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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase4 第四十八話 『Curing body destroyer』

 命を賭けたヴェノム・ダムナティオとの死闘は終わった。

 最後こそゼロ距離射撃による首狙いの銃撃が上手くいって倒すことに成功はしたのだが、その代償は決して小さくはない。


「くっ……」


「清水!」


 アドレナリンが切れたのか、痛みが全身を駆け巡り、清水はその場でヴェノムの身体から地面へと落ちていった。

 すぐさまオーロラが駆け寄り、清水を仰向けにさせて頭を膝に乗せた。


「だ、大丈夫?」


「めちゃくちゃ痛いわ……」


「ちょっと待ってて」


 誰が見ても重傷な清水の傷痕を見て、オーロラは袖の服を破り、それを包帯代わりにしようと清水の顔に巻き付けていく。


「いつっ!」


「我慢して。絶対に死なせないわ」


「……ありがとうな」


「こちらこそ。あなたがいなかったら、私も死んでたから……」


「――――」


 直前まで絶望的な状況の最中にいたことで、オーロラは心身共に不安定な状態だった。

 それをなんとかしてみせたのが清水の行動だ。犠牲者が出たものの、守れたことは事実なのだ。


「それにしても……俺にしては珍しいな」


「何が?」


「いや、なんか役得な展開やからさ」


「それを言える元気があるならもう治療してやらないわよ」


 膝枕のような状態でいたことで、思ったことを口に出したことを少し後悔しながら、清水は「ごめんって」と一言そう言って、オーロラに介抱される。


 ほどなくして、レイラも清水の元へと歩み寄り、膝を落として彼の顔を見ると、


「よくやった」


「いや、レイラのおかげやで? ヴェノムの動きを止めてくれんかったら絶対倒せんかったし」


「そんなことはない。とどめを刺したのはお前だ。お前の勇気が私達を生き残らせたんだよ」


「……そう言われたら、少し気が楽になったわ」


 今まで、清水は言われた通りに動くだけの指示待ち人間だった。

 それを自らの意思で先導して、初めて勝ち得た勝利なのだから、彼も鼻が高いものだ。

 左目を潰され、小指も無くなってしまったが、生き残っているだけでも十分な功績だった。


「オーロラ、鍵を解錠するから動かないでくれ」


「う、うん」


「よし、いけた。ルークの方も行ってくる。清水を頼むぞ、オーロラ」


 オーロラとリディアを繋ぐ拘束具の解錠に成功したレイラは、まだ拘束具で繋がったままのルークの拘束具の解錠に向かおうとそのまま立ち上がる。


 思うように動けるようになった一同ではあったが、代償なしでは済まない。

 オーロラのすぐ側には、自殺したリディアが横たわっていた。


「……あの子も、限界がきていたんだね」


「せやな……」


「あの時、私が拳銃を渡さなかったら……」


「お前は悪ない。……悪いのはさっさと決断せえへんかった俺に問題があったんや」


 リディアの精神状態がおかしかったのは第一のゲーム以降からずっとそうだった。

 あの時、あの瞬間に元に戻ったかのような反応をされれば、オーロラも正常かどうかを判別するのは難しかったはずだ。


「死んだ者は戻ってこえへん。イアンも、ヨシュアも、ベイカーも……リディアも同じや」


「そんな言い方……しなくても……」


 キツい言い方をする清水に、オーロラも何かを言いたげだった。

 しかし、結果として清水の言う事に間違いはない。

 死んだ者達は何があっても生き返ることはない。

 漫画のように、ここは空想のような世界ではないのだ。


「現実を知るしかないんや。大切なのは死ぬまでに何をしてきたか……俺は死にたくない。オーロラ、お前やって……」


「――――」


 たとえ、いずれ死ぬ運命だとしても、その結果を変えるために清水はここにいる。

 ようやく分かった。レイラが必死で自分を犠牲にしてでも周りを助けようとしたこと。

 笠井修二や出水陽介、神田慶次があそこまで頑張っていたこと。


 来栖真司が、どうして命を投げ打ってでも笠井修二達を守ろうとしたのかも――。


「俺は必ず生き残る。これ以上、誰も絶対に死なせへん。絶対に……」


「清水……」


「清水、オーロラ。少しいいか?」


 オーロラとの会話に割り込むようにして、ルークを連れてきたレイラが話しかけてきた。

 彼女の手には、アサルトライフルの銃弾を詰め込んだストックがあり、それを清水に渡そうとする。


「使え、準備もいるからな」


「お、サンキューな」


「ちょっと!? こんな状態の清水にまだ戦わせるの!?」


 弾切れになったことを思い出して、銃弾のストックを持ってきてくれたことに礼を言った清水だが、オーロラはそんなレイラの行動に反論した。

