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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase7 第八十一話 『激突』

 何度、何度とあの光景をフラッシュバックしたのか、もう数えきれない。

 憤怒、悲哀、後悔、絶望、あらゆる感情が入り混じり、何度も何度も、心を擦り切らしてきた。


「椎名を、頼むぞ」


 あの時、どうすれば良かったのか。どうすれば、あんなことにならなかったのか。それを考えなかった日は一度もない。

 あらゆる分岐点を選択して、その結果があれだとするならば、自分の力不足に自らを殺してやりたいと考えもするところだ。

 数多くの友達を失い、その最後に親友を失ったあの日を、笠井修二は一日足りとも忘れることはなかった。


 そして、笠井修二にとっての地獄は、その日の出来事の一つに収まることではなかった。


 数多くの仲間が死んでいった。

 犬飼、司馬、樹、佐伯。――出水も、自分の判断の迷いのせいで重傷を負って、深い眠りについた。

 あの時、その復讐の対象である碓氷氷華を殺して、笠井修二は初めて、思いもよらない感情が表に出た。


 愉悦――憎き相手を殺したという達成感に、心が侵されていく感覚を味わっていたのだ。

 不思議と、それがすごく気分の良いものだと考えはしたが、口には決してださなかった。


 死者への手向けが、復讐を果たすことに繋がる。それはただの自分勝手な想像であり、そんなことは決してありえない。

 復讐なんて果たしたところで、死者は返ってこないし、生き返ることなんてないのだ。


 それでも、笠井修二は突き進んだ。

 何も返ってこないと分かっていても、それでも、やられたまま終わるなんて、そんな結果を彼自身が望んでいなかったからだ。


 たった一人でも戦う。そう覚悟を決めていた筈だった。


「大丈夫、俺達がついている。絶対に、守る」


 馬鹿だと、自分を殴りたくなった。

 覚悟を決めたすぐに、共に行動をしていたジェラルドがそう言って、気を緩めたのが自分の甘さだった。

 あの後、ジェラルドは首を切断されて殺され、何を思ったか?

 そう、自分に対しての意思の弱さ、それに対する怒りだった。


 自分のせいで、周りの人間が皆死んでいく。

 そうならない為に、覚悟を決めたのではないのか。


「私を産んでくれて……ありがとう……」


 なのに、どうしてこうなる?

 共に戦おうとして、共に戦って、なぜ周りの人間だけが死んでいく?

 何度も経験をしてきた筈なのに、どうして希望に縋る。


 成り行きとはいえ、誰かと一緒に行動をすれば、その者は皆無事では済まない。

 抗っても抗っても、その結果を覆すことなんてできはしなかった。




 ようやく分かった。こうなってしまう全ての原因――元凶。

 あいつだ。あの男だ。奴が生きているから、皆が不幸な目に遭ってしまうのだ。


 俺や椎名を、人類を不幸にしたのは紛れもなく奴が全ての元凶――。


「私は必ずキミから全てを奪う。そして、モルフだけが生きる世界を創造した時、キミは気づくだろう。私のしたことが正しいことにね」


 許さない。これ以上、俺から全てを奪おうとする奴を、奴を逃がすわけにはいかない。


 必ず殺す。たとえ俺が死んでも、命にかえても必ず――。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「リアムゥゥゥゥゥッッ!!」


