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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase1 第二話 『報復の決意』

三日間で三話分、一気に投稿予定です

「選択しろって……どういうことなの? テオ」


 突如、訳の分からない提案をしたテオに、サーシャはそのままの疑問をぶつけた。

 この場にいる烏丸もテオもフィンも、サーシャもセルゲイも同じように疑問を抱くように表情に焦燥感を浮かべていた。


「クリサリダは俺達を裏切った。奴らは俺達ごとモルフウイルスに感染させようとしたんだ。俺はそれを許すわけにはいかない」


「――――」


「今より、サイレントハウンド部隊は解散する。そして、これからどうするかはお前達が決めろ。アメリカから離れ、遠い異国の地へ行くもよし。故郷へ戻って家族に会うのも止めはしない」


 真剣な表情をしながら、テオはサイレントハウンド部隊のメンバーへと一人一人、顔を向けながらそう告げていく。

 クリサリダがサイレントハウンド部隊を見捨てた。

 これは、事前に情報を共有していなかったことから、クリサリダ側が意図的にテオ達を殺そうとしたことの証明になっていたのだ。


「お前達がどの選択を選ぼうとも、俺は粛正はしない。だが、今生の別れになることは間違いないだろうな。俺は、奴らを報復する為に動く」


「テオ、本気か?」


 報復するという言葉を聞いたレスターは、訝しげにテオへと確認を取る。

 レスターから見ても、テオが常軌を逸するほどにキレていることに気づいていたのだろう。

 明らかに無謀な判断を、見逃す筈がなかったのだ。


「レスター、だから……今生の別れになると言っただろう?」


「テオ……」


 再度、同じ言葉を繰り返し言ったことで、レスターは理解した。

 テオは、クリサリダへと報復しようとするが、その果てで死ぬことを悟っていたのだ。

 自身が死地へ赴くことに、他の仲間達をテオの意思で巻き込むわけにはいかない。

 その上で、テオは全員に問おうとしていたのだ。


 ――これからの自身の選択。

 テオについていくか、それとも、生き残る為にクリサリダから逃げ続けるか。


「俺は隊長についていきます」


 静寂の中、一番最初に声を上げたのは、黒のハンチング帽を被った長身の男、セルゲイであった。

 彼は、テオの言葉に何一つ動じることもなく、そう答えてみせた。


「いいのか? お前がそう言ってくれんのは正直、ビックリしてるぜ」


「俺は隊長の部下です。サイレントハウンド部隊が解散しようとも、それは変わりません」


「テオさん、俺も同じっすよ! こんな風に俺らを嵌めたクリサリダを許したくないです! 俺も行かせて下さい!」


「フィン……」


 セルゲイに続いて、この部隊の中でも一番の後輩であるフィンもテオについていくと、そう決意を言葉にする。


「たくっ、お前の無茶振りは変わんねえな。俺がいなかったら誰がお前の無謀な特攻を止めるんだ。……俺も行くよ、テオ」


「レスター」


「私も行くよ。長い付き合いだ。今更、一人だけ逃げるなんてかっこ悪い真似、したくないからね」


「さすが姉さん! 信じてたっす!」


「姉さんはやめろ」


 レスターに続き、サーシャも同行の意を示して、フィンが喜ぶようにして抱きつこうとすると、サーシャはカウンターばりにビンタを浴びせてフィンをはたき倒していた。

 テオはその様子を見ながら、口元を微かに綻ばせ、笑った。


「悪いな、お前ら……」


 初めから、この部隊のメンバーの誰かが抜けるわけがなかった。

 水臭いことを言ったことを、テオは後悔していたが、同時に嬉しさも込み上げてきていた。


「はぁ……これじゃ、私だけ行かないみたいな空気じゃないですか」


「烏丸、お前は無理についてこなくてもいいんだぞ? 俺達とは違って、お前は非戦闘員なんだからな」


「私も行きますよ。どうせ、逃げる先なんてないですし。私がいなかったら、誰があなた達の補助をするんですか?」


 烏丸は嫌そうな顔一つせず、含み笑いを持たせながら、そう答えた。

 その雰囲気からも、テオ達についていくと言わんばかりである。


「――はっ、度胸あるね。そういえば、あんたとはお茶する約束だったもんな」


「ええ。そうでしたね」


「決まりだな。じゃあ、俺達は全員、クリサリダの連中への報復に出るとして……お前達はどうするつもりだ? さっき、お前は妙なことを言っていた気がするが?」


 テオはサイレントハウンド部隊の皆へと確認を取った後、ついさっきまでは捕獲までして酷い目に合わせた二人、デインと椎名へと向き直る。

 当然、先ほどは蹴られたりなどしていたデインはテオと目を合わせるまでもなく、ため息を吐くと、


「あんた達と俺達に利害関係が一致するかは別として、もう俺達は争わない関係でいいんだな?」


「ああ、もうクリサリダの任務もどうでもいいからな。だが、お前達が一緒にいても足手纏いになるだけだ。何か情報を持つなら話は別だが」


「――ちっ」


 足手纏いと言われて、デインは舌打ちする。

 元より、一緒に行動したいなどとは思わなかったが、利用するという意味では行動する意味はあるのかもしれない。

 そう考えたデインは、少し間を開けてテオの方を見ると、


「ご存知の通り、俺の隣にいる椎名は『レベル5モルフ』なわけだが、俺のことをお前らは知らないようにも見えるな。聞くだに信じられないと言うだろうが、モルフに感染しない人間がいると聞いたらどうする?」


