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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase3 第二十九話 『椎名真希の生死』

またもや一日遅れました……。

 神田慶次を置き去りにして、そのまま装甲車を取り戻した雪丸達は先へと進んでいた。

 既に二時間も走り続け、太陽の光が外を照らし始めている。

 椎名真希のGPS情報ももう近くまであることを理解しながら、その道中は誰一人として話をすることはなかった。

 したくともできなかったのだ。

 未だに、あの時のことを悔いていた。神田慶次が生きていて、彼が先に行けと目で伝えたその時、雪丸達はそうせざるを得ずに装甲車を前へと進めてしまったことをだ。


「ミナモ、もうすぐ着くぞ」


「……ええ」


「隊長なら大丈夫だ。きっと、倒せなくても逃げ切っている筈だよ」


 生きているか死んでいるかなど、今となっては雪丸達には知りうる手段はない。

 しかし、生きていると信じるしかないだろう。

 自分達を生かし、先へと進ませた理由が、自己犠牲であると信じたくはない。


「後ろにいるサクと不知火に武器の確認をさせておいてくれ。ここから先、何が出てくるか分かったもんじゃねえからな」


「そうね、あの六本足の化け物が出たとしても不知火が見つけてくれた弱点を狙えばいいけど……あの大男については分からないことだらけだしね」


「……その通りだ」


 あの戦場の中、不知火が一人で見つけ出した六本足の化け物の対抗手段、それはまだ雪丸達でもどうにか出来る方法だ。

 強固な外殻を持つ奴に対しては、体内が逆に手薄であり、対モルフ専用武器を使って口の中に撃ち込むだけでどうにかできる。

 しかし、あの大男だけは別だ。弾丸も通じず、手榴弾による爆発物を用いても倒せるかどうかが分からない。

 単純な火力ならば、戦車でも使わないといけないレベルにまでなってくるだろう。当然、雪丸達にはそんな便利なものは持ち合わせてなどいなかった。


「もしまたあの大男に似た奴が出てきたとして……そん時は逃げることを前提にして動くぞ。これ以上散り散りになるのはごめんだ」


「わかった、サク達にもそう伝えるよ」


「――喋っていたらもう着いた。ここは……工場か何かか?」


「見た感じだと浄水場のようにも見えるね。すぐ近くに湖があるし」


 目的地である椎名真希のGPS情報の場所は広大な土地面積を誇る工場地帯であった。

 一目見て雪丸がそれを浄水場と把握出来なかったのは、今までに見たことがある浄水場とは内観が少し違っていたからだ。

 日本ではヘリに乗ることもしばしばあった雪丸は、空から見た浄水場のほとんどは屋根もない剥き出しの状態のものが多かった。

 しかし、ここの浄水場は中の内観も見えなく、四方がコンクリートで囲まれている。特に意味はないだろうが、一つ気になることはあった。


「なぜ、こんなところにいるんだ?」


 行方不明になっていた椎名真希の行方が、まさかこんな場所に潜伏しているとは考えもしなかった。

 モルフから逃げ続けた先がここならばまだ納得はいくが、それにしてもだ。

 そもそも、ただ潜伏するだけで二日近くもこんな場所にいるのも変な話だ。飲み水には困らないだろうが、ろくな食べ物こそここにはなかった筈。聞くには、椎名真希自身にはGPS情報が取り付けられていることは知らされていなかったわけであり、助けを待つ為にこの浄水場で潜伏していたとは到底考えづらい。


