを見切れるかなっ!?」
リアムの手、それが予備動作のない動きとして、椎名には目では追えない剣として斬りかかられようとする。
予備動作がないということは、どこを斬りかかられるのかが読めないということだ。防御しようにも、失敗すれば致命傷を避けることはできない。
その最悪の一撃が、椎名へと迫ろうとしている。
「――っ!」
椎名は、ほんの数センチだけ宙に浮くように飛んだ。
そして、目だけはリアムの腕から外すことはしなかった。
目では追えない。でも、そもそも予備動作がない動きなんてものは、現実的にはありえない。
そして、その原理についてはもう二人は気づいていた。
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「椎名、リアムとやるなら、まずあいつの予備動作のない動きに気をつけないといけない」
「そうだね……私もさっき、あの剣でやられたから分かるけど、でもどうしたらいいのかな?」
「あの予備動作のない動きには秘密があるんだ。さっきの戦闘で、俺はその正体に気づいた」
笠井修二が共に戦うことを決意して、二人で元の戦場に戻ろうとして走っていた時のことだった。
笠井修二はリアムの予備動作のない剣の攻撃に関して、しっかりと答えを見出していたのだ。
「結論から言えば、あれは緩急を利用した目の錯覚だ。リアムは予備動作のない動きをしているんじゃなく、しっかり予備動作をして剣を振り抜いているんだよ」
「緩急?」
「そうだ。俺達はあいつの速い動きに見慣れすぎて、盲点になっていたんだ。あいつは剣を構える時、動くスピードとは遥かに遅い動きで腕を動かしている。そして、相手に接近したその瞬間に高速の動きへと変化させて、腕の動きを見えなくしているんだ」
「そんな繊細なことを……」
「初見でやられたらまず見抜けない。でも、俺達『レベル5モルフ』なら対処できる可能性はある。もし、椎名に向かって奴が接近してきたら、まずは腕を凝視し続けるんだ」
「――――」
「簡単な方法だ。奴の剣を振る先を読む方法、それは――」
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予備動作の無い動きとして、リアムの剣が椎名へと襲いかかろうとする。
そのリアムの動作を、椎名は彼の腕だけを凝視し続けていた。
そして、リアムの腕がゆっくりとスローモーションのように動いた時、椎名は反応した。
「ここっ!!」
「なにっ!?」
避けることのできない一撃を、椎名は地面に着地したと同時に、剣の振る先を読み切って体を逸らすことで避けたのだ。
リアムからすれば、なぜ避けられたのかが分からなかったのだろう。
その表情には、驚きという様子がハッキリと映っていた。
「らぁぁぁっっ!!」
「――っ!」
その瞬間に、笠井修二が椎名を助ける形でリアムへと剣を振り抜く。
しかし、リアムはそれすらも反応して、笠井修二の剣を受け流していく。
「なぜ分かった?」
「てめえの予備動作のない攻撃、いや、実際には緩急を利用したその動きには読むことができる方法が存在するんだよ!!」
「……ほう」
「修二!!」
再び戦闘に参加するようにして、椎名がリアムへと上段蹴りをして足を振り抜いた。
リアムの視界には椎名の姿はなかったが、彼の固有能力である全方位集中感知能力で、椎名の動きは気づいていた。
蹴りを躱し、距離を取るリアム。猛追を仕掛けようとする二人だが、彼を狙っているのは笠井修二と椎名真希の二人だけではない。
「こっちを忘れてんじゃねえよ!!」
「ちっ、雑魚が」
リアムの背中を狙う形で、デインとテオの二人が同時に射撃を開始する。
しかし、その動きもリアムは見切っていた。
全方位集中感知能力とは、ただ存在を認識しているわけではない。
リアムが認識している生命体の動き、その動作が全て、目で見ていなくても頭の中で感知できてしまっているのだ。
