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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase6 第六十話 『死神は舞う』

 モルフテロ発生から六日目の午後八時四十五分。

 そこはミスリル内部D区画、アメリカ軍司令室の中だった。


「アーネスト大尉、急な呼び出しとは何の御用で?」


 そこにいたのは、およそ場違いと言われてもおかしくはない、日本側の司令、風間がアーネストから呼び出されていたところだった。


「お待ちしていましたよ、風間司令。なに、あなた達とは今も共同戦線を組むべき間柄だと考えておりましてね。大事な情報の共有も兼ねてお呼び出ししました。急な呼び出しとなったことは謝ります」


「恐縮です。しかし、情報の共有とは?」


 長ったらしい挨拶は抜きにして、単刀直入に問いかける風間。アーネストは風間の問いかけに対して、難しい顔つきに変わると、


「我々はリアムの追跡を今も行っています。その件についてですな」


「リアムの位置が分かったのですか?」


「いえ、位置は始めから割れていた。問題は次々に送り込んだ兵隊達がなし崩しに殺されてしまったこと。今もリアムは空の目からは逃れられてはいないですがね」


「空の目……無人機ですか?」


「正解です。無人航空機UAV、機体に取り付けられた追跡カメラには今もリアムの姿を捉え続けている状況には違いない」


 このモルフテロの首謀者ともされる人物、リアムの位置を捕捉していると発言したアーネスト。ただでさえ危険なあの男に、どうやって追跡を可能とさせたのか。それはアメリカが誇る技術の結晶でもある無人航空機UAVのおかげだった。

 無人航空機UAV、それは文字通り、空から地上を偵察する為に使用するとされるドローンだ。

 空の目とも呼ばれる高性能ドローンでもあるが、高性能と一括りにできるほど、甘いものでもない。

 その気になれば、上空八キロ地点から地上にいる逃走犯を見つけ出すことも可能とされるほどの精密さを誇っている。


「それで、どうされるおつもりですか?」


「奴の向かう先……狙いが絞れてきたということだ」


「狙い?」


「このミスリルからそう遠くない地点、そこにはこのミスリルよりも守りが硬い大型シェルターがある。そこに我々の心臓ともなる人物がいる」


 リアムが何をしでかそうというのか、今の時点でも察することができていない風間だが、アーネストは続けてこう話す。


「なぜ……情報が漏れているのか……。そこにはアメリカの大統領がいるのだ」


「――っ、それは……」


「奴の狙いは大統領の暗殺。辿り着く前に対地ミサイルによる絨毯爆撃を行う予定だが……それよりも……」


「情報が漏れていた……そこが気がかりですね」


「ああ、だからキミ達の手を借りたいと考えていたところなんだ」


 状況が状況なだけに、アーネストは日本人である風間達に協力の体制を提案したのだった。

 しかし、風間はある程度予測の範疇ではあった。アメリカ側にクリサリダのスパイがいること、ここは既に風間は気づいていた。

 周囲の何者も信用が出来ない現状、協力を促したのはその部分にも掛かっていたのだろう。


「もちろん、我々はいかなる時でも協力します」


「ありがとう。しかし、リアムの狙いが読めないな」


「大統領暗殺の真意ですか?」


「そう、暗殺を企てる理由の主が恨み憎しみが多い。しかし、リアムの性格から見て、恨み憎しみで殺しにかかるとは考えにくいのですよ」


 リアムがなぜ大統領暗殺を企てているのか。状況だけを見れば、混乱に乗じて暗殺に出たという行動の理由には当てはまるが、動機には繋がらない。

 そこに関しては、アーネストも答えを出しかねていた。


「何か狙いがあるということでしょう。まあ、核のボタンですら大統領の許可がない限りは押すことが出来ない。そこを絶たれては他国からも――」


「――――」


 瞬間、風間は頭の中が真っ白になったかのように唖然とする。

 パズルを解く際、あと一個のピースが足りなくてもどかしい思いをする、それが解消されたかのようなそのような感覚にだ。


「風間司令?」


「アーネス――」


「大尉!! 緊急事態です!」


 司令室の扉を勢いよく開けて、血相が悪い表情で中へと入ってきた一兵卒。何事かと全員が振り向くが、


「どうした? 今は忙しい。ちょっとしたトラブルなら――」


「ミ、ミスリル内部に、モルフが侵入しています!!」


 状況は変わっていく。まるでこの時を待っていたかのようにだ。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「な、何者だ!?」