「待っていたよ!! 笠井修二君!!」


 互いに持つ二本の剣が同時にぶつかり、鉄と鉄がぶつかった音を鳴らして二人のモルフが激突する。

 同じ『レベル5モルフ』の能力を持ち、互いに違う境遇を持つ彼らは、運命の導くままに交わる。


「おおおおおおおおっっ!!」


「ふっ!」


 力の限り、剣を振り抜こうとする笠井修二に、リアムは力の流れを判断して笠井修二の剣による振り抜きを受け流し、笠井修二の体が後方へと吹き飛んだ。


「っ! らぁぁぁっっ!!」


「はは、面白い!!」


 様子を見るなんて悠長な真似はしない。笠井修二は地面で体勢を整えた直後に、猪突猛進の如く、リアムへと突っ込んでいく。


「見せてみろ!! キミの力をっ!!」


「おおおおああああああっっ!!」


 笠井修二が繰り出す尋常ではない速度の剣戟に対応しながら、リアムは打ち合っていく。

 彼らの腕が、体が、もはや目で見えないほどの動きとなって重なり、周囲を火花で散らしていく。


 しかし、彼らには一つ一つの動きの全てが見えている様子で、ただ一つの傷もつかないまま殺し合いとも呼ぶべき死闘を繰り広げていた。


「前に会った時よりも速くなっているな!! しかし、それではまだ遅いぞ!!」


「ちぃっ!」


 リアムの予備動作無しの剣の振り抜きを、笠井修二はかろうじて剣で防御し、再び距離を取らされる。

 しかし、彼は止まることなど知らなかった。


「く、あああああああっっ!!」


「……ほう?」


 直立姿勢になった時、すぐ隣に放置されていた乗用車へと、笠井修二は異常な力で車の側面へと腕を突き刺し、力の限り叫んだ。

 腕の筋肉が悲鳴を上げながらも、笠井修二は全身を使って、重さで1.5トンはある乗用車をリアム目掛けてぶん投げたのだ。


「くく、それがどうした!?」


 迫る乗用車に対して、リアムは避けることはしない。

 真っ向から受けて立ち、リアムは手に持つ赤黒い剣を振り抜いて、その乗用車を真っ二つに斬り裂いた。

 しかし、笠井修二の狙いはそこにあったのだ。


「む?」


「おおおおおおっっ!!」


 真っ二つに斬り裂かれた乗用車の後方から、笠井修二が飛び込んで剣をリアム目掛けて振り抜きにかかる。

 乗用車による投擲自体は囮――、本命は意識が笠井修二から離れたこの一瞬だった。


「考えたな、だがっ!!」


「――っ!?」


 一切の隙も見せず、リアムは剣を振り抜いて、笠井修二の剣を受け止めた。


「くっ!!」


「良い、良いぞ!! さあ、もっと私に見せつけてみろ!! キミの力をっっ!!」


「うるせえええええっっ!!」


 立ち止まることなど知らない彼らは、再び異次元のような速さを体現して剣を打ち合っていく。

 地面に落ちていた石やガラスの破片が、彼らの過激な戦闘によって宙に浮き、もはや誰も踏み込むことのできない領域としてそこにあった。


「もはやキミの力はあの桐生をも上回っている! あの時以上の怒りを宿して、この私をも超えようとな!!」


「――っ!」


「納得のいかない様子だな! キミがミラの動きを模倣していることは既に気づいている。なぜ、私以上の速さで動いているにも関わらず、攻撃が当たらない、と。簡単な話だ。私はキミの攻撃がどこから繰り出されるか、事前に察知できているからだよ!!」


