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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase1 第十話 『摩天楼の戦い』

 超高層ビルが並び、その地上の上で対峙する二人、ミラ・ジノヴィエフと笠井修二は、互いに視線を合わせていた。

 電気供給が完全に絶たれていなかったこの付近は、正に摩天楼と呼ぶにふさわしい一角だった。


「久しぶりだねー、笠井修二君。俺のこと、覚えてる?」


「――――」


「無視は酷いなー、無視はダメだよ? ダメダメ、ちゃんと言葉のキャッチボールはしなきゃ」


「――お前はクリサリダの人間だな?」


 ミラの質問には答えず、代わりに質問でそう問いかける笠井修二。

 それを聞いたミラは、笑みを浮かべると、


「そうだよー? でも人間は間違いかな、俺はキミと同じ『レベル5モルフ』。宇宙からの祝福を受けた数少ない同士さ。自己紹介もまだだったね、俺の名はミラ・ジノヴィエフ。父さんの娘の一人で、次女と説明するのが正解かな?」


「――――」


「キミに会いたかったんだー、まさか、日本にいた時はキミのことを『レベル5モルフ』だとは気づきもしなかったからさー。妹の方は気づいていたみたいだけど」


「……御託はいい」


「ん?」


 最初から、笠井修二はミラと会話をするつもりなんてなかった。

 右手に握る桐生の剣、左手には修二の父、笠井嵐の形見であるサブマシンガンを持ちながら、抑えきれない殺気を放ち、笠井修二は一歩前へと歩きだす。


「ははっ! そうだね。……じゃあ、会話じゃなくて、戦いで語るとしようか」


 もはや、何を話したところで互いに利得はない。

 ミラは笠井修二の言葉に乗っかって、同じように前へと一歩、歩き出した。


「――――」


「――――」


 徐々に距離を縮めながら、彼らは互いに間合いを図っていた。

 お互い、戦い合うのはこれが初めてであり、戦闘スタイルも互いに知らない立場だ。

 だからこそ、笠井修二もミラも慎重だった。

 特に、笠井修二はミラが使う『レベル5モルフ』固有の能力を把握していない。

 ミラはある程度、リアムから言伝に聞いてこそいたが、実際に目の当たりにしたわけではない。


 視線が交錯し、ある一定の距離へと近づいた瞬間だった。


 二人の姿はその場から消え、刃と爪がぶつかり合う音が鳴り響く。


「ひゃはっ!」


 もはや、速さとは言い切れない、瞬間移動をしたかのような高速移動で二人は剣と爪を打ち合っていく。

 地上から空中へ――空中から建物の壁へ――壁から地上へと、目ではとても追いきれない超スピードで、二人は傷一つつけられることなく、武器を打ち合う。


「いいね! いいよこの速さ! 妹並だなんてさすがに予想してなかった!」


「――――」


「キミの固有能力は他者の動きをトレースしているんだろう!? 見る限り、一つだけじゃない。複数人の動きを混ぜ合わせて、自分だけの動きを作り出してるんだね、すごいよ! こんなの見たことがない!」


 互角の戦いを繰り広げながら、ミラは笠井修二の動きについてそう言及した。

 今、笠井修二が完全模倣能力でトレースしている他者の動き。それは、桐生の運動能力とアリスの柔軟性、そして神田の敏捷性だ。

 それらを複合させ、独自でアレンジさせたオリジナルの動きで笠井修二はミラと戦うことが出来ていた。


「――っ!?」


「ちぃ……」


 一瞬の気の緩みを、笠井修二は逃すわけもなく、紙一重のタイミングでミラの首を剣による横薙ぎで刈り損ねてしまった。

 舌打ちし、笠井修二はバク転をしてその場から後ろへと下がる。


「危ない危ない――っ!?」


 小休止になるかと思われた戦闘は、ミラの考えた通りにはならない。

 距離が空いたと同時、笠井修二は空中姿勢から左手に持つサブマシンガンの銃口をミラへと向けて放つ。

 

