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Levelモルフ  作者: 太陽
最終章 『終末の七日間』
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Phase1 第一話 『捕獲』

遅くなりました。Phase1開始です。

 これは、アメリカでモルフウイルスの拡散が起きる一日前の話だ。

 ネパールから無事に脱出し、アメリカの空港へと到着した椎名とデイン、そして清水の三人は今後の動きについて打ち合わせをしていた。


「風間さんと連絡を取りたいんやけど、もう夜も遅いしな。今日は一旦、ホテルでも借りて泊まってから行くで」


「いいのかよ? そんな悠長に構えて、何かあったらお前の責任になるんだぞ」


「もうここまで来れば安全や。下手にアメリカ側の連中の手も借りるわけにはいかんからな。風間さんの指示では、椎名ちゃんを安全に連れてこいとのことやし」


「連絡手段はないんだよね?」


「ああ、俺のスマホもあの戦いでぶっ壊されたからな。一旦は地道に向かうしかないやろなぁ」


 清水は鬱屈そうな様子で、明らかに全損していたスマホを取り出し、ため息を吐く。

 ヴェノムとの死闘を繰り広げたあの時、清水は手持ちのスマホを運悪く壊されてしまったようで、風間との連絡手段が潰えてしまっていた。


「金はあるし、とにかく一休みしてから向かうのが無難やろ。なんか異論はあるか?」


「お前がいいってんなら俺は構わねえよ」


「私も特に異論はないよ」


 清水の問いかけに、デインも椎名も特に口を狭むことはしなかった。

 ここは、既にモルフがいる感染地帯ではなく、人だけしかいない安全地帯だ。

 ここに来るまで、疲労が絶頂にまで達していた三人は、ひとまず体を休めることにして、ホテルで一泊を取る事にした。


「安っぽいホテルはやめろよ。せっかくアメリカに来たんだ。良い場所を頼むぜ」


「観光気分か。まあ、ここは金持ちが多いからそんな安いとこはないで。ほな、いこか」


「うん!」


 デインの提案に軽くツッコミを入れながらも、清水は疲れた表情で前を歩く。

 彼も既に憔悴しきっていたのだ。

 あの戦いで、椎名達は仲間を二人も失ってしまった。

 月島が最後、ヴェノムを道連れに空中から落ちていなければ、椎名達はここにいなかった。

 いなくなってしまった仲間達のこともあり、精神的な疲労が頂点にまで達していたのだ。


 彼らはそれから、一言も発することなく、一泊予定のホテルへと到着する。

 そのホテルは、空港から徒歩十分ぐらいの場所にあり、清水の言う通り、どうみても金持ちが好みそうなホテルであった。

 標準となっていたのは、全室バス、トイレ、シャワー完備がされており、上層階の部屋から見える外の景色は圧巻そのものだった。

 リビングと寝室は隣接しており、広さについても申し分がないレベルだ。

 しかし、その中でも不満があるのか、デインは椎名を指差すと、


「おい、なんでこいつと同じ部屋なんだよ? 俺は個室がいいんだ」


「無茶言うなや。俺も椎名ちゃんは別室でお願いしよか思ってたんやけど、受付曰く、この部屋以外はどこも空いてないらしくてな。やから三人で一緒の部屋になる他になかったんや」


「んだよそれ……」


「デイン、私と一緒の部屋は嫌だった?」


「嫌というか、少しは一人の時間が欲しかっただけだよ。露骨に傷ついた顔すんな」


 まるで悪口でも言われたかのような悲壮な表情を浮かべる椎名に、デインは冗談混じりにそう弁明する。

 椎名の真に受ける性格はデインにとっては相性が悪い。

 改めて思うが、椎名は外国を一人で歩けるような女性ではないだろう。

 ジョークが通じるどころか、メンタルが脆いのでいちいち気を遣ってやらないといけないのだから、非常に面倒だったのだ。


「……まあ、俺らの関係も明日までだ」


「そうだね」


 ネパールの辺境の地で出会い、数々の死線を彼らは共に潜り抜けてきた。

 デインは莫大な金の為に、椎名はモルフウイルスに脅かされる人類を救う為に。お互いに違う目的を持っていながらも、彼らはここまで来ることが出来たのだ。

 その関係も、明日、目的地まで到着すればお終いだ。


「お前とは色々あったが、もうあんな死にかけることはゴメンだ。さっさと世界を救って俺の金の使い所を増やしてくれよ」


「うん。きっと、絶対に世界を救うよ。本当に……こまで一緒に来てくれてありがとうね、デイン」


 落ち着きながらも、椎名は嘘偽りないであろうその言葉でデインに返答した。

 世界を救う為に、デインはここまで来たわけじゃない。ただ、自分の欲の為だけにここまで来ただけなのだ。


「……たく、ほんと調子狂うぜ」


 その筈なのに、心に妙なささくれが立つ感覚にデインは苛立つ。

 これも、椎名という甘ちゃんと一緒にいてしまった弊害なのかと、心の中で愚痴を溢していたのだが、肝心の彼女にそれを言ったところで何も解決はしないだろうとすぐに考える。


