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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase4 第四十三話 『詰みゲー』

 善悪の判断とは、誰しもが子どもの頃から身につけていく過程から認識していくものだ。

 だからこそ法は存在し、人は罪を犯さないように生きていこうとする。

 しかし、法なんてものが存在しない場があれば、人はどうなってしまうのか?

 自分の命と他人の命、どちらかを選ばなければならない状況に陥った時、人は――人間は平気で罪を犯そうとする。


「ハ、ハリー……」


 間に合わなかった。ハリーは『レベル4モルフ』に首元から噛み付かれて、喉元から抉り喰われてしまう。

 致命傷なんてものはとうに超えており、完全に即死だった。


「う、うわぁぁあぁぁっっ!!」


 目の前で仲間が殺されたという現実に耐えきれないでいたヨシュアが叫ぶ。

『レベル4モルフ』の殺意の衝動は収まることを知らずに、そのまま近くにいたドミニクへと襲い掛かろうとした。


「あ、ああああぁぁっっ!!」


「ちょっ、やめなさいよ!?」


 錯乱していたドミニクは、なりふり構わずにオーロラを盾にしようとして『レベル4モルフ』からの攻撃から身を守ろうとする。

 もはや誰もが助かりたい一心しかなかったのだろう。

 醜く見られるであろうその行動を、咎める時間なんてものはない。なぜなら死んでしまえば誰も咎める者がいないからだ。


「――っ!」


 被害を最小限に収める。そのことだけを頭に入れて、清水は『レベル4モルフ』へと突進を仕掛けた。

 今なら、オーロラに牙が届くまでに間に合う。それは間違いなかった――が、相手は違った。


「なっ!?」


 清水の突進に、『レベル4モルフ』は跳躍して避ける。

 槍もどきでの攻撃を受けたことで警戒していたのだろう。オーロラ達の真上を通り過ぎる形で『レベル4モルフ』は宙を通り越す。


 ――そして、ドミニクの背後に降り立った『レベル4モルフ』は、振り向きざまに真後ろにいたドミニクのうなじへと噛みついた。


「いでええええええっっ!! や、やめ……っ!」


「ドミニ――」


 血に濡れた牙が、ドミニクの首筋へと食い込んでいく。

 すかさず、ヨシュアとオーロラを後ろへと追いやり、二人だけでも守ろうとした清水の判断に間違いはなかった。

 間違いがあったのは、被害に遭った二人だ。


 うなじへと噛みつき、圧倒的な咬合力の強さでもって、ドミニクの頭部と胴体が生き別れになる。


「う、嘘……」


「う……あ……」


 茫然自失となったオーロラとヨシュア。

 たった数秒の出来事のことだ。ただの一般人がモルフに襲われるということがどれほど呆気ないものか、その身でもって彼らは思い知ることになる。


 そして、誰一人として死なすつもりはなかった清水は、己の無念に歯を食い縛り、足を止めなかった。


「らあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 今度こそ逃がさないと、『レベル4モルフ』の手の甲に刺さった槍もどきの持ち手に触れ、それを握り締めた。

 当然、目下最大の脅威と見做している清水に接近されたことで、『レベル4モルフ』は暴れ出す。

 モルフとしては、単に跳躍をしようとしたつもりだったのだろう。しかし、清水が槍もどきを掴んでいたことで、両者がその場から宙に浮くことになる。


「っ!」


 宙に投げ出され、落ちる先は一番最初に両者が戦闘をした一階の広間。たったの三メートルほどの高さからの落下ではあるが、受け身を取らなければ下手をすると骨折をする恐れがある。

