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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase4 第四十四話 『得意分野』

 二階への階段を登り、言葉一つ発さないレイラ。そのまま、ハリーとドミニクの死体を前に呆然と立ち尽くしていたルークの前を歩き、彼女は最後の型盤があるとされる扉の前に立った。


「――ロバート」


 そして、彼女は低い声でその名を呼んだ。

 聞こえてないと、そんなことは言わせない。それほどの気迫を感じさせるほどに、レイラの言葉には重みが感じられた。


「出てこい」


 彼女の足元は血に濡れており、靴裏はビッシリと濡れている。


 しかし、レイラの声掛けに対して、ロバートからの返答はない。

 彼からすれば、レイラの存在は邪魔に感じていた筈だ。

 だから、こう考えていたのかもしれない。

 先ほどの戦闘で、モルフとの戦いで死んでしまっていたと。


 そうなっていないこの状況で、彼が扉の奥に籠城するのは自然なことだ。

 卑怯な思考を持ったその判断を、レイラは許さない。


「出てこないなら、無理やりにでも開けさせてやる」


 時間がないことが分かっていたレイラは、持っていた槍もどきを振りかぶり、そのまま勢いよく木製の扉へと突き刺した。

 勢いよく貫通した槍もどきは、もしも扉の目の前にロバートがいれば、当たっていてもおかしくはないほどに綺麗に貫通する。


「て、てめぇっ! 何考えてんだ!?」


「私は開けろと言った。聞こえなかったのか?」


「クソッ! なんでさっきの戦闘で死ななかったんだよ!? せっかく邪魔な奴も消えると思っていたのによ!」


「……それが、お前の狙いか」


 ロバートの本音を聞いたレイラは、わなわなと手を震わせると、今度も躊躇はしなかった。


 扉に突き刺した槍もどきを引き抜き、何度も何度も何度も、扉が壊れる勢いで槍もどきを突き刺していく。


「う、うわぁぁぁっっ! や、やめろ!」


「――――」


 制止の声も、彼女には一切聞こえていない。

 彼女が怒っている相手は清水ではない。ロバートに対してだったのだ。

 これまで見せたことのない怒りの感情を、彼女はその手に持つ槍もどきを突き刺すことで発散しようとしていく。


「わ、わかった! 開ける! 開けるからもうやめてくれ!!」


 耐えきれなくなったロバートはその勢いに負けて、ぐちゃぐちゃになった木製の扉を開けた。


 彼の表情は、先ほどの威勢を感じさせないほどに恐怖に顔を歪めていた。

 それに対して、レイラは無表情なままロバートへと一歩近づくと、


「っ!」


 彼の頬へと向けて、本気のビンタをくらわせる。

 女と言えど、彼女の腕力は一般平均男性の力のそれを超える。

 横合いの壁へと吹き飛んだロバートは、そのまま地面に崩れ落ちて、レイラの方を無言で見ていた。


「その汚い面を二度と私達に見せるな。クソ野郎」


「――っ、ま、待てよ。それでいいのか?」


「あ?」


「お、俺を……殺さねえのか?」


「――お前を殺して、私達に何の得がある? イライザの思惑通りに、お前の思惑通りに誰かが死ぬ様を私が望むと思うか? ふざけるなよ、殺さないのはありがたいと思え。お前が今死んでいないのは、これがイライザの仕掛けたゲーム内なだけだ」