「外にモルフの気配はない、私は先に降りるよ」


「――あぁ、分かった」


 黙考している雪丸に、行動優先なミナモは先に装甲車を降りていった。

 雪丸自身もただ慎重なだけだが、色々と腑に落ちない点はあったのだ。


「隊長はああ言ってたけど……確かに今思えばそうだよな。なんで椎名真希に対してそこまで上は固執するんだ?」


 いつかは神田が話していたこと。風間率いる上層部は日本側の中でも主力部隊であるタケミカヅチを投入してまで椎名真希の確保に躍起になっていた。

 椎名真希は『レベル5モルフ』であり、モルフの力を扱うことができる存在。

 ただそれだけだ。それなのに、何をもって椎名真希を確保することに集中しているのか。そもそも、犠牲を払ってまでやることなのか。


「……やめよう、考え過ぎると士気が下がる」


 考え始めたのは自分自身だったのだが、これ以上は自身のやる気にも関わってきそうな勢いだ。

 椎名真希のことを責めるわけではないが、それでもこの状況に対しては暴言さえ吐きたくなるような気分でさえある。

 今はただ集中することだけ考えよう。


「雪丸、サクと不知火はもう準備ができてるよ」


「了解、ここからは全員固まって動くぞ。単独行動は禁止だ」


 雪丸の指示に、一同は緊張感のある面持ちで頷く。

 この先に待ち受けるものが何かは、この中の誰であっても予想がつかない。元より、椎名真希が生きているかどうかも怪しいと踏んでいるくらいだ。

 これ以上誰も失わない為にも、まずは一致団結して行動していくことが必須だった。


「ミナモの言う通り、ここは浄水場のようだな。ここはまだ電気が動いているようだが」


「人もいるかもしれないね。気配がないことを見ると、モルフの存在もいるか分からない」


「お化け屋敷みたいで怖いっすね……」


「ヒィ……やめてくださいよサクさん……お化け苦手なんです私……」


 それぞれが浄水場の中を歩きながら意見を出し合う。

 確かに今のところ、人の気配は感じられない。サクが言ったお化け屋敷という例えも、あながち間違いではない。

 通路の角は左右が見えづらいものとなっており、死角となる場所もかなり多い。

 何か飛び出してきそうな勢いさえあるが、それはなかった。

 それだけ、気配らしきものが感じられなかったこともそうだが、避難した人間がここにいる可能性もゼロではないだろう。


「足元濡れてるぞ、気をつけろ」


「了解……ん?」


「どうした、ミナモ?」


 足元が濡れていることをいち早く伝えた雪丸に、ミナモが足元に視線を送ったその時、ミナモが何かに気づく。

 その場で片膝をつき、ライトを地面に当てると、


「これ、薬莢だよね?」


「……そうだな」


「誰かがここで銃をぶっ放してたってことっすかね。そうなると……」


「誰かがここにいたということになるな」


 人の気配がないこともあったが、誰もここにきていないという線はこれでなくなる。

 椎名真希が銃を使ったという線もありうるだろう。だが、神田隊長から聞いた椎名真希の印象は、銃火器等は基本持たない女の子だと聞いている。

 危機的状況に陥った時に限っては使うこともやむなきことだろうが、誰がここで銃を使ったかにおいてはこの場では何も答えは出てこない。


「気を引き締めろ。もうすぐ目標地点にまで着く、対人間が相手になることも想定して動け」


「「「了解」」」


 今のところ、ここまでは順調と呼んでもいいくらい何事もなかった。

 だが、いざ戦闘になった時に全てが崩れてしまう可能性が高いことも事実ではある。

 