 だが、清水は――。


「おおおおおおおおおおおっっ!!」


 一度は手から離れた槍もどきを二度と離さまいと、『レベル4モルフ』に突き刺さったそのままの状態で落下していく。

 地面に叩きつけられるまで、一秒もなかった。

 背中から落ちたことで、肺の中の空気が一気に外へと押し出される。その結果、鈍い痛みと呼吸困難が同時に清水を襲いかかる。


「がっはっ! はぁっ……はぁっ!」


 現状を確認する余裕はない。ないのだが、そんな怠惰なことを言っていられる状況でもない。

 鈍痛や酸素の供給、それに失った小指の痛みが再び襲いかかってくる。

 なんらかの麻酔薬の効果が切れてきたのだろう。小指の欠損は、たとえ一日が経過した今でも痛みは健在だ。

 額から嫌な汗が垂れ落ちる中、それでも清水は槍もどきから手を離さなかった。


「クソ……が……」


 ドミニクとハリーが死んだ。あれほどレイラから任された身でもありながら、守ることが出来なかった。

 ロバートが裏切りでもしなければ、きっとあの二人が死ぬこともなかっただろう。

 しかし、今は過去を振り返ってなどいられない。なぜなら、もう二人はどうあっても帰ってこないのだから。


「清水!!」


「ジッとしてるんや!!」


「っ」


 オーロラからの声掛けが二階から聞こえてくる。

 だが、今はこっちに構ってもらうわけにはいかない。せっかく『レベル4モルフ』の標的目標が清水へと移ったところなのだ。またオーロラ達へとモルフが向かうことになれば、清水にはどうすることもできない。

 だから、このまま一対一の状況を維持しようと考えたのだが、視界の端に捉えたあるものが見えたことで、それは変わる。


「――あかん、オーロラ、ヨシュア! 今すぐ降りてこい!」


「えっ?」


「急げ! もう十五分経つ! 今すぐレイラ達のおる扉まで走るんや!」


 想定しうる最悪の事態だった。もう既に、清水とこの『レベル4モルフ』との戦いから十五分の経過が近いのだ。

 このままでは二体目のモルフが投入され、もはや型番探しなどと言っていられる状況ではなくなってしまう。


 それは清水が一人残ったとしてもどうにかできるものではないのだが、一人でも多く死人を出さない為の判断だった。


「でも……どうやって……?」


「俺がこいつを抑える! 急げ、あと一分もない!!」


 時計の秒針から見ても、一分どころかあと三十秒もないところまできている。

 次のモルフの感染段階がどうなるかは分からない。しかし、今更感染段階の低いモルフが投入されることへの期待は薄いだろう。

 イライザの立場で考えるならば、次のモルフも恐らくは――、


「くっ……こ、こいつっ!」


 槍もどきを地面に打ちつけた状態で、少しでも足止めしようと懸命になる清水だが、『レベル4モルフ』の抵抗は強かった。

 痛覚がないということは、自身の欠損を厭わないということだ。手の甲に刺さったまま、そのまま手を無理矢理に引っ張ったモルフは、その手が引き裂かれて拘束から逃れる。


「いけやっっ!」


「う、うん! ヨシュア!」


「は、はい!」


 賭けになるが、目の前のモルフは清水がなんとか足止めすることにして、オーロラとヨシュアは階段から降りていく。

 それと同時のタイミングで清水は『レベル4モルフ』へと向けて、槍もどきを突き刺そうとした。


「くたばれっ!!」


「――ッッ!!」


 手負いの獣ほど厄介なものはいない。まるでその言葉通りのように、『レベル4モルフ』は奇声を上げてその場で反復横跳びのように動き回る。

 清水の攻撃範囲から逃れる為の動きであったのだが、清水もバカじゃない。

 何度も見慣れた動きを予測しないわけがなかった。


 その瞬間、彼は日本でのあの戦い――出水と共に『レベル4モルフ』と戦い、退けた時のことを思い出した。

『レベル4モルフ』の厄介な特徴はその俊敏な動きにある。

 サブマシンガンの銃撃すら避け切るその柔軟な動きに対して、出水はある作戦で乗り切っていた。


 それは、跳躍した後の着地地点を読み切ることだった。


「うらぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 見事に着地地点を読み切り、その胴体目掛けて壁に串刺しすることに成功する清水。弱点こそ突けたわけじゃないが、時間稼ぎには成功する。


 その隙に、オーロラとヨシュアがレイラ達のいる通路の扉を開けて、その中に入ることに成功した。


「よしっ! っ!?」


 全員が死ぬという最悪の事態は防げたのだが、状況は更に悪化していく。

 ここにいれば死ぬ――その予感がした清水は、突き刺した槍もどきを引いてでもその場から後ろへと咄嗟に後退した。


 その判断は正解だった。

 あと数秒遅れていれば、視覚外からの攻撃を受けて清水はそこで終わっていたからだ。

 それを仕掛けたのは、十五分の経過を意味するもう一体のモルフ――『レベル4モルフ』だった。


「ふざ……けんなや……。これ以上、どうしろって言うねん……」


 あまりにも最悪すぎる状況に、もはや笑えなくなってきている。

 ある程度は予測していたが、本心ではそうあってほしくはないと願っていた。

 しかし、清水の目の前にはモルフの中でも一番危険とされる『レベル4モルフ』が二体。それも、全身が皮膚のない、『レベル3モルフ』から感染段階を上げた方の更に厄介なモルフだ。