 休む時間なんて与えはしない。

 笠井修二は油断も慢心も何一つせず、ただ殺すことだけに集中していた。


「ふふふ」


 体勢を立て直し、ビルのガラス窓の側面へと飛び移ったミラは爪を窓ガラスに刺し込んで張り付き、笑っていた。

 余裕があるわけではない。笠井修二の身体能力はミラと同等――いや、スピードに関してならばまだミラの方が上だ。

 ただ、完全模倣能力による技能とパワーは笠井修二がミラを上回っている。


 ――実力は互角。

 だからこそ、ミラも手加減無しで向かう他になかった。


「さあ、いくよ!」


 窓ガラスを蹴り、真っ直ぐ笠井修二へと突っ込むミラ。持ち前のスピードを活かし、更には合計十に及ぶ爪で持って笠井修二へと攻撃を仕掛ける。

 それに対し、笠井修二はたった一本の剣で持って対抗する。左手に持つサブマシンガンは近距離戦では役に立たない。

 しかし、手数では負けていても、笠井修二が劣勢になることはなかった。

 片手だけで、笠井修二はミラの攻撃の手数を捌ききり、運動能力だけで凌いでいた。


「キミはお姉様ともやり合ったんだろ?」


「――――」


「世良望、まさか知らないなんて言わないよね?」


 その名を世良が口に出した瞬間、笠井修二の体は一瞬だけ硬直する。

 その瞬間をミラは逃さず、笠井修二の脇腹へと蹴りを入れて吹き飛ばす。

 高層ビルの一つへと体ごと突っ込み、笠井修二は受け身を取って前を見た。


 その一階は電気はついておらず、かろうじてではあるが内観を把握することができた。

 そして、追いかけるようにしてミラは建物の中へとゆっくりと歩みを寄せていく。


「キミと僕に因縁がないわけじゃない。互いにお姉様のことを知り、同じ『レベル5モルフ』であること。これが運命じゃないなんて言わせないよ?」


「……ふ」


「おや? ようやく態度が少し変わったね。キミが笑うとこを見るのは初めてだよ」


 表情こそ見えはしないが、笠井修二は笑っていた。

 客観的に見れば、それが緩んだ態度だとは思えないが、ミラからすれば喜ばしい事実だ。

 ミラが欲しいのは変化。笠井修二の中にある心理状態を少しでも把握したいがために、先ほどから何度も煽るような姿勢を取っていたのだ。


「キミはどうしたい? 彼女と俺は義理の姉妹だ。最高のシチュエーションだと、そう思わないかい?」


「……ようやく、一つ目的を果たせそうだ」


「ん?」


「リアムだけじゃない、お前も同じだ。お前達は俺や俺の仲間から全てを奪い、これからもそうしようとした。だから、決めたんだ」


 笠井修二は剣を構えるわけでもなく、脱力姿勢に入った。

 それが何の動作を意味するのか、ミラもまだ分かってはいない。

 ただ、誰かのモノマネをしようとしていることだけは把握できていて、再び距離を詰めようとした。


「お前を殺す。何があっても逃がしはしない」


 そして、笠井修二はその場から一気に地面を蹴って、ミラの懐へと詰め寄った。


「――っ!」


 翻弄する動きではなく、ただ真っ直ぐに攻撃を仕掛けただけだ。

 それだけの動きだけで、ミラは笠井修二の剣戟を爪で防御するしかできず、机や椅子が立ち並ぶ一角へと巻き込まれて吹き飛ばされた。


「――――」


 追い縋ることはせず、笠井修二はそこで立ち止まった。

 立ち止まった理由は、妙な殺気を感じたからだ。

 体全体に纏わりつくような粘着する殺気。

 悍ましい感覚を身に受けて、警戒していたその瞬間だった。


「あはっ! じゃあやってみせなよ!!」


 暗闇の中からミラが飛び出してきて、笠井修二へと飛び掛かった。

 今までの攻撃パターンとは違う、変則的な動きで笠井修二へと爪を振り回し、目で追い切ることができない。


「ちぃっ!」


「ははっ! そらそら!!」


 型もクソもない。まるでダンスを踊っているかのような動きを見せて、ミラは舞いながら笠井修二の頬や腕へと、かすり傷ではあるものの切り傷をつけていく。

 防戦一方ではありながらも、致命傷になる攻撃だけは上手く捌けていた。『レベル5モルフ』の力、有体に言えば、桐生の身体能力で持ってしても攻撃に転じることができないぐらいにミラの攻撃パターンを読み切ることが出来ないのだ。