「――なに?」


 聞き逃せない発言を聞いたテオは、デインの言葉を聞いて眉を顰める。

 モルフに感染しない体質。そんな人間がいるなど、到底信じられなかったからだ。


「クリサリダにとっては、俺という存在は邪魔でしかない筈だ。奴らの組織の一人に殺されかけたこともあるからな」


「……なるほどな」


 ある意味では、賭けに出たものであった。

 ここで、敵でもあったテオ達にデインの秘密を打ち明けることは、出方次第ではクリサリダ側への取引材料に使われる可能性もある。

 だか、デインとしても歯噛みする気持ちで、打ち明ける必要があった。


「俺達としては、二人だけで行動するのはかなり厳しい部分もある。だから、俺達の力も貸してやる。安心しろ、自分達の身は自分で守る」


「はっ、言うじゃねえか」


「不満か?」


「いや、むしろ気に入った。奴らへの報復に手を貸すなら喜んで受け入れてやるよ。好きな武器を選びな。銃の撃ち方ぐらいはわかるだろ?」


「あぁ」


 テオはデインの提案を受け入れて、武器を取るように促す。

 それまで腰を落としていたデインも、ゆっくりと立ち上がりながら欲しい武器を取ろうとする。


「お前はどうだ? 『レベル5モルフ』の嬢ちゃんは」


「わ、私も行きます。デインを一人には出来ませんから……」


 それまで、口を閉じていた椎名も、テオに呼びかけられて、少し怖がる素振りを見せながらもついていく意思を示した。

 それを聞いたテオは、各種武器がある中から一際小型の拳銃を取ると、それを椎名へと渡し、


「お前ぐらいならこれが十分だろう。アメリカの女性警官が使う小型拳銃だ。殺傷能力は低いが、何もないよりはマシだろう」


「いえ、私は大丈夫です。武器が無くても戦えますから」


「……ほう」


「そいつなら武器はいらねえよ。なんたって、あのクリサリダにいる『レベル5モルフ』の女とやり合ったことがあるんだからな」


 デインからのその言葉を聞いて、その場にいた全員が息を呑んでいた。

 ここにいるメンバーの中で、烏丸を除けば、椎名は一番戦闘においては役に立たないように見られるからだ。

 その言葉を聞いたテオは、「ふっ」と笑い、差し出した拳銃を手元に戻すと、


「良いじゃねえか。お前ら、想像以上に面白いよ」


「ちなみに、これならどうするつもりなんですか?」


「あん? クリサリダをぶっ潰しにいくんだよ」


「そうではなくて……どこに行ってどうやってそのクリサリダって組織とやりあうつもりなんですか?」


「……ああ」


 椎名の問いに、言葉が詰まったテオは、頭を掻くように手を回す。

 恐らく、特に何も考えていなかったのだろう。

 その様子を見かねた烏丸が、「はぁ」とため息を吐くと、


「本当に、私がいないと何も出来ないですね。わかりましたよ、作戦なら準備してます。クリサリダに一泡吹かせる意味でもね」


「一泡じゃなくてぶっ潰すんだけどな。仕事が早くて助かるぜ、烏丸」


「はいはい。いいですか? まずは現状を整理しましょう。外はご存知の通り、アメリカ国民がモルフ化して地獄絵図の状況。空中に散布されたモルフウイルスはもうじき、外に出たとしても感染することはなく対処はできる。ここまではいいですかね?」


「自由に動き回れるってか。そりゃいいね」


「奴らの居場所についてですが、現状は確証は得られないのが本音です。ですが……私に届いたクリサリダからの最後の連絡が、どこから届いたものかは既に傍受しています。ここから、まずは探っていいかもしれないですね」