 一目でそれが『レベル4モルフ』だと気づけたのは、新たに現れたそのモルフが清水へと攻撃を仕掛けた後に壁へと跳躍したからだ。

 あれは、『レベル3モルフ』には出来ない芸当だ。


「無理ゲー……いや、詰みゲーか」


 ゲームが得意であった清水は、その状況が難易度絶大なクソゲーをやらされているかのようなものと同じように見えてしまっていた。

 単なる負けイベントならば、それもいいだろう。しかし、今の状況は負けることを許さないものとなっている。


 銃器も持たず、あるのは原始的な武器のみ。たったそれだけで二体の『レベル4モルフ』を相手にするなど、馬鹿げているにも程がある。


「でも……こんなところで諦めてられるか……。俺は……俺は……」


 清水の心の中は、この理不尽な状況にある怒りともう一つ、恐怖だけだ。

 その恐怖とはなんなのか、それは人間であれば誰でも思い浮かべるであろう自然的なもの――。


「死にたく……ないんや!!!」


 例え詰んでいたとしても、犬死には御免だった。

 だからこそ、清水は足掻く。足掻いてでもこの状況を打破してみせると、目を死なせなかった。


 しかし、気迫だけで乗り切れるほど状況は甘くない。

『レベル4モルフ』の一体、手負いではない方のモルフは、その片手をツルハシのような武器の形状をしたそれでもって、一気に清水へと接近――その手を振りかぶり、清水の胴体を生き別れにせんとする。


