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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase4 第三十六話 『人間性の脆さ』

『残り五分……と言いたいところだが、どうやらそれもいらないか?』


 全員の決心を固めさせたその間際で、この一部始終を眺めていた謎の男はスピーカー越しにそう確認を取った。

 レイラが指揮を取り、全員が同じ札を選び続けることでこの一つ目のゲームを乗り切るという攻略法を聞いた割には、謎の男の反応は特に変わらない。

 謎の男の狙いは、少数派を周回ごとにバラけさせて出すことによって起きる混沌とした状況を狙っている。そう考えていたのだが、一切の口出しはしなかった。


 とにもかくにも、時間は有限であり無限ではない。

 問題はないかもしれないが、それでも五分という時間は貴重だった。


「いや、いる。遠慮なくいただくさ」


『クク、構わねえぜ? それじゃあどうぞ』


 レイラの注文に、謎の男はすんなりと受け入れた。

 残り五分――その間、特に話すことなど何もないだろうと清水も考えていたのだが、


「まずは整理する。一つ目の選ぶ札は頭だ。その次も今決めておくが、これは別にどれでもいいだろう。目にしておこう」


 この五分の間に、次の周回の選ぶ札も決めておくというレイラの判断、それは時間短縮させる意味合いでは効果的だった。

 そして、彼女は手を絶え間なく動かしながら続けて、


「いいか? これを遠くから眺めている謎の男の目的は私達の混乱だ。それが起きれば、どう足掻いても全員でクリアするのは困難になる。仮に一人でこの一つ目のゲームを切り抜けたとしてもそれは同じだ。奴は五つのゲームがあると言っていた。一人だけ生き残ったとしても、一人で残り四つ……いや最低でも三つのゲームをクリアするなんて不可能に近い。だから必ず全員同じ札を選び続ける必要がある。……何度もくどいことを言うが、命を賭けているんだ。それだけは頭に入れてくれ」


 必ず同じ札を選ぶ理由を一同に伝えながら、全員の視線がレイラへと集まっていく。

 だが、清水だけは少しだけ違った。

 聞いてはいるが、レイラの手の動きが妙に気になってしまっていたのだ。

 それも、これまで彼女と行動を共にしていた時、彼女のジェスチャーによるハンドシグナルの影響も相まってのことだった。


 ――ハンドシグナル。


「――ぁ」


 その瞬間、清水は気づいた。レイラの手の動き、それが、どう見てもハンドシグナルを出している動きだったのだ。

 誰に向けてのものか、そんなものは決まっている。

 この中でそれを知っている者、清水勇気へと向けての信号だった。


 手の動き、指の動き、それは軍隊が事前に決めていた動作とは少し違う。どちらかと言うと、オリジナルで作ったものに近い。

 その手と指の動きを見ながら、清水は少しずつ解読していく。

 そして、レイラが清水へと伝えようとしている伝達事項とは、こう言っているように見えた。


 脱出する為の糸口を探る。この部屋の中を観察してくれ、と。


「――――」


 レイラはずっと皆へと話し続けている真っ最中だ。その間、一切清水へと視線を向けてはいない。

 そして、皆の視線がレイラへと向かっている以上は、清水には視線が向かない。

 なんとも器用なものだろう。話し続けながら、その間に別の方法で清水とやり取りをする。普通に考えて、常人には出来うる方法ではない。


 清水は返答を返すわけでもなく、表情だけは真剣なまま了解した。

 この部屋の間取り、それを目線だけを変えながら見渡す。


 真上に小さい電球が取り付けられ、光量が少なく部屋の中は薄暗い様相だ。

 天井の四方には謎の男が話す為のスピーカーがあることは予め知っていた。

 部屋の大きさは一戸建てのリビングほどの広さ、四方それぞれ十メートル間隔の手狭な部屋だ。


 その真ん中に円を成すようにして椅子に座らされているのが今の清水達であり、それ以外に見えるものは何もない。

 本当に何もない。壁にも地面にも、一切の物も置かれていないのだ。

 まるで、ここから出さない為に何も置かないようにしたかのようだった。


「……クソ」


 ボソッと、他には聞こえない声量で清水は声を漏らした。

 これでは、脱出の糸口なんてものは見つかるわけもない。

 ここにあるのは、清水達と清水達を拘束する為の特殊な椅子とテーブルが置かれているのみだったのだ。


「――だ。そろそろ時間が近い。全員、準備はいいな?」


 そうこうしている間に、時間は無情にも経ってしまったのだろう。ゲーム開始が近いことを知って、清水は唇を噛んだ。


『さて、時間だ。ルール通り、お前達の口は閉じさせてもらう』


「――っ?」


 その時、清水達を拘束していた椅子が動き出していく。具体的には頭の部分ではあるが、頭の上から顔の前へとマスクのようなものが口元へと当てがわれて、声を出すことができなくなる。

