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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase6 第六十五話 『覚醒』

 午後十時五十分。A区画外部のそこは、状況が変化の意図を辿っていた。

 たった一人の敵――『レベル5モルフ』の力を有する女に、苦戦を強いる形となってしまっていた。

 むしろ、まだ死人が出ていないのは奇跡に近かっただろう。

 この女はB区画で大多数のアメリカ人を殺戮してきたのだ。


 そして、二本の刃を持つ男女が二人が今、面と向き合って立っている。


「感動の再開……とはならなかったようですね。姉さん」


「私、あなたのこと、知らない」


「知らないですか。でも僕はあなたを知っています。あなたと僕は血の繋がった者同士ということをね」


 会話になっていない様子を見せられて、シャオはこの場の誰もが知らない新事実を語る。

 相手は何のことだか分かっていない様子だったが、シャオは確信を得ているかのような語り口だった。


「シャオ、どういうことだよ? そいつがお前の姉さんだって?」


「そうです、出水さん。僕は姉さんに会う為に大陸を超えてここまでやってきました。どうやら目的は達成できそうだ」


「目的って……そいつは『レベル5モルフ』なんだぞ!!」


「知っていますよ。笠井修二さんが『レベル5モルフ』の力を有していた瞬間を見てから、それは僕も確信していた。ですが、今はその点については関係はない」


 相手が何者か、それを分かっていながらシャオは関係がないと言い切る。

 これまでの所業を鑑みれば、この女は危険人物であることに揺るぎない。だから、許せるわけがないのだ。


「それで、姉さんは今は何て名前で生きているんですか?」


「……リーフェン」


「なるほど。良い名前、と言いたいところですが、姉さんが自分で考えた名前ではなさそうですね」


「あなたに、教える義理はない」


「はっ、どうやら姉さんを唆した馬鹿がいるようだ」


 まるで本名ではない言い回しをする二人に、出水も会話に入ることが今はできない。

 シャオは実の姉を探す為に出水達と行動を共にすることになっていた。だが、それがあの白装束の女、リーフェンであることに関しては全くの盲点でしかなかった。

 出水だけでなく、この場にいるシャオを除いた者達の皆はリーフェンを殺すべきだと考えている。

 二人の間に入ることが今は難しい。それ故に、出水も今の状況を眺めているしかできなかった。


「出水君……」


「アリスさん、足の傷は?」


「問題ないわ。ただ、深く食い込んだから踏み込むのが難しいわね。それよりも、あの子は?」


「……あれは味方、です。今はまだ、こっちは動かない方がいいでしょうけど」


 レイピアの刃に蹴りを入れてしまったアリスの足は、そこまでの斬れ味こそなかったが為に軽傷では済んでいたが、蹴りを放つ為の踏み込みに自信がないとのことだった。

 アリスは、シャオのことを深く知るわけではなかったので、今の状況に対して違和感を感じていたが、出水としても今は参戦に回るべきではない。

 少なくとも、シャオの次の立ち回り次第だ。


「姉さんが何がどうあってこんなことをしているのかは知らないけど、もうこんなことはやめよう。いくらなんでも度がすぎてるよ」


「――――」


「だって姉さんはそんな人じゃないことを僕は知ってる。誰かに唆されたんでしょ? ろくでもない誰かに――」


 戦いではなく、対話でもってリーフェンへと語りかけようとする。

 シャオが知るリーフェンとはどういう人となりなのか、それは見ている側には知り得ないが、シャオの知るリーフェンと今目の前にいるリーフェンはまるで違うようだった。


 だが、シャオのその言葉をきっかけに、リーフェンの様子が変わる。


「馬鹿に……しないで」


「ん? なんだい、姉さん?」


「父さんを、馬鹿に、しないで」


 突如、雰囲気が変わったリーフェンはその場から前がかりな体勢になり、一歩目の初速からシャオの首元へと両刃刀を振り抜こうとする。


