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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase7 第七十一話 『幻想一閃』

風邪引いて作成に滞りました。再開します。

phase7 第七十一話 『幻想一閃』

 三体の巨大生物を相手に見据え、距離を測る笠井修二は出方を窺っていた。

 人間が相手ならば、ここに今いる他の巨大生物達の死骸達には手も足も出ず死んでしまっていただろう。そのほとんどをたった一人で片付けた笠井修二の力量は、もはや一個師団並みの戦力をも上回っている。


「ミミズみたいな奴は這いずり回っている。あのスライムみたいな奴は……こっちの動きを見計らっているな。そして真ん中に陣取っているあれは……明らかに俺を意識して動いている」


 それぞれの動きを見極めながら、どの巨大生物から攻めるべきかを考える笠井修二。この三体は弱点らしき部位をまだ見出せていない手合いだ。

 真ん中に陣取る翼を持った巨大生物は骸のような頭部がある分、まだ弱点がないとは言い切れはしないが、それでもそこから攻めようとまでは考えてはいなかった。

 なぜなら――。


「あれは最後だ。多分、あいつが一番厄介な筈……」


 なぜかは分からないが、笠井修二にとっては一番危険視していたのはあの翼を持つ巨大生物だった。

 これまで倒してきた巨大生物達の特徴は、どちらかというとモルフと同じ挙動をすることがほとんどだった。

 人間を視認すれば、殺意に任せて殺しに掛かろうとする本能。それがあの翼を持つ巨大生物には感じ取られなかったのだ。


 まるで意思を持った生物のような――人間でいう相手側の動きを見て動きを変えるような挙動をしていたのだ。


「――ちっ、そう易々と考える時間はくれねえってかっ!!」


 相手の動きを観察していた笠井修二であったが、先に動き出したのは相手の方だった。

 ミミズ型の巨大生物とスライム型の巨大生物の二体が同時に動き出し、笠井修二へと襲い掛かろうとする。

 ミミズ型巨大生物は一際大きいその体を動かして巨大な頭のような部位を笠井修二目掛けて突っ込んでくる。

 そして、スライム型巨大生物は体内にある水のような液体を圧縮させて、水鉄砲の如きやり方で超高速の速さで笠井修二の体へと発射させてきたのだ。


「っ!」


 スライム型巨大生物の高圧水鉄砲を体を反らすことで避け、その瞬間を狙って目も口もないミミズ型巨大生物が笠井修二目掛けて巨大な体をぶつけにかかってくる。


 受け身も取らずに受けてしまえば、体の骨という骨がバキバキに壊されてしまうであろうその物量に対して、笠井修二はあえて避けるのではなく、対抗する形で勝負に掛ける。


「くっ、おらぁぁっっ!!」


 剣を振り抜き、持ち前の身体能力を活かして立ち向かう笠井修二であったが、比較にもならない程の質量の差は覆すことはできない。

『レベル5モルフ』の力を持ってしても同じことだ。笠井修二はミミズ型巨大生物に力負けして、弾かれて飛ばされてしまう。


「くっ……!」


 この体勢はマズイ。体勢が崩された先を、あのスライム型巨大生物が高圧水鉄砲で笠井修二目掛けて狙いでもすれば、彼に避ける手段はない。

 その最悪の展開通りのことが起きてしまう。

 極小――僅か二センチメートルにも満たないが、笠井修二の肩とふくらはぎの二箇所を何かが貫いたのだ。


「がっ!?」


 笠井修二の視界には何が起きたかが見えていない。しかし、見えていなくても分かっていた。

 あのスライム型巨大生物が放った高圧水鉄砲が笠井修二の体の一部を貫いたのだ。


 血が空中に舞い散りながら、笠井修二は冷静になろうとした。

 ここで焦りでもすれば、更なる追撃を避けることは難しくなってしまうからだ。


「……こい」


 あえて笠井修二は誘いをかけた。こちらからの攻撃手段としての攻略法がない以上、別の方法を探るしかないからだ。

 待ちの姿勢で空中にいる笠井修二目掛けて、再びミミズ型巨大生物が後ろから迫ってくる。


「――――」


 当然ながら、笠井修二は後ろからあのミミズ型巨大生物が迫ってきていることには気づいている。

 問題はあのスライム型巨大生物――。少しでも目を離せばどのタイミングであの高圧水鉄砲を放ってくるかが読めないのだ。

 予備動作なし。そして水という物質を射出させただけで人体を貫くあの速度は厄介なことこの上ないものだ。


 笠井修二がやっていることは、人間観察をするそれに近い行為だった。

 相手の動き、癖などを見抜き、取り入れる。彼が完全模倣能力を使用する上での学習能力にも直結するのだが、笠井修二がやっているのは巨大生物達の力を学習することなどではない。

