Phase4 第四十一話 『マッドハウス』
「腹、減ったな……」
皆が寝静まり、お腹の空腹に耐えかねていた清水は睡眠を取ることもせずにそう呟いた。
本来は彼も睡眠を取るべき立場でもあるが、そうも言っていられなかった。
寝ている間にイライザが何かを仕掛けてくる可能性もあるので、誰かが起きておく必要があったのだ。
しかし、不思議と眠気はなかった。これまで強制的に眠らされ続けたこともあって、眠気は一切感じられなかったのだ。
そんな独り言を発していた彼であったが、眠気を感じていないのは一人だけではなかった。
「とりあえず水でも飲んでおけ」
「いや、ええわ。貴重な水やし、そんな喉も乾いてない。もしこの状況がずっと続くかもせえへんかったらそれはほれで困るやろ」
「……そうだな。いやに賢いじゃないか」
「俺がアホみたいな扱いすんなや、レイラ」
笑い話にもならないが、清水と同じくして起きていたのはレイラだった。
彼女は体こそ横に向けて寝そべってはいたが、清水と同じで眠気を感じていなかったのだろう。
「あのマジョリティゲームの最中、お前にはハンドシグナルで部屋の中の様子を確かめさせていたが、どうだった?」
「……何もあらへんかったよ。ただただ暗い部屋に、俺らを拘束する拷問椅子があっただけや。俺の後ろに扉があったのはさすがに見えんかったけどな」
「そうだろうな。一つだけ確認するが、お前はあの部屋について思うことはなかったか?」
「思うこと?」
レイラの質問に、清水は意図が読めずに首を傾げていた。
「あの部屋……そもそもあの拷問器具も含めて、あのイライザという男が用意したと、お前はそう思ったか?」
「どうやろな。俺らをここに連れてきた連中もおったんや。単独犯であんな大掛かりなもん用意できへんやろ」
「その通りだ、奴が言っていたクリサリダという組織、その構成員達が準備していたというところだろうな。だとすれば、ここから脱出するには奴以外とも戦闘になる可能性は大いにあるということだ」
「戦うって言っても、武器も何もないんやぞ? 勝ち目ないやろ?」
「――そこはこれからのゲーム次第で手に入れられる可能性はある。戦闘ができるのは私とお前だけだ。だからこそ、どっちも死ぬわけにはいかない」
この状況下に置かれていても、レイラは脱出の糸口を見つけ出そうとしていた。
それは、清水には頭の中になかった考えだった。
あのイライザという男は全ゲームをクリアすれば逃がしてくれるという名目で清水達に希望を与えていた。
だからこそ盲点になっていたことがある。それは――。
「あの男が本気で私達を生かして逃がすと、お前はそう思ったか?」
「……いや、ないやろな」
「私もだ。どうせ最後のゲームあたりで全員が死ぬようなゲームを仕組んでくる。そうとしか私には考えられない」
改めて考え直せば分かることだった。
イライザにとってリスクになる可能性がある清水達をおいそれと逃がしてくれるものかどうか、客観的に考えればそれはありえないことだ。
だからレイラは脱出する術を考えていた。そこまで頭が回っていなかった清水は、イライザの目論見通りに動いていたことを恥じていた。
「でも……どうするんや?」
「今はまだ策はない。だが、何かあればすぐにお前にも共有するつもりだ。あの男が次に仕掛けてくるゲーム、それ次第だが――」
その時、二人以外の会話以外は何もなかった静かなこの空間に、陽気な音楽が流れ出す。
目覚まし時計に使うような聞いたことのある音楽だ。
大音量でそれが流れ出したことによって、寝ていた者達も一斉に目を開ける。
「な、なんや!?」
「おはよう、皆の諸君! 寝てるところ悪いが、次のゲームの開始が近いぜ! とっとと準備しな!」
こちらの体調などお構いなしに、牢屋の中に轟く声を上げたのはあのイライザだった。
見れば、彼は鉄格子越しに清水達へと顔を出してきており、なんともテンションの高い様子でそこに立っていた。
その様子を見ていたレイラは、不気味さを感じながらイライザの方を見ると、
「随分とご挨拶なものじゃないか」
「くく、ようやく準備が整ったからなぁ。お前も楽しめるものだぜ? これは」
「ゲスめ……」
悪辣に顔を歪めるイライザに、レイラは虎視眈々とその首に噛み付かんとする勢いの殺意をぶつけていた。
その最中、他の寝ていたメンバーも既に起き上がり、状況の読めない表情を浮かべている。