 雪丸が言った対人間への想定――正直なところ、モルフを相手にするよりも厄介なところではある。

 同じ人間である以上、殺すという判断を最初から出来ないからだ。

 もし、相手側が最初から殺すつもりで掛かってこられでもすれば、無駄な弾丸を消耗するキッカケにもなりかねないだろう。


「――――」


 暗闇をライトで照らしながら一同は進んでいく。

 水滴がポンプの繋ぎ目から垂れ落ち、ピチャピチャと音を立てている。

 そして、雪丸達は歩いていた足を止めた。腕にはめていたGPS情報として見ることができる機器を見て、前を見た。


「……ふざけてるな」


「な、なんですか……これ?」


 舌打ちをした雪丸に、唖然とする不知火。その理由は単純で、彼らが見ていた壁にある。


 椎名真希の存在を指し示すGPSマーカーが指していたこの場所、その壁にはスプレーか何かでも吹きかけたのだろうか。

 こう書かれていた。


『It serve you right』直訳するならば、いい気味だ、ざまあみろ……と。


「ミナモ、どう見る?」


「どうって……どうなんでしょうね。罠に嵌められた感はあるけど、実際何も起こらないし……うーん」


「椎名真希がいないのも気になるっすね。この壁の文字、一見馬鹿にされてるようですけど、誰に向けて伝えてるかってみたら……俺達な気はします」


「な、なんか怖いですね」


 椎名真希はここにいない。そして代わりにあったのは雪丸達に向けてのメッセージなのか、敵対的な文言だけがそこに残されていた。

 気がかりなのは罠らしきものは残されていなかったことだ。

 このメッセージは明らかに、雪丸達に対して残したものというのはまず間違いない。

 ならば、どういった意図のものなのか。それだけが意味不明なままであった。


「これは……椎名真希についていた発信機か。ミナモ、ちょっと確かめてくれ」


「わかった」


 ちょうど地面には、雪丸達が情報として得ていた発信機らしきものが落ちていた。

 迂闊には触らず、まずはミナモに調べさせようとした雪丸だが、その理由は当時の状況を知る為でもあった。


「……そうだね。指紋は残っている。……誰かは分からないけど、発信機が衣服か何かについていたんなら、自然に落ちてしまったことはなさそう……多分、引き剥がしたんでしょうね」


「まあこんな挑戦的なメッセージをここに残したんなら気づかれたんだろうな。一つ気になるのは……」


「これが椎名真希が残したメッセージかどうか、でしょ?」


「……あぁ」


 発信機についていた指紋から、意図的に椎名真希から発信機を取り外したということは明白になる。

 が、それは果たして本人がそうしたのかどうか。その答えはここにいるメンバーなら誰でも答えは出せた。


「まず間違いなく第三者が残したものに違いない。英語表記だとして、事情も知る立場で考えると月島や清水達がこれを残したとも考えづらい。これは、俺達も知らない誰かが書き残したものだ」