 B区画外門内壁部、交代メンバーが来たのかと考えていたネロとベリックであったが、それは違っていた。

 身なりからみても、明らかに危険人物だと思わせるに等しい雰囲気を漂わせていた。

 そして、白装束を纏いしその女は、ネロの問いかけに対して冷酷な表情を向けながらこう答えた。


「あなた達の、敵」


「っ、ベリック!!」


「おうよ!!」


 人を殺傷させる武器を持ち、自らを敵と呼称するからには二人も遠慮はしない。

 すぐさま、側に置いていたアサルトライフルを握った彼らであったが、その動作をしたことだけでも致命的だった。


 白装束を纏った女、リーフェンが一瞬の目を離した隙に目の前から消えたからだ。


「なっ!? どこだ!?」


「ここ」


「っ! がっ!?」


 視界の死角へと潜り抜けてきたリーフェンは、銃口の向きを変えようとしたベリックの左腕を両刃刀で斬り落とし、ベリックの斬り落とされた傷口から大量の血が飛び出る。


「ベリック!!」


「う……つなぁっ!」


 すかさずリーフェン目掛けて銃口を向けたネロであったが、ベリックとの距離があまりにも近い。

 被弾の恐れを気にしたベリックが、ネロの射撃を止めさせようと声を上げたが、それすらも判断ミスとなる。


 リーフェンは迷わない。一切の返り血も浴びないまま、ベリックの背中へと回り、その背中をレイピアで串刺しにしてネロ目掛けて突っ込んでくる。


「お、おおおおお!!」


 あまりにも残虐なこの女に対して、ネロは錯乱してしまう。仲間であるベリックのことなどお構いなしに、ネロはアサルトライフルの引き金を引き、リーフェンの盾となってしまっているベリックへと銃弾を乱射していく。


「うあああああああああっっ!!」


 どれだけ乱射しても、その銃弾が向かう先はベリックのみで、こちらへと向かってくる足先を止めることは叶わない。

 撃つことしか頭になかったネロは、その勢いのままベリックと同じようにリーフェンのレイピアによって串刺しにされた。


「がっ……」


 心の臓を貫かれ、口から血反吐を吐くネロ。致命傷を与えたと考えたのか、リーフェンはその場で串刺しになった二人の体からレイピアを引っこ抜く。


「ぐ……」


 全身の力が抜け、その場で倒れる二人。ベリックに関しては、あれほどの銃弾を浴び続けたことで既に絶命してしまっていた。

 ネロももう、意識が落ちかけてきている。死が迫ってきていたのだ。


 その僅かな意識の中で、リーフェンを見た。

 彼女はネロ達のことなど目線もくれないままに、少し離れた位置にある何かを拾い上げ、ミスリルの出入り口を操作できる装置の前へと歩いていく。


「馬鹿……が……。無駄だ……お前にはそれを……開けることなんて……」


 アメリカ軍関係者でもない限りは、指紋認証登録もされていないリーフェンにその扉を操作することは出来ない。

 恐らくは外のモルフを中に招き入れようなどと考えていたのだろうが、そんなことは不可能だとばかりにネロは最後の意識でそう吐き捨てようとした。


 しかし、実際はそうはならなかった。

 リーフェンが装置を弄った僅かなその時間、認証確認の音が鳴ったのだ。


「なっ!?」


 ありえなかった。ハッキングすら不可能なそのセキュリティを突破したとも考えづらい。なぜ認証を確認することが出来たのか、その理由は彼女の手に持つそれが起因していた。


「あれは……ベリックの……左腕?」


 指紋認証を承認できるのはこの場にいるベリックとネロ、他はここにいないアメリカ軍の兵士のみ。奴はベリックの左腕を使い、その指を使って無理矢理指紋認証を突破したのだ。