「――っ!」


 咄嗟に前屈みになり、そのまま横っ飛びをして避け切る清水。それでも清水は体勢を崩さず、次の攻撃を見計らっていた。

 その予測は正解だ。手負いの方のもう一体のモルフが、今度は清水の着地地点を読み切るかのごとく、凶悪な牙でもって清水へと襲いかかろうとしていたのだ。


「くっ!」


 今度は避けるわけでもなく、難しい体勢から槍もどきを使って受け流すようにしてモルフの牙による噛みつきを躱した。


 体勢がまた崩れそうになったところを、今度はもう一体のモルフがツルハシ型の武器で横薙ぎに振るおうとする。

 そのまま直撃すれば、清水の腰部分に刺さる位置だった。


「だらぁっっ!」


 体勢が崩れかけ、立て直す前に清水は地面を大きく蹴り、背面跳びをしてギリギリ寸前のところで避ける。


 足から地面に綺麗に着地する清水。これほどまでの動きをしながら、彼が体勢を崩さないのは持ち前の体幹の良さを活かしていたからだ。

 清水は元々、身体能力は修二達と比べて見劣りこそすれども、柔軟性にはかなり優れている部類だった。

 体操選手ほどではないにしても、それに近いだけの体幹能力があったので、こういった連続攻撃に対して躱すという動作ができる。


 しかし、あくまで避けることが精一杯という事実は変わらない。

 状況が良いか悪いかで言えば、悪くなる一方であったのだ。

 このままただひたすらに避けることに専念したとして、再び十五分の制限時間が経過すれば三体目の投入がきてしまう。

 ただでさえ二体の『レベル4モルフ』という畜生すぎる戦闘をしているのに、三体も来てしまえば今度こそ清水はそこで終わってしまう。


「はぁっ……はぁっ……」


 加えて、清水の体力も限界が近づきつつあった。

 息切れが苦しく、肺への酸素の供給もままならない。


 三体目のモルフが現れるのが先か、清水の体力が切れるのが先か――もはや清水がこの場を乗り切るという可能性という筋さえ消えつつあったのだった。


「――――」


 終わりの時が近い。やはりどうあっても詰みゲーだと改めて再認識させられながら、清水は持ち手の槍もどきを掴む握力が弱まっていることに意識すら出来ていない。


 心のどこかで諦めかけていたのだ。


 死にたくない。でも、どうしようもできない。


 生きたい。でも、二体のモルフを倒せるビジョンが思い浮かばない。


 この程度で終わってしまうのかと、自身を嘆きたくもなる。


 どうして自分は笠井修二のように勇気を持てない。


 どうして自分は出水陽介のように打開策を思いつく頭がない。


 どうして自分は神田慶次のように才能がない。


 なぜ、自分には何もない。なぜ、自分は軍人になったのか。


 こんなことになるのなら、もっと安全地帯でゆるりと過ごしていたかった。


 こんなことになるなら、誰もいないところで世界の行く末を見ていたかった。


 清水には夢があった。


 多分、他の誰かにこれを聞かれれば笑われてしまうだろう。


 でも、笑われてもいい。笑うなら笑え。


 俺はもう二度と――。


「う……ぁああああああああっっっ!!」


 叫び、吠える。何の意味もなくても、危機的状況から隠された才能が開花したわけでもない。

 一寸先が絶望だとしても、清水は先を見続ける。


 そして、二体の『レベル4モルフ』が同時に清水へと飛びかかろうとした。

 二体同時には清水も捌けない。精々、やれることがあるとすれば一体一体の攻撃から身を守るということだけだ。


 だが、清水がしたことは避けるわけでもなく、槍もどきでガードの姿勢を取ることでもなかった。


 あえて真っ向から突っ込むことで、清水は防御という選択肢を完全に捨て去ったのだ。


「――ッッ!?」


 狙いは大正解。一番最初に現れた方の『レベル4モルフ』の首元へと、今度は避けることもできないカウンター攻撃として、しっかりと突き刺さる。


 そして、あえて突っ込むことで間一髪のところでツルハシ型の『レベル4モルフ』の攻撃も躱すことが出来ていた。


 ――これで一体。ヤケクソ気味のやり方が功を成した結果となったが、清水はそこで止まらない。

 確実に絶命した一体の『レベル4モルフ』の生死の確認も取らずに、またしても清水は残ったもう一体の『レベル4モルフ』へと特攻を仕掛けようとする。


「清水! 止まれ!」


 その時、オーロラ達が助けを呼んだのだろう。レイラの声が聞こえた。

 しかし、清水は止まらなかった。

 脳内のアドレナリンが極限までに分泌された今の状況で、集中状態の清水を止めることはできない。


 そして、答えだけを言ってしまえば清水のその判断は間違いだった。

 このまま突っ込めば、動きが俊敏な『レベル4モルフ』に避けられ、その隙にツルハシ型のその武器で清水は首を刈られる。


 そのことに清水は気づかない。容易に想像できるであろうその未来を予測する考えも持てない。


 なぜなら彼は、もう既に体力の限界を越えかけており、正常な思考判断を下せなかったからだ。


「――――」


 死ぬ。そのことにやっと気づいたのは、清水の槍もどきでの突き刺しを避けられた瞬間だった。

 真っ直ぐ突き刺そうとした清水の槍での突き刺しを、『レベル4モルフ』は俊敏な跳躍で一時的に壁へと飛び跳ね、一切の間もなく清水へと向けてツルハシ型の形状をした武器で清水の首元へと狙いを定めた。


 当然ながら、今状況を確認したばかりのレイラでも助けることは間に合わない。


 ああ、死んだ。終わったわ。結局、結果は何も変わらんのか……。

 どんだけ頑張っても、努力しても何も報われへん。

 俺はただ、認めて欲しかっただけやのにな……。

 修二や出水、それに神田にも……。

 もう役立たずじゃないぞって、次会った時にそう言いたかった。


 本当、アホやなぁ、俺って――。



 死が近づきつつある中、清水が心の中で思い浮かべたのはそれだけだった。

 そして、終わりがくる。


 真っ直ぐ走って、清水は広間の端部分へと辿り着き、その後ろから『レベル4モルフ』がとんでもない速度で清水へと迫り来る。

 辿り着くまで一秒もないそのタイミング。そこで誰もが予想外の出来事が起きた。


 広間の真上にあるシャンデリア、それがドンピシャのタイミングで清水へと襲い掛かろうとした『レベル4モルフ』へと真上から綺麗に落ちてきたのだ。


「え?」


 重量のあるシャンデリアが落ちてきたことで、ガラスや肉がひしゃげるような音が鳴り響いたのは同時だった。


『レベル4モルフ』は不意に落ちてきたシャンデリアによって、頭から下にかけて完全に潰されて死んでいた。


「な、なにが……?」


「お前は――」


 偶然ではなく、必然。シャンデリアを落とした者。それは――、


「ルーク?」


 二階のもう一つの扉の前、そこには別行動を取ると宣言していたルークがいた。

 彼はその手には刀が握られており、持ち手の柄には縄のようなものが取り付けられている。


「――生きていたか。運が良いな」


「たす……けてくれたんか?」


「勘違いしないで欲しい。お前達があの化け物を倒し切れなかったら、次に俺が危険になることは目に見えていたことだ。このまま何体もこの広間に溢れでもすれば、型盤探しどころじゃなくなるからね」