「っ!? 姉……さんっ!!」


 目で追えないありえない速度で接近してきたリーフェンの攻撃に対して、シャオは右膝を下げて体を低くさせて両刃刀の凶刃から寸前で避ける。


 だが、それで終わりではない。体勢を下げ、その場から動くことが難しいシャオの顔面目掛けてリーフェンはレイピアで刺突を繰り出そうとする。


「くっ!」


 判断を間違えれば即死だ。青龍刀での受けという選択を取らず、シャオは避けることだけを第一優先に、首を曲げてレイピアの刺突を躱した。が、完全には避けきれず、シャオの頬。レイピアの刃が掠めて、皮膚が切れる。


「シャオ!!」


「っ! はぁっ!!」


 リーフェンは止まらない。恐らくはこのまま、一方的にシャオを殺しに掛かるつもりだと周囲の者達は気づく。

 このまま勢いに押されてしまえば不利だと考えたシャオは、両手に持つ青龍刀を強く握り締めてリーフェンの両刃刀と打ち合っていく。


「あのっ、少年とっ! いや……それよりも速いっ!!」


「――――」


 シャオは『レベル5モルフ』であったライと戦った経験があり、同じ『レベル5モルフ』であるリーフェンとの戦闘においては、同じ速度でならば見切りながら動くことを可能としていた。

 しかし、リーフェンの身体能力はあのライをも上回っており、ほぼ直感による動きだけでリーフェンの剣戟を捌き切っているという奇跡的な状況を生み出していた。


 打ち合いを想定するための作りをしていないレイピアは、突きという一点の攻撃手段である為、青龍刀を持つシャオへと攻撃を仕掛けてくるのは両刃刀の一本のみ。シャオは二本の青龍刀で対抗しているが、圧倒的な速さで押されているという状況だ。

 そして、隙があればリーフェンはレイピアでの刺突も仕掛けてくる。


「クソッ!! 姉さんっ!!」


「あなたのことなんか、知らない。私を、語らないで」


「語ってやるさ!! 何度でも、何回でも!! 忘れさせやするもんか!!」


 シャオが意地になっているところを見るのは、出水も初めてのことだった。

 たった一人の姉だからだということなのだが、当のリーフェンは人違いだと言わんばかりの様子。シャオのことなど目にも暮れていない。


「一体、何がどうなってるんだ……」


「おい、出水。どうするんや?」


「どうするったって……隙を見てあの女を殺すタイミングを窺うしか……」


「それは俺も賛成だ」


「バルダ……」


 二人の攻防を眺めることしか出来ない出水は、リーフェンを殺すタイミングを探すしかないと判断を下したが、それに対して同調したのはバルダだった。


「あの少年が隙を作る瞬間を待つしかない。キースも他の仲間も、そのつもりでいる」


「……だよな」


 出水が考えるより先に、アメリカ軍の皆は人間離れした戦いを繰り出す二人の戦闘を見守りながら銃口だけはリーフェンへと向けている。

 そう、初めから出水達にはそれしかできることがないのだ。

 相手は『レベル5モルフ』であり、シャオがやられれば次に殺されるのは自分達なのだ。


「私もバルダ君の意見に賛成よ。気を抜けば殺されるのは私達、やるなら覚悟を決めるしかないわ」


「そう……ですね」


「シャオの姉だからといって、躊躇はしてはダメよ」


「……わかっています」


 リーフェンを殺すことに関しては出水も賛成側だ。しかし、シャオの姉であることを聞かされて、気持ちが揺れていることも確かだった。

 その内心をアリスに突かれてしまい、今一度気を引き締めた出水は、二人の戦いに目を配ろうとする。


 戦闘は過激さを増していった。

 反撃の一つもできないシャオは、リーフェンの高速機動による動きで防御一辺倒の状況が続いている。


「姉さんっ!」


「――――」


 シャオの声は届かない。『レベル5モルフ』の身体能力強化を限界まで扱い、リーフェンはシャオを殺す為に変速軌道の太刀筋で武器を振りかぶっていく。


「っ!」


 防戦一方で済んでいたのは本当に奇跡に近い光景だった。しかし、そんなものがいつまでも続くわけがなく、シャオの体には擦り傷といえども、着実にダメージが蓄積されていった。