すなわち、デインとテオが持つ銃の引き金を引く瞬間、その指の動きまでも、リアムには認識できてしまっているということだ。
笠井修二と椎名真希の二人から目を離さないまま、リアムは左右に動く動作で銃弾を躱していく。
「引き金を引く指の位置さえわかれば、どこに銃弾が向かうかなど、私には朝飯前のように分かる。ナメるなよ?」
「っ!」
「さて、さっきは私の動きを理解しているようだったが、どういう意味かな?」
デイン達のことなど目もくれないまま、相手にしない様子で、リアムは笠井修二達へと先ほどの質問の続きを行う。
二人とも、戦闘態勢は解かないまま、そのリアムの質問について、笠井修二が返答を返そうとした。
「てめえは剣を振りかぶる時、腕を若干動かしていた。そこから最高速度で一気に動かすことで、剣の動きを見えなくしていたんだ。つまり、その微々たる動きの動く先さえ見ていれば、剣の振る先は分かる」
「……くく、なるほど。さすがといったところだな。たとえ分かっていても、そう簡単に対処できるものではないだろうに。驚嘆に値するよ」
「てめえの剣の正体は見切った。あとは二人で掛かれば……その固有能力でも間に合わない攻撃を繰り返し続ければ、お前は俺達には勝てない」
「果たしてそう単純な話かな? できるものなら、試してみるといい」
「言われなくても、そのつもりだ! 椎名、いくぞ!!」
「うんっ!!」
余裕を崩さないリアムに、笠井修二と椎名真希の二人が同時に動き出す。
剣術と格闘術、全く違う二つの武術で、同時に仕掛けられようとするリアムだったが、彼の動きには無駄はなかった。
剣を二本扱う笠井修二に対して、たった一本の剣で対抗し、椎名の蹴りに対してはもう片方の腕で力の流れを読み、受け流す形で対抗したのだ。
それが超高速戦闘となって、彼らにしか見えない戦場として化していく。
「さすがに『レベル5モルフ』が二体相手だと私も対応が難しいな」
「――っ!」
「それに、息も合っている。やはりキミ達は他の連中とは違うようだね」
「その余裕を崩してやるよ!!」
「くく、余裕か。間違いではない。しかし、なぜキミ達はそうまでして世界を救おうとする?」
息継ぎすら厳しいこの戦闘の最中で、リアムは必死に抗う二人へとそう問いかけようとする。
判断を一つ間違えてしまえば、その一手が致命的なものとなりかねないこの状況で、まだ話をする余裕があるというのなら、それはまだリアムが全力でないという証拠だ。
「人類を救ったところで、また同じことを繰り返すだけのことだ。たとえ力を合わせたとしても、人は争いをやめない。そうして、この星はまた汚されていく」
リアム自身の目的を、真っ当な理屈のように語ろうとする彼は、止めようとする意味についてを諭そうとする。
「大地も、海も、そこに住む生物達も、皆が平等に生きる場所だ。それを奪おうとする人間に、果たしてこの星に生きる理由はあるのか?」
「っ、だからといって、人類を皆殺しにしようとする理由には――」
「なるさ。人間はね、たとえそれぞれに違いこそあれども、争いは決してなくならない。それこそ、争いがなくなるとするならば、人間という生物があと一人になるまでは、決してなくなることはない。そういう風に作られたのだよ」
「なにを……」
「それでも、皆が死んでいい理由にはならないよ!!」
戦い、対話し、一つと二つの意思がそれぞれぶつかり合う。
決して交わることはない、対立した意見は覆すことなんてありえはしない。
「いずれ滅びる運命だというのに、なぜ死んではいけない? 奪い、奪われ、そんな世界を望むのか?」
「てめえだって……今も奪おうとしてるじゃねえか!?」
「ああ、否定はしないさ。だが一つだけ言っておこう。私の同志達も、かつては奪い、奪われてきた境遇の持ち主だ。私にはわからないのだよ。彼らは人間がいなくなることを望んだのに、キミ達はそうじゃなかった。何故なのだろうってね」
「そんなの……おかしいからに決まってるからよ! 人は変われるって、そう信じてるから!!」
