Phase1 第三話 『烏丸の選択』
「警報音がうるせえな。これだからアマチュア共は困るってんだ」
「音に釣られてモルフが集まりますもんねー。いい迷惑っすよ」
壁際に背を預けて、先の安全の確保をしながらテオとフィンは外のやかましいアラーム音に愚痴を溢す。
モルフの習性は音に釣られて集まってくるものだ。
それを街全体に流しでもすれば、その辺に蔓延るモルフ達は散ることもなく、まるで集合フェロモンに釣られて集まる昆虫達のように群れを成してしまうのだ。
「外に出るだけなのにどんだけいやがるんだ。これだと、ここら一帯の人間は全員モルフ化したんじゃねえのか?」
「だと思うっすね……。テオさん、ここは掃討を優先するよりかは穴を開けてその隙に突き進む方が賢明かもしれないですよ?」
「だな。セルゲイ、任せてもいいか?」
「了解」
テオに任され、前に出たセルゲイはこちらに気づいて近づいてくる数体のモルフへと射撃を開始する。
とにかく、現れるモルフの全てを倒すことに専念するわけでなく、動きを止めることが今は重要であった。
「よし、いけ!」
テオの声に反応して、全員が怯んだモルフの側を通り過ぎていく。
後ろから迫ってくるというリスクはあれど、立ち止まって戦うよりかはリスクが低い上での判断であった。
「フィンとセルゲイは先にいけ! 感染段階の高いモルフはサーシャに任せろ!」
「「了解」」
それぞれが無駄のない動きでテオの指示に従い、次々に退路を確保していく。
それを後ろから眺めていた椎名とデインは圧巻の様子で見守っていた。
「すごいね」
「場慣れしてるな」
戦闘経験の高さから言えるものだろうが、シェルターから出てからデイン達は加勢の一つもしていない。
否、する必要さえなかったのだ。
下手に手伝おうとしても足を引っ張ることは明白で、それならばただ見ている方がまだマシだと言わんばかりの状況だったのだ。
「それにしても、あのサーシャとかいうやつ、どんな命中制度をしてやがんだ。さっきから俊敏に動く『レベル4モルフ』相手に一発も外さずにボロボロ倒してやがるぞ」
「うん。――なんか、軍隊上がりの人にしては、スキルが高すぎる気がするけど……」
サイレントハウンド部隊の面々の動きを見ていても、その中でサーシャと呼ばれる金髪の女性だけは段違いに戦闘スキルが高かった。
使用武器はライフル銃とショットガンだが、前で対応しているフィンとセルゲイがわざと狙っていない感染段階の高いモルフを全て現れた直後に屠っていっているのだ。
「気になりますか? 彼女のことが」
「烏丸さん……そうですね。サーシャさんだけじゃなくて、皆さんって何者なんですか?」
デイン達と同じように戦闘を見守っていた日本人の女性、烏丸から話しかけられて、椎名は彼らのことを問いかけようとする。
「彼らはそれぞれが軍隊上がりの人間であることは聞いていますよね? 同じ所属はいないようですが、全員が手練れですよ。サーシャさんは特に……ね」
「女性なのに……すごいですね」
「あら、それは偏見ですよ。彼女はかつて、南オセチア紛争で軍人として派兵された経験があるそうでして……。その中で、彼女はある異名を敵兵につけられていたそうですから」
「異名?」
聞いたことのない紛争の話をされて、椎名も何のことやらという様子だが、彼女が持つ異名についてだけは気になっていた。
そもそも、敵兵に噂されるレベルとなれば、相当な程の腕前だったのだろうが――。
「死神の再来」
「え?」
「サーシャさんの異名ですよ。彼女はあの、白い死神と恐れられたシモ・ヘイヘの再来と呼ばれていました。事実、彼女からすれば遠巻きに見えるモルフは全て百パーセントの確率で狙撃出来ますからね」
「白い死神……」
その名前だけは、椎名も聞いたことはあった。
フィンランド出身の軍人で、持ち前のスナイパーライフルで持って、圧倒的な数の不利な状況下でソビエト連邦からの攻撃を凌いだとされる実績がある。