 笠井修二が今まで以上の速さを体現できている理由は、ミラ・ジノヴィエフの身体能力強化と同じ速度を模倣しているからだった。

 その笠井修二が、ミラの力を模倣していることに気づいていたリアムは、互いの速度の差を彼が述べた解釈で説明する。


「クソッ!!」


 今更、リアムの言葉に耳を貸すつもりはなかったが、それでも納得がいかない様子だった。

 しかし、確かにリアムは笠井修二の攻撃の狙いの全てを読み切っている。

 リアムよりも速く動くことができれば、刃は先にリアムへと届く筈なのに、その前からリアムは自身の剣を構え待っているのだ。


 何か謎がある。その可能性を辿るなら、答えは一つだろう。


「てめえの……固有能力か!?」


「正解だ。しかし、何をしているか分かるまい?」


「っ、ちぃっ!」


 リアムの先読みの謎は未だ分からず、二人は一歩も引かぬまま互いに殺す気で剣を振り抜き合っていく。

 しかし、それが『レベル5モルフ』の有する固有能力によるものだということを聞いて、笠井修二は今まで以上に速度を上げていく。


 二人の動きは更に加速していき、戦闘は激しさを増していく。

 それをただ見ていたテオは、二人の異次元な戦闘を目の当たりにして声が出なくなってしまっていた。


「なんなんだ……これ……?」


 乱入してきたあの男が何者か、テオは知らなかった。

 そんなことよりも、あの動きはどうなっているのか、常軌を逸した光景に、言葉で説明をするのも難しい。

『レベル5モルフ』の身体能力強化の力を見てきたことはある。

 椎名真希とボリスという二人。彼らも凄まじい動きを体現していたが、あの二人は更に別格。とてもじゃないが、人間という存在が太刀打ちできるものではない。


「あんな化け物に……どうやって……」


 復讐を果たす為に、報復をする為に決意を固めてきたテオであっても、この戦闘に介入できるほどの勇気はない。

 たとえ割り込むことができたとしても、数秒も保たずに死ぬのがオチだ。


 今、この場にいることすら、テオは彼らの戦闘にいつ巻き込まれてもおかしくはないものもなっている。


「テオさん! 無事ですか!?」


「サーシャは!? って、なんだあれ!?」


「お前ら……」


 呆然としていたテオへと、急ぎ駆けつけてきたのはデインと椎名真希の二人だ。

 彼らもその時に気づいた。先ほどまで彼らを絶望に追いやっていたリアムと戦う青年の存在に――。


 そして、その存在を知るかのようにして、椎名真希が口を開いた。


「修二……?」


 驚きの表情を浮かべる椎名であるが、今もリアムと奮闘している笠井修二は椎名の存在に気づいていない。

 呼びかけるより先に、彼女は笠井修二の様子に違和感を感じていた。


「どう……したの? 修二……」


 明らかに、今まで見てきた笠井修二と何かが違う。

 幼馴染の頃から彼を知る椎名真希にとって、それは断言できた。

 何かに囚われているかのような、感情を剥き出しにした様子の彼は、あの優しかった頃の笠井修二とはまるで真逆だ。


「知ってんのか?」


「う、うん……」


「……そうか。でも、今がチャンスだ。あの男が足止めしてる間に、俺達はここからズラかれる」


 二人の戦いが長引くことが予想できたデインは、今の間にここから離れることを提言した。

 合理的な判断であり、間違いのない意見だ。しかし、デインは分かっていなかった。

 椎名にとって、今もリアムと戦う彼がどういう存在なのかを――。


「おい、椎名?」


「ダメ……修二を、修二を置いていけない」


「なっ、お前正気か!?」


「ごめん……でもダメなの……。修二は……私にとって……」


 声を震わせながら、手を引こうとするデインに対して首を振りながら反対意見を出す椎名。

 それぞれの言い分は、それぞれの主観的立ち位置で決まるものだ。

 だから、デインも今一度、椎名の考えを読み解こうとし、今もリアムと戦うあの男の方を見た。


「もしかして……あの時に話していたお前の知り合いの『レベル5モルフ』って……」


「……うん」


「マジかよ」


 あの時とは、椎名とデインが腹を割って、互いを信用する為にお互いの知る情報を話し合っていた、ネパールでの出来事だ。

 椎名を守ろうとし、守ってくれたという男、それが今、あのリアムと互角の戦いを繰り広げているのだ。


 しかし、そうだとするならば、一つだけ腑に落ちないことがある。


「でも、一つおかしいぞ。あいつがそうだってんなら、なんであんな強い? お前が言うには、あの男は再生能力だけが取り柄だったんだろ?」


「分からない。でも、なんか修二の動きは、どこかで見たことがある動きをしているの。それに、あれは私の知っている修二でもない」


「……どういうことだ?」


 はじめに聞かされていた情報とは違うことを問い詰めたデインだが、椎名自身もよく分かっていない様子で、あの男のことをずっと見ている。

 

 それだけ、彼女にとってあの男が大切な存在だということだろう。

 状況だけ見れば、一刻も早くここから離れることが先決だと考えていたデインだが、一人で行くこともできない。

 彼がここまで来たのは、あくまで椎名と行動を共にしてきたこと故にだ。一人で向かったところで、自身の特異体質の証明としての語り手がいない状態では、何も意味はないのだ。