清水もそれは同じで、これから始まろうとするゲームがどういうものなのか、警戒していた。
「さて、第三のゲームについての説明をしようか。今までとは違い、全員で協力するゲームになる。この牢屋から外に出てからがゲームスタートだ」
第三のゲームに関して、導入部分についてを語り始めるイライザ。牢屋から出してもらえるという条件は、清水達にとってはある程度の自由を約束されているということなのだろう。
「お前達が目指すことはただひとつ、ここはかなり大きな施設の中でな。いわゆる脱出ゲームになるな、館の中から出ることが出来れば、その時点でゲームクリアだ。ゲーム名は『マッドハウスゲーム』、色々と面白い仕掛けを作ったから楽しんでくれよ」
「館から出れば……だと?」
「くく、何やら気になる様子だなレイラ。安心しろよ、例え出られたとしても完全に自由にはならない。なにせ、これを含めなくてもあと二つはゲームは残っているからな」
イライザの説明の通りであれば、ここは館の中ということであり、そこから脱出するということは外に出られるということになる。
そうなれば、いくらでも逃げられるものなのだが、イライザはそれはできないと言った。
恐らく、完全に自由にはなれない何かがあるということなのだろうが、それよりもゲーム内容だ。
「仕掛けって……なんや? 俺らを危険にさせる何かがあるんか?」
「いい質問だな、清水。脱出ゲームとは言っても、無限に時間があるわけじゃあない。この館には最初は誰もいない状態からスタートするわけだが、十五分置きに刺客が館に送り込まれてくる。そいつらはお前らを襲いにかかるわけだが、なんとかしながら脱出の糸口を探るというのがこのゲームの肝だ」
「刺客……?」
「お前らも見てきただろ? 今もアメリカ国内でウヨウヨしているモルフ共を。時間が経てば、あいつらが一体ずつ送り込まれるってことだ」
刺客が誰のことなのか、それを問いかけたことへの返答は清水達も良く知るあのモルフのことであった。
非戦闘員が多数いるこのメンバーの中で、それはかなりの危険を生む状況になる。
そうなる前に、早急なゲームクリアは必須条件になってしまうだろう。
「まあそれさえなんとかできるなら制限時間は無制限みたいなもんだ。ゆっくりじっくりやってくれても俺はいいんだぜ? それも一興だからなぁ」
「あ、あの……私からも一ついいですか?」
ひとしきりの説明を終えたイライザに対して、恐る恐る質問を投げかけようとしたのはイアンだ。
「なんだよ?」
「このゲームでは……本当に前のような裏切りが起こるようなゲームにはならないということですか?」
イアンのその質問は、前回のマイノリティゲームとマジョリティゲームのトラウマが尾を引いた発言に近い。
その質問に対して、イライザは口角を上に上げて笑い始めた。
「ははっ、もちろん俺からはそんな仕組んだ真似はしねえよ。でもよ、お前らの中で勝手に起きる裏切り合いは別だぜ? 見捨てられたりしたとしても、それはお前らの中で起こったことだ。そうならないとは俺も思いたいが……なぁ?」
――イライザのその笑みは、まるで皆の心を見透かして発言しているようなものだった。
モルフが送り込まれる以上、誰かを犠牲にしてまで先に進もうとする者がこの中にいないとは言い切れない。
寝る前に話し合っていた時、ルークとロバートが単独行動を図ろうとしていた発言から顧みるに、その可能性はゼロではないのだ。
「さて、じゃあそろそろ始めるか。俺がいたらレイラに何されるか分かったもんじゃないからな。先に俺はここを出るが、再びアラームが鳴ったその時、牢屋の出口の鍵は開かれる。そうしたらゲーム開始だ」
そう言って、イライザはこの場から離れていく。
第三のゲームを聞いた一同は、表情が強張っているのみで誰も言葉を発しなかった。
その状況が良くないと感じたレイラは、立ち上がると、
「皆、聞いてくれ。このゲームは前のような疑心暗鬼に駆られるゲームにはならない。なら、全員で動くべきだ」
それは、皆の心がバラバラにならないためのレイラの提言だった。
しかし、そう簡単にまとまるわけもなく、
「さっきも言ったが、俺は一人で行動させてもらう」
「おい、ルーク!?」
「どういうことだ?」
レイラに否定的な意見を真っ向からぶつけてきたのはルークだ。
彼は自分用の水の入ったペットボトルを手に持つと、
「協力するだのなんだの、やりたい奴は好きにすればいいじゃねえか。なんで一緒にいる必要がある?」