 どうやら、今の清水の状態を心配してのことだろう。

 実際、すぐにでも病院に連れて行かないといけないほどの重傷であることに間違いはない。

 レイラも分かっていることだが、今はそんな優しい言葉をかけられる余裕はない。


「悪いが、まだ戦いは終わっていない。お前の言い分も分からないことはないが、生き残る為には清水の力も必要だ。この最後のゲームは二連戦と聞いているからな」


「……本当に大丈夫なの?」


「まっ、痛いけど我慢するしかないやろな。これが本当の最後や。踏ん張るしかないやろ」


「……そう」


 オーロラとしては、これ以上清水には無理をしてほしくなかったのだろう。

 でも、清水自身はそれを良しとしない立場だ。

 生ある限り足掻き続ける。それが以前の清水とは違う生き方だった。


「さて、清水はこの状況をどう見る?」


「どうって……何がや?」


「残るは四人。次が最後の戦いになることは間違いないのだろうが、気づいているか? あのクソ野郎から音沙汰がない」


「――イライザか」


 レイラの指摘に、清水も後から気づいた。

 ヴェノムとの死闘から今に至るまで、イライザからの応答は一切聞こえてこなかったのだ。

 この最後のゲームが二連戦である以上、何かしらのアクションを起こすものだと考えてはいた。が、そのアクション自体が今は何もない。


 何かをしているのか? と、そう考えていた直後だった。


 パチパチと、高いところから拍手を鳴らす音が聞こえて、清水達は四方を囲む壁の上、誰もいない観客席の方を見る。


「いやー、素晴らしい見せ物を見せてもらったぜ。おめでとう、諸君。ここまで良く生き残ってこられたな」


「イライザ……っ」


「清水、お前の身を挺した覚悟、最高に良かったぜ。ただの殺戮ショーを見るよりも遥かに面白かった。まさか生き残るとは思わなかったからなぁ、本当に最高だったよ」


「――――」


「それじゃあまあ……よいしょっと」


 一同へとここまで生き残ったことへの賛辞の言葉を述べると、イライザは手すりを乗り越えて清水達のいる砂地の地面へと飛び降りた。

 四メートルはある高い場所からの飛び降りに、彼は足を痛めることもなく綺麗に着地する。


「いやー、本当にめでたいな。これでキミ達は生還まであと一つの戦いまできたわけだ。何か言いたいことはあるかな?」


「言いたいこと……か。それなら私から言わせてもらおうか」


「おっ、なんだレイラ? そういえばお前は俺に会いたがって――」


「死ね」


 言い終わる間も無く、レイラはアサルトライフルの銃口を即座にイライザへと向けてその身体目掛けて銃弾を連射した。

 迷うことなき銃撃は、恨み憎しみの全てが乗っかっていたこともそうなのだろう。その全ての弾丸がイライザへと命中する。


「お、おい!?」


「こいつを殺せば次の戦いなんてない。さっさと殺すに限るだろう」


「ま、まあそりゃそうやねんけど……」


「いや……」


 いきなりの銃撃に清水も予測外だったのだろう。

 レイラの行動に反論することは何もないが、あまりにも突然すぎた。

 しかし、ルークがイライザの方を見ながら注視していると、


「いってぇなぁ……。随分とご挨拶じゃねえか、なぁ?」


「なっ!?」


 確実に命中していたことは誰の目から見ても明らかだった。

 なのに、イライザは平気だと言わんばかりにその場で立っている。

 血の一滴も溢していなく、無傷の状態でだ。


「そこまで俺を殺したかったのか。まあそりゃそうだよなぁ? 俺はお前らのお友達をたくさん殺したんだもんなぁ?」


「……何なんだ、お前は?」


「分かったところで絶望するだけだぜ? くくく、清水、お前ならもうとっくに気づいているんじゃねえのか?」


「あ?」


 急に名指しされて、今の不可思議な状況を清水は分かると言わんばかりにそう言ったイライザ。振られた清水としても、状況が見えてこない。


 そして、視界の端で一同は何かに気づく。


「自己紹介といこうか。俺はクリサリダ幹部構成員の一人、イライザだ。この最後のゲームの最後の相手であり、『レベル5モルフ』の力を持つ天才だよ」


「なん……やと?」


「やっと気づいたか。種明かしまではまだ早いからなぁ。俺に銃弾は効かない理由はそこにある」


 自身を『レベル5モルフ』であると告白するイライザ。レイラの銃撃が通らなかったのも、それが理由だと彼はそう言ったが、それでも答えはまだ出ない。

 清水の認識としては、『レベル5モルフ』は運動神経の限界を超えた動きをしたり、再生能力を持ち合わせているという情報しか知らない。

 それ以外の何かが『レベル5モルフ』にはあると、イライザはそう言っているように感じられる。


 そして、話しながらレイラ達は気づいていた。

 ルークが密かにイライザの後ろ側へと近づいていたことに。