 現状を説明しながら、烏丸は元仲間であるクリサリダの一味がいるであろう場所に心当たりがあることを仲間達に伝える。

 烏丸は非戦闘員でありながらも、クリサリダ側とコンタクトを取れるという非常に重要な立ち位置だ。

 これまでのテオ達の動きを事前に決めていたのも、彼女の采配によるものには違いないだろう。


「外に出れば戦闘は避けられませんが……そこは皆さんにどうにかしていただくしかないでしょう。以前のように、安全なルートを確保して移動ということは難しくなります」


「上等だ。で、どこにいやがるんだ?」


「テキサス州のある区域です。とはいえ、簡単に見つけられるものでもないでしょうが……そこは賭けになるでしょう。一番良いのは、その周辺で情報収集をするぐらいです」


 クリサリダの一味がいるとされる場所を聞いたテオは、「よし」と一言呟いて、壁に掛けられたアサルトライフルに手を掛ける。


「先陣は俺とフィンが出る。サーシャとセルゲイ、レスターは後ろから来る奴らを対応してくれ。お前らは……勝手に動き回ればいい。邪魔だけはするなよ?」


 サイレントハウンド部隊の面々には命令を下し、ついてくると言ったデインと椎名については自由に動き回れとそう忠告した。

 役立たずと認識しているわけではない。

 元々、テオ達の部隊に関係ない者が加わったところで連携に支障が出ると予測した上での忠告でもたったのだ。

 それを聞いたデインは、テオの意図を汲み取ったのか、壁に立て掛けられたリボルバー式の銃を手に取ると、


「その方が助かるね。あれやこれや指示される方が性に合わねえからな」


「はっ、言うじゃねえか」


 皮肉をいいように返され、テオも口元を緩める。

 士気としてみれば、これ以上の最善はないだろう。外は阿鼻叫喚の渦と化した魔境の地だが、ここにいるのはモルフに対抗する為だけにいるようなエキスパート達の集まりだ。


 全員の準備が整ったことで、武器も持たない烏丸は腕時計を見てこう言った。


「さて、そろそろ行きましょうか。今、外に出ても空気感染することもないでしょうから」


「しかし、真正面から突き進むには不安はあるが、そこはどうなんだ?」


「レスターさん、問題ないですよ。確かにそのまま地上を突っ切っていけばリスクは高いですが、策はあります。まず向かうべきは高速道路ですね」


「なるほど、それは名案だな。そこなら囲まれるリスクは低い」


 部隊の中でも参謀に位置するレスターでも、烏丸の提案は納得することができた。

 確かに、高速道路であれば三百六十度、周囲を警戒するわけでもなく、前方か後方のみに注力が置けるので動きやすいだろう。

 そして、明確な移動経路もハッキリとするので、計算外の状況が起きづらいことも利点として挙げられる。


「よし、行くぞ」


「「「了解」」」


 方向性が決まった一同はすぐにでも行動を開始するべく、シェルターの出口へと向かっていく。

 まずはじめにテオが進み、安全を確保してから高速道路へと向かう手筈だ。

 一番後ろからついていこうとしたデイン達は、その状況でようやく話がすることができた。


「デイン、頭は大丈夫?」


「いや、正直めちゃくちゃ痛えよ。あの野郎、本気で俺を蹴りやがって」


「……本気だったね」


「まあ、説得出来てなかったら危なかっただろうな」


 本気という言葉の意味合いが、あの状況下がそれほどデイン達にとって危なかったということでもある。

