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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
172/237

Phase3 第二十四話 『突破作戦』

あけおめです。仕事関係で後半はなかなか投稿に手つかずでしたが、今年はなんとかペースを早めて投稿ができればいい一年になればと思います。目標は今年中にこの作品を完結させることです。

「キミに頼みたいことがある」


 それは、アメリカ国内でモルフテロが起きて二日目の夕方に差し掛かる時間帯の話であった。

 まだ陽も落ちていない中、巨大要塞ミスリルのある一室で、対面する二人は密談を交わしていた。


「何の話でしょうか?」


 そうして、要点について疑問を投げかけた男、神田慶次は自身の上司でもある風間平次へと問いただす。

 この二日間、神田は特に何かすることもなく、ただ黙々と外回りを続けされていただけであった。

 モルフテロが起きてから、ミスリルには大多数の一般人が避難場所として流れ込んできたのだが、その人員の流動を任されていたのみで、モルフとの戦闘は一度として無かった。


 それもそうで、必要の余地がまるでなかったからだ。

 ミスリルの外壁には、まるでこの事態を予測していたかのようにガトリング砲や機銃による整備がされており、上からただ撃ち込むだけで掃討することが容易となっていた。

 だから、白兵戦によるモルフとの戦闘を主軸としていた神田にはこの二日間、戦闘に入り込む余地は一つもなかった。


 神田の問いかけに、風間はジッと神田の目を見つめて、


「この任務について、キミには拒否権がある。その上で聞いてもらいたいのだが……」


「俺は言われた通りに動くまでです。要件は何ですか?」


 断ってくれても構わないと、前提としてそう話す風間に、神田は態度が悪いと見られてもおかしくない返答を返す。

 その様子に、風間は「ふっ」と笑みを浮かべると、


「聞いていた通りだな。キミは命令至上主義なタイプだと、鬼塚の言っていたことが今ならわかるよ」


「――――」


「任務についてだが、今の切迫した状況についてはご存知の通りだろう。キミには……いや、キミ達にはこれから、このミスリルから少し離れた地帯へと出向き、回収してほしいものがあるからだ」


「回収?」


 わざわざこの安全地帯から出向くほどの何かがあると、風間は神妙な面持ちでこう続けた。


「椎名真希」


「……え?」


「彼女には、万が一の為に体内に発信機を埋め込んであった。途中、何度か信号は途絶えたこともあったが、先ほど信号が復活してね。どうやら、ここから数百キロ地点にいるようだ」


 任務の概要よりも、風間の口から発せられる情報の内容に整理が出来ず、神田は困惑した。


「仰っている意味が分かりかねます」


「だろうね。共有していない、そのことについて不満があるということだろう?」


「――――」


 沈黙は肯定と同じ意味で捉えられる。

 事実、神田は椎名真希がなぜこのミスリルにいないのかについても知らないわけであり、発信機に関しても同様のことだ。

 それをここでカミングアウトされたからといって、はいそうですかと素直に頷くには難しささえあるのだ。

 これが笠井修二が聞いていたとすれば、彼がどんな反応を示すかなんてものは誰が見ても明白なものだ。


「生かすべきは個ではなく集団。私はそれを理念に生きている。そして、キミにそれを打ち明けたのはある考えが過ったからにすぎない。神田君、キミにとって大事なものはなんだい?」