「ということは……椎名真希は既に誰かと共に行動していると?」


「そういうことだ。敵か味方かは分からんが、多分どっちにも転びそうな感じはするがな」


「……それで、これからどうする?」


 どちらにせよ、椎名真希を確保するするという目的は絶望的なものだ。

 苦しい思いをしてここまできて、得られたものは何もない。

 だから、この後に雪丸達がするべきことは誰一人死人を出さずにミスリルへと帰還することでもあるのだが、


「ひとまず、ここら周辺を少しだけ調べていこう。何か痕跡ぐらいは残っているかもしれない」


 こればっかりは仕方のないことだが、何も得られずに帰還するというのは本能的にも避けたい衝動は出てきてしまうものだ。

 これが神田ならば、上手く自制してすぐにでも装甲車まで戻るという選択を取っていただろう。

 ただ、どちらの選択肢が正解かは、この先に何が起きるかによって変わってくる。


「あっちに管理人室があるっすね。一応見てみます?」


「ああ、行こう」


 サクについていき、一同は浄水場の中を探索していく。

 これだけ歩いていても、モルフの一体も出てこないのは、もう誰もここにいないという証明にもなってくるだろう。

 もうほとんど、一同は警戒を緩めつつあった。


「結構散らかってるな」


「ですね」


「雪丸さん、これ見て下さいよ。ここの工場、意外と金掛けてんだなーって思いますよ?」


「何がだ?」


「なんつーか、水質試験の為に空気を入れない形でプール内の水の上にバリケードはるらしいっす。すごいっすよねぇ、こうやって飲み水とかも作られてるんですかね」


 サクが見せてきたのは、一般人が見てもよく分からない浄水場施設の仕組みのようなものだった。

 そこには、サクが言っていた浄水場のプール内の閉鎖扉に関する仕組みなどが載っている。


「おいサク、ここに社会見学しにきたんじゃねえんだ。真面目にやれ」


「うっ……すみません」


 目的を忘れかけているサクを叱咤して、雪丸も部屋の中を隈なく探索していく。

 が、特に目ぼしいものは何もなく、椎名真希に繋がる痕跡も何も見つかりはしなかった。


「ちっ……やはりダメか」


「一旦戻ろう、雪丸。これ以上は意味なさそうだしね」


「……そうだな」


 ミナモにそう諭され、雪丸も一時帰還することに決めた。

 あまり外に長いこと装甲車を置き去りにするわけにもいかないし、時間の関係もある。

 ミスリルから出た時も夜中の中でも行軍ではあったが、あの時でもかなりの数のモルフが装甲車へと迫りつつあった。

 再び夜になれば、またかなりのピンチに陥る可能性だって十分にありうるのだ。


「全員聞け。今よりミスリルへの帰還を目的として動く。帰り道も戦闘のリスクは十分にあることを考えながら警戒するように」


「あ、あの……」


「どうした、不知火?」


「か、神田隊長はどうするんですか?」


 ミスリルに帰還する。それ自体には特に異論があるわけではなく、ここに一人足りない神田をどうするのか、それを不知火は聞いてきた。


「――神田隊長を探す術が俺達にはない。一応、俺達の位置は把握出来てる筈だから、俺達がミスリルへ戻ろうとすることだけはあの人も気づく筈だ。あの人には申し訳ないが、今は俺達だけでも戻るしかない」