 情状酌量の余地がないことはレイラも分かっていた。

 だが、ここでロバートを殺せば、それはイライザを喜ばせる結果に繋がる。

 この状況を高みの見物で見下ろしているイライザのことだ。

 こういった人間関係の崩れる瞬間ですら、嘲笑って見ているに違いない。

 だから、レイラはイライザの思惑通りに動きたくなかったのだ。


「まずはゲームをクリアする。……あと六分近くというところか。清水、来てくれるか?」


「あ、あぁ」


 最後の型盤の獲得へと向けて、清水も共にこいと彼女は呼んだ。

 そして、ルークもその後ろに続いてついてくる。


 彼らはそのまま通路の先へと進み、ジグソーパズルのあった通路と同じようにして突き当たりに何かがあることに気づいた。


 この洋風な雰囲気がある館の中には一切合わないであろう、レトロな見た目をしたゲーム機があった。


「なんやこれ?」


「何か書いてあるな。――なるほど、どうやら下の階のジグソーパズルと同じ要領なようだ。これをクリアすれば、型盤が手に入るらしい」


 どうやら各部屋の中に、型盤を手に入れる為のミニゲームを用意していたということらしい。

 見た感じでは、ゲームセンターに置いてあるアーケードゲームと同じものだろう。


「……これは俺の範疇じゃないな。ゲームはやったことがない」


「私もルークと同じだな。さて、どうしたものか」


 ルークとレイラは、共にゲームが苦手だとそう言った。

 ただでさえ時間が少ないこともあるため、素人が簡単に手を出していいものでもない。

 これでは手詰まりだと重い空気が流れ込んでいたのだが、一人だけは違った。


「……俺がやる」


「清水? いけるのか?」


「ああ、これは俺もやったことがある。なんなら地元では一番強かったしな」


「――偶然だとしても、それは良い情報だ。任せていいか?」


「任せろ」


 任された清水は、最後の型盤を手に入れる為のアーケードゲームの筐体の前へと立つ。

 手慣れたようにしてボタンを触りながら画面を見て、彼は舌打ちをすると、


「難易度最大……ほんま、抜かりないな」


 ゲームの難易度を選択する画面が浮かび上がり、そこには簡単や普通といった初心者向けの難易度設定がはじめから無い状態であった。

 選べる選択肢は一つ、玄人向けに用意された最大難易度のものだけだ。


「ナメんなよ、こんなん、俺からしたらお茶の子さいさいや」


 不敵な笑みを浮かべて、画面のカーソルを合わせるようにして手元のレバーを操作する清水。

 もちろん、清水はその難易度設定もクリアしたことが過去にある。

 今、清水にとっての不安要素といえば、このアーケードゲームをした経験が八年近く前というブランクがあるくらいだった。


「――よし」


 小指を失った痛みが復活したことで、清水の額には嫌な汗が流れ落ちていたのだが、無用な心配だ。

 これが戦闘ならば話は変わってくるが、今回は違う。仮装的戦闘、それもゲームの中であるならば、必要になるのは思考処理能力だけだ。


 残り四分、時が経てば、また次のモルフが広間へと放たれる。

 このゲームも、清水はよく知っているゲーム形式で、いわゆる格闘ゲームである。

 一対一の平面での戦いを、キャラクターを選びながら操作して倒すというものだ。

 そして、何回戦も戦うわけではなく、それは一回だけの早期決着型でもあった。


「いくで」


 後ろにいたレイラとルークと顔を合わせて、彼らも黙して頷く。

 これをクリアできる可能性があるのは清水のみ。それを信じて、彼らは清水の背中を見守り続けていた。


「――よ、ほ」


 手元のボタンやレバーを巧みに操作しながら、清水はゲームをしていく。

 さすがは最大難易度というところか。こちらの攻撃はうまく躱され、防御され、中々攻撃を当てることが難しい。

 しかし、どんなゲームにも癖というものはある。

 対人ではないコンピュータが相手ならば、一定の動作しか出来ないというものだ。


 つまり、その隙さえ知っていれば、このゲームをやったことがある者にとっては攻略の糸口になる。


「よしっ!」


 ほぼノーダメージのまま、清水は最大難易度の敵キャラにダメージを与えていき、半分近くまで減らしきることに成功する。

 こういった種目のゲームに関していえば、強そうな大振りのキャラを使うことはオススメしない。むしろ、小手先の細かい攻撃パターンを駆使したキャラクターの方が扱いやすいとされるのだ。


「これなら……」


「む?」


 敵キャラのHPを七割方減らすことに成功したその時だった。

 今までの敵キャラの動きが、そこで変わったことでレイラが反応する。


 清水といえど、必ずしもノーダメージでクリアできるとは考えていなかった。しかし、敵の攻撃が少し自身のキャラに当たったその瞬間、清水の扱うキャラのHPが七割近くまで減らされてしまう。


「はっ!? おい、なんやねんこれ!?」


「なるほど、確かにこれはふざけてるな」


 落ち着いた様子のルークのその言葉に対して、清水は何がなんだか分からぬ様子だった。

 しかし、答えはすぐにわかった。


「チート使ってやがんな……どこまでもふざけやがって……」


 よくある、ゲームの基盤を弄る手法だ。

 イライザは簡単にはクリアさせまいと、敵の攻撃を受けただけでその攻撃力が普通ではない威力で食らうという馬鹿げたシステムに変えていたのだ。


 あと一撃でも食らえば、清水の扱うキャラは負けてしまう。


「清水――」


「任せろや!!」


 心配するレイラの声に、大丈夫だとそう言い張る清水。だって、任されたのだ。ここで負けてしまえば、またもう一戦モルフとの戦いが始まってしまう。清水の体力の限界が近いことも考えれば、この一回のゲームでクリアすることが必須条件になる。