「……要点がズレている気がしますが?」


「いいから答えたまえ」


 訳のわからない質問に、神田は少しずつだが苛立ちが募りつつあった。

 しかし、答えろと言われたならばそうするだけだ。


「俺にとっての大事なものは仲間達です」


「……良い答えだ」


「何が言いたいんです?」


「キミの大事な妹も、仲間も失わせるつもりはない。その為の作戦を伝え、そして動いてきている。今はそれだけでも信じてもらえないかい?」


「――――」


 あくまで隠してきたことも、今伝えたことも、神田の助けになることになると言って答える風間。なんとも聞こえのいい言い文句だが、話の前後に食い違いはない。

 ひとしきり考え込んだ神田は、真っ直ぐ風間の目を見つめると、


「分かりました。それで、どうやってミスリルから出るようにすれば?」


「西区からバリケードを開ける準備をしてもらっている。装甲車を一台借りる予定だから、それを使ってモルフの群れを突っ切ってもらいたい」


「……外はモルフの群れが蔓延っています。どうやって突破を?」


「事前にある程度片しておくつもりだよ。数が少なくなったタイミングで門を開ける。その瞬間に突っ切るんだ」


 些か強行にも感じる手段だが、外の状況を知っている神田から見てもそれ以外に突破する手段は思いつかない。

 モルフの数をゼロにすることは出来ない辺り、そこに現実性がないことがあることは確かだ。


「わかりました。隊員達にも共有してきます」


「神田君」


 呼び止められ、振り向いた神田は風間の顔を見た。

 彼の表情は曇っており、いつもの冷静な雰囲気はそこにはなかった。


「キミに日本人のこれからを委ねる。それほどに今回の作戦が重要だということを覚えていてくれ」


「……了解」


 最後にそう伝えられ、密室の部屋を後にする神田。

 その言葉の意味がどういうことなのか、深くは聞こうとはしなかった。

 ただ、任された任務を遂行することだけに集中して、神田は隊員達が待つ場所まで歩いて向かおうとする。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 エンジン音が鳴り、装甲車の車幅灯が前を照らす。

 神田達が乗っているのは、ただの装甲車ではない。

 モルフにぶつかっても転倒しないよう、前輪と後輪部分を鋼鉄製の板で部分的に守っており、車の全面部分は太い棘状の盤を張り付けて、モルフを寄せ付けないようにさせている。