「……なるほど。そういう考え方もあるということか。ならば――」
二人の攻撃をいなしながらいたリアムは、その時、剣を握る力を強めて二人同時に斬りかかろうとした。
「――っ!」
「きゃっ!」
笠井修二の持つ一本の剣が折られ、椎名真希は寸前で避けようとして後ろに仰け反る。
明らかに雰囲気が変わったリアムの様子に、二人の中で緊張感が更に増した。
「私にとっては、キミ達こそがモルフの完成形だとそう信じて疑わなかった。しかし、心までは変えられないのだと、それも今気づいてしまった」
「……俺達はお前の企みを止める。それは変わらねえ」
「そう、キミも憎しみの種を完全に絶えてしまった。いずれは滅びゆく人類に身を委ねるというのならば、私も決断をする時がきたということだ」
「決断?」
「ああ、もう……キミ達を生かす理由はなくなった、そういうことだよ」
その時、二人は同時に感じ取った。
これまでにはなかったリアムの殺気、鳥肌さえ感じ取れるその嫌な感覚に、二人の体は一瞬ではあるが、硬直してしまったのだ。
「身体能力強化を全開させる。もうキミ達を殺さないような動きはしない。考えを改めるなら今のうちだ」
「……やれるものならやってみろ。俺は桐生さんの意思を継いだ。てめえの意思に迎合する気はない」
「私も……同じ。皆が悲しむ世界なんて、見たくないから」
「そうか」
変わらぬ意思を聞いて、リアムは脱力した。
隙だらけのように見えるその動きが、二人にはまるで隙のないものに見えてしまっている。
つまりは、これからが本番だということだ。
「いくぞ」
「――っ!」
リアムの体が前傾姿勢に入り、角度がついたその瞬間、彼の姿が一瞬にして消えた。
否、消えたのではなく、単に真っ直ぐ突っ込んできただけの動き。その動きが速すぎて、二人の目にはリアムの動きが捉えられていない。
「うっ!?」
「修二!!」
迫り来る足音を察知して、笠井修二は咄嗟に剣を前に構えた。
その瞬間、リアムの剣が笠井修二の持つ剣とぶつかり、笠井修二の体が押し倒されようとした。
「縮地法、キミ達人間が編み出した間合いを一瞬で詰める手法だ。だが、私の動きにはついてこれまい」
「なめ……るなぁっ!!」
押し倒されようとする勢いに反発して、笠井修二は残り一本となった桐生大我から受け継いだ剣で押し返そうとする。
その瞬間に、椎名真希が援護に入ろうと動きを見せていた。
「遅い」
「っ、きゃっ!?」
「おわっ!?」
押し返そうとする笠井修二の剣の力の流れを読み、あえてその力を押し返ずに受けに回るリアム。
そのまま、体だけを仰け反らせ、笠井修二の体を椎名真希の方へと目掛けて体ごと向かわせる。
「クソッ!!」
「修二! 危ない!!」
「――っ!」
二人の姿勢が崩れた瞬間を狙い、リアムが剣を振りかぶる。
二人同時に殺しにかかろうとするその動きに、二人は対応が間に合っていなく、避ける動作が間に合わない。
「……ちっ」
リアムが何かを察知して、振りかぶろうとした剣を引き、後ろへと飛んだ。
そして、銃声音が鳴り、リアム目掛けて銃弾が飛び交うが、彼は容易くそれを避けていく。
「椎名! 今のうちに体勢を立て直せ!!」
「クソがっ! さっさと死ねよ!」
「デイン! テオさん!!」
「つくづく邪魔をするのが好きらしい。そんなに死にたいのならば、キミ達から殺してやろう」
笠井修二達を救ったのは、離れた位置にいたデインとテオの二人だった。
しかし、リアムの全方位集中感知能力の前では、彼らの動きすら見切られているようなもの。どんな不意打ちも、リアムには読まれてしまっているのだ。
デインとテオへと殺意の目を向けたリアムは、地面に踵がついた瞬間に切り返し、笠井修二達ではなくデイン達のいる方へと向かっていく。
「させるかよっ!!」
「キミに用はない。どきたまえ」
笠井修二が体勢を先に立て直し、デイン達の前へと飛び出してリアムを迎撃しにかかろうとする。