「や……めろ……」


 ここを突破されれば、ミスリルが大変なことになってしまう。そのことに危機感を持っていたネロは、最後の抵抗をしようと(もが)こうとする。


「始めるよ、父さん」


「やめろぉぉぉぉぉっっ!!」


 叫び虚しく、リーフェンはミスリル外壁の門を開けるボタンを押した。

 そして、ゆっくりと門が上へと開けられていく。


 薄れゆく意識の中、ネロは地面に落ちたアサルトライフルを拾おうとする。

 なんとしてでもここは死守しなければと、軍人としての最後の矜持を図ろうとしているのだ。


 しかし、無駄な抵抗にしかならなかった。

 まるで待ち構えていたかのように、開かれた門の奥から大量のモルフが中へと入ってくる。

 まだ息があるネロへと向けてだ。


「く、くるな……」


 いっそ、楽に殺してくれた方がまだマシだったのかもしれない。

 人間を感染させる為に、食べるという行いのみをするモルフ達は、獲物を見つけたかの如き飽くなき勢いでネロへと迫ってくる。

 噛みつき、食い千切り、待ちに待っていた獲物をモルフは集団で襲いかかる。


「や……め……あがぁぁぁあぃぃぃっっ!!」


 最後の死ぬ瞬間、ネロは叫び続けた。痛みという痛みをその全身に味わい、彼は絶命する。


 そして、リーフェンもいつのまにかその場から姿を消していた。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 B区画からのモルフの侵入の報告を受けたアーネストは、唇を噛み締めていた。

 なぜ、いつの間に侵入されていた? この要塞の中に侵入しようなどと、ただの人間であっても簡単なことではない。


 もしくは、避難民の中に紛れ込んでいたのか? そうであるならば過失という他になかった。

 モルフの感染者がいないかどうかのチェックはしていても、その素性までは調べきれてはいない。

 それにこのタイミング、まるでこれでは、


「クリサリダの一味が狙って仕掛けた。そう判断するしかないでしょう」


「風間司令……」


「今はモルフの鎮圧と避難民区画への侵入を防ぐことが最善です。アーネスト大尉」


 監視カメラに映る白装束の女を見て、これがクリサリダによる襲撃であると結論付けた風間は、アーネストへと指示を出させることを促した。

 今このミスリル内部での作戦指揮権はアーネストにある。

 一分一秒でも無駄にすれば、このミスリルへと避難をした市民達にも危害が加わってしまう。


「……そうだな。キミの言う通りだ。総員、聞け! ミスリル内部にいる部隊の全てはB区画から侵入したモルフの鎮圧、並びに侵入者の排除だ! 迅速に動け! アメリカ軍の意地を見せてやれ!」


「「「了解!!」」」


 アーネストの指示に、全員が敬礼をして動き出す。

 隊員をまとめるからには、迷いを見せるわけにはいかない。アーネストもその点は弁えていた。


「風間司令、キミ達日本人部隊の力を借りたい」


「もちろんです。それに、何も言わずとも彼らは動き出しますよ」


「心強いな」


 この状況がどう動くか分からない以上、使える駒は全力で使っていきたい。

 風間からの了承を得たアーネストは、真剣な顔つきのまま監視カメラの映像を見る。


「あの白装束の女を叩くぞ」


 開戦の火蓋は切られた。未曾有の事態を前にして、アーネストは部隊へと指示を出していく。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 B区画西側、A区画、D区画に近いその箇所で、最初の戦闘が行われようとしていた。

 テーブルやロッカーを倒し、その陰に隠れる形で歩兵部隊が待ち構えていた。

 相手の面は割れている。監視カメラ映像から、こちらへと向かってくるとされる大罪人、白装束を纏った女だ。


「いいか、相手の生死は問わないというのがアーネスト大尉の指令だ。仲間を人質に取られたとしてもやることは変わらない。生かすべきは個ではなく、集団。その覚悟を持って戦え」