「少しでも死人を増やさない為――」
「そうやって、サミュエルみたいなのが出たんじゃねえか。お前の言う通りにして、俺が死なない保証はどこにある? 言ってみろよ」
「――っ」
ルークの返しに、レイラは言い返すことが出来ない。
ルークの言うことは間違ってはいない。事実、前回のマジョリティゲームで死人を出してしまったのは、はじめにレイラが主導した結果でもあったからだ。
「俺は打算ありきの仲良し子よしはごめんだ。お前らがどうしようと何も邪魔はしねえよ。でもな……俺は死にたくないんだ。信用できるのはもう……俺以外に何もない」
「――――」
「俺もそうさせてもらう」
ルークと同じように、単独行動を選んだのはロバートだ。
口うるさい性格をしたこの男は、先ほどもルークと同じような発言をしていた。
人の話を聞かないタイプの人間だとは清水も初めて見た時から思っていたが、今回も面倒を起こしてくれそうな様子だ。
「どいつもこいつも面倒ばかりなんだよ。あのイライザっていうガキが何を言おうと、一人の方が化け物の相手もやりやすい。てめえらみたいな足手纏いがいたんじゃ俺の命も危うい」
「ま、待てや、お前が思うほどモルフは楽に倒せる相手じゃあ……」
「知るか、お前ら軍人だとかなんだ言われてたが、武器も無いのにどうやって戦うんだよ? 素手なら俺一人の方があんな化け物より強いんだ。もっとも、お前らが盾になるなら俺もやりやすいがな」
「た、盾やと?」
その言葉をきっかけに、清水も苛立ちを募らせた。
この男ははじめから仲間意識なんて持ち合わせてなどいない。マイノリティゲームでは自分本位の行動が出来なかったから周りに合わせていただけで、今回のような単独でも行動ができるゲームで本性を現した次第なのだ。
周りの命など考えもいないその様は、もはや説得に応じる気配など感じられることもない。
「――もういい」
ルークとロバートの意見を聞いたレイラは、諦めるかのようなため息を吐いてそう答えた。
「そこまで言うのなら止めはしない。清水の言う通り、モルフは簡単に倒せる相手じゃない。それを知りながら一人で動きたいのなら……勝手にすればいい」
「いいんか?」
「構わない、どの道、私にこいつらを止める権利はない」
そう言って、レイラは説得しようとはしなかった。
これで、単独行動をする者達と共に行動する者と二分されることとなり、心はバラバラの状況となる。
幸いにして、ロバートとルーク以外の他のメンバーはレイラと行動を共にすることとなり、そこについては安心することができた。
そうして、行動を共にする者達はレイラの周りに集まり、円になるように座る。
「いいか? 万が一、モルフが投入される事態になったとき、その時は私と清水で対処する。お前達は身を隠してでも逃げろ」
もしも制限時間を超えてしまったその時、イライザの言葉通りならばモルフが館の中に入ってくることとなる。
その時の対処を事前に共有し、全員が黙って頷いた。
「あと、あの二人についてだが……」
「ロバートについては気をつけた方がいいですよ」
ルークとロバートの対応について語り出そうとしたレイラだったが、手を挙げて会話に入り込んだのはベイカーだ。
彼はロバートのことを知っているかのような話し方をして、そのまま続けてこう言った。
「あいつは自分のことしか考えていない。巷では噂ですが、あいつは恐喝や詐欺の常習犯です。今回だって何をしでかすか分からない」
「……なんで知っている?」
当然の疑問を、レイラはベイカーへとぶつけた。
彼は背中を見せているロバートの方を見ながらこう答えた。
「俺はこう見えて実は土建の仕事に携わっていましてね。あいつと同じ仕事の同僚だったんです。とはいえ、そういう犯罪が顕になって、あいつはクビになったんですけども……」
「なるほどな」
同じ仕事仲間だったことを明かしたベイカーに、レイラも納得した。
これで、ロバートも注意深く見ておかないといけない対象ともなるのだが、清水は一人違和感を感じていた。
――あれ?
そもそも、このメンバーはどのようにして集められているのか?
イライザが誰でもいいから拉致して集めた寄せ集めのメンバーだとしても、気がかりはあった。
レイラと清水は軍人だ。銃も拉致される前は所持していたわけであり、寄せ集めのメンバーであるならリスクを被ってまで拉致しようと考えるだろうか?
ここにいる集められた奴らって、何か共通点があって連れられてるんか?