「らぁっっ!!」


 爪の振りかぶりをギリギリの寸前で避けたその一瞬を見計らい、笠井修二は反撃に転じた。

 剣での斬り上げを、当たりさえすれば致命傷になるその攻撃をミラは空中姿勢から丸まって横へと飛んだ。


「甘いね!」


 丸まった姿勢から体を展開させ、無理な体勢から爪による攻撃が笠井修二へと襲いかかる。

 笠井修二はこれを上体を斜めに反らせて避け、更に攻撃を仕掛ける。

 剣と爪が何度もぶち当たり、火花がその場で散りながら激闘を二人は繰り返していく。

 呼吸も瞬きも、一瞬の隙を生んではならないその戦闘では致命的だ。


 笠井修二はミラの爪による攻撃を受け止め、数歩間合いが空いた瞬間にミラから離れようとした。


「逃がさないよっ!!」


「――っ!」


 安息の時間など与えはしないと、ミラは距離を離そうとする笠井修二へと瞬時に詰め寄り、右手の五指の爪を振り上げる。

 完全に避けきれなかった笠井修二は、防弾チョッキを着ていた隊服ごと切り刻まれ、血が舞う。


 しかし、それは狙い通りだった。


「しまっ――」


「死ね」


 肉を切らせて骨を断つ。その慣用句の通り、笠井修二はミラの攻撃をあえて受け切った。

 受け切ったその体勢から、既に笠井修二は剣を振りかぶる体勢へと入り、ミラが攻撃体勢に入り、無防備となったその胴体へと一閃を繰り出す。


 完全に入る。これで決着はつくと、そう容易に判断できたのだが――。


「なっ!?」


 ミラの胴体へと剣が入るその数十センチ手前で、彼女の全身が縮んだ。

 まるで、体全体が変異したかのような――ミラは百四十センチはあった身長を五十センチ近くまで下げて、笠井修二の剣閃を躱した。

 そして、ミラは攻撃を避け切ってから間合いを取る。


「驚いたー? これが俺の能力なんだよ」


「……なるほど、化け物には違いないな」


「そんな酷いこと言わないでよー。あらゆるサイズにも変異変貌することができる力。汎用性も高くて意外と使いやすいんだよ、これ?」


「変貌?」


 子どものサイズまで背を縮ませたミラのその発言を聞いて、笠井修二は眼を細めた。

 体のサイズを変えるだけの能力なら、変貌とまではいかない筈だ。

 なら、それはどういうことなのか、ミラは口元に笑みを浮かべると、


「――擬態能力。さっきも話したけど、俺とキミは一度会っているんだよ。キミが隠密機動特殊部隊に所属していた頃にね」


「……なに?」


「弓親って男の名前に覚えはないかい? キミをあの戦場へと連れていったあの日、俺はあの男に化けていたんだよ」


 衝撃的な発言を聞いて、笠井修二はすぐに理解できた。

 日本でのあの騒動の時、緊急出動した際に乗ったバンを運転していた男、それは弓親であった筈だ。

 しかし、あの時に運転していたのは弓親ではなく、弓親に擬態したミラだったと聞いて、笠井修二の心はざわめいた。


「安心しなよ、彼は殺していない。ただ入れ替わっていただけさ。ただ、感謝してほしいこともあったんだけどなぁ」


「感謝……だと?」


 何のことを言っているのか、いまいち理解が出来ない笠井修二へと向けて、ミラは狂気的な笑みを浮かべてこう答えた。


「キミはいなかったけど、俺はキミ達の隊長さんの死に際にも居合わしていたんだよ。隊長さんを見捨てて、なんとか他の隊員達を逃がしてあげたんだけどね。あれ、知らない?」


「――――」


 心がざわめいた。隠密機動特殊部隊を束ねていた隊長、それは鬼塚隊長のことだ。

 笠井修二はその場に居合わせなかったが、彼は自身の命を犠牲にして、神田達と民間人を逃がしてくれた。

 ただ、その時にミラがいたということ。どうしようもなかった状況だとは神田や出水からも事前に聞いている。

 だけど……だけど……、


「お前は……その時にどう思っていた?」


 聞かなければいけない。

 敵なのは承知の上だ。ただ、この女が鬼塚隊長の意志を汲んで神田達を逃がしたとは到底考えられない。

 一体、何を考えてそんな真似をしたのか、彼女からの返答はこうだった。


「その方が面白そうだったってのが正直な感想かなー。だってさ、自分を犠牲にして部下達を逃してあげるなんて、映画でしか見たことがない展開だよ? ご満悦だったよ、俺もその中の一人だったんだからさ」