ミラの超速スピード×桐生大我の極限集中状態×笠井修二の射撃スキル×神田慶次の敏捷性×アリスの柔軟性×リーフェンの動体視力。
これだけ合わせても、リアムの速さには届かない。
もう既に、笠井修二は全力以上の力を発揮させている。
それでも彼の動きについてこれないのは、それほどにリアムの能力がずば抜けていたからだ。
「ああああああああっっ!!」
「――――」
リアムの剣を、見えない速度での斬りかかりを、寸前で読み対応する笠井修二。
しかし、リアムは笠井修二の動きを全方位集中感知能力で見切っている。
「どけ」
「がっ!?」
剣の柄で、笠井修二は腹を突かれる。鳩尾にヒットしたことで、彼の体が止まってしまった。
「楽に死なせてやろう。苦しむよりは遥かにマシだ」
「きやがれっ!!」
動かない笠井修二を放っといて、リアムはデイン達を殺しに掛かろうとしている。
椎名も追い縋ろうとするが、リアムの速さにはついていけず、とてもじゃないが間に合わない。
たとえ、どう足掻いたところで、『レベル5モルフ』でもないデインとテオでは、リアムの動きを見切ることなどできない。
「く、おおおおおおおおっっ!!」
その時、笠井修二は咄嗟に体を動かした。
ただ、それだけをしたつもりだった。
「――っ、なに!?」
リアムが、固有能力で動きを見切れる筈の彼の体に、笠井修二の剣が当たった。
背中を擦り、リアムの背中に深くはないが傷が生まれた。
「はぁっ、はぁっ!!」
「……まさか」
リアムからすれば、それは予想外ともいうべきものだった。
笠井修二の動きが変わり、また速くなったのだ。
まるで、リアムの動きをそのまま真似たかのように――。
「修二……」
「俺は……決めたんだ。もう、誰も死なせねえってな!!」
「……つくづく、キミの力は厄介だな」
笠井修二の固有能力。完全模倣能力は、見た者の動きを真似ることができるというもの。
それらを複合させる動きは、彼の潜在能力が実現させた賜物でもある。
そして、彼が今やったことは、もう一つの動きを複合させたことによるものだった。
ミラの超速スピード×桐生大我の極限集中状態×笠井修二の射撃スキル×神田慶次の敏捷性×アリスの柔軟性×リーフェンの動体視力。
そして、そこに新たに加わったものとは――。
「私の動きまでも、模倣するとはな!」
リアムの縮地法、予備動作のない動き――そして、身体能力の相乗。笠井修二は、およそ実現不可能とされるリアムの動きを完全に模倣したのだ。
笠井修二には、固有能力を模倣するようなことはできない。できるのは、あくまで身体能力や武術の類を模倣することだけだ。
しかし、リアムや他の『レベル5モルフ』が驚異的な強さを発揮させるのは、あくまでその根幹となる身体能力に依存している。
その部分を模倣しているということ、そして、リアムの動きを模倣してしまえば、形勢は変わる。
「うおおおおおおおっっ!!」
「っ! ちぃっ!」
ここにきて、初めてリアムの顔色が変わった。
余裕を見せていた彼であったが、笠井修二の動きを見切ろうにも、同じ速さで動かれてしまえば、いかに全方位集中感知能力があろうとも、対応するのはほとんどギリギリの状況だった。
加えて、笠井修二にはリアムの模倣以外の者達の動きも複合して模倣している。
現状、動きの質としては笠井修二がリアムを上回ってきていたのだ。
「ナメていたよ。まさかここまでの能力を見せてくれるとはな!!」
「もう余裕はない! 椎名っ!!」
「はぁぁぁっっ!!」
「っ!?」
笠井修二の攻撃を避けることに精一杯だったリアムの側頭部へと、椎名の蹴りが炸裂する。
分かっていた。だが、リアムの固有能力があっても、笠井修二の対応に全てのリソースを割いていたリアムには、椎名の蹴りを避ける手段はなかった。
椎名の蹴りが直撃し、リアムはビルの壁へと体ごとぶつけ、その壁ごと破壊してビルの中へと吹き飛ばされた。
「はぁっ、はぁっ!!」