 それぞれの動きの行動パターン、相手がモルフであるならば、それは更に単純なものに近い動きになる。

 今まで倒した巨大生物達もそうだったのだから、この二体に関しても違うとは言い切れないだろう。


 そして、ミミズ型巨大生物が笠井修二へと激突しようとしたその時、笠井修二は地面に足がついたタイミングで跳躍し、突っ込んでくるミミズ型巨大生物の真上へと飛んだ。


「ここだ」


 笠井修二の体を壊すことが叶わず、ただ通り過ぎただけのミミズ型巨大生物だが、笠井修二の狙いは避けるだけに留まらなかった。

 彼が呟いたと同時、彼の視界にいたスライム型巨大生物がミミズ型巨大生物が間に入ることで見えなくなる。

 そして、笠井修二は武器を構えていた。すると――。


「――ッッ!!」


 笠井修二の下を通り抜けていたミミズ型巨大生物に動きがあった。

 まるで痙攣を起こしているかのように身悶えをし、苦しんでいるように見えたのだ。

 そして、断続的に衝撃音が鳴りながら、ミミズ型巨大生物の巨大な体を貫いてくる物体が笠井修二へと飛んできた。


「よし」


 それを予期していた笠井修二は、身を翻しながら避けていく。

 ミミズ型巨大生物の体を貫き、笠井修二に襲いかかったのはあのスライム型巨大生物の高圧水鉄砲だった。

 あの強力な攻撃を逆手に取り、あえてミミズ型巨大生物に当てることで同士討ちを図ったのだ。


「そのまま二体とも崩れ落ちろ」


 そして、笠井修二の狙いはミミズ型巨大生物の討伐だけに留まりはしなかった。

 勢いよく飛び出してきたミミズ型巨大生物は力を失うかのようにして地面へと崩れ落ち、スライム型巨大生物のいる地帯へと落ちたのだ。


 共に巨大な質量を持ち合わせていて弱点が分からない。ならば互いの武器をぶつけ合わせればいい――。それが、笠井修二の考えた作戦だった。


 その結果通り、ミミズ型巨大生物は体に穴を開けられ、力失くして死に向かいながらスライム型巨大生物を踏み潰した。


 これで、残りは一体の巨大生物を残すのみとなる。


「ここからが正念場だ」


 残り一体となったことで、笠井修二は慢心することはなかった。

 今持ちうる最高のポテンシャルを発揮させて、ビルとビルの群を駆け抜けていき、翼を持つ骸の巨大生物へと接近を仕掛けていく。

 障害物がある以上、あちらにもこちらの位置は割り出しにくい筈だ。反応が追いつく前に奇襲を掛けてあの頭部を斬り離す。

 その作戦通りに動こうと、笠井修二はミラの動きをコピーさせた超速スピードで駆け抜けていく。


「――見えた」


 あえてビルの建物の中を走りながら、その出口の先にあの骸の巨大生物がいることを視認した笠井修二は、右手に握る桐生の剣を強く握り締めた。

 そして、出口を出た直後だった。


 笠井修二はすぐさま剣を振りかぶるつもりだった。

 しかし、出口へと出てから跳躍し、剣を振りかぶろうとした直後だった。

 彼の視界に違和感が生まれた。


「――なっ!?」


 世界が、周囲の景色が突如として入れ替わった。

 ビルの群があったその地帯が、その名残りの一切も残さない砂丘の地帯となり、目の前にいた骸の巨大生物も同時に姿を消したのだ。


「なんだ……何が……っ!?」


 剣を振りかぶることを止めた笠井修二は、今起きている現状を把握しようと周囲を見渡す。

 暑い。先ほどまで寒かった冬の現場が、季節が変わったかのようにして猛暑の中に飛び込ませられたかのようにして、笠井修二は砂漠の一帯の中にいる。