「そうなるっすよね……ちょっと歯がゆいですけど」


「隊長と合流したいのは俺も同じだ。だけど部隊から死人を出すわけにはいかない。あの人ならなんとかするさ」


 他人任せだが、今後の為を思えば仕方のない判断ではあった。

 そして、彼らは浄水場から出る為に再び歩き出していく。


「結局、何一つ得られないままでしたね。俺達、叱られると思います?」


「私達はただそこに向かえと指示されただけだからね。事実を話せばどうとでもなるだろうさ」


「あ、あの……」


 無駄足だったことを上が知ればどんな反応をするか、それを問題ないと片付けたミナモであったが、不知火が間に入って何かを聞いてきた。


「こ、これ……行き道にありました?」


「ん?」


 不知火が指を差した先、そこには通路の道を阻むかのようにしてポールが立てかけられていた。

 雪丸達は来た道を戻っているだけだ。記憶を辿れば、そんなものは置かれてなどいなかった。


「――警戒しろ、何かいるかもしれない」


「人間……すかね」


「モルフが物を動かすことはしないだろう、十中八九人間だ」


 人為的に動かされたポールであることは間違いなく、ここに誰かがいることをそれは証明している。

 一層、警戒感を強めた一同だが、そこで変化は起きた。


 雪丸達の背後、水を運ぶ為のポンプが弾けたのだ。


「っ、なんだ!?」


「誰もいない……いや、誰かいるよ!」


 姿は見えないが、雪丸達を視認している何者かがどこかにいる。

 ここまであからさまだと、敵の狙いが何なのかが読めない。

 まるで、混乱している様を見て楽しんでいるかのようだった。


 そして――、


「あれ? 結局帰るのかお前ら? じゃあ何を探しにきてたんだ?」


 部隊の誰でもない、聞いたことのない声色を聞いて、雪丸達は声の聞こえた先にすかさず銃を向ける。

 異様な気配、それは暗闇の先からだった。


「つまんねえなぁ、面白いものだったら殺して奪おうと思ってたんだけどよ」


「……誰だ?」


「俺か? 俺のことを知りたいか? そうだなぁ、じゃあ自己紹介といくか」


 声の主は、姿を見せずに暗闇から雪丸達へと声を投げかけているだけだ。

 殺して奪うなどという物騒な発言から察するに、ただの一般人ではないことは明白だった。


「俺の名はレオ、お前達の敵であり、『レベル5モルフ』の力を持つ者だよ。せっかくこうして会えたんだ。遊んでいこーぜ」


「――っ、マズイ!」


 宣戦布告は合図と共に投げ出される。

 暗闇の先、そこから尋常ではない量の水が押し寄せ、雪丸達の足元を埋めていく。


「下がれ下がれ! 機動力を奪われるぞ!」


「敵は!?」


「――っ! いや、来ていない!」


 多量の水は、雪丸達を走らせることを鈍らせる為のものだ。

 しかし、そうはしたにもかかわらず、レオと名乗った男は追撃してこない。

 いまだに、姿さえ見せないまま様子を窺っている雰囲気であった。


「『レベル5モルフ』って言ってた、あいつ、何が目的で……っ!」


「ミナモ、今は後回しだ! 全員離れるなよ! いつでも撃てるようにしとくんだ!」


 どんどんと水の(かさ)が増えていき、雪丸達の膝部分まで水が押し寄せてくる。

 何をどうやったらここまでの水を用意できたのか、その原因は一つしか考えられない。


「あの野郎、付近のポンプを破壊しまくってやがるんだ!」


「正解♪」


「――っ!?」


 楽しげな口調のまま、レオはどこからかそう話す。

 そして、発砲音が聞こえて、誰かが撃たれたのかと考えた雪丸だが、


「ハズレだ、狙いは分断だよ」


「上だ! 避けろっ!!」


 鉄の塊が上から落ちてきて、雪丸はミナモの手を掴んで引き寄せた。

 そして、サクと不知火、ミナモと雪丸の間に落ちるようにして、鉄の塊が降ってくる。


「おわっ!?」


 あわや踏み潰される直前だったのだが、それは免れた。

 しかし、敵の狙い通りなのだろうか、サクと不知火が鉄の塊の向こう側へと追いやられてしまう。


「サク! 不知火! 大丈夫か!?」


「大丈夫っす! 雪丸さん!」


「あわわわ……一体何なんですかぁ!?」


 声を聞いて、サクと不知火が無事であることを確認できた雪丸はホッとした。しかし、それは束の間の話だ。


 分断された不知火達の方には、レオという男がいる。

 つまり、雪丸達は向こう側のサポートが何も出来なくなってしまったのだ。


「四対一はちょーっと不利に感じるからなぁ。まあそれでもどうにかはできるが、少しは楽しまねえと損だ。お前達は何分保つかな?」


「やべえな……不知火、いけるか?」


「は、はいぃ……で、でも、私達だけで……」


「やるしかない、相手は銃を持ってる。気をつけろ」


「ははっ、おいおい、まさか俺が遠距離からチマチマ仕掛けるタイプのつまらねえ奴らと一緒にしてんじゃねえだろうなぁ? なぁっ!?」


 水飛沫が噴き上げ、前方から物凄い速度で姿を現し、右手を振り上げるレオ。その矛先は、少し前にいた不知火へと向けられている。


「不知火っ!」


「ひぁっ!?」


 レオの振り上げられた銃剣の刃が、一直線に不知火の首へと向かっていく。

 普通の人間ならば反応すら許されない、それほどの速度でもって振り抜かれた銃剣に対して、不知火は――。


「あん?」


 確実に殺したと、そう断言できるほどの実感がレオにはあった。

 しかし、レオの振り抜いた銃剣は空を切り、不知火には掠りもしなかった。


「こ、こないでぇぇぇっ!!」


「うおっ!」


 レオの攻撃を寸前で躱し、至近距離からサブマシンガンをぶっ放す不知火。あまりの緩々な様子に、レオも何が何だか分からない雰囲気のまま、後ろへと後退する。


「ははっ、なんだこいつ!? おもしれぇっ!」


「わ、私は面白くないですぅ……」


「褒めてんだよ、いいねお前ら。思ったより楽しめそうだよ。前菜としちゃ悪くない相手だ」


「前菜……?」


 二対一の状況でありながら、未だに余裕の表情を崩さないレオに、二人は焦りの表情を浮かべる。

 不知火が避けたのはほとんど奇跡に近いものだ。

 彼女の危機感知能力がなければ、今のレオの攻撃を完全に躱し切ることはできなかっただろう。


「くくくく」


 嫌らしい笑みを浮かべながら、レオはバシャバシャとゆっくり音を立てながら水の上を歩いてくる。

 機動力を奪われたこの地形では、銃を持つ相手とは圧倒的に相性が悪い筈だ。なのに、平然とした様子でレオは二人を見据えて――。

 

「せいぜい楽しませてくれよ、人間?」


 そうして、化け物らしく振る舞いながら銃剣の柄を強く握りしめる。



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