 車体もかなり低くしており、モルフを轢いたとしても左右に散らばるよう設計されていた。


『いつでもいいぜ。モルフはかなり数を減らした。今なら突破できる。万が一集まってきても援護射撃するから、気にせず行け』


「了解」


 通信機から聞こえてくる米兵のその言葉を聞いて、神田はハンドルを握った。

 外はモルフ賑わう地獄絵図となっており、そこを突っ走るなんて馬鹿げているにも程がある。

 だからこそ、事前にここまでの準備をしてきたのだが、神田の手は他の誰かには気づかれない程度ではあったが、震えていた。


「隊長、大丈夫ですか?」


 神田の様子に勘づいたのか、助手席に座っていた坊主頭の男、長谷雪丸が声を掛けた。

 彼はタケミカヅチ第二部隊の副隊長でもあり、主に部隊の士気を上げる役割をこなす男でもある。

 隊長である神田の役割を雪丸がこなしているのは、神田自身がそれが向いていないからでもあるが、こんな状況でもこの男はめざとい奴だった。


「問題ない。他の皆は準備はできているか?」


「大丈夫っす。っても後ろで乗ってるだけだからやることなんて何もないですよ。それよりも俺たちだ」


 雪丸は前を見据え、装甲車の前の開こうとする門を見る。

 装甲車を運転する以上、部隊の命を預かっているのは神田だ。失敗して、転倒でもすれば周囲のモルフにあっという間に囲まれて殺されてしまう。

 感染段階が低いモルフであっても、数の暴力には抵抗なんてものは出来はしないのだ。


「開きます! 神田隊長!」


「掴まっていろ」


 門が開き、装甲車の走る道が開ける。

 その瞬間、神田はクラッチから踏み足を緩めて一気にアクセルを全開にした。

 初速から一気に二速、三速へと切り替えて、装甲車のスピードが一気に速まっていく。


「左前のモルフは俺がなんとかします!」


「了解した」


 装甲車へと近づくモルフを見つけた雪丸は助手席の窓から身を乗り出し、持ち手のショットガンで撃ちだし、モルフの頭を吹き飛ばした。

 すぐさまリロードを開始して、装填が完了したと同時に絶え間なく雪丸は近づくモルフへとショットガンをぶっ放し、一体たりとも近づけさせない。


「よし! 隊長、いけます!」


「一気に突き放すぞ」


 行く手を阻むモルフがほとんどいなくなったことを確認した雪丸は車内へと体を戻した。

 そして、装甲車は真っ直ぐながら直進して猛スピードで地上を駆け抜ける。


「ふぅ、とりあえずは難所は避けられましたね」


「気を緩めるなよ。どこに何が潜んでいるか分からない」


「そうっすね。食料は一週間分、まあ足りなくなったらどこかで補給すればいいとして、手前の問題はモルフに限られますしね」


 装備が万全とはいえ、何が起きるか分からないのがモルフの厄介な点だ。

 その気になれば、目の前に大量のモルフが現れでもすれば装甲車の動きを止められる恐れさえある。

 その時が訪れれば、装甲車を捨ててでも神田達は任務を続行しなければならない。


「不知火達の様子はどうだ?」


「ちょっと見てきます」


 後ろにいる部隊員達の仲間達の様子が気になった神田は、雪丸に確認するよう伝えた。

 そうして、後ろの様子を確認ができる窓を開けた雪丸は頭を少し掻くと、


「……隊長、不知火が吐いています」


「……そうか」


「いや、なんか騒がしいなとは思ってたんすよ。――お前ら何してんの?」


「雪丸さん! ちょっと聞いて下さいよ! 不知火がすげえ青い顔してたから声掛けたんすけど、俺の隊服にぶち撒けやがったんすよこいつっ!」


「えぐ……っ、す、すみません……」


 気分が悪そうな不知火が謝り、隊服に吐瀉物を掛けられて叫んでいるのは鳴瀬佐久間だ。

 外よりも地獄絵図臭いその状況を目の当たりにした雪丸は目を閉じると、


「こいつら……俺達が真面目に集中してた時だってのに……」


「いい、気にするな。サクに替えの隊服を用意してやれ」


「ういっす。おい、サク! 壁に替えの隊服あるからそれに着替えろ!」


「えー、あれ汗臭いからなんか嫌なんすけど……」


「ゲロまみれで動きたいならそうしろ」


「それだけは嫌っす!」


 そそくさと替えの隊服に着替えるサクを見た雪丸はため息を吐き、窓を閉める。

 そして、手に持った支給品のスマホを弄ると、


「隊長、発信機の動きを見ているんですが、今のところ動きはないですね。休憩でもしてるんでしょうか?」


「こんな状況だ。動きずらいのは当たり前だろう」


「……死んでなければいいんですがね」


 一番最悪の可能性について言及する雪丸に、神田も口を噤む。

 その可能性はゼロではない。むしろ十分にありうるものでもあった。

 聞くには、椎名真希はメキシコ国境戦線の作戦行動中、元はアメリカ国内での待機が主になっていたのだが、実際は待機なんてしていなかった。

 風間率いる上層部が椎名真希へとある任務を託して、国外へと一時的に避難させていたのだ。

 それから椎名真希は国内へと戻ってきたのはいいのだが、タイミング悪くアメリカ国内でモルフテロが発生したことでミスリルへの合流が遅れてしまっていた。

 椎名真希の護衛が生きているかどうかも分からないため、彼女の生死が明らかなのかは不明なのだ。


「……どちらにしても、生死を明らかにするまでは帰るわけにはいかない。俺達は作戦をただ遂行するのみだ」


「そりゃ……そうっすね」


 何か言いたげな雪丸だったが、それを聞くことは神田はしなかった。

 不満はあるだろう。確証がない作戦ほど、士気は上がらないものだ。

 それに、神田自身、気になることはある。


 どうして、風間は椎名真希に対して固執しているのかについてだ。

 彼女が『レベル5モルフ』という特異性を持った人間ということはまだ分かる。しかし、それがあるからと言って何を必要としているのか、そこが神田自身には分からないのだ。

 もちろん、神田にとっては椎名真希は大事な仲間でもある為、助けることについては全く異論はないのだが、そこだけはどうしても分からないでいた。


「雪丸、一ついいか?」


「なんですか?」


「もしも椎名真希を回収出来たとしても、上の判断に簡単に従うな」


「? どういう意味で?」


「出方によっては俺達の敵になるかもしれないからだ」


 神田のその発言に、ますます首を傾げる雪丸だったが、今は分からないままの方がいいだろう。

 もしかすれば、万が一にもだが、風間や上層部が椎名真希を使って交渉のカードとして扱うつもりでいるのならば、神田にとってはそれは許し難い行為だ。

『レベル5モルフ』の力を持つ以上、アメリカ側にとっては椎名真希の存在は是非とも手に入れたい筈。人体実験紛いの畜生なことをされるのであれば、椎名真希を守れるのは神田以外にいない。