 しかし、呼吸はしっかりとできていた。マスクのようなそれの先には管のようなものがあり、さながら人工呼吸器のような機械にも見える。

 話させないようにしたのは、ゲーム中における会話を一切させないためでもあるのだろう。

 ともあれ、これで話すという選択肢は完全になくなってしまった。


『それともう一つ忘れていたが、他の誰かが何を選んだか見えないようにもさせてもらう。そうじゃねえと面白味に欠けちまうからなぁ』


 謎の男がそう言った瞬間、清水達の左右前方に足元から鉄の板のようなものが這い上がる。

 そして、左右にいたレイラやイアンの姿が見えなくなり、他の者達の顔も何も見えなくなってしまった。

 他の者が何の札選ぶかを見えなくすることで恐怖心と猜疑心を煽るやり方をしているのだろう、なんとも下衆なやり口だ。


『投票開示は全員が提出を終えた時点だ。ゆっくり選びな』


 しかし、清水は今更迷うわけにはいかない。

 そもそも、何をどうしたところで選ぶ札はもう決まっている。

 事前に決めていた札、『頭』の札を清水は手に取る。

 これをさっさと提出して、次の五分間で脱出の糸口を探る為に周囲を観察する必要がある。


 だからこそ、早く次に進む為に……、


「――――」


 もし、他の十一人の中で一人でも『頭』以外の札を選んでしまったら?


 そんな不安がふと過り、清水は『頭』の札を提出しようとする手を止める。

 少数派が勝ちうる権利、それは今回を含めた五つのゲームを最後から一つスキップし、やらなくてもいいというものだ。

 このゲーム、そもそも提出された札を開示するとは言ったが、誰が何の札を出したのかを開示するとあの謎の男は言ったか?


 ――言っていない。もし、このまま誰かが裏切ったとして、周囲の誰の顔も状況も見えないまま次の周回が始まってしまえば、誰が負傷したのかも分からず、更には誰が裏切ったのかも分からなくなってしまう。