本当かどうかは知らないが、スナイパーライフルで殺した人間の数は五百は下らないとのことだ。
そんな伝説を持つ男と同じように扱われた女性、それがサーシャの実績でもあった。
「まあ……他の方もそれなりの実力は兼ね備えているんですがね。それぞれに役割がありますから、尚更です」
「あんたは戦わねえのか?」
戦闘集団としては優秀であることを再認識したデインは、今の自分達同様に戦闘に参加しない烏丸に対して、質問をしてみた。
彼女は頬を指で掻きながら、少しだけ微笑むと、
「私は戦闘員じゃないんですよ。どっちかというと、交渉役やアドバイザーの役割がメインですからね」
「怖く……ないんですか?」
「怖いですよ。そりゃ、こんなモルフがいる中で冷静でいられるわけないじゃないですか」
「の割には落ち着いた表情してやがるけどな」
揚げ足取りのようにそうツッコミを入れたデインだったが、烏丸が嘘を吐いているとは思えなかった。
デインも椎名も、今でこそ必要がないから戦闘には加わっていないが、どちらかと言われれば戦う側の人間だ。
それに対して、烏丸は非戦闘員であるので、普通は恐怖に怯えることがあってもおかしくはないのに、彼女はそのような様子を表情にさえ出さない。
その胆力にも驚きだが、元はあのクリサリダの構成員の一人だったものだ。
これぐらいで怯えていては、前線に出るなど到底無理だということだろう。
「さぁ、道が開けましたよ。行きましょう」
「あ、はい!」
テオ達がモルフの群勢に穴を開けたことで、そこから進むことを選んだ一同。
まだまだモルフの数は増すばかりだが、無闇矢鱈に戦闘を繰り返していても埒が開かない。椎名達はテオ達の後をついていくようにして、外へと出て行く。
「あちこちに火災の跡があるな。まるで地獄絵図だ」
「うん……そうだね」
外の状況を目視して、そう所感を述べるデインに、椎名も口籠もりながら同感の言葉を漏らした。
もう、何度も見てきた光景だ。
モルフウイルスによる被害は、こうも残酷な状況を生むということを知らしめるかのようなそんな光景であった。
「――あ」
「烏丸さん?」
「椎名さん、すみませんが先に行ってて下さい。ここから高速道路まではすぐの道のりです。すぐに追いつきます」
突然、急用があるように言い出した烏丸に対し、椎名は何事かと思ったが、その先を聞くことは出来なかった。
彼女は椎名の返答待たずして、そそくさとその場から離れていったのだ。
「どうしたんだろう……?」
「おい、今は構っている暇はないぞ。後から来るんなら俺達は先を急ぐだけだ。奴らももう進み出してる」
「……うん」
どこか煮え切らない感覚になりながらも、椎名はデインに手を引っ張られながらテオ達と共に先へと進んでいく。
高速道路への道のりはそう遠くはなかった。
道中、至る各所に乗り捨てられた車やトラックなどがありながらも、テオ達はそれを障害物として上手く使いながらモルフによる襲撃を難なく避けていったのだ。
「ここから上がれます! テオさん!」
「よし! フィンが足止めしてる間に全員坂を登れ!」
「「「了解!」」」
ようやく見つけた高速道路の高架下まで来た一同は、テオの指示に従い、フィンを残して先へと進んでいく。
それを横目に見ていた椎名は、銃撃を止めないフィンを見ながら、
「あのフィンって人も凄い……。走りながらモルフに対抗してる」
サーシャの技術にも驚いていた椎名だが、同じく部隊の一員であるフィンに対しても、同様の評価をしていた。
普通ならば、止まりながらでないと照準が定まらない筈の銃火器を器用にフル活用して戦っていたのだ。
こればっかりは、エイム力に自信のある笠井修二とは違った特徴であるとも見られた。
しかし、椎名が見惚れてしまっていたその時であった。
「おい、椎名! 後ろに隠れてる!」
「――っ! 離れろ!」