 それは出水であっても、清水であっても、笠井修二であっても皆が同じ立場であればそうすることであるからだ。


「――隊長っ!」


「っ!?」


 雪丸と同タイミングで何かに気づいた神田はブレーキを踏み、速度を出していた装甲車が止まる。

 急ブレーキでもあった為、後ろで待機していた隊員達も声を出してビックリしていたが、今は謝罪をする暇はない。

 なぜならば、


「バリケードで塞がれている? どうしてこんなところに……?」


 雪丸の疑問は、神田にも答えが出せなかった。

 装甲車の前、距離三十メートル先に、人為的に仕掛けたとしか思えない柵が敷かれていたのだ。

 それも、ただの柵なんてものじゃない。人間の身長の二倍あたりの高さまであるその柵は、まるで誰一人通さないかのようにバリケードを敷いていたのだ。


「ここ道路だぞ? 誰だこんなことしたやつは……」


「大方、モルフの侵入を防ぐために一般人が建てたものだろう。……『レベル4モルフ』という存在がある以上、あっても意味はないがな」


 神田の言う通り、感染段階の低いモルフに対しては有効なバリケードとなってはいただろう。

 ただし、それはあくまでレベルが1や2に対してのモルフにのみ対応できるものだけだ。

 実際、神田は日本でバリケードが意味を為さなかった現実を直視した経験がある。

 あの夜、神田達が隠密機動特殊部隊として訓練していた地帯が、五メートルはある壁を『レベル4モルフ』は乗り越えて、避難民達を無惨にも殺し回っていたのだ。

 その経験があれば、その知識さえあれば、こんなバリケードが敷かれることはなかったのかもしれない。

 しかし、モルフの情報は世界的にもまだ共有が出来ていないものだ。

 そのせいで、神田達にとっても不利な状況が今目の前で生まれてしまっていた。


「――全員、戦闘準備だ。外に出るぞ」


「了解」


 装甲車のエンジンは切らずして、神田は装甲車から全員降りさせるように雪丸へ促した。

 これからどうするか、その手段は単純なものだった。


「急げ、サクはC4の準備を。火力はある程度抑えつつ、装甲車に被害だけ飛ばないように調整してあのバリケードを破壊しろ」


「うっす」


「不知火とミナモはサクの援護を。俺と雪丸と草壁は装甲車に近づくモルフを対処する」


「「「了解」」」


 指示は明確に、遅れの一つもなく神田は部隊員達へと命令していく。

 その判断の的確さは隊長格としても優れていたものだった。

 むしろその能力がなければ神田達は全滅していたのかもしれない。

 なぜなら、今この瞬間にも、装甲車の方へと向けて数十体ものモルフが接近してきていたからだ。


「戦闘準備」


「メキシコ国境戦線以来に使うな、これ。出水さん達が作った対モルフ専用武器」


「火力はあるが慢心するな。それを使うのはモルフが群れて動いている時だけだ」


「わーてますよ。雪丸さんは理論派だなぁ」


 随分と生意気な態度で雪丸へと返事を返したのは、隊員の中では随分と細身な男である草壁鋼である。彼は神田と同年代でもありながら、タケミカヅチ第二部隊の隊員に抜擢され、類稀なる戦闘スキルの高さを買われて軍人となっていた。