「お前は……何を言ってる?」


 心がざわめく。元からイカれた狂人であることは出会った時から感じていたことだ。

 だが、この女が言っていることは、あの時の惨状をただ楽しんでいただけ。たったそれだけで、鬼塚隊長は――。


「……鬼塚隊長の死は、お前の為にあったものじゃない」


「あはっ! でも結果論でいえば同じことじゃないか! 彼が身を程にしていなかったら、彼らが生きていた保証はなかった! だから感謝されるべき立場なんじゃないのかなって、そう言ってるんだけど?」


 もうダメだ。この女に何を言ったところで、何も伝わりなどしない。

 心が、心がどうしようもなく落ち着かない。

 リアムとは違う。圧倒的な嫌悪感が笠井修二の心を包み込んでいく。


「もう……いい」


「んー? どうしたのかな? お礼でも言ってくれるのかな?」


「――死ね」


 ミラと話すことはもうやめだ。

 笠井修二は地面が砕けるぐらいに足を踏み込み、一気にミラへと迫り寄った。

 話している途中、ミラは既に元の身長の姿へと戻っており、自身の武器であるその爪で笠井修二の剣を受け止める。


「ははっ! 続きを再開するかい!?」


「らぁぁぁぁぁっっ!!」


 ミラには取り合わず、笠井修二は受け止められた剣を強く押し出し、振り抜いてミラを吹き飛ばした。

 建物の中から一気に外へと追いやられたミラを追いすがり、そのまま胴体を真っ二つにしようと剣を振り抜く。


「遅いね!」


 片手を地面につけて、ミラは空中へと飛ぶ。その動きのおかげで、笠井修二の振り抜きは空を切る。

 しかし、止まらない。飛んだミラへと、笠井修二も地面を蹴って飛び掛かり、息の根を止めようと剣を振り抜く。


「キミに聞かなきゃいけないことがあったんだ」


 それさえも爪で防がれ、ミラは笠井修二へと話しかける。

 話すつもりがない笠井修二は、ミラへと怒涛の勢いで攻撃を仕掛けていく。


「キミはどうして人類ではなく、俺達に牙を剥くんだい? 俺達のやろうとしていることと人類がやっていること、どっちが悪か、分からないわけでもない筈なのに……」


「――っ!」


 話にすらならない質問を投げかけられ、笠井修二は左手に持つサブマシンガンで空中にいるミラへと銃弾を連射していく。

 ミラはこれを回転しながら両手の爪で弾くと、


「戦争に正義や悪なんてない。どちらにも意志がある以上、勝った方が正義なんだよ。それに、人類が悪じゃないなんて、本気でそう考えているつもりかな?」


 建物の壁際へと足をつけ、そのまま別の建物へと飛び移るミラ。笠井修二もその軌道上をなぞるようにしてミラを追い縋っていく。


「人間は嘘つきだ。平気で嘘をついて、彼らは涼しい顔をして生きている。嘘をつかれた人間も同じだ。散々懲りた筈なのに、彼らも平気で嘘を吐き散らかす。そんな奴らが生きている世界に、一体なぜキミは味方をする?」


 瞬きも許されないギリギリの死闘の中、ミラは自身の目的を語るかのようにして笠井修二へと語りかける。

 既に、地上から二十メートルは離れたその空中で、彼らは互いに武器を打ち合っていた。


「俺は許すつもりはないよ。嘘を吐きながらのうのうと生きている人間どもを……キミもそうだろ?」


「黙れっ!」


 その瞬間、黙り込んでいた笠井修二は叫び、ミラへと向けてより一層、力のこもった剣での一撃を決める。

 しかし、それさえもミラには当たらず、簡単に避けられてしまう。


「俺の……俺の仲間達が嘘つきだと? そんな浅い理由であいつらが死んで良かったとでも言うつもりか!?」


「そうだよ? キミは人間に肩を寄せすぎているんだよ。彼らも同じ、嘘を吐いて生きていたんだ。違うわけないじゃないか」


「お前が……あいつらの何を知ってるんだ!!」


 実際に会って話したわけでもない癖に、何も知らない癖に、一丁前につらつらとそう並び立てるミラに、笠井修二は怒りの限り剣を振り抜いていく。

 ミラは淡々とした様子で、その表情から笑みが消えると、


「じゃあ、例えばだけど、キミ達は身の回りの誰かが死んだ時、悲しむよね? でも、テレビで報道された人間が死んだのを知った時、少しでも悲しむことなんてあったりしたかい? なかったよね? あるわけない……ああそうかって、知らぬ存ぜぬをその顔に浮かべていた筈さ」