「なんで、ですか!? 姉さん! 何で姉さんはこんなことを!?」


「――――」


「姉さんは忘れてるだけだ!! あの時のことを……あの後に一体何があったっていうんだ!?」


 どれだけ声高に叫んでも、リーフェンの耳にはシャオの声は届いていない。

 感情を失くした兵器のように、どれだけ効率的に相手を殺せるかどうかという動きをリーフェンは繰り返しているのみ。一手判断を間違えれば、死は逃れられない一撃が連続してシャオへと迫ってくる。


「思い出してくれ!! あの地獄の中での別れを! 最後に僕に言い残した言葉を!!」


「――――」


 懸命に忘れた過去を思い出させようとするシャオ。

 彼だけは忘れることはない、リーフェンとシャオのかつての出来事をシャオは、シャオだけは――。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 人口増加問題。それは国において課題ともされる目を離せない問題だった。

 人一人増えることで労働力が増えるというメリットは確かに存在するが、土壌の部分でデメリットを起こす国もある。

 それは資源枯渇問題だ。農地の開拓や漁業の範囲等、そもそもができない、狭い等で養うことが難しくなることを意味する。

 資源が枯渇し、人が溢れた国はどうなるか? それは資源の奪い合いだ。暴動は起き、無法地帯と化したその国で、上に立つ人間は心中穏やかではいられなくなるだろう。

 だから戦争は起きるし、領地の奪い合いというものは永劫的に無くならない宿命ともなっていたのだ。


 そこである国は、ある政策を打ち出すこととなった。それは、夫婦間で産める子どもは一人までとする政策だ。

 人口が増加するには、最低でも一世帯で二、三人は産まないといけない。だから一人のみしか産めないという制限をかけることで、人口増加を抑制させるという狙いをかけたのだ。


 その政策は都市部のみでの実施となったのだが、実施されたからといって全員がはい分かりましたとなるわけではなかった。

 厳しい処罰があるにも関わらず、中には隠れて二人目を産もうとする者達もいたのだ。

 では二人目を産んだ際、その家族は一体どうするのか?