 雪丸のことを理論派と言ったことを正しいとするならば、草壁は感覚派に近い。そしてそれは、神田と同じ戦闘スタイルを意味していた。


「くるぞ! 撃て!」


 射程距離に近づいてきたモルフへと向けて、一斉に撃ち出す神田達。感染段階の低いモルフ達は逃げることもなく真っ直ぐ近づいてくるが、これではただの的に過ぎない。

 正確無比な命中精度でもって、頭部を撃ち抜かれていくモルフ達は力無くして地面へと倒れていく。


「距離十メートル! 隊長、数が多い!」


「左前方はお前達に任せる」


「ちょっ!? マジすか!?」


 数の暴力に少しずつ後退せざるを得ない状況になりつつあるこの瞬間に、神田は銃撃を止めて前へと走り出した。

 それを見てギョッとした雪丸と草壁であったが、その反応は自然だろう。

 モルフに対して接近戦はかなりリスクが高い。噛まれて感染するリスクがある以上、離れて遠距離からの射撃を行うのが鉄則とさえ言われているほどだ。

 それを無視して飛び出した神田は、持ち手のショットガンから手を離さないまま、


「ふっ!」


 手を前に出して神田へと襲い掛かってくるモルフへと向けて、神田は腰を沈めて足を振り上げて顎へと蹴りを入れた。

 モルフの動きがそこで止まり、その瞬間に神田は体勢を無理矢理に整えて蹴りを入れたモルフへとショットガンをぶっ放した。


「ッッ!」


「――――」


 ショットガンとは言うが、神田の持つその銃は威力だけが強い性能に止まらない。

 散弾銃という意味合いの元、付近にいたモルフ達にも被弾したことで、後方にいたモルフ達の何体かも怯む。

 その瞬間を逃さず、神田は絶命した目の前のモルフの腹を蹴り、すぐ後ろにいたモルフを将棋倒しにして動きを止めた。


「しっ!」


 一つ一つの動作に無駄を作らない。神田は流れるように体を動かして、怯んでいたモルフの頭を掴み、ショットガンの先に取り付けられたナイフでもって首ごと切断させる。


「……いや、隊長凄すぎないっすか?」


「見惚れている場合か草壁! 目の前の敵に集中しろっ!」


 一切、無駄の無い動きを見せつけられたことで見惚れていた草壁であったが、彼らの状況はそんな悠長な構え方をすることは許されない。

 どんどんと集まってくるモルフの中には、足の速い『レベル2モルフ』も混じっている為、目線を外すなんて行為は命取りになりかねない。

 そして、雪丸と草壁は同時と言ったタイミングで背中に掛けておいてあったライフル銃の形状の武器を手に持ち、


「「くらいやがれっっ!」」


 二人同時に放たれたその特殊武器の銃弾は、まとまって動いていたモルフの二体へと命中。そしてその数秒後、被弾した二体のモルフの体は炸裂音を撒き散らし、体内から炎上が巻き起こる。