デインに指摘され、テオがすぐさま椎名にその場から離れろと言われたその時、椎名の背後に偶々隠れていた一体のモルフが椎名へと襲い掛からんとしていた。
だが、椎名はモルフがいると聞いた瞬間に、右足を大きく踏み込んで――。
「やぁっ!!」
「ッッ!!」
踏み込んだ右足を軸にして、背後にいるモルフへと左足を振り上げて後ろ蹴りで顔面へとぶち込んだ。
そして、とんでもない脚力でもってその顔面へと蹴りを受けたモルフは横合いにあった置き捨てられた車の窓ガラスへと頭から突っ込む。
難なく事なきを得た椎名だったが、これを見ていたテオとレスターは苦笑いしながら、
「おいおい、無茶苦茶じゃねえか」
「すごいな……」
「自分の身は自分でなんとかします。すみません、心配掛けちゃって……」
いくら『レベル5モルフ』とはいえ、あの華奢な体から繰り出される蹴りの威力にはテオもレスターも驚いていたのだろう。
椎名は椎名で、手間を取らせたことに謝るというなんとも言えない雰囲気ではあったのだが、デインはテオの方を見ながらこう言った。
「だから言っただろ? コイツは脚力お化けだって」
「もう! からかわないでよ!」
椎名の方を見ながらそう弄るデインであったが、テオ達も同様の感想を頭に思い浮かべていたのだろう。
椎名からすればたまったものではないが、やった行動を鑑みればそう取られてしまっても仕方のないものであった。
「まあ……戦力としてみればありかもな。ともかく、さっさといくぞ」
「フィン! こっちはもう大丈夫だ! こい!」
「了解っす、レスターさん!」
レスターに呼ばれ、退却の命令を受けたフィンは銃撃を止めてこちらへと走ってくる。
とにもかくにも、これで高速道路へは安全に進める状態でもあった。
「走れ! 奴らに後ろから迫られるのも面白くねえからな!」
「あぁ!」
フィンが足止めしてくれたとはいえ、それでも数体のモルフは依然としてテオ達へと迫ってきている。
ひとまずは当初の予定通り、高速道路へと登ることが出来た一同は、一度立ち止まると――。
「おい、烏丸はどうした?」
「あ……烏丸さんはさっき、先に行っててくれって……」
「あのボケカス。勝手な行動ばかりしやがって」
烏丸がいないことに疑問を出したテオに対して、椎名はそのままの通り答えたのだが、彼は彼女に対する当たりだけは強かった。
今、彼女だけはここにいない。置いて先に進むわけにもいかない状況に対して、テオが下す判断は――。
「俺がここで待つ。お前らは先へ行って、安全の確保をしていろ」
「分かった。できる限り手短かに頼むぞ」
「あいつ次第だな」
レスターに手短かに済ませるよう言われ、烏丸次第だとそう言ったテオは、手持ちの武器を確認しながらその場で待機した。
残されたメンバーは先へと進み、安全を確保していろとのことだった。
「さぁ、いこう」
「レスターさん……分かりました」
「あいつなら大丈夫だ。俺達の隊長を見くびるなよ」
「……はい」
レスターにそう言われて、椎名は不安を感じつつも言われた通りにする。
他の隊員も、異論は特になかったようだ。
そのまま、テオだけを残して、一同は先へと進んでいった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
風だけが吹く高速道路の上で、テオはその場に乗り捨てられていた車のドアを背もたれにして烏丸を待っていた。
烏丸の予想通り、高速道路の上にはモルフの姿はほとんど見かけることはなかった。
これも彼女の采配通りというべき状況なのだが、それがあるからこそテオは烏丸を置いていくことはしなかった。
今後のことを考えれば、彼女がいないとクリサリダに一泡吹かせるのは難しかったからだ。
「――――」
思えば、烏丸とはあまり深くは話せていなかった気がした。
テオは紅茶が好きで、烏丸も同じ趣味を持っていると聞いている。
プライベートを仕事に持ってくることが今までになかったからこそ、今は何故かそれを考えてしまっていたのだ。