「――――っ!」


 敵の攻撃パターンが変わりながらも、清水は巧みな操作で上手く躱していく。

 側から見ても、到底真似できるとは思えない操作だろう。

 意地で持ち堪えながら、清水は敵キャラのHPを少しずつ減らしていく。


 そして、決着はすぐについた。

 清水の持ちキャラが敵の攻撃を躱したその隙に攻撃を当てたことで、敵キャラのHPがゼロとなり、ゲームセットの文字が画面上に浮かび上がる。


「……よし」


 不思議と落ち着いていた。

 予想外のアクシデントがあったこともあるが、声を上げて喜ぶほどの余裕が清水にはなかった。


 そして、ゲームクリアの合図がなされたその瞬間に、筐体の下にある開き窓がパチンと音を鳴らして開かれる。


「これが……型盤か」


 喉から手が出るほど欲していた最後の型盤、それが清水の手に渡ると、清水はそれを持ち上げた。


 そして、一刻の猶予もないことを理解していた一同は、何も言わずにその場から走った。


「急ぐで! 最初の型盤はもういけそうなんか!?」


「恐らくは……ジグソーパズルで難しいのは最初の形だけだ。ある程度はめ込みさえすれば、素人でも簡単に解ける。それにあれだけの人数がいるんだ。きっともう……」


 最後の型盤が手に入ったとしても、最初のジグソーパズルが解けていなければもう一戦、モルフとの戦いがあることになる。

 それだけはなんとしてでも阻止したいと考えていた清水であったが、ドアから出る直後、その出入り口の近くに座っていたロバートを見ると、


「いつまでそこにおるんや!? はよいくで!」


「え? あ、ああ」


「お前のことは嫌いやけどな。死にたないんやろ? なら、ここにおったらほんまに犬死にやぞ」


 たとえ嫌いな相手だったとしても、レイラが生かしたとするならばロバートはここで死なすわけにはいかない対象だ。

 元より、清水も死んでほしいとは考えてなどいない。

 だからこそ立ち上がれと、清水はロバートに鼓舞して立ち上がらせる。


「あそこや! ――オーロラ!」


「清水! こっちはもう終わったよ! そっちは!?」


「こっちも大丈夫や! 今すぐ行く!」


 広間へと出ると、二階にある大扉の前に皆が集まっていた。

 そして、既にジグソーパズルの問題をクリアして型盤を手に入れていたことを知ると、あとはやることは限られる。

 清水は手に持っていた最後の型盤をすぐに嵌め込み、全てのアイテムが揃ったことで、大扉が開かれようとする。


 それと同時だった。一階のある場所から、何かが開かれる音が聞こえた。


「クソッ! 時間か! 全員早く入れ!」


「急げ! 私と清水が殿を務める!」


 大扉が開かれると同時に、広間へと侵入する新たなモルフ。

 このままジッとしていれば、オーロラ達の命も危うくなる。

 ルークやロバート、オーロラ達は指示に従って先に大扉の奥へと走っていく。


「清水!」


「――――」


 全員が入り切ったところで、レイラの声を聞いた清水は大きく頷き、二人同時に大扉の中へと入る。

 そして、獲物を逃さないと新たに現れた『レベル4モルフ』が階段をものすごい勢いで駆け上がってくる。


「ら、ぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 レイラと共に、大扉を急いで閉めようとする清水。