 いくらか事例はあるが、その一つに焦点を当てると、存在自体をなかったことにすることだった。


 はじめからその赤ちゃんは産まれてこなかった。その事実さえあれば、二人目でも三人目でも産むことができるのだ。

 シャオとリーフェンは、いわゆる二人目と三人目の位置に該当される。

 彼らは産まれて物心つくその歳に、親に捨てられた。

 出生届すら出されていない彼らは戸籍も持たず、教育や医療を受ける権利がそもそもない。

 彼らはではどうなってしまったのか、行き着く先は人身売買の売物となってしまうことだった。


 場合によっては臓器ごと抜き取られ、それらを売物にされることも珍しくなかったのだが、シャオとリーフェンはその対象にはならなかった。

 彼らは国が作られし工作員養成所に引き取られ、そこで暗殺や工作活動の教育を受けることとなった。


 だが、それが生きる上で幸せなものになることは決してなかった。

 地獄ではない日など、一日足りともなかった。休みの日などなく、痛みに耐える為の訓練と称して骨を砕かれ続けるあの地獄を一日足りとも忘れたことはない。


 彼らはその養成所にて、たまたま休憩時間が被っていた時がある。


「姉さん……大丈夫?」


「……うん。もうこんなことは、何回も経験したから……」


「そう……僕はもう、ダメかもしれないよ……」


 三角座りをして、この地獄に耐えきれられないと吐く少年、当時は名前などなかったが、その少年がシャオであった。

 そして、隣で同じように痛みに耐えようとしているのがリーフェンであった。

 彼らは手の骨を砕かれており、まともに握ることもできない状態となっていた。

 なぜ、そんなことをするのか、それは痛みに耐える為と合わせて、骨折から治った際、元の状態よりも骨が太くなるからというふざけた理由に他ならなかった。


「頑張ろう、私もまだ、頑張る、から」


「……僕はもう、死にたい」


「私が、いる。だから、諦めないで」


 自殺したいという願いを語るシャオに、リーフェンは優しく諭してあげていた。

 シャオにとって、心の拠り所はリーフェンだけだった。

 唯一、血の繋がった姉であることを知っていたシャオは、姉という存在に助けられていた。

 彼女がいなければ、シャオはとっくに自殺する手段を探していただろう。彼女が止めていなければ、シャオの心はとっくに壊れてしまっていただろう。


「……分かった」


「うん。さすが、私の弟」


 そう言って、リーフェンはシャオの頭を撫でた。

 感覚すらないであろうその手をシャオの頭に乗せて、痛いのを我慢して優しくさすっていた。


 この工作員養成所には、シャオとリーフェンだけではなく他にも子ども達がいた。

 彼らも同じくして戸籍を持たない子ども達であり、シャオ達と立場は全く同じだ。

 しかし、そのほとんどの子ども達はシャオ達とは違い、心は完全に壊れきっていた。

 連日続く地獄の日々に感情は失い、まるでロボットのように動く操り人形となってしまっていたのだ。

 中でももう使えないと判断された子どもは、大人達の手によって殺処分されることもあったのだが、シャオにとっては逆に羨ましく感じていた。


 この地獄から解放されたのだ。生きるということは、苦しみがずっと続くことを意味する。


 姉という存在がいたことで、シャオも心は完全には失うことはなかった。


 しかし、リーフェンはそうはならなかった。

 それは二ヶ月が経ったある日のことだった。二週間ぶりに顔を見たシャオは、リーフェンの様子が変なことに気づいたのだ。


「……姉さん?」


「――――」


 リーフェンはシャオの声が届いていない様子で、その目は虚ろと化していた。

 まるで周りにいる子ども達と同じような、感情を失った表情を浮かべていたのだ。


「姉さん! 僕が分かる!? 姉さん!!」


 どれだけ声を上げても、リーフェンは返事の一つもしてくれない。それどころか、シャオが目の前にいることを認識していないような、そのような雰囲気さえある。


「ちっ、こいつももう使えないか」


 そんな中、リーフェンの様子に口を出す大人がいた。

 この工作員養成所で指導をする男、シャオ達へと地獄の日々を味合わせていた者だ。


「この二人は見込みがあると思ったんだがなぁ。仕方ない、こいつも処分するか」


「ま、待って下さい!!」


 処分という言葉を聞いて、シャオは止めようと声を荒げた。しかし、その瞬間にシャオは顔面を殴られ、壁へと叩きつけられた。


「がはっっ!!」


「何を俺に口答えしてる? お前はいつから偉くなったつもりだ? お前達は道具なんだよ。道具が口答えするんじゃねえ」


 理不尽な物言いをされて、シャオはその場から立ち上がることができない。

 動きたくとも動けないのだ。ただでさえ負担が掛かっていたこの体が背中から叩きつけられたことで、彼の体は言うことが聞かない状態となっていた。