 地平線の先まで何も見えない、まるで先ほどまでいた場所からワープでもしたかのような、あり得ない現象が起きているのだ。


「どうなってるんだ。そんなことありえるはずがない。こんなの……超常現象で片付けられるものじゃ……」


 今までに見てきたモルフの超常的能力はまだ、身体能力に関するものや、あってもそれに近いことをしているだけだった。

 しかし、これではもはや超能力や魔法を使っているのも同じ。笠井修二を別の場所へと移動させたというありえないことをあの骸の巨大生物がしたということになるのだ。


「クソッ、あいつは……がっ!?」


 骸の巨大生物の姿を見つけようとしたその時、笠井修二の右肩を何かが貫いた。

 見えない何か――笠井修二は反射的に動き、何もない右肩付近を剣で振り上げた。

 そうすると、何かを斬ったような感触があった。


「なん……だ?」


 何もない筈のその場所に、まるで何かがあったような感覚を受けて、笠井修二は謎を感じた。


 そして、事態は更に謎を生み上げる。

 景色全てが砂漠だったそれが、また突如として入れ替わり、今度は吹雪が吹き荒れる地帯へと変わったのだ。

 先ほどまでの猛暑とは打って変わって、今度は氷点下の中にいるかのような寒さが襲いかかる。


 その現象を目の当たりにして、笠井修二は気づいた。

 今、世界に何が起きているのか――いや、自分の身に何が起きているのかにだ。


「幻覚……かっ!」


 世界をワープさせているなどありえないと考えていた。

 そんなことは当たり前だった。そんなことができてしまうのであれば、もはや科学力の領分を遥かに超えた最強の能力でしかない。

 しかし、笠井修二の右肩を貫いた何か、それは彼には一切見えていなかった。

 見えない攻撃などありえはしない。そして、景色が入れ替わるというのは、笠井修二の視界をジャックしている存在がいるということ。

 それをできることができるのは唯一だ。


「どうやってるのかは知らねえが……クソッ! ふざけた力だ!」


 骸の巨大生物、奴が何かしらの方法で笠井修二を幻想に引き込んでいるのだ。

 手段としての方法は分からない。だが、幻覚作用のある何かを飛ばしていると考えるのが自然だろう。

 実際問題、笠井修二はあの骸型の巨大生物を視認することができていないのだ。


「どこだ……どこに……」


 居場所を掴めないというこの状況が、どれほど不利になるかが身に染みる。

 加えてこの寒さ、一体どうやっているのか、体感としてもガチガチと体が震えるぐらいに寒さが襲いかかってきている。


「目が見えないことをいいことに、俺を殺しにかかるつもりか。なら……」


 先ほどは右肩を貫いてきた奴のことだ。次は急所を一思いに貫きにかかるかもしれない。

 そうなってしまえば死は免れない。いくら『レベル5モルフ』の力を有していようと、心臓や頭部はモルフと同じ弱点には違いないのだ。


 だから、笠井修二はあえて目を閉じた。

 そして、全ての力を抜いて、脱力する姿勢に入る。


 その行動には意味がある。視覚情報を奪われている以上、骸型巨大生物の攻撃を見てから避けることは不可能。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 全身の感覚を研ぎ澄ませ、笠井修二は待ちの姿勢に入る。