 そうなってしまえば、レイラの危惧していた最悪の状況が起こり得てしまうのだ。


 やからって……『頭』以外を選ぶわけにも……。


 当然ながら、清水には『頭』の札以外を選ぶ選択肢なんてものはない。

 そもそも、この札だけはどう見てもトランプでいうジョーカーの部類に属してしまっている。

『頭』の周回で少数派が出てしまえば、確実に多数派が死ぬことが決まってしまうからだ。

 レイラが『頭』の札を先に選んだ理由、それはもしかすると、一番危険度が高い札を先に消費しておきたかったからなのかもしれない。

 どの札も、人間の部位としては失ってはいけないものばかりだが、頭に関してだけは命に関わるものだとハッキリしていたからだ。


 いや……大丈夫や。少数派を狙う奴がおったとしても、そいつが得することは何もない。一人だけ生き残っても……次のゲームで生き残れる可能性は限りなく低いんや。


 先ほどの話し合いでも、それは散々言われてきたことだ。

 ここで裏切ってその場を凌げたとしても、周りにいる人間は全員死に、一人だけで残りのゲームを進めていかなくてはいけないという制約がある。

 仮にこの『頭』以外の札の周回で全部少数派に立ち回ろうとしたとしても、最初の一回は成功したとして、次の周回からも少数派に回るのは至難の業でしかない。

 よって、このゲームにおいては少数派になるのはリスクが高すぎるのだ。


 俺は……。


 清水はなぜか躊躇っていた。

 簡単な話だ。『頭』の札を提出すれば、この周回は必ず突破できる。その確信があっても、体は上手く動いてはくれない。

 当たり前だった。こんな札一枚に自分の命を委ねようとしているのだ。

 普通に考えて正気の沙汰とは思えないし、精神的にもくるものがある。


 周りが何を選んでいるか分からないこの状況は、猜疑心と恐怖心を増幅させるには十分すぎるものとなっていた。


 ……やめや。


 ひとしきり考えた後、清水はこれ以上のことを考えるのはやめた。

 なぜならそれは、


 こんなことで悩んでてもしゃあないやろ。俺はレイラを信じると決めたんや。やから、今更他の選択肢なんて選べるわけがない。


 いくら考えたところで、レイラは必ず『頭』の札を提出する。

 それが分かっている以上、清水も同じようにして『頭』の札を選ばなければ、レイラを殺すはめになってしまうのだ。

 そんな結果は、到底受け入れられるものではない。


 清水は『頭』の札を手に取り、それをすぐに手元のトレイのような入れ物に提出した。


『よーし、じゃあ全員提出したな。それじゃあ結果発表といこうか。まずはマスクと壁を取り除いてやる』


 提出してすぐだった。周囲を見えなくさせていた鉄の板が下がり、同時に清水の口を塞いでいたマスクも取り外されていく。


 そして、皆の姿が見えた。


『それでは結果発表だ。一周目のマイノリティゲーム……少数派は……』


 謎の男は勿体ぶるようにしてゆっくりと話を続けていく。

 少数派が出れば死者が出ることは必死の一周目、その結果は――、


『いない。……やるじゃねえか! 話し合いが功を成したようだなぁ』


「い、いなかった」


 運命の一周目、それはどうやら全員が『頭』の札を選んでいたということだ。

 分かっていたこととはいえ、胃が痛くなるような結果発表だ。

 このゲームの恐ろしさは、自分の運命を他人が握られているというところだ。たとえ自分が何を選んでも、他の選択肢次第で変わっていく。


『これであと四回終われば、一つ目のゲームは終わりだ。……が、一つだけ言わせてもらいたいことがあるんだよな』


 落ち着いたところで、謎の男は口出しするかのようにして一同へとある言葉を伝える。


『随分と提出までに時間がかかったようだが、予め選ぶ札を決めていた割には遅かったなぁ? 何かあったのかな?』


「――っ」


 それは、口出しにしてはなんとも嫌らしく、針を突くかのようなものだった。

 ゲームがスタートし、札を選び、全員の提出が完了した瞬間に結果を発表する。確かにそうは言っていたが、全員の提出が完了するまでに時間がかかっていたことは紛れもない事実だ。

 そう、時間なんて掛ける必要もない筈なのに、だ。


『まあ迷うよなぁ? 自分の生殺与奪の権利が他人に委ねられていたんだ。そんな簡単に札を選ぶなんてできねえよなぁ?』


 謎の男が続けてそう話したことで、これを聞いていたヨシュア、オーロラ、リディアは恐怖に顔を歪ませていく。まるで気づかされたかのようにして、体が小刻みに震えながらこのゲームの恐ろしさを思い知らされたのだ。


「……黙れ」


『あ?』


「言いたいことはそれだけか? さっさと五分間の話し合いの時間を進めたらどうだ? そうやって私達を惑わせて、少数派を出そうという魂胆なのだろうが、私がそうはさせない」


 主導権を完全に握られていたこの状況下で、レイラは物怖じとせずに謎の男へとそう強気に捲し立てた。

 清水からみても、レイラのその発言は無謀極まりないと感じてはいた。

 清水達を拘束させている主導者、謎の男は話の腰を折られるのが嫌な性格をしている。

 だから、こんなことを言ってしまえば、レイラが危険になるのではと考えていたのだが、


『おっとっと、それは失礼……。それじゃあ続きを始めさせてもらうぜ』


 謎の男は特に気分を害した様子は見せずに、ゲームの続きを始めさせた。

 そして、五分のインターバルがまた始まろうとする。


「奴の言うことに耳を貸すな。確かに時間は掛かりこそしたが、ちゃんと全員の札は一致したんだ。次も上手くやれる」


「で、でも……同じ札を出すだけだったのに……誰かは迷っていたんです……よね?」


 レイラが皆を落ち着かせようと話をした直後、リディアが目も合わせずに俯きながらそう答える。

 側から見ても、彼女の様子は平常に見えない。少しでも混乱させてしまえば、錯乱状態になる恐れさえ見えてしまう。


「ああ、誰かは迷った。だがそれだけだ。結果、全員同じ札を提出した。なら何の問題もない」


「も、もし……次に誰かが少数派になろうとしたら……」


「その可能性はない」


 断言するように、レイラは強い語気でリディアへとそう言った。

 少しでも刺激させてしまえば、場が混乱の渦になる可能性があるこの状況でも、レイラは落ち着いていた。


「もし、少数派が出れば、三回目の周回でそいつが痛い目に合うだけだ。そして、それ以降も同じようにな。私は今回、全員の提出が遅れてしまったことは何の心配もしていない。むしろ想定通りだよ」