「対モルフ専用武器、効果あり」


「でもまだ動いてますよこいつらっ!?」


「手を緩めるな! サブマシンガンで足止めしろ!」


 モルフには痛覚なんてものは存在しない。個体差によっては痛がる素振りをするモルフもいたりはするが、ここにいるモルフはその個体はいなかった。

 ただ、体が燃えた後の数十秒後にはほぼ絶命している為、その間は手持ちの武器で足止めする必要性があった。


「撃ち出しを止めるなっ! サクがバリケードをぶっ壊すまではな!」


「ひぃー、俺がバリケードぶっ壊す役が良かったっす」


 泣き言を言いながらも、雪丸と同じようにしてサブマシンガンから引き金を緩めない草壁は的確にモルフを掃討していく。

 二人とも、足は止めずして常に動きながらの銃撃戦となっていた。

 その隙を、モルフ側も逃しはしない。


「雪丸さんっ! 上っ!」


「っ!?」


 目の前のモルフに集中し切っていたその隙を狙い、一体のモルフ――『レベル3モルフ』が跳躍して雪丸へと向けて襲い掛かってくる。

 すぐさま銃口を上へと向けた雪丸だったが、引き金を引いても弾が出ない。


「しまっ、弾切れ……っ!」


 運悪くリロードが必要になってしまい、雪丸は無防備な状況へと追い込まれてしまう。

 焦った草壁はすぐにでもカバーに入ろうとしたが、その判断はすぐに変えた。


「はぁっ!」


 モルフに噛みつかれようとするその寸前、右側にいた神田が雪丸の前へと出て、『レベル3モルフ』の口の中へと銃口を突っ込んだのだ。


「死ね」


 有無を言わさず、神田は容赦なく引き金を引いて、目の前にいた『レベル3モルフ』の喉ごと撃ち抜く。

 多量の肉片を撒き散らしながら、『レベル3モルフ』は即死する。


「隊長っ!」


「手を緩めるな」


 仲間のカバーに入った神田は、撃ち抜いたその瞬間にすぐ駆け出した。

 その機敏なまでに動く異常なまでの敏捷性は、雪丸や草壁には到底真似が出来ないものであった。

 というのも、人間は一つ一つの動作に集中する時、それが成功しても失敗しても、次の動作に動くまでに必ずラグが生じる。それは次にどう動くべきか、想定して常に動くことが簡単に出来ないからだ。

 しかし、神田はそれを簡単にこなして動いている。

 ある意味、天才とも言えるべき才能だろう。雪丸も草壁も、神田が飛び出してカバーに入った後にすぐ動き出すことが出来なかったのだから、それが普通の反応だ。


「草壁! 隊長のカバーに入るぞ!」


「っ、了解!」


 手を緩めるなと、そう言われたことで気を引き締めた二人はすぐにモルフの群れへと再び銃撃を開始した。

 神田の接近戦のおかげで、装甲車へと近づくモルフは少しずつではあるが数が減りつつあった。


 そして、約一分と言うべき長く感じるその時が経った瞬間であった。


『サクが離れます! 全員、伏せて下さい!』


 通信機からミナモの声が聞こえて、しゃがみ込む一同。その瞬間、神田の後方から爆音が鳴り響き、装甲車の前方を塞いでいたバリケードが破壊される。


「あの馬鹿、調整誤りやがったな……」


 雪丸が愚痴を漏らし、耳鳴りがするほどの爆音が鳴り響いたC4の威力を見て、舌打ちをした。

 どう見ても、厚い鉄板を破壊する威力の調整にしか使わないようなその爆発の威力はやりすぎてしまっている。

 だが、とにもかくにも、これで装甲車の道を塞ぐものはなくなった。


「雪丸! 運転席へ乗れっ!」


「うっす!」


 神田がそう命令して、雪丸はすぐさま装甲車の元へと走る。

 草壁へと何も言わなかったのは、ここで残ってとにかくモルフを足止めしろということだ。

 不知火やミナモ、サクが装甲車へと乗り継ぐまでは、神田達はモルフの進行を食い止めねばならない。

 それを理解していた草壁は、迷うことなくサブマシンガンでモルフを足止めしていった。


「全員乗りました! 隊長!」


「草壁! 後ろに乗れっ!」


「了解!」


 全員が装甲車に乗ったことを伝えた雪丸の声を聞いて、草壁はすぐに後部席に乗り、神田もすぐに助手席へと乗る。


「出せっ!」


「はいっ!」


 運転手が雪丸になり、雪丸はすぐにアクセルを踏んで破壊されて進めるようになった道路の道を走っていく。

 エンジンを切らないでおいたのは正解であっただろう。

 その時間の遅れがあれば、モルフに装甲車が張り付かれて大変なことになっていた可能性も十分にありえたからだ。


「……ふぅー、ひとまず助かりましたね。危ないところをありがとうございましたよ。神田隊長」


「ああ、気にするな」


「しっかし、こんなバリケードがまだあったらダルイっすね。どう思います?」


「俺達は進路を作る以外に退路はない。あれば同じように破壊するだけだ」


「耳が痛いっすね……」


 簡単に言うが、神田ならば本当にそうするつもりだろう。そして、それしかやることがないのは雪丸にも分かっていることだ。


「全員、武器のチェックをさせておく。この先はこの程度では済まないだろうからな」


「……ですね」


 息を吐く間なんて、彼らには許されない。

 これから先、これ以上の地獄は何回でも起きうるだろう。

 椎名真希を確保するために、命を賭して彼らはアメリカ国内のモルフ地帯を走ることになっていく。


 その先に待ち受けるものがなんであろうと、彼らは止まらないだろう。



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