 ミラの超速スピード×桐生大我の極限集中状態×神田の敏捷性。

 これら三つのみを使用した上での対抗手段。それは荒技と呼ぶに等しい、馬鹿げた手段だった。


 笠井修二には見えていないが、骸型巨大生物は幻覚に囚われている笠井修二の姿がしっかりと見えている。

 無数の触手をたびなかせ、その一本を笠井修二の胸元へと向けて照準を合わせているところだ。

 しかし、笠井修二はそのことには気づいていない。彼は未だに氷点下の世界の中にいる。


 幻想を夢見ている彼目掛けて、骸型巨大生物は一本の触手を槍のように真っ直ぐ向かわせ、笠井修二の心の臓を貫きにかかった。


「――――」


 まだ、笠井修二には骸型巨大生物の攻撃が見えていない。仕掛けてきていることにさえ気づいていない。

 それで良かった。彼がやろうとしていることは、相手の攻撃を見ることなどでは決してなかった。


 一直線に笠井修二の胸元へと向かう触手――それが笠井修二の胸元に触れる僅か一瞬であった。

 触れたと感じた瞬間、笠井修二は目を開き、彼は体を後ろへと逸らし、そのまま反転した。

 そして、前を向いた笠井修二は一気に前へと飛び出し、骸型巨大生物の触手を先から両断する形で接近していく。


「おおおおおおおおおおっっ!!」


 雄叫びを上げて突き進む笠井修二。前述したように、彼には骸型巨大生物の一切の姿が見えていない。

 笠井修二がやっていること、それは骸型巨大生物の触手による攻撃が胸元に触れた瞬間、その瞬間を狙って位置を捕捉しに掛かったのだ。

 触れた瞬間であれば、見えなくともそこにいることは分かる。

 そして、触手は本体と繋がっている。だからそこを辿っていけば本体に辿り着く。


 それを理解していた笠井修二は触手を両断し続けながら前へと突っ走る。

 ミラの超速スピードを上乗せした尋常ではない速度でだ。


「あいつの姿は覚えている。触手の先……その二メートル上が……頭部だ!!」


 骸型巨大生物の全体像を頭に叩き込んでいた笠井修二は、たとえ目で見えなくともどこに頭部があるかは把握できていた。

 確実に仕留める為に――笠井修二は振る剣を強く握り締めた。


「おおおおおおあああああああああああっっっ!!!」


 幻想一閃。鮮やかな剣の振り抜きが確かな感触を得て、骸型巨大生物の頭部を真っ二つに斬り裂いた。


 そして、笠井修二の視界が徐々に晴れていき、元の景色を取り戻していく。


「はぁっ、はぁっ……」


 ほぼノンストップで走り続け、能力を使い続けた反動が今になって笠井修二の体に疲労感として押し寄せてくる。

 ここまでの動きをして、全くの無傷で済むとは考えてはいなかった。再生能力がある以上、外傷は全て治りはするが、体力に関しては別だ。

 人間の持ちうる限界を越え続けた動きを体現してきた笠井修二は、すぐに動き出すことも難しいほどに追い込まれていたのだ。


「まだ……だ。まだ……」


 体の負担を忘れさせる為に、再生能力を行使しながら笠井修二は歩き出そうとする。

 この瞬間にも、遠くでは衝撃音のような音が各地から聞こえてきている。

 周辺の巨大生物は掃討したが、まだまだそれ以上の数がいることを証明させているようなものだ。


 だからまだ、止まってなどいられない。


「リアム……奴はどこだ? あいつを……殺すまでは……っ!」


 この戦いに終わりなんてものがあるのかどうかは分からない。

 もしかすれば、もう手遅れのところまできているのかもしれない。

 それでも、それでも笠井修二は動くしかなかった。

 たった一人の憎き男を殺す為に、自身の復讐を果たす為に――。


 もう、笠井修二はすぐそこまで近づいてきていることにまだ気がついていなかった。

 最後の決戦が近いということにだ。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 クリサリダの構成員達が巨大生物へと変貌を遂げたその時間帯、モルフとの戦闘を避けて動いていた椎名真希、サーシャ、フィンの三人もまた、想像もし難い状況を目の当たりにしていた。


「な、なんだってんだい!? これは!」


「や、やべえっすよ!!」


「走って下さい! 皆さん!!」


 M5.16薬を摂取していなかったサイレントハウンド部隊であったサーシャとフィンは唖然とした表情を浮かべ、椎名は逃げることを最優先に先に動き出していた。

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