「想定通り? どういうことですか?」


 妙な発言をしたレイラに反応したのは、震えるリディアの隣に拘束されていた初老の男性、ベイカーだ。

 彼は今の今まで一切言葉を発することはなかったが、この時だけは違った。


 そのベイカーの問いかけに対して、レイラは、


「あの謎の男の言う通り、人間誰しも迷ってしまう瞬間はある。たとえ攻略法があるとはいっても、生殺与奪の権利は他の奴らにあるんだ。そう考えれば、提出に遅れが生じることは予測出来ていた」


「もし……それで少数派がでたら……」


「出ないさ。というより、出来ないんだ。まだ一つ目のゲームなんだぞ? たった一人で二つ目のゲームに挑むか、『頭』が多数派になることを知っていて、それを選ばない理由なんてない。最終的には、全員が『頭』の札を選ぶことは私も分かっていた」


「なるほど……」


 納得するようにして頷くベイカーに、レイラは続けてこう話をした。


「時間がない。――リディア、怖いことは分かっている。他の皆も聞いてくれ。私はこのゲームが簡単なものではないことは百も承知でいる。だから何度でも言うぞ。このゲームは同じ札を選び続けていれば誰一人危害は出ずに次のゲームへと駒を進められるんだ。それだけを頭に入れてくれ」