「――――」


「俺を殺せばお前達は生還できる。これで嘘は言っていないことが分かっただろ? 確実に生き残るなら、俺を殺さないと外へは出られない」


 イライザ自身がこのゲームの最後の相手であると、彼はそう告げたが、清水達はその部分に頭が回っていない。

 それよりも、イライザの背後へと近づき、武器として壁にあったナタを振りかぶろうとしているルークを注視している。

 恐らく、このままイライザを殺すつもりだ。

 銃撃が通らないと分かった以上、清水達はルークに任せる他に選択肢がなかった。


 イライザもルークには気づいていない。

 そして、ナタを振りかぶり、勢いよくイライザの首元目掛けて振り下ろされようとして――、


「――っ!? なっ!?」


 ナタが首に当たった瞬間、まるで金属音のような甲高い音を鳴り響かせて刃が首の皮膚部分で止まる。

 一切の食い込みもなく、まるでその場で停止したかのように見えたナタを見て、ルークだけではない、清水達も目を見開かせていた。


「おいおい、奇襲とはセコい手を使うじゃねえかよ。ルーク」


「クソッ!」


「待て! 離れろ!!」


 焦ったルークはもう一度ナタを振りかぶり、再びイライザの首目掛けて振り下ろそうとした。

 しかし、二度はもうない。ナタを持つ手をイライザの左手が止めて、右手でルークの首が掴まれてしまう。


「がっ!?」


「お前にはもう少し場をかき乱して欲しかったんだけどなぁ。情でも移ってたのか? そこだけが残念だよ」


 メリメリと首にイライザの手が食い込み、片手では考えられない力でルークの体が地面から浮く。

 呼吸すらままならないルークは、掴まれたイライザの手を首から離させようともがき抗おうとする。


「離せやぁぁっっ!」


「くくく」


 そのまま殺す気でいたイライザに、清水がそうはさせまいと突撃に来ていた。

 銃撃はできない。それをすればルークに被弾する恐れが高確率であったからだ。


 そして、清水の突撃に対してイライザはルークを持ち上げたまま難なく清水を躱した。


「っ!」


「人間一人抱えてこんな動きが出来るわけがない。そう思ったか? 残念だが認識不足すぎるなぁ。俺は『レベル5モルフ』だって、そう言ったはずだぜ?」


 ルークの体重分を抱えての軽やかな動きの原因は、イライザが『レベル5モルフ』の身体能力強化があるからという答えに、清水は確かに認識不足だった。

 これまで、清水は『レベル5モルフ』の力を完全に使える者と相対したことはない。

 椎名真希のことは知っていても、彼女はまだその時は不完全な状態だったからということがあったからだろう。


「さて、じゃあまず一人目だな」


「が……ぁっ」


「やめろっ!!」


 視線をルークへと向けて、イライザは首を掴む力を強めた。

 猶予はないと感じた清水は、危険だと分かっていながら銃口をイライザへと向ける。


 だが、間に合わない。ルークはイライザに人間では考えられない握力で持って、その首が捻り切られる。


「ルークゥゥゥゥゥッッ!」


 目の前でまた一人殺されて、清水は怒りに震えた。

 そして、清水だけではなく、レイラも同じだ。


 二人同時の別角度からの同時射撃がイライザへと襲いかかる。


「ははっ、効かねえって言ってんだろ!? 学べよ、馬鹿が!」


「っ!」


 全ての銃弾がイライザへと命中していながら、その全てが彼の身体に命中した瞬間に弾かれる。

 まるで鋼鉄のような何かに全身を覆われているような、到底ありえない現象が目の前で起きているのだ。


「清水! そこから離れろ!」


「っ、了解!」


 レイラからの指示が聞こえて、清水は即座にイライザから距離を取った。

 イライザは清水を追い縋るわけでもなく、その場で動かずにいる。

 そして、レイラは信管を抜いた手榴弾をイライザ目掛けて投げ込み――到達した瞬間に爆発が巻き起こった。


「おわっ!」


 爆風が近くにいた清水をも巻き込み、思わずのけ反ってしまう。

 幸いにして、破片が清水へと飛ぶことはなかったのだが、そこは重要ではない。

 今はとにかく、イライザへのダメージの結果だ。


「人間を構成する元素は何があるか知ってるか?」


 砂煙が巻き起こり、姿が見えない中でイライザの声が聞こえる。

 その気配から、イライザにはまだ余裕があることが窺える。


「水分としては六十パーセント。元素としては酸素、炭素、水素、窒素とあるが、中でも一番多く占められているのが酸素だ」


 徐々に姿があらわになっていくイライザの姿に、清水達は緊張に身を固めていた。


「俺はその中でも五分の一を占める炭素を身体の中で変異させている」


「な……に?」


「ダイヤモンドを構成する物質も炭素だ。この意味が分かるか? 俺の能力、絶対硬質化はあらゆる武器であろうと跳ね返すことが出来る。お前達の銃も刃も、俺には一切効かない」