そう考えるのも無理はない話だ。事実、ロバートとベイカーには仕事仲間だったという関わりがあった。
それはつまり――、
てことは……、それは俺とレイラだけじゃなくて他にも――。
清水が思う推測に結論を出そうとしたその時だった。
最初と同じ、目覚ましのアラームのような音が牢屋の中を鳴り響かせ、牢屋の扉が無造作に開かれる。
『さあ、ゲームスタートだ』
先ほどは目の前にいたイライザの声が聞こえて、ゲームスタートの合図が始まる。
作戦会議をする暇もなく、レイラ達も牢屋から出ざるを得ない。なぜなら、奴が言った十五分の制限時間は既にスタートしてしまっているからだ。
「俺は先にいく」
そして、牢屋の扉から先に外に出たのはルークだ。
彼はスタートの合図を待っていたかのように牢屋の扉の前に立っていたので、すぐにスタートダッシュを切ることができたのだった。
「私達もいこう」
ルークに釣られるようにして、レイラ達一同も牢屋の扉から外へと出ていく。
そうして、たった一人、牢屋の中で残っていたロバートはレイラ達が出ていく瞬間をジッと見つめていた。
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正直、清水は牢屋の中にいた時から頭の中が混乱していた。
このわけのわからないゲームに参加させられていることも、サミュエルが死んだことも全部そうだ。
そして何よりも――清水にはあの時、イライザが話していた言葉が何よりも頭の中で錯綜していた。
笠井修二が『レベル5モルフ』であること――。
それは、想像していた範疇の外から投げかけられたもののような、心を揺さぶられる大きな要因としてずっとあったのだ。
そんなわけがないと、きっと清水を惑わすための嘘だと考えていたこともあった。
共に寝食をし、共に戦い、仲間であり友達でもある修二が清水に隠し事をしていたという事実に、心に妙な隙間を感じる瞬間さえあった。
そもそも、他の皆はどうだったのだろうか。
自分だけが知らなかったという可能性はあったのではないだろうか。
ただ自分という存在が、信用されていなくてあえて共有させられていなかったのではないだろうか。
頭がおかしくなりそうだ。
どうして自分はいつもマイナスな方向に考えようとしてしまうのか。
――どうしてなのだろうか?
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レイラ達より一足先に進んだルークの後を追い、一同は独房の外へと出ていく。
そして、そのまますぐ右手にあった扉を開けた。
「……おぉ」
ゲーム名『マッドハウス』。ルールは十五分置きに放たれるモルフからの脅威を除き、時間無制限の中で館から脱出すること。
館という言葉選びをしたイライザの話は間違ってはいなかった。
木造とは思えない建材で作られたかのような壁、そこには繊細な装飾が施されており、絵画などのインテリアなどもあるいかにも富豪が住む豪邸のような雰囲気を醸し出していた。
マッドハウスというゲーム名から見ても、殺伐とした内装を予感していたのだが、実際は違っていた。
思うことは皆同じだったようで、先に館の中を見ていたルークも立ち止まり、周囲を見渡していた。
そして、彼はレイラ達の方を見ることもなく、深く深呼吸をすると、
「……必ず生き残ってやる」
そう小さく呟いて、一人静かに探索を始めた。
彼が歩く先は、真っ直ぐ奥にある妙に目立つ扉だった。
清水もそれが何かが気になり、レイラと目を合わせ、互いに頷くと、そのままルークの後を追いかける形で奥の扉の前へと近づいていく。
「変な扉やな、なんか窪みみたいなんが三つあるけど……」
「開けられないか?」
「おけ、ちょっと待ってな」
レイラに頼まれて、清水は取手すらない大扉の押してみた。が、一向に開く気配はなく、力技だけでどうにかできる類の扉ではなさそうだった。
「あかんわ、どうなってんやこれ?」
「これ、多分仕掛けがあるんじゃないかしら?」
「仕掛け?」
早速、訳がわからない状況になっていたところを、オーロラが大扉の窪みに指を差してそう言った。
「ほら、見た感じだけど、ここだけ三つ窪みがあるのは不自然に見えるのよ。もしかしたら、ここに何かを嵌め込んだら開く仕掛けになっているんじゃない?」
「なるほど……その線は高そうだな」
「で、でも……今から三つも探さないといけないんですよね? それじゃあ……あっという間に十五分なんて……」
ヨシュアが言った通り、今から三つの扉の窪みを埋める型盤を見つけ出すには、十五分という短い制限時間では無理があるというものだ。
つまりは、どうやっても一体以上のモルフがこのゲーム内で投入されることは絶対的であり、イライザもそれを見越してこのゲームを一から考えていたということだ。