「お茶する約束もまだ果たしていないからな」
この戦いが終われば、烏丸とはぜひとも一緒にお茶をしたいものであった。
もっとも、生きて帰れるかどうかも分からないのだが、テオは事態をネガティブには捉えない性格だ。
全てが終わった後のことを考えれば、自ずと士気も湧き上がるものであるし、何よりずっと戦闘のことを考えていれば、それはそれでしんどく感じるのだ。
静寂が場を支配する中、テオは表情一つ変えないまま、一つの足音を聞いた。
「――遅かったな」
モルフではない人間の足取りを感じ取ったテオは、それが追いついてきた烏丸のものだと気づく。
彼女の方に顔を向けないまま、テオはその場から動かずに彼女にそう言った。
そして――。
「ん?」
何かが気になったテオは、こちらへとゆっくりと近づく烏丸へと目をやる。
そこには、地面に血を垂れ流しながら歩く烏丸の姿があり――。
「おい」
「はは……ちょっとマズっちゃいました……」
腕から血を垂れ流し、そこから地面に落ちていく烏丸の姿を見て、テオは目を見張りながら烏丸へと近づこうとする。
「……近づかないで下さい」
「――――」
「本当、こんなことになるつもりはなかったんですけどね……」
「何があったんだ?」
自分に近づくなと、そう言った烏丸に、テオは烏丸の身に何が起きているのかを既に察していた。
しかし、そこは言葉にせず、彼は何があったのかだけを問いただそうとした。
「……私、教育学部だったんですよね」
「あ?」
「大学で専攻していたものがです。子どもが好きで……でも、私は要領が悪いから……結局その職につくことはなかったんですが……」
「――――」
ハッキリとは答えない烏丸に、テオも何も言おうとはしなかった。
言いたいことを言わせてあげたかったのだ。
「皆で移動している最中に……モルフに襲われかけている子どもを見つけちゃって……庇ったらこんなザマですよ……」
「――――」
「ごめんなさい……。どうやら、お茶する約束は果たせそうにないです……」
「……そうだな」
そっけない肯定の返事しか返そうとしないテオ。それが、彼の烏丸に対する精一杯の気遣いであるということに彼女も気づいていたのだろう。
烏丸は、意識も薄らいでいる中、苦しみながらも無理をして笑顔を見せてきた。
「テオさん……分かって……いますよね」
「……あぁ」
「アイツらに殺されてやるのだけは勘弁ですから……。無理を言ってすみません……」
「――――」
二人だけが――、その場だけは通じ合うかのように、お互いの言いたいことをお互いに理解しながら話を進めていく。
もう、彼女には時間が残されていない。だからこそ、テオはその手に拳銃を握りながら、その銃口の先を烏丸へと向ける。
「――言い残すことはあるか?」
「そう……ですね……」
最後の言葉。その最後となる問いかけに対して、烏丸も何を言い残すかを迷っているかのような様子だ。
本当は、こんなやり取りをしている暇がないというのは他の隊員達から見れば誰もが同じことを答える筈だ。
しかし、テオだけは――テオだけは烏丸に与えてやりたかった。
それが、彼女に対する礼儀でもあることを――。
「きっと……生き延びて下さい……ね。テオさん……」
「――――」
烏丸の言葉を聞いたテオは、その言葉を聞いただけで表には出さなかったが、心が揺れた。
なぜ、それが最後の言葉になるんだと、もう一度烏丸に問いかけたかったが、そんな野暮なことを聞けるような状況でもない。
だから、彼が烏丸に伝えることは一つだけだった。
「烏丸、安心しろ。俺達は生き延びて、必ずお前の元に行く。――だから、それまでに準備しているんだな」
「準備……?」
何のことを言っているのか、分からない烏丸の様子にテオは真っ直ぐ瞳を合わせながらこう続けた。
「酒の準備だよ。俺達がそっちへ行くまでに準備してなかったらはたき倒してやるからな」