 クリサリダの精鋭部隊なのだろうが、任務に対する躊躇の無さが尋常ではない。

 まるで、特殊部隊が持つ特有の合理的さを兼ね備えたかのようなものだったのだ。


「こいつら全員、軍隊上がりなのは間違いないだろうな。まぁ、味方になっただけ逆に頼り甲斐があるってもんだろうが……複雑だぜ」


 痛む頭を撫でながら、デインはサイレントハウンド部隊の後ろ姿を見てそう語った。

 敵にすれば恐ろしい存在だが、味方となれば大分と話は変わる。

 それこそ、バイオハザードと化したこの地上においてはデイン達が目的地へと向かう為には必要不可欠な存在とも言えたのだ。


「嬢ちゃん、さっきは済まなかったな。キミも……うちの隊長が失礼した」


「あ……えと、レスターさん、ですよね?」


「ああ、ウィリアム・レスターだ。テオとは同じ出身でな。あいつは作戦中は人が変わるから、悪く思わないでほしいんだ」


「椎名真希です。大丈夫ですよ、私達も出来ることがあればなんでもしますから」


「おい、椎名。勝手に打ち解けてんじゃねえよ」


「ははっ、攻撃的だな。安心しなよ、戦闘は俺達の得意分野だ。キミ達は後からついてくればいい」


 レスターはそう言って、椎名達の緊張を解かせるように安心させた。

 前線で戦うのはあくまで俺達のみだと、そう言っているのだろうが、その言葉だけでも心強いのは確かだった。


「一応、聞くだけ聞きたいんだが、お前達の組織ってのはどれくらいの規模なんだ?」


「ん? クリサリダのか?」


「ああ」


 デインはそこで初めて、今まで謎とされていたクリサリダの組織に関する情報を聞き出そうとした。

 人類史で見れば、これが初めてかもしれないだろう。

 敵であるクリサリダの組織図が明らかになれば、今後の指標にも出来るかと思われたのだが――。


「意図は分かるよ。俺達はもうクリサリダから足を洗った身。だから、奴らの背景を知りたいというのも理解できる。しかし……残念ながら期待できる情報は渡せそうにないだろうな」


「なに?」


「クリサリダがこれまで世界の陰に隠れて暗躍し続けた理由がそれだよ。末端である俺達でさえも知らないんだ。俺達はただ、クリサリダに雇われた傭兵部隊みたいなものだからな」


 期待していた答えがまるで違うものとなったことで、デインは肩透かしを食らってしまった。

 テオが率いるサイレントハウンド部隊がたとえクリサリダの組織の一部であっても、その組織形態の全てを共有しているわけではなかったのだ。

 だが、それはそれとしても、一つ気がかりなことはあった。


「じゃあ……なんで末端であるお前らに重要人物である椎名の捕縛の役目なんかを任されたんだ?」


「それは――」


 至極真っ当な疑問に対して、レスター自身も同じことを考えていたのか、答えに窮していると、


「おい、レスター。お喋りしてる時間はねえぞ。さっさとこい」


「あぁ、悪い。……続きは落ち着いた時にしようか。さぁ、いこう」


「はい!」


「――――」


 テオに注意され、レスターも立ち話は終いだとばかりにその場から動き出していく。

 椎名は意気込み良く返事を返し、デインは何も言わなかった。

 それぞれに考えを秘めながらも、彼らはこの時だけは行動を共にすると決めた。

 たとえ敵同士であれど、それでも――。



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