 そして、ギリギリのところで扉は閉まりきり、無事に逃げ切ることに成功する。


「はぁっ……はぁっ……」


「――――」


 なんとかして、広間から奥へと進むことができたことに、二人は顔を合わせる。

 ここに来るまで、本当に気が休まることがなかった。

 だが、これで落ち着けると思ったその時、清水の足は崩れて倒れる。


「おい、大丈夫か?」


「お、おう……なんや、ちょっと安心してな……」


「――ゆっくり休め。お前には無理をさせてしまった」


「気にすんなや。でも……」


 第三のゲーム、これで終わりかは分からないが、失った者達のことも考えれば、喜べる状況でもない。


 これで、生き残ったのは残り九名。サミュエルから始まって、第三のゲームまでで既に三人が死んでしまっている。


『よー、お疲れ。随分と楽しませてくれたなぁ。まさか九人も生き残るとは思わなかったぜ』


「――この声は」


 イライザの声が部屋の中から聞こえてきて、清水は顔を上に上げる。最初のゲームと同じく、スピーカー越しに話しかけてきているのだろう。


『そしておめでとう。これでお前達は第三のゲームもクリアしたわけだ。感想はあるかな?』


「――このゲームのクリア条件は館からの脱出だったはずだ。なぜ、外に出られていない?」


『俺は一度も外に出たらクリアだなんて言っていないぜ? そこの大扉を出た時点で、館からの脱出はクリアしている。何か間違いがあったか?』


 第三のゲームをクリアしたという言葉を聞いて、レイラが外に出られていないことに言及したのだが、それは一蹴されてしまう。

 確かに、外に出られるとは一言も彼は言っていなかったのだが、それにしても言い方が悪すぎた。


 良いことと悪いことの両方を伝えられたようで、レイラは天井を睨みつける。


「で? 次のゲームは何だ?」


『気が早いやつだなぁ。安心しろ、お前の相棒は疲れているようだからよ。休み時間はちゃんと与えてやるつもりだぜ。それに……ちょっと俺にとって不都合な事態もあったからな』


「?」


『こっちの話だ。調整はするつもりだから安心しな。それよりもお前ら、よく寝れていないだろ? この先の部屋に全員分のベッドを用意した。そこで休んでいるんだな』


「……随分と手厚いな。何か仕掛けているのか?」


 今までの適当な扱いではなく、休む場所まで提供しようとするイライザのその魂胆が気になり、怪しむレイラ。

 しかし、イライザはレイラに対して、ほくそ笑むようにして少し笑う声が聞こえてくると、


『おいおい、俺をなんだと思ってやがる。ここまでお前らには命懸けでやってきたっていう実績があるんだ。それくらいはおもてなししてやらねえと俺の顔が立たねえよ』


 誰に対しての顔を立てるということなのか、きっと半分は嘘なのだろうと清水もそう考えていたのだが、休めるということは嬉しい話だ。

 自分でも分かることだが、この中で一番疲弊しているのは清水自身だ。

 あの『レベル4モルフ』二体相手に立ち回ったことは、今でも絶望に思っている。


『それに休んでもらわねえと次のゲームが盛り上がらないことが分かってるってのもあるしな。安心しろよ、寝ている最中に野暮なことは一切しねえ。信じられないだろうが、それだけは約束してやる』