 この部隊の指揮権を持つ男、ブレッドは隊員達へと戦いへの覚悟を問いかけた。

 たった一人の目標を殺すことだけが作戦目標というのは非常にシンプルではあるが、中身はかなり濃いものとなっている。

 どれだけ非情に徹しられるか、それを部隊全員が求められているのだ。


「もうすぐあのクソ女が来る。女だからといって躊躇するな。奴はネロとベリックを殺しているんだ」


「「「了解」」」


 相応の返しをしてやれと、隊員達へと鼓舞したブレッド。そうしている間に、五十メートル先の通路から目標が姿を現す。

 白装束を身に纏い、右手にレイピア、左手に両刃刀を握る東洋系の女、リーフェンが――。


「構えろ。目標が接近していたタイミングで一斉に蜂の巣にする」


「――――」


 両者睨み合うような展開になり、静けさが空間を支配していく。

 部隊の人数は二十人、対して相手はたった一人だ。側から見れば、圧倒的に優勢なのはアメリカ軍側だと言い張るだろう。

 しかし、それは相手が人間であればの話。白装束の女に関しては、メキシコ国境戦線からの情報で、目標が『レベル5モルフ』であることは周知の事実だ。

 つまり、銃火器を持つこちら側が有利とは言い難い状況なのは全員が理解しなければいけないことなのだ。


 一定の距離を保ったまま、互いに動きはまだ見せていない。

 アメリカ軍側も、まだ射程距離内に入っていないことですぐに撃ち出すことが出来ないのだ。


「――――」


 白装束の女、リーフェンは立ち止まっていた足を動かし、徐々に歩き出す。

 そして、歩いていた足を速めていき、一気に全速力へとスピードを乗せて物陰に潜むアメリカ軍へと接近を仕掛けていく。


「距離三十!!」


「撃てぇぇぇぇぇっっ!!」


 有効射程距離へと到達したリーフェンへと向けて、ブレッドは隊員達へと射撃の許可を命じた。

 そして、無数の弾丸がリーフェンへと襲いかかろうとする。


「――――」


 リーフェンの視点では、撃ち出した弾の軌道が見えていた。

 それは、さながらスローモーションのようにして、こちらへと向かってくる弾丸が見えているのだ。

 狭い通路の中、障害物もないそこで避けることは至難の業だ。


 だが、リーフェンの胴体視力はそれすら上回ろうとする。


「なに!?」


「――――」


 リーフェンはこちらへとただ走り向かっているのみ。壁や天井への無尽蔵な駆け回りを利用せず、最低限の体の動きで銃弾を避けてきているのだ。

 それも、一切のスピードも殺さずにだ。


「くっ! これならどうだ!?」


 ブレッドは持ち手の銃をショットガンに持ち替え、そのまま発砲を仕掛けた。

 アサルトライフルとの違いは、弾の軌道が読み切れない点にある。散弾された弾の軌道は、近ければ近いほどに避けられぬ軌道を描いていく。


「――――」


 避けられない弾道を予測したリーフェンはその場で地面を蹴る。そして、すぐ横合いのガラスを突き破り、リーフェンは室内へと逃れた。


「逃げたぞ! 追え!!」


 ここで逃すわけにはいかないと、ブレッド率いる部隊メンバーはリーフェンが逃げ込んだ室内へと、二つの入り口の扉から左右に分かれて突入を試みた。

 左右からそれぞれ突入し、リーフェンを挟み撃ちにする戦法でもある。

 挟撃を仕掛ければ、そう簡単に銃弾を避けることは難しいという判断でもあった。


 室内へと入った部隊は、銃身を構えた状態で逃げたリーフェンを索敵する。

 ――姿が見えない。この部屋は事務室として扱われているのだが、机や椅子等の障害物が多く並べられていた。

 その為に、一時的に身を隠すといった意味でも上手く活用をされてしまっていた。


「慎重に動け。互いの距離を開けすぎるな。あの女が次に仕掛けることは……俺達の混乱を誘って一人ずつ殺すことだ」


 どんな状況であれ、ブレッドは焦ることはしない。

 リーフェンが身を隠しているということは、少なくともこちら側の武器の恐ろしさを感知しているからだ。たった一手の間違いでもあれば、そこをつけこまれて全滅のリスクを負う危険だってある。