「修二っ! 大丈夫!?」
「大……丈夫だ……。まだいける……っ!」
「落ち着いて深呼吸して! 酷使しすぎてる!!」
「ああ……」
椎名に言われた通り、笠井修二は落ち着いて深呼吸をして呼吸を整える。
いくら、完全模倣能力でリアムを上回ることができても、その力を限界まで発揮させていた笠井修二の身体的負担は尋常ではない。
全身の筋肉という筋肉が悲鳴を上げ、笠井修二の体はいつ動けなくなってしまってもおかしくはないほどの負荷がのしかかっていたのだ。
だが、まだ倒れるわけにはいかない。
「あいつは……まだ生きている」
「うん……私もそう思う。でも、もう一歩だよ」
「そう……だな。もう少しだ」
リアムがあれで終わるとは、二人とも考えてはいなかった。
しかし、かなりのダメージにはなった筈だろう。傷こそ治すことができても、疲労は消すことは叶うわけではない。
笠井修二がこのまま固有能力を駆使して、椎名真希と一緒に戦えば、勝てる道はある筈だ。
「おい……てめえら……あの野郎のトドメは俺がやるぞ」
「誰だ?」
二人の間に割り込んで入ってきたのは、左腕を失い、意識が朦朧としたテオだった。
彼のことを笠井修二は知らない為に、何者かと問いかけたが、椎名がテオの肩を持つと、
「テオさん、無理しないでください。腕の止血がまだできていないんですから……」
「うるせえ……おい、そこの坊主。てめえがあのクソ野郎を超えた動きをするのを見た。次に奴の動きを止めたら……トドメは俺にやらせろ」
「……そう簡単に上手くいければだけどな」
「何か思うところがあるのか?」
トドメを自分にさせろと言うテオに、笠井修二は自信のない様子で語る。
その様子に思うところがあったのか、笠井修二にとっては初対面でもあったデインが彼にそう問いかけた。
「いや、あのリアムがこんな簡単に上手く倒せるのか、そこが違和感に感じたんだ」
「もう十分すぎるぐらいにお前は化け物だ。誇れよ」
「……椎名、コイツなんなの?」
「あ、ええっと……」
明らかに失礼極まりない発言をしてくるデインに、笠井修二は指を差して不機嫌な顔をする。
悪気があるわけではないが、これがデインなのだから、椎名も説明に窮していた。
――その時だった。
リアムがいる五階建てのビル、それが内側から爆発するかのようにして内部から轟音を立てて破壊された。
「っ!?」
「うおわぁっ!」
「なに!?」
「くっ……」
四人全員が驚き、飛んでくる瓦礫に直撃しないよう、散開して動いた。
まるで、強力な爆発物でも使ったかのような現象だった。それがリアムのいるすぐそこで巻き起こったのだから、とても無関係とは思えない。
しかし、何が起きたというのか?
「本当に……残念だ」
「――っ!?」
リアムの声が聞こえ、笠井修二達は一斉に武器を構えた。
渇いた声、冷たき空気、殺伐とした風景。全ての事象が、まるでリアムから発せられているかのような、強烈な存在感を感じ取られる。
今までのリアムとはまるで別者の何かがそこにいる。
「人間という存在が、地球にとってどれほどの癌なのか、誰にでも分かる事実だというのに」
金属が擦れ合うような金切り音が鳴り響き、歪な二つの巨大な物体が揺らめく。
それは蒼く輝き、見た者からすれば、神々しくも見え、恐ろしくも見える。
「それでもキミ達は人間の側につき、世界ではなく、人類を救おうとする」
風が止む。巨大生物達が暴れ回る音も聞こえなくなった。
周囲一帯が無音と化し、そこで聞こえるのはリアムの声一つのみ。
「死をもって証明するといい。そして私に見せてくれ。傲慢なる人間共よ」
ゆっくりと、歩く足音が聞こえ、その姿が露わになっていく。
そこにいたのは、リアムであり、リアムでない者――。
「痛みを、苦しみを、その絶望たる表情を最後に私に見せて、死ね」
巨大な二つの羽をその身に顕現し、立ち塞がる。
これまで見たこともない、新たなモルフの形態を生み出し、まるでそれは――蝶のように。