「――――」
「だから――安心しろ」
「――ふふ」
その言葉を聞いた烏丸は、どこか安心したのか、笑った。
似合わない台詞であったようにも思われる。
だが、烏丸はもう疑うべき相手などではない。
立派な、テオの仲間なのだ。
「待って……いますね」
「……あぁ」
これが最後の会話となり、テオはそのまま拳銃の引き金をゆっくりと引いた。
そして、静かな高速道路の上で、一発の銃声音が鳴り響いた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「テオの奴……遅いな」
場面は変わり、烏丸を待つテオを置いて先へと進んだレスター達だが、どれだけ待っても来ないテオにレスターは不安を募らせていた。
もちろん、テオが一人になったところでモルフにやられて死ぬとは思ってはいなかった。
いかなる戦場においても、どれだけ死を覚悟する瞬間があっても、テオは死ぬことは今までになかったからだ。
それだけの絶対的な信頼感をテオに寄せていたにも関わらず、レスターは妙な不安があった。
「レスター、あんたにしちゃあ珍しいね。テオの心配なんて不要じゃないか」
「それもそうなんだがな。なんだろうな……何か……妙な不安が内側にあるんだ」
「テオのことかい?」
「……そうなのかもしれない、な」
サーシャに諭されながらも、一抹の不安が途切れないこの感覚は何のものなのか、それはレスター自身にも分かっていなかった。
テオに対するものかどうかは分からない。ただ、このままでいいのかという焦燥感に駆られていたのだ。
「俺も疲れているのかもな。思えば、任務続きなわけだし」
「だったら今のうちに休んでおくんだね。この先にモルフの気配はないわけだし、フィン達もそうさせてる」
「そうだな。……って、そう言ってる内に来ちまったよ」
サーシャの言う通りにして休もうかとしていたその時、それを許さないかのように遠くからこちらへと近づくテオの姿を見たレスターはゆっくりと立ち上がる。
しかし、彼の姿を見て違和感を感じた。
「ん? 烏丸はどうしたんだ?」
「――――」
レスターの疑問に、サーシャは何かを悟ったのか、黙り込んだ。
その意味は、レスターのすぐに気づいてしまった。
「よう、休憩中ってことは、もう先にモルフはいないんだな?」
「あぁ、問題ない。それより、烏丸は?」
「……あいつは来ない」
「そう……か」
「――――」
その一言を聞いただけで、レスターもサーシャもどういうことなのかを悟った。
烏丸はもう追いつくことはない。それが、彼女の死を意味することにもだ。
「あの……烏丸さんは?」
「――来ねえよ。あいつには準備をしてもらってる」
「準備?」
烏丸が来ないことについて、まだ状況を理解していなかった椎名が詳しく聞こうとしていたが、テオは曖昧な返答で返した。
曖昧にさせたのは、彼自身が烏丸の死を口に出したくなかったからでもあるだろう。だから、彼は続けてこう答える。
「酒の準備だ。あいつには祝勝会の準備をしてもらっている。だから、もう大丈夫だ」
顔つきだけは笑っておらず、ただ真剣な顔つきなまま、テオは烏丸の安否については大丈夫とそう告げた。
それを聞いた椎名は怪訝そうな表情になるが、
「? そう、ですか。無事に避難させたということですね!」
「――――」
結果、テオのその言葉は椎名を勘違いさせることになってしまったが、テオはもうこれ以上は何も言おうとはしなかった。
しかし、その場にいた椎名以外の全員は何が起きたのか理解していたのだろう。デインは椎名から離れた位置で聞こえないように一言だけ呟いた。
「祝勝会……ね」
何があったのかはテオだけが知ることだ。だから、答えないということは話すつもりもないことをその場にいた全員が悟り、これ以上は誰も烏丸のことを追求することはなかった。
そして、彼らは仲間を一人失ったまま、行動を開始していく。