 慎重に一つずつ、並べられているデスクの物陰をクリアリングしていきながら、部隊は索敵を行う。

 四方全てを警戒していきながら、いつ現れても対応ができるように、緊張がその場を支配しながら部隊員達の吐く息が荒くなる。


 その中、ブレッドだけがただ冷静だったのだが、何かおかしいと違和感を感じ始める。

 なぜ仕掛けてこない? こちら側が警戒していることは相手も百も承知であろうが、隠れる先がどんどん潰されていけば不利なのは白装束の女の方だ。


 何か考えがあるとでもいうのか、ブレッドは警戒心を緩めないままクリアリングをしていく。

 しかし、ブレッドは気づいていなかった。身を潜めるリーフェンへと目を向けていたばかりでもあるのだが、味方の様子にだ。

 今、相手にしているのは作戦史上、出会ったこともない化け物だ。銃弾を避け、近接武器のみで立ち回ろうとする化け物。これだけの人数がいても戦力差はどう転ぶかは誰にも分かっていない。

 その不安と緊張が、部隊の士気に揺らぎを生じさせてしまう。


「がっ!?」


 その瞬間は来た。ブレッドの左横に構えていた隊員の一人、アヴァが後ろの壁へと背中から激突する。

 部隊の全員がアヴァの方へと目掛けて銃口を咄嗟に向けた。アヴァがリーフェンの近接武器で刺突を仕掛けられたと咄嗟に考えていたからだ。

 しかし、その結果は違っていた。


 アヴァの首元にはリーフェンの持っていたレイピアが刺さっており、そのまま壁へと張り付けられていた。

 しかし、そのレイピアを掴んでいた筈のリーフェンはそこにはいなかった。


「なっ!?」


「全員、隙だらけ」


「っ!」


 攻撃自体がデコイだった。

 リーフェンはレイピアを投げ、アヴァを刺殺させて隊員達の視線をアヴァへと向けさせたのだ。

 視線誘導、その時間にして約一秒。一秒もあればリーフェンにとっては十分な時間だった。

 ブレッド率いる部隊とは逆側から侵入した七人編成の隊員達へと、リーフェンは両刃刀を構えて切り崩しに掛かった。


「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 一瞬もの間に、五人近くの隊員がリーフェンによって殺される。