「ちっ、最後の最後まで面倒持ち込みやがって」


「……ごめん」


「いいよ、もう慣れたからな」


 吹っ切れた様子で、デインもこの場に残ることに決めた。

 それでいながら、少しでも加勢できる隙があれば、すぐにでもリアムに仕掛けるつもりだった。

 幾らあのリアムであっても、こちら側の意識を割きつつ、あの男とやり合うのは不可能だろう。



 役者が集い、それに気づく様子もないまま、笠井修二はリアムと戦闘を繰り広げ続けていた。

 最初こそ剣での攻撃手段を行使していた彼であったが、途中から動きを変えている。


「っ!」


「見えているよ」


 バックステップをして、もう片方の手に握るのは、中距離戦闘用ともなるサブマシンガンだ。

 父、笠井嵐から受け継いでいるその銃を使い、笠井修二はリアムへと発砲を仕掛けるが、リアムは左右へと切り返しだけで銃撃を躱していく。


「ふっ!!」


「そうくるかっ!!」


 しかし、笠井修二はある意味で意表を突いた行動を取る。

 銃撃をしたまま、中距離での射撃のみならずして、接近を仕掛けていたのだ。

 普通ならば、まともに照準も合わせられない無駄な動きと見られてもおかしくはない。だが、笠井修二はリアムへの照準の一切の狂いもなく、狙い撃ちを仕掛けてきていた。


「良い射撃能力だな。それはキミ本来の能力か?」


「らぁぁぁっっ!!」


「そんな戦い方をする相手はこれまでいなかった。実に面白い!」


 銃弾の雨を掻い潜りながら、笠井修二の剣の振り抜きをいなしていくリアム。これを対処しているリアムの脅威的な動きも天晴れなものだが、二つの動作を同時にこなしている笠井修二も尋常ではない。


 二つの魂がぶつかり合いながら、互いに劣勢になる様子は未だになかった。


 ミラの超速スピード×桐生大我の極限集中状態×笠井修二の射撃スキル×神田慶次の敏捷性×アリスの柔軟性。

 これら全てを組み合わせても、まだリアムには届かない。

 前回はそれぞれを単独で模倣しながら戦ったのだが、リアムの足元にも及ばないほどに完敗だった。

 だからこそ、複合させたこの戦い方が笠井修二にとっては切り札のようなもの。それで通用しなければ、リアムには到底勝つことなどできない。


「クソッ!!」


「迷いが見えるね。それとも、それがキミの限界か?」


「――っ!」


 聞くなと、頭でそう考えてみても、リアムの言葉に間違いはない。

 そう、これが限界のようなものだ。同時に複合した模倣は、あくまでこれまで笠井修二が見てきた動きを体現したもの。その全てを使っても太刀打ちできなければ、リアムには傷一つつけることは叶わなくなる。