「やるしかない。しかし、おかげでこれからどう行動すべきかの指標も立てることができた」
「指標?」
レイラがこのゲームにおける光明を見出したことで、ベイカーがそれを尋ねる。
レイラは扉の三つの窪みを指でなぞりながらこう答える。
「まず、どうあっても一体目の交戦は避けられない。その一体目は私と清水が迅速に対処して掃討する。そこからが勝負だ、十五分の制限時間の中で、まずは十分の間は手分けして行動するんだ。残り五分を切った時、一旦全員で戻ってくる。そして、また私と清水でモルフの対処……その繰り返しをするだけだ」
「なるほどな、確かにそれなら探索もしやすいもんな」
「武器もないのに、どうやって戦うんですか?」
清水がやる気を出したところで、イアンがどうやってモルフと対抗するのかについて問いかける。
本来、このような問答を繰り返している時間ももったいないのだが、レイラは特に気にしない。
理由は語らないだけで、明確なものだ。もう既に十分は経過している今、探索の時間は設けることができないからだ。
レイラはこの作戦を、まずは一体目の排除が済んでからの想定で考えている。
そして、イアンに質問されたレイラは、扉の左手に置かれていたフロアスタンドライトを手に取ると、
「武器がないなら作ればいい」
そう言って、彼女は長い棒状の先に取り付けられたライトの部分を地面に打ちつけて、破壊する。
そうして残ったのは、先っぽが尖った槍の形状をした棒だった。
「近接武器にはなるが、これだけでも十分武器になる。清水、お前もやれ」
「お、おう」
言われるがまま、もう一本のフロアスタンドライトを渡された清水は、レイラの真似をして地面にそれを叩きつけた。
破片が地面に散らばりながら、レイラと同じ先っぽが尖った即席の武器が出来上がる。
「槍術の経験は?」
「……あると思ってんか?」
「いや、聞いた私が悪かった。モルフを殺ることに対して躊躇はないな?」
「それは大丈夫や」
言い直したレイラの問いかけに頷いた清水は、槍もどきのそれを強く握り締めた。
現状、この中で戦うことができるのは清水とレイラだけだ。
レイラの発言の通り、躊躇なくモルフの息の根を止めることができる覚悟を持つ者もこの二人だけだ。
そして、一同の会話を横で聞いていたルークは、
「――――」
何も言わずに、彼はレイラ達の元から離れていく。
「ええんか? ほっといて」
「構わん、あいつは私達の邪魔をしないと言った。むしろ好都合だろう、私達が動く間、あいつはあいつで扉を開ける為の型盤を探してくれるはずだ。ある意味ではやりやすくなる」
「――なるほどな」
ルークのことはフリーマンとしての扱いで動かすということで、レイラは納得していた。
このゲームでは、わざわざ裏切る必要性がないものになっているのだ。
それが行動を共にしているか否かの違いでしかないのならば、ルークの単独行動を咎める理由はない。
そして、いよいよ十五分の制限時間が迫ろうとしていた。
「イアン、リディアを頼む。全員、モルフが現れた時は二階に登って避難するんだ。最も、どこから現れるかはわからないが……」
「わかりました」
今も虚ろな表情で精神が壊れかけていたリディアをイアンに任せて、清水とレイラは大広間の中央に立つ。
万全の状態で迎え撃つ為に、準備することは戦いでは重要な所作だ。
そして、壁に取り付けられた時計の針が十五分の経過を示したその時だった。
大広間の右手にある何もない壁が、自動扉のように上へと競り上がる。
「来るぞ!」
臨戦体制に入る二人。そして、暗闇の中から現れたのは――。
「――嘘やろ?」
イライザは言った。十五分置きにモルフがこの館に投入されると。
そして、奴は一つだけ言っていなかったことがある。
送り込まれるモルフの感染段階――その種類についてだ。
「『レベル3モルフ』やと!?」
清水達の目の前に現れたのは全身の皮膚が剥がれ落ち、血肉を振り撒く異形の感染段階、『レベル3モルフ』だった。
『レベル5モルフ』強さ順 ※能力込み
1 リアム
2 リーフェン
3
4 笠井修二 ミラ・ジノヴィエフ
5 世良
6 ライ・カルシュタイン
7 レオ
8
9 椎名真希
椎名真希が一番下なのはこの中で相手の息の根を止めるという意識が一番低いからという点です。
3と8はまだ登場していない……わけではないんですが、『レベル5モルフ』ですとは明かしていないキャラです。
世良に関しては状況次第でリーフェンともやりあえるので、あくまで中間の順位付け。なので、能力ありきで周囲にモルフがいないのであれば、ライには負けます。
一応、『レベル5モルフ』でまだ明かしていないキャラはあと三体というところです。