 この養成所では指導者達への質問等、一切の発言が許可されていない。

 ただ言われたことだけをやらされ、地獄のような日々を過ごされる。それがこの養成所の酷さの所以であった。


「……姉……さん……」


「おら、こっちにこい。お前はもう使えない。楽に死なせてやるよ」


「姉……」


 手を上げて、連行されようとするリーフェンへと手を差し伸べようとするシャオ。

 意識が途切れようとする寸前、シャオは見た。

 リーフェンが最後にこちらを向き、口元を動かしているのを。

 シャオ達はこの工作員養成所で口唇術を習っていた為に、シャオもリーフェンの口元の動きから何を言おうとしていたのか、気づいていた。


 生きて――と、最後に彼女はシャオへと向けてそう言っていたのだ。


 それからのことはシャオも忘れたことはない。

 一人になり、生きている限りは続く地獄の日々。心は擦れていき、シャオも徐々に感情を失っていこうとしていた。


 そんなある日のことだった。

 リーフェンを処分すると決めた指導者の男が、シャオを呼び出してきたのだ。


 狭い一室だった。一体、何を言われるのかと不安に駆られていたシャオであったが、もうどうでもよかった。

 この際、自分も処分されると言われた方がそれが一番嬉しい話だったからだ。

 しかし、彼がシャオへと持ちかけてきた話の内容はまるで違っていた。


「おめでとう。お前は晴れてこの養成所を卒業することになった。よく耐えたな」


「……え?」


「これでお前も他国への工作員として立派に活動が出来るということだよ。喜べ、お前はこの国の為に動くことが出来るんだからな」


 全くの予想外な話だった。シャオはこの工作員養成所を卒業し、晴れて工作員という名の職業が与えられることとなったのだ。


「もう発言は許可している。どんな気持ちだ?」


「――――」


「くく、驚きで声も出ねえか」


「僕は……」


 指導者への発言が許可されて、シャオは何年かぶりに言葉を発するかのようにして口元を動かした。

 何を聞くか、何を話したいか、そんなものは一つだけだった。


「僕は……もう……死にたい……です」


「ああん?」


「もう、姉さんのいない、こんな世界はうんざりだ……。お願いです、僕を……処分して下さい」


 シャオにはもう、この世界で生きていく気力はなかった。

 名誉ある国の工作員になれたところで、シャオには大義なんてものはない。

 姉という存在だけが、この世界で生きる理由でしかなかったのだ。

 だからもう、シャオは死にたかった。


「姉……ね。あのガキのことなら心配するな。多分、生きてるよ」


「……え?」


「予定では殺処分という扱いだったんだがな。物珍しいやつがいたんだ。目も眩む大金であの女を買いたいと申し出たやつがいたからな」


「生き……てる?」


「どういう扱いをされてるかは知らねえよ。ただ、生きてる可能性は高いだろうな」


 あの後の真実を聞かされて、シャオはその目に光が帰ってきた。

 どうやっても、もう姉であるリーフェンとは生涯出会うことはないと考えていたからだ。

 名も知らぬ人間に買われた今の現状でも、もう一度出会えるかどうかは難しい現実だが、希望はある。


「そう……ですか」


 その時から、シャオにとっての第二の人生が幕をあけることとなった。

 他国への工作員として活動し、機密情報の奪取や要人の暗殺。奇しくも、養成所で得た経験がこれほどまでに役に立つとは当時はそこが一番の驚きだった。

 しかし、工作員の活動はシャオにとって表向きのものでしかない。

 今も同じ時間を生きている姉、リーフェンを探すべくして、シャオは時が来た際に工作員を勝手に辞めていた。


 色んな国を渡った。それはもう、世界一周と言ってもいいぐらいにだ。シャオは表ではなく、裏の人間がいるいわゆる犯罪集団から情報を得ようと一人で活動をしていた。


 ほどなくして、日本という島国でモルフウイルスという新種のウイルスが発表された。

 そして、偶然か必然か、シャオは姉の情報を闇市場で得ることができてしまった。


 シャオの知る特徴の人物。その者は白装束を身に纏い、不死身のように傷ついた体を再生させることができると――。


 そして、彼は不思議に考えると共に、今世界で起きている状況と重ね合わせることである仮説を立てた。

 モルフウイルスと姉が何か関係しているのではないかという仮説にだ。


 それからシャオは今、日本と同じようにしてモルフウイルスで国家崩壊が近いとされるメキシコへと渡ることになった。


 そこからの出来事は答え合わせをするのと同じだった。

 メキシコ国境戦線――その戦地にて、シャオは一人の日本人の男と出会うことになる。

 姉の特徴と同じ、自らの肉体を再生しようとする者、笠井修二と――。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 ギリギリの死闘が今もなお繰り広げられていた。