「――いいだろう、どこに向かえばいい?」


『この先の扉の中だ。寝床は全員分用意してある。ゆっくり休んでいな』


 向かう先が一つしかない清水達の前にある扉に、どうやら休める場所があるとのことだ。

 しっかり休めることはありがたい話であったが、それとは別に、他の者にとっては必要不可欠なものがあった。


「あ、あの……食べ物とかはないんですか? もう二日も何も食べていないんです。何か……」


 イアンが手を挙げて、イライザへと食糧の確認を取る。

 体を休める以外にも、彼らには食糧という人間が生きる上で必要になるものを摂取していない。

 水だけは渡されてはいたが、それだけでは人間は生命活動を維持できないのだ。


『食糧……か。悪いが、この先の部屋には用意していない。だが、安心しな。それも考えてある』


「……今、必要だと言っているんだが?」


『慌てるなよレイラ。人はそう簡単に死なない。用意してやるだけでも有り難く思え』


 今すぐではないにしても、食糧面についても何かしらの提供をすると話すイライザに、何か不信感を覚えるレイラ。清水もそれは同じで、何か違和感を感じていた。


『とにかく、この先でお前らは休んでいろ。俺から言えるのはそれが最後だ。――じゃあな』


 それを最後に、イライザからの声は一切届かなくなった。


 囚われの身という現状は何も変わらないが、ある意味前進はしているだろう。

 残り二つのゲームさえクリアできれば、清水達は解放される。それを希望にして、一同は動かざるを得ないのだ。


「……いこう」


 レイラが主導して、皆を先の扉へと誘導した。

 扉の先は、前にいた独房の中とは打って変わっていた。

 洋式のベッドが立ち並んでおり、布団もしっかりと引かれている。寝るだけならば、疲弊している今なら数分も掛からずぐっすりと眠れるほどの手厚い歓迎だった。


「本当に……何を考えているんでしょうね。あのイライザって男は……」


 ヨシュアがそう言葉を漏らして、猜疑心を露わにする。

 確かに、これは明らかにおかしかった。

 奴の思考から見るに、清水達をオモチャとしてしか見ていないことは確かだ。

 それをわざわざ、こちら側の精神的問題に対しても考慮しているのだから、理解に苦しむのは当然の帰結だ。


「あいつはただのイカれ野郎じゃない。話が出来るタイプのイカれ野郎ということだ」


「どういう意味や?」


「よくある典型的なタイプだよ。自覚があるクソ野郎は場を適切に見極めて面白い方向へと向けようとさせる。これが自覚がないタイプなら、きっとまた汚い独房の中に私達をいさせただろうからな」


「……十分まともやないな」


 色んな考えを持つ人間がいることは分かるが、そこまでのクソ野郎とは清水も出会ったことはない。

 だからこそ、レイラのその推測には理解がしにくかった部分もあるが、ある程度は理解できた。

 もしもそうであるならば、イライザは寝込みにかけて何かを仕掛けてくる可能性は低いだろう。


「私は起きている。お前達は体を休めて次に備えるんだ」


「――俺も起きとくで」


「いや、お前は絶対に寝ろ。どう見ても限界が近いだろう? 次のゲームが戦闘形式のものならば、必ずお前の力が必要になる」


「なら、お前も休まなあかんやろ……」


 お互い様だと、そう口に出して清水はレイラも休ませるよう促す。

 こういうところが、レイラの軍人たる所以なのだろう。

 自分よりも他人を優先させる。さすがだと言うべき他にないが、清水としてはそれは些かどうなのかと思うべきところはあった。


 と、そんな会話がされている最中に、ヨシュアとオーロラ、ベイカーが立ち上がると、


「レイラさん、清水さん、私達が起きていますので安心して寝て下さい」


「お、お前ら……」


「……疲れていないのか?」


「いや、疲れてはいるんですがね。この状況で、寝ていた方がいいのはどう見てもあなた達二人だ。俺もここまで生き残ってもう分かっているんです。……あなた達がいないと、俺達は生き残れないことを――」


 ベイカーがそう言って、真剣な眼差しを二人へと向ける。

 確かに、ここまで生き残ることができたのは紛れもなく清水とレイラがいたことが大きく関わっている。

 だからこそ、彼らの考えは間違ってなどいない。


「しかし、ロバートから目を離すのは……」


 先ほど、オーロラ達を裏切り、殺そうとしたロバートへと目をやるレイラ。ロバートは目を向けられて、ビクッと体を震わせたのだが、視線を逸らすのみだ。


「あいつのことは任せろよ。俺が見張っておく」


「ルーク」


 そう言って、横から手に刀を持ったルークが会話へと入ってくる。


「いざとなれば俺があいつを抑える。それなら大丈夫だろ?」


「――――」


 恐らくはルークが自身の力で型盤を手に入れた際に見つけた模造刀のそれを見せつけて、ロバートを見張る役目をやるということを告げるルーク。確かにそれならば、ひとまずはレイラ達も安全だ。


「……お前らと組むつもりは今だって考えてはいねえよ。けど、別に死んで欲しいとは俺も思っていない」


「わかっているさ」


 自分の考えは今でも変わらないと、ルークはレイラへと向けて意思表示をする。

 そのことはレイラも強く理解しているし、今更否定する気はない。

 なぜならルークがあの時、清水を助けなければ、清水はあそこで死んでいたのだ。

 彼を敵と思うなど、レイラにはありえなかったのだ。


「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうとするよ。お前達も代わり代わりしながら休んでくれ。それでいいな、清水?」


「ああ、大丈夫や。ありがとうな、お前ら」


「気にしないでいいわよ。あと……さっきは助けてくれてありがとうね。清水」


「――おう」


 心からの感謝の言葉を告げられ、清水は少し戸惑いながらも返事を返した。

 清水にとって、ありがとうという言葉はあまり掛けられたこともないものだ。

 レイラからも言われたことはあったが、感謝を言われるほど大したことをしたつもりは自負すら清水は出来ていない。


 ともかく、次のゲームへと向けてイライザの言う通りに休むことにした清水達は、柔らかいベッドの上で寝ることになる。


 そして、時間にして三日目の夜、目が覚めた時に次のゲームの知らせがイライザから届いた。



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