 五指にある爪を振り回し、ミラは笠井修二の真上からそれを振り落とした。

 防御しか出来なかった笠井修二はその勢いに押され、地上へも真っ逆さまに落ちていく。


「くっ!」


 ちょうど、木々が偶々そこにあったことでクッションになり、笠井修二は地面のシミになることを防ぐことができた。

 そして、その近くで何事もなく降り立ったミラは続けてこう話した。


「結局のところ、人間は人の死なんて鼻から何も感じていないんだよ。時間が経てば、人はその人の死なんてどうも思わない。死んだ仲間達も同じことさ」


「てめぇ……」


「だから分からないんだ、キミが怒る理由がさ。同じ『レベル5モルフ』な筈なのに、どうしてキミは嘘をずっとつくんだい?」


 だから、彼女は人間を毛嫌いしていた。

 しかし、それでも笠井修二は納得こそできなかった。


「それで、どうして仲間達が死ぬ理由になる?」


 そこで、笠井修二はミラへと質問をした。

 ミラは笠井修二の血がついた爪を舐め、少しだけ笑みを浮かべると、


「人間がいなくなれば、嘘は誰もつかない。モルフだけが生きる世界が誕生すれば、その時に俺の願いは成就されるんだ。だから死んだんだよ、キミのお仲間とやらはね」


「――――」


「それが俺がクリサリダとしている理由。どうだい? 少しは心変わりしたかな?」


 歪でありながら、狂気のような行動理由を聞いて、笠井修二はその場から立ち上がる。


 そして、笠井修二も同じく、ミラと同じ笑みを浮かべると、


「本気で言ってんのか、お前?」


 そう、ミラの考えの範疇には及ばない、想定外の答えを出した。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「く、くくくく」


 笑いを堪えられない様子で、笠井修二はミラを見ていた。

 ここで初めて、ミラは笠井修二に対して、妙な嫌悪感を感じた。

 同じ『レベル5モルフ』だから、きっと彼と分かり合える筈だと、そう考えて先ほどの問いかけをしたのだ。

 なのに、彼の反応はまるで嘲笑うかのような姿勢であり、歪だった。

 そして、次に出た言葉はミラの頭を真っ白にさせるには十分なものとなった。


「お前が言うなよ、嘘つきが」


「……は?」


「聞こえなかったか? 嘘つき野郎、どのツラを下げて言うかと思ったけど、お前の言っていることと死んだ連中のこと、皆同じなんだよ。頭悪いんじゃねえのか、お前?」


 心がざわめく。なんだ? 何を言っているのだ?

 俺が嘘つき? は? 何を言っている?


「擬態能力なんて力を持っている時点でもそうだけどよ。お前の力も言葉も、全部嘘っぱちじゃねえか」


 何なんだ? 一体この男は何を言っている?

 俺が嘘つき? 嘘をついているだと?


「人の姿に化けて、嘘をついて騙し、食い物にしたお前。モルフになってからも、俺の仲間達が嘘をついているとそう言っているお前。――どっちも同じだ。やってることと言ってることも、お前のパーソナリティとズレまくってんだよ」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――なんだと?


「これで証明されたな。嘘つき野郎。俺が嘘をついているっていうなら、モルフも人間も何も変わりはない。お前の行動基準はもうズレた。――かわいそうな奴」


 畳み掛けるようにしてそう言われ、ミラはその場で固まった。

 その心の内は徐々にドス黒く、妙な感覚に襲われていた。


 ミラの義理の父でもあるリアム。彼には、笠井修二を殺すなと言われていた。

 しかし、もうどうでもいい。

 もう、この男を許すことは出来ない。


 初めて、こんな感情を覚えてしまった。

 この男に対する殺意を――。


「は、ははは。あははははっっ!!」


 腹を抱えながら、ミラはその場で笑い声を上げる。

 彼女の表情は、笠井修二には見えていないだろう。

 ミラはその時、決めた。


「残念残念、本当に残念だ。キミとは分かり合える筈だったのに、まさかそんなことを言われるとは夢にも思わなかった。……そうかそうか」


 これまでの戦闘とは同じにはならない。

 それは、笠井修二も理解していることだろう。

 そして、笠井修二へと向けたその表情は、今まで向けたどのものとも違う。狂気に顔を歪めたその表情で、ミラは――。


「もういいよ、キミはここで死んじゃえばいいんだ」


 断言し、ミラは笠井修二を確実に殺すことに決めた。



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