 優しさや励ましの言葉を、レイラは掛けようとはしなかった。

 当たり前だが、レイラも余裕があるわけじゃないのだ。

 体感でもあと一分、それくらいしか話し合いの時間は残されていない。

 だから、残り時間で話せることは一つしかなかった。


「次は『目』の札だ。あと四回、必ず生き残るぞ」


『時間だ』


 レイラのその言葉を最後に、天井のスピーカーから謎の男が五分の話し合いの終了の宣告がなされた。

 そして、再び周囲を見えなくさせる為の鉄の板が競り上がり、声を出させないようにして口元にマスクが装着される。


 ……ちくしょう。


 次の周回が始まろうとする寸前、清水は心の中で苛立ちを吐露した。

 その理由は清水だけが知ることだ。一回目の周回で提出が遅れた原因はそもそも、清水の中で迷いが生じてしまったことにあったからだ。

 あのまますぐに『頭』の札を選んですぐに提出していれば、リディアのような者が現れることもなかったのだ。

 その尻拭いをレイラはしてくれた。それが、清水にとっては何か悔しい思いとなってしまっていた。


 分かってる。今回のは俺が全部悪かった。だから、もう迷ってられへん。


 一度目と二度目は同じにはならない。

 それが頭で理解できていた清水は、迷わず『目』の札を手に取り、すぐにトレイの上へとそれを置いた。

 そして、それから十秒ほどが経過した頃合いだった。


『全員の提出が完了した。結果発表といこうか』


 一周目と同じく、全員の顔が見え、話せる状態になってから謎の男はマイノリティゲームの結果を発表していく。


 そして、二周目の結果はこうだった。


『今回も少数派はなしだ。……やるじゃねえか、俺はこの周回で少数派が出るんじゃねえかと思ったんだけどなぁ』


 二周目の結果は一周目同様、少数派はなしとのことだった。

 それを聞いた一同は、大多数が「ふぅ」と息を吐いて胸を撫で下ろしていた。

 かくいう清水もそれは同じで、少数派が出なかったことは喜ばしい事実だった。


「あと三回だ。次の札は『手』にしよう。異論はあるか?」


 皆がホッとする中で、レイラだけは行動が早かった。

 すかさず次の周回で選ぶ札を皆で共有させて、間違いが出ないように事を進めようとする。


 そして、二周目にはなかったハンドシグナルも同様にして、だ。


「――――」


 レイラが話をしている間、清水はレイラの手の動きを凝視する。

 五分という時間、その全ての時間を清水は別のことに費やせるわけではない。

 レイラのハンドシグナルを解読するにしても、一、二分の時間を必要としてしまうのだ。

 よって、残った三分で清水は動くしかない。


 次にレイラが清水へと伝えようとした指示は、間違いがなければこう伝えていると解釈した。


 部屋の中の観察の継続、それと……拘束具の確認だ。


 先ほどと別の指示、拘束具の確認を追加したレイラに、清水はレイラが自分達を縛っている拘束具からの脱出も目論んでいることがわかる。


 そして、残り時間で清水は拘束具の確認をする。

 自身の拘束具は全体を見渡すことが出来ないので、他の者達の拘束具から見るしか手段がないのだが、それにしてもだ。


 見た雰囲気では、かなり細かな造りをしている。

 一切の動作も許されないように、足から胴部分、頭に掛けてしっかりと固定されているのだ。

 唯一、今だけは手は動かせる状態ではあるが、それが使えたからと言って外せそうにはない複雑な形状をしているのだ。

 一番気になるのは、頭の隣や足元、胴部分の周りに鋭い形状をした刃が取り付けられていることだ。

 これは恐らく、少数派が出た時に動かして、その部位を切り落とす時に使われるものだろう。

 一見して、それを見たからといって清水にどうにか出来るようなものには見えない。

 これらをどうにかするには、恐らく遠隔操作で謎の男が外す以外に手段はなさそうに見える。


 結局、観察した限りでは清水に何か出来ることは何も無かった。

 それは部屋の中も同様で、用意周到に作られていることがハッキリと分かる。


 そして、清水達はそのまま三周目、四周目とマイノリティゲームを進めることとなる。

 結果は一、二周目と同じように少数派が出ないまま、最後の五周目へとゲームは進んでいった。

 その間、清水はずっとレイラのハンドシグナルに従いながら動いていたのだが、この状況を打破する為の決定的な手段は何も見つからなかった。


 そして、運命の五周目――。


「これが最後だ。次に選ぶ札は……『指』にしよう」


 最後に残された札は、『指』と『足』の二つの札だ。

 その中からレイラは指を指定して、全員へと共有した。

 ここを切り抜けられれば、全員が無傷で二つ目のゲームへと駒を進められることができる。

 次のゲームの詳細は明かされていないが、そんなことは今は関係ない。

 一刻も早く、まずはこのゲームをクリアすることが先決なのだから。


『よし、じゃあ投票の時間だ』


 謎の男がそう言って、清水達には再び周囲の仲間達が何を選んだのかを見えないようにするために鉄の板が競り上がり、喋らせないようにと口にマスクが取り付けられる。

 そして、清水の目の前には『指』と『足』の札だけがあって――。


 これで最後や。結局、脱出の糸口も何も見つからんかったけど……しゃあない。


 結果的にはここから脱出する為の糸口は何一つ得られなかったのだが、それはもう割り切るしかないだろう。

 正真正銘、これが最後の周回。清水は目の前に置かれた二枚の札から『指』の札を手に取る。


 前回同様、清水はその『指』の札を迷うことなくトレイの上へと置いた。

 そうして、またすぐに謎の男が結果発表の合図を出すものだと思われたが、今回は違った。


 投票開始から三十秒、まだ謎の男から声が掛かることはなかった。

 その理由は、まだ誰かが札を提出していないということなのだが、それがふと違和感を覚えさせる。

 そして、


『全員、提出完了したな。それじゃあ五周目最後の結果発表といこうか』


 謎の男が全員の提出が終わったことを告げて、周囲を見えなくさせていた鉄の板が少しずつ下がっていく。それと同時に清水を喋られなくさせていたマスクも外されていく。


『さて、最後の周回だが、少数派は――』


 マイノリティゲーム、五周目最後の結果。謎の男が間を置きながら答えたのは――。


『ありだ』


 鉄の板が下がっていき、各々がトレイに置かれた札が暴かれて――謎の男が告げたのは非情で無情な宣告だった。


もうじきにといったところですが、リアムとクリサリダのボスの企みについてももうすぐ明かされる頃合いですね。

捕捉説明ですが、少数派が出た時に失うものは多数派が選んでいた札の種類になります。

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