「そら、死ぬぞ?」


「くっ!?」


 予備動作のない動きからの刺突。笠井修二の顔面へと目掛けてのその攻撃に、笠井修二は怯んだ。

 寸前で避けることには成功したのだが、彼の頬には掠り、血が顎へと伝っていく。


「私はキミに言ったな? キミの全てを奪い、思い知らせてやると」


「……ああ」


「もうすぐだよ。キミがどれだけ足掻いても、叶わないものはある。人間としての側でいれば、永遠に叶うことはない」


「……何が言いたい?」


「簡単な話だ。キミはこっち側の生物だ。だから、私はキミを試したのだよ。キミから全てを奪おうとした時、キミがどうなるのかをね」


「――――」


「キミは桐生とは違う。そろそろ目を覚ましたらどうだ?」


 それは、笠井修二をクリサリダの組織へと勧誘しようとしているリアムの思惑だった。

 ここまでの地獄を作り上げ、誰も救えない状況を作り出し、笠井修二を絶望させる。

 そうすれば、笠井修二がリアムの側につくと、この男は本気でそう考えていたのだ。


「――ああ。確かに、目なら覚めてきた」


「ほう」


「……てめえを殺す為の覚悟、その薄っぺらく眠たい自分にな!!」


 その時、笠井修二はサブマシンガンを背中に残し、もう一本の剣を抜いた。

 そして、二刀流となった笠井修二はリアムへと再び突っ込む。


「何をしようと変わりはしない。なぜそれが――っ!?」


 会話をしながらでも余裕を見せていたリアムだが、笠井修二のある動きが見えた瞬間に、彼の表情が変わり、すかさず顔を逸らした。

 そして、笠井修二の刺突がリアムの顔面ギリギリを突き刺しかけたのだ。


「ちっ、外した」


「……その動き、まさか」


「色々考えてみたんだけどよ。俺がそっち側につくとかなんとか……」


 あとワンテンポ早ければ、リアムを殺せていたという状況に、笠井修二は舌打ちをしてリアムへと振り向く。


「その寝ぼけた想像が本気で叶うと思ってんのか? クソ野郎」


「くく、まだ抗うか?」


「俺は何を利用してでもてめえを殺す。誰の力を使ってでもな!!」


 ミラの超速スピード×桐生大我の極限集中状態×笠井修二の射撃スキル×神田慶次の敏捷性×アリスの柔軟性。


 そして、笠井修二はまた一つ、ある力を足した。

 それは、笠井修二がまだ知らぬ可能性の一つであり、一度その片鱗を目の当たりにした経験の一つ。


 笠井修二は既に、敵であったミラの能力を自分のものにして活用している。

 もう、迷わないのだ。たとえ、敵であろうと、リアムを殺す為ならば、やってやる。


 メキシコ国境戦線――。笠井修二はもう一人の『レベル5モルフ』と一度手合わせをしていた。

 彼女の名を知らない。しかし、リアムは知っている。


 そして、その動きの先である彼女の固有能力。

 全ての先を見通し、あらゆる相手の動きを見切る未来を読むともいうべき力。

 彼女が使用していた朱き眼とは違い、全開状態の一つ下と言うべきところだが、二刀流となっていたことで、模倣の精度は上げられる。


「リーフェン、彼女の力までも扱うとはな!!」


「てめえの仲間の力を使って、てめえを殺す!!」


 実際に朱き眼の固有能力を目の当たりにまではしていないが、現在の複合模倣状態の笠井修二にその一段階下の力が加わるだけで、動きのレパートリーが増えていく。

 その力を行使しながら、笠井修二はリアムへと連撃を合わしていく。


「――っ、やるな」


「死ね、死ねぇっ!!」


 今まではリアムも、攻撃を要所要所で仕掛けてきていたのだが、今度は防戦一方の展開へと傾けていた。

 このまま押し切れば、リアムを殺せる。


 その慢心が、彼の油断となった。


「……足りないな」


「がっ!?」


 笠井修二の刺突を読み切り、リアムは胸部へと赤黒き剣を振り抜き、笠井修二を斬りつけた。

 避けることも間に合わず、彼の胸部から多量の血が溢れ落ちる。


「ぐ……っ、く……」


「足りない、足りないよ。この程度ではまだ……。キミの力は確かに素晴らしいものだ。他人の身体能力、果ては動体視力を含めて模倣し、それを複合させた動きをする。だが、それをしたからとて、私には届かない。なぜだか分かるかい?」


 深い傷を負い、動くことがままならない笠井修二へと向けて、追撃は図らず、言葉でもって話を仕掛けるリアム。

 その問いかけに、答えを見出せないでいた笠井修二は、再生能力を行使して一刻も早い治療をしていた。


「私の固有能力、全方位集中感知能力は全てを把握できる。キミの動き、それがどこから動き出しているのか、私には認知できているのだ」


「全方位……集中感知能力、だと?」


「いわゆる直感的な力に近いかな。異常聴力、私を軸にして、半径千メートル地点にいる生物の全て、その存在を認識することができるのだ。そして、私のテリトリーの中に近い者は、その動きさえも認知することが可能となる」


「なっ!?」


「キミがどれだけ自身の固有能力で他者の力を模倣しようとも、私にはキミの攻撃の全てが認知できてしまう。先ほどのリーフェン特有の突きには驚かされたが、すぐに対応できたよ。現に、傷一つついていないのが良い証拠だ」


 リアムの固有能力が明かされ、笠井修二は驚愕の目を向ける。

 全方位集中感知能力――。これまで笠井修二の攻撃の全てを対処できたのは、その力によって先を読まれていたということだ。

 しかし、先を読めていようと動きを最小限に判断して動くリアムの身体能力の高さ、それがあってこその能力とも言える。


 リアムの圧倒的な身体能力と固有能力、それが複合して、相性の良いものとなってしまった。


 つまり、この男を止める術は――。


「まだ、キミは足りない。だから私は何度でも言おう。キミから全てを奪う時まで、この戦いはお預けだ」


「なっ!? がっ!!」


 再生を行使している途中で、リアムは笠井修二の目の前へと瞬時に移動し、再び剣を振り抜いた。

 傷口に傷を重ねる形で斬られ、その勢いのまま、笠井修二は吹き飛ばされる。


 マズイ。このままだとリアムに逃げられる。

 また、奪われる。大切な仲間が――。奴は俺を絶望させる為に、何度だって俺から奪おうとする。


 クソッ――。


「修二!!」


「――っ!?」


 吹き飛ばされ、笠井修二の体を受け止めに掛かる懐かしい声が聞こえた。

 しかし、勢いは変わらず、助けに入った椎名真希もろとも、笠井修二は遥か遠くへと吹き飛ばされていった。


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