 助けたわけではなく、あくまで自分のためだったと言い張るルーク。しかし、彼が清水の命を救ったことは事実だ。

 レイラも、ルークのその発言には何も言わない。言わないからこそ、清水が言う必要があった。


「……ありがとうな。お前が自分の為にやったことでも、俺が死なへんかったんはお前のおかげや。恩にきるで」


「――ふん」


 そう言って、ルークは清水の礼には無愛想なまま返事もせず、二階中央の大扉の前へと立つ。

 そして、彼は手に持つ四十センチほどの円盤――扉を開く為の型盤を嵌め込んだ。


「それは……」


「あんたらがごちゃごちゃしている間に一つ目の型盤は手に入れたんだよ。幸い、お題はそれほど難しいものでもなかったからな。二つ目はお前達がやっているんだろ? それが終われば、あと一つだ」


 悠々と、この第三のゲームのクリア条件である三つの型盤の一つを手に入れていたルークに、清水もレイラも驚いていた。

 正直なところ、ルークは何もしないと考えていたのだ。

 別行動を取った時点で、ルークには戦闘の手段はない。なら、戦える者がいる清水とレイラ達が型盤を探している間は何もしない。そう考えていたのだが、それは大間違いだった。

 彼はきちんと自分のやるべきことをやっていたのだ。

 あの時、このゲームをクリアするために三つの型盤が必要になると彼が知った時点で彼は既に動き出していた。


 ――自分のため。それが、結果的に清水達と協力して動いていることに繋がっていようともだ。


「何ニヤついてんだよ気持ち悪いな……。それで、もう一つの型盤はどこにあるか分かっているのか?」


「清水……こっちはもう私抜きでもクリアできる状況になっている。もう一つは――」


「――――」


 その前に、彼には話さなくてはいけないことがある。

 最後の型盤のありかも、大体は予想がついている。

 だが、肝心のその部屋には――そもそも、それが原因でハリーとドミニクが死んでしまった。


「……清水」


「あぁ……最後の型盤は、多分ルークの向かいにある扉。そこにあるやろな。というか、消去法的にそれしかありえへん」


「ふぅん、なら早速――」


「でも、その扉の中にはロバートがおる」


「――っ!?」


 清水がそう言った直後、最後の型盤のある部屋の扉の前に、無惨なまでに転がった二つの死体を見たルークが立ち止まり、後ろへと下がった。

 そこにあったのはハリーとドミニクの死体。『レベル4モルフ』によって殺された者達だ。

 床に広がる圧倒的な量の血は、床に敷かれているタイルの色すら見えなくするほどに赤く染まっている。


「……あの男は、俺らが死ぬことで次のゲームに進めると勘違いしとる。さっきもそれで、内側から入らせへんようにさせたられたことでハリーとドミニクがやられた」


「――なに?」


 何が起きていたのか、それを説明する清水に対して、聞いていたレイラの表情が変わる。

 大らかな表情を見せてきた今までと違い、今のレイラの表情は無。どんな感情を抱いているかも分からない。


 清水はそのレイラの変化に気づかないまま続けていく。


「誰一人死なせんつもりやった……けど、俺には無理やった。任されたのに……ごめん」


「――――」


 清水の謝罪に、ルークもレイラも黙っていた。

 当たり前だろう。清水は軍人で、本来は守るべき立場の人間だ。

 それがこんな不甲斐なさでは、怒っていてもなんらおかしくはない。

 しかし、レイラの怒りは清水に対してではなく、


「ロバートは上にいるのか?」


「? あぁ、多分、まだ引き篭もっとるわ。今も内側から塞いどるんかもせんけど」


「わかった」


 ただそれだけを言い残して、彼女は二階の階段を登っていく。


 レイラの目は、もはや誰も見たことがない怒りの目を燃やし、その手には清水と同じ槍もどきを強く握りしめた状態で――。

 



Phase4じっくり書きすぎて大分長くなってきています。が、もうすぐクライマックスです。

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