 突然の奇襲に混乱した残り二人の隊員はアサルトライフルをリーフェンへと向けて銃弾を放つが、当然ながら間に合わない。

 倒れ込もうとする死んだ隊員を盾に使い、リーフェンがその腹部を蹴ったことによって死体が銃を乱射する隊員へと飛んでくる。


「――――」


「くそっ!!」


 ブレッドが銃を構えようとしたその瞬間、リーフェンは既に終わらせていた。

 挟撃する為に分かれていた七人もの隊員の命を、リーフェンは約一秒の隙を狙っただけで切り崩してしまったのだ。


「化け物が……っ」


「残るは、あなた達だけ。これだけ、殺したらもう十分」


「あぁ!?」


 殺し足りたとでも言いたいのか、仲間を殺されたことで憤りを見せるブレッドだったが、リーフェンはそんなことは微塵も考えてなどいなかった。

 血に濡れた両刃刀を振り、刀身に銀色の輝きが蘇る。

 そして、ゆっくりと歩き出し、ブレッド率いる残りの部隊員達へと迫ってくる。


「上等だ!! 仕掛けるぞ!!」


「「「了解!!」」」


 ブレッドの指示で、隊員達はリーフェン目掛けて銃弾を放っていく。

 姿を現した以上は、そう簡単に隠れさせる余裕は与えないというブレッドの判断だった。


「――――」


 しかし、リーフェンはそれを待っていたに過ぎなかった。

 数の多さを見て、単純に数を減らした方が早く片付くと判断しての行動だったのだ。

 だからもう、これだけ数を減らしさえすれば、リーフェンにとっては恐るるに足りない。


「なっ!?」


 リーフェンはその場から足でステップを組み、最低限の動きだけで銃弾を躱し、ゆったりとした速度でブレッド達へと接近してくる。

 地形を利用した縦横無尽に動き回る動きは一切していない。ただ、飛んでくる銃弾を躱しているだけだ。


「まさか……銃弾の射線の全てが視えているのか!?」


 ありえない光景だった。常人を遥かに超えた速度で動き回ることで銃弾を避けることは最初の邂逅で明らかにはなっていた。

 しかし、飛ぶ銃弾を目視で避けているのではなく、捉えられない速度で動き回っているからだとブレッドはそう予測していた。

 リーフェンは一切の後退もすることなく、ゆっくりとブレッド達へと迫ってきている。

 それはさながら、死神が命を刈りにきたかのような、恐ろしい光景が隊員達の視界を映していた。


「あ、あああああああああっっ!!」


 部隊の出来ることは銃弾を放つことだけだ。

 接近戦においては圧倒的にリーフェンが優位な立場。遠距離による射撃でしかリーフェンを殺す手段が無い以上、アサルトライフルの引き金を引くぐらいにできることはない。


 しかし、何をやっても届かない。距離が近ければ近いほど命中率が上がる筈なのに、ただの一発も掠りもしないまま、ある一定の距離まで到達したその瞬間、リーフェンは地面を蹴る。


「――っ!」


 目の前から消えた。そう言葉にする以外に例えようもない速さで、リーフェンはブレッド達の懐へと潜り込み、銃を握る両腕を一瞬にして斬り落とす。


「ぐ、ぎゃぁぁぁぁぁっっ!!」


「ジャクソンッッ!」


 仲間の一人がやられたその瞬間、一秒も経たない間に次々と隊員達が斬り飛ばされていく。

 首を、腕を、反撃の余地も与えないほどにクリーンにリーフェンは隊員達を次々と屠った。


 残り三人。目の前まで接近してきたリーフェン目掛けて銃撃をする。しかし、地面を蹴ったリーフェンは天井へと足をつけ、そのまま隊員の一人の脳天を突き刺し、殺した。


 残り二人。脳天から武器を引っこ抜いたリーフェンの動きを止めようと死を覚悟して飛びつきにかかる。しかし、姿勢を瞬時に下げたリーフェンは持ち手の両刃刀で飛びつきに掛かった隊員の腹部を串刺しにして殺した。


 残り一人。ブレッドは重い死体を抱え込んだ状態のリーフェン目掛けて銃撃を放つ。しかし、リーフェンは両刃刀を下に下げ、串刺しになった隊員を盾にしてブレッドの銃撃を防ぎきる。


「……終わり?」


「――――」


 銃撃の雨が止み、静けさが部屋の中を漂わせるのみとなった。

 ブレッドの銃は弾切れとなり、引き金を引いても銃弾は飛ばない。

 別の銃に取り替えようとする選択肢はあったのかもしれない。しかし、そんなことをさせる時間をリーフェンが与えるとはとても思えない。

 その隙を突かれて殺されることは明らかだった為、ブレッドは呆然とする他になかったのだ。


「最後に、言い残すこと、ある?」


「――俺を殺して終わりだと思うな。必ず同胞がお前を殺す」


「……それだけ?」


「じゃあもう一つだけ――くたばれ」


 呪いの言葉を最後の手向けにして、ブレッドはリーフェンの両刃刀でその首を斬り飛ばされ、絶命した。


 あれだけいた軍隊を潰し、血塗れの惨状となったその部屋の中で、リーフェンの白装束には一切の返り血がなかった。

 それだけ彼女の動きが完璧すぎたのだが、あの人数を殺したにも関わらず、リーフェンの表情は変わらなかった。


 そして、彼女は壁に張り付けられていたアヴァの首元に刺さったままのレイピアの柄を掴み、それを引っこ抜いた。

 傷一つつかないまま、リーフェンはその場で立ち尽くしていた。


 そして――。


「いたぞ!! 絶対に逃すな!!」


 次なる刺客、アメリカ軍の隊員達がリーフェンの前へと立ちはたがり、その行手を阻む。

 そして、リーフェンは表情一つ変えないまま、その体を行手を阻むアメリカ軍達へと向けると、


「早く……やらないと」


 そして、リーフェンは舞う。さながら死神のような、それでいて軽やかな動きでもって、アメリカ軍隊を翻弄していった。

初めてスマホから投稿。こっちの方が楽かもしれない、、!

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