 全てを跳ね返す絶対硬質化能力。それがイライザの力だと彼はそう言った。

 聞いただけでも信じ難いものだった。しかし、現に清水達の攻撃の全てはイライザには届いていない。


 身体の構成する物質を変異させて、それを防御に全振りしたこと。それがイライザの持つ最悪の能力だった。


「ここまで説明してやったんだ。さあ、いつもみたいに何か逆転の策を見出してみろよ? 俺がお前達を殺す前になぁ、ひゃははははっっ!!」


 説明したところで倒す術は存在しない。イライザはそう暗に告げて清水達を絶望させようとしたのだろう。

 実際、清水達は絶望している。清水達の持つアサルトライフルでは、イライザの身体に傷一つつけることすら出来はしない。

 わざわざ武器を清水達に寄越させたのも、ここにある武器ではイライザは殺せないことを謳っているようなものなのだ。


「さて、じゃあ次は誰が死にたい? 清水か、レイラか、オーロラか」


「――っ」


「好きに足掻いてくれて構わないぜ。俺を殺せるものならな」


 自信満々に挑発をするイライザ。かと言って、何もせず殺されるわけにはいかない。

 絶望的な状況の中、清水が動いた。


「ああああああっっ!!」


「んん?」


 銃撃による攻撃ではなく、あえてイライザへと接近を試みる清水に、イライザは疑問を表情に浮かべた。

 なにしろ、本当に何がしたいのか分からなかったからだ。

 銃弾が通らない相手に肉弾戦を挑んだところで何が出来るのか。その言葉通りの展開が正に起ころうとする。


「らぁっっ!」


「その傷で何が出来る? それに、俺が武器を持たない理由が分かるか? ――無手こそ、俺の持てる最大の武器まからだよ」


 清水はイライザを転ばせようと足を狙い蹴りを放った。

 しかし、鋼鉄のような硬さを誇るイライザにはまるで通じず、身じろぎ一つなく攻撃が受け止められてしまう。

 その隙を狙い、イライザは清水の髪を掴み、右手を拳大に握り締めて殴り飛ばした。


「がっ!?」


 骨が割れる音が鳴り響き、清水はレイラのいる方向へと物凄い勢いで吹き飛ばされた。

 背中から地面に落ち、清水は痛みで顔を押さえようとする。


「が、あああぁぁぁぁぁっっっ!!」


「清水!」


 目の下に異常なまでの痛みが襲いかかる。

 本人はまだ気づいていなかったが、清水の上顎骨が完全に粉砕骨折していた。

 鼻の隣に位置する骨。急所に近いその箇所を砕かれたことで、清水はまともに立つこともできない。


「痛そうだなぁ、もっと悲鳴を聞かせてくれよ。俺は人間の泣き叫ぶ所を見るのが最高に好きなんだ。何度聞いても飽きないあの瞬間……もっと味合わせてくれ!」


「下衆野郎が……」


「なんだよ、レイラ? 言葉で攻撃したって俺を殺すことなんて出来ないんだぜ?」


「――っ」


 今すぐにでも殺したい気持ちが湧き上がり、レイラは手に持つアサルトライフルを握る力を強めた。

 その時、彼女の腕に制止を掛ける手が掴み、


「だ、ダメや……挑発に……乗ったら……あかん」


「清水……」


「あいつは俺らを弄んでる……。冷静に……なれ……お前が……俺に言ったことや……」


 痛みに耐えながら、右目を薄く開けることしか出来ない清水はレイラを牽制しようとする。

 彼女が散々清水に言い聞かせていた冷静になれという言葉。それを聞かされて、レイラも落ち着いた。