 反撃こそしてはいないが、シャオはリーフェンの攻撃を寸前で見切りながら、二本の青龍刀を使って捌いていた。

 余裕があるわけではない。しかし、リーフェンに語りかけるのならば今しかない。


「姉さん!! 僕の目を見ろ! 僕は諦めなかったぞ!! 姉さんの言う通りにだ!!」


「――――っ」


「絶対に諦めるものかっ!! 姉さんを取り戻すまでは!!」


 その時、リーフェンの太刀筋に違和感が起こる。

 目で追い切ることも難しいその剣閃が、シャオの首元に届く寸前で止まったのだ。


「ぁ……くっ……」


「姉さん!?」


 そして、何かに苦しみ出すかのようにして頭を抑えこむリーフェン。

 明らかに様子が変わったリーフェンに、シャオも青龍刀の刃を地に落とす。


「おい、今がチャンスだ!!」


 ここぞとばかりに、アメリカ兵達が苦しむリーフェンへと向けて銃口を向ける。

 しかし、シャオがリーフェンの前へと出ると、その両手をあげて、


「やめてくれ!! もう少しなんだ! 姉さんが自分を取り戻そうとしている!」


「何を血迷ったことを言っている!? この女は俺達の仲間を……この国をめちゃくちゃにした張本人なんだ! 死罪は免れない!」


「僕がなんとかする! 頼む! 銃を下げてくれ!!」


「――っ」


 シャオの必死の懇願に、耳を貸す必要なんてものはないだろう。

 だが、その必死さを見ていた出水が手を上げると、


「一旦、シャオに任せてみましょう。動きがあれば……その時は一斉に撃つ。それでいいな、シャオ?」


「ありがとう……ございます。出水さん」


 リーフェンのことは任せると言い切る出水に、シャオはホッとした様子で礼を言った。

 他の者達も渋々というべきか、動きがあれば撃つというリスクヘッジを残した選択があったことで納得した姿勢だった。


 そして、シャオは再びリーフェンへと向き直ると、


「姉さん……帰ろう? 僕達はもう、地獄の日々を過ごすことはないんだ。今ならまだやり直せる」


「――――」


 左手に握る青龍刀を離し、その左手をリーフェンへと向けて、シャオは手を取ろうとする。

 リーフェンが自分を、忘れた過去を取り戻せば、シャオに対する敵意はなくなるはずだ。

 きっと、思い出してくれた。その筈だと、シャオは考えていた。


 そして、だらんと腕が下がり、上体を傾けて表情が見えなくなっていたリーフェンは落ち着きを取り戻したのか、大人しくなった。


「さぁ……姉さん」


 ゆっくりと近づき、シャオはリーフェンの手を取ろうとする。


 そして、そして――。


「……え?」


 シャオは違和感を感じた。差し伸べた左手、その左手の感覚がなくなったのだ。


 血が、溢れんばかりの血がシャオの視界を埋め尽くしていった。

 シャオの左手が肘部分から切断され、宙へと舞ったのだ。



 その時、シャオだけではない。出水も清水もアリスも、この場にいる全員が同時に気づいた。


 顔を上げたリーフェンのその眼が、赤く――朱く輝いていることにだ。

リーフェンの固有能力発動前の強さを説明すると、ミラと戦った際の全開時の笠井修二がギリギリ渡り合えるレベルで想像して下さい。

次話は物語上、笠井修二対ミラとの戦い以上に書きたかった内容です。

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