「ああ、済まない」


 怒りを抑え、なんとか光明を見出そうとするレイラ。しかし、尚も状況に光明の兆しは見えていない。


「くくく、本当にお前は凄いなぁ清水。お前が一番全員の中で成長したんじゃねえのか、おい?」


「お前に……褒められても……嬉しないわ」


「だよなぁ。……そろそろ本気で殺しに行くけど、いいか?」


 これ以上、考えさせる時間も休ませる時間もイライザは与えないつもりだった。

 イライザはその場で構えて、清水達へと攻撃を仕掛けようとしている。


「――オーロラ、離れていろ」


「う、うん」


「清水、作戦を伝えるぞ」


 非戦闘員であるオーロラを離れさせ、レイラは清水に作戦を伝えようとした。

 この状況下でイライザの絶対硬質化能力に何かの糸口を見つけ出したのか、清水はレイラの次の言葉を注意して聞こうとした。


 そして、彼女はこう言った。


「私が囮になる。奴は気づいていないが、ヴェノムとの戦闘の後に私の服の裏には大量の擲弾を仕込んである。これで――」


「は?」


 何を言い出しているのか、清水は理解に苦しんだ。

 およそ自殺行為に等しいその作戦を聞いて、イエスと頷けるわけがない。


 レイラはそのことを理解している。だから彼女は最初から作戦なんて言えるほどのことを伝えるつもりはなかった。

 彼女が伝えたかったことの真意、本音は――。


「私の夫に会ったら……すまないと、そう伝えてほしい」


「ま、待てや。ちょっと……待て!」


「あとは……頼むぞ」


 体力の限界も近い清水にはレイラを止めることは叶わない。


 その場からイライザ目掛けて飛びかかろうとするレイラ。アサルトライフルも捨てて、彼女は何も持たずに突攻を仕掛ける。


「おいおい、諦めたのか?」


「おおおおおおおおおっっ!!」


 イライザの見える距離で手に持つ手榴弾の信管を抜いたレイラ。その行動を見て、イライザもレイラの狙いが読めた。


「自爆か? 効かないと分かっていてそれをする理由は……ああ、なるほどな」


「――――」


 信管が抜かれた手榴弾が爆発する瞬間はレイラとイライザが交錯するそのギリギリ。圧倒的な数の手榴弾をぶつければ、イライザとて無事では済まないだろうというレイラの狙いだった。


「そんな呆気ない死に方をされてもつまんねーん……だよっ!!」


「っ!?」


 足を大きく振り上げて、イライザはレイラの持つ信管が抜かれた手榴弾を蹴り上げた。真上に高く飛び上がった手榴弾は数十メートル上空で爆発し、爆風が二人に襲いかかる。


「くっ!」


「おっと、逃がさねえよ」


 爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされそうになったレイラの胸ぐらを掴んだイライザ。

 同じ爆風を受けて、涼しい表情をしていた彼は清水の方に視線を向けると、


「そこで見ていな。この女が死ぬところをな」


「っ、やめ――」


「遅えよ」


 手を伸ばし、イライザの蛮行を止めるよう声を張り上げた清水。

 しかし、そんなものはイライザには届かなかった。

 彼は胸ぐらを掴む手とは反対の手を、まるで刺すような構えをし、そして――、



 レイラの腹部へと勢いよく突き刺した。


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