 これが、本当に人を殺すだけの仕事をしてきたデイン・ウォーカーなのかと、自問自答をしかけたその時、ホテルの受付と電話をしていた清水が電話を置き、


「なんや、英語はよく分からんくてキツいわ。晩飯についてどうなるんかよく分からんから、今から受付行って聞いてくる。お前らはここで待っといてくれや」


「そういえば飯付きなのか、このホテル。興味が湧くね」


「行ってらっしゃい、清水さん」


「おう。ほな、また後でな」


 清水はそう言って、受付へと向かう為に部屋の外へと出て行く。

 残された椎名とデインは互いに顔を合わせながら、どう時間を潰すか考えていたが、


「俺はシャワー浴びてくるわ。お前はどうする?」


「私は待ってるよ。晩御飯食べてからシャワー借りるよ」


「そうかよ」


 他愛ない会話をしながら、デインは上着を脱ぐ。


「そういえば、武器も何もかも持ってないんだよな、俺ら。何かあった時に困るな」


「着陸するまでに全部海に捨てちゃったもんね。仕方ないよ、検問に引っかかっちゃうし」


「面倒な国だよな、ほんとに」


 デイン達はネパールから避難した邦人という扱いでアメリカへと来た身分だった。

 その為、ここに来るまでに持ち合わせていた武器などは全て放棄せざるをえなく、飛行中に全て海へと投げ捨てていたのだ。

 そもそも、空港で保護される扱いでもあったのだが、そこは清水が上手くやってくれたのだろう。抜け出す形となって今に至った状況だ。


「ここにはモルフもいないから大丈夫だよ。心配しすぎかも」


「……だといいけどな」


 デインとしても、今の今まで生きるか死ぬかの瀬戸際で生き抜いてきた身分であり、安全な場所なんてほとんど無かったに等しい人生を送ってきた。

 だからこそ、今も安全という状況に慣れているわけでもなかったので、緊張感が抜けることはなかった。


 と、そう考えていたその時、部屋の入り口からインターフォンの音が鳴った。


「何だ? 清水か?」


「いや、多分ホテルの人だよ。もしかして、晩御飯のことかな?」


 清水と入れ違いになってしまったのか、椎名はそう考えて部屋の入り口へと向かう。

 何一つ警戒もせずに、椎名は部屋の入り口の扉の取手に手を掛ける。


「ん? そもそもそこに受付の電話口があるのに何で直接来るんだ?」


 清水がさっき、受付へと電話をしていたことを思い出し、デインは訝しむ。

 だが、その部分に対する違和感の答えを出すまでもなく、椎名は扉の取手を引こうとして――、


「……待て、椎名!」


「え?」


 デインがそう声を掛けるも、時既に遅かった。

 半分も開いていない扉の隙間から、奥の人間が部屋の中に何かを投げ込み、デインはそれを目にした。

 それは、手榴弾のような何かにしか見えなく、それに気づいた時にはもう手遅れだった。


「がっ!?」


「きゃっ! なに!?」


 急に目の前が閃光に阻まれ、何も見えなくなる。

 同時に耳鳴りも鳴り、周囲の音も同時に遮断されてしまう。


「突入! レスターは女を! フィンと俺が奥の奴を捕らえる!」


「「了解!」」


 小さく、そう声が聞こえて、デインは焦る。

 これが敵の襲撃であることを理解していても、無駄だった。

 屈強な力で持って、抵抗することも出来ずに、デインは口元に何かを当てられて意識が朦朧とした。


「な……にが……?」


「何もねえよ。お前は終わったんだ」


 意識が飛ぶ寸前、耳元でそう言った男の声が聞こえ、デインは意識を失う。

 デインが意識を失った原因が、睡眠作用のあるものを嗅がされたのだということに気づいたのは、彼が次に目を覚ました時である。


△▼△▼△▼△▼△▼


 デインは、自身がなぜモルフウイルスに感染しない体質だったのか、その原因については分かっていない。

 出生を知るわけではないが、別に特異体質な部分があったわけでもなかったのだ。

 ならば、一体何があって自分はこうなってしまったのか。考えてみてはすぐに諦めていた。

 考えたところで、正直なところはどうでもよかったからだ。

 自分がモルフに感染しないとしても、他の誰かが『レベル5モルフ』という異常な能力を持っていたとしても――デインにとってはどれだけ自分に有益になるか、それだけしか考えてこなかったのだ。


 自分の血が世界を救う。そう聞かされても同じだった。

 チンケな使命感に駆られるわけでもなく、ああそうか。と、自分の優位性を利用できると考えていただけだったのだ。


 ともすれば、デインはなぜ、そこまでアメリカへ向かうことに拘ることになったのだろうか?

 死ねば終わりの人生において、莫大な金を手に入れられないかもしれない可能性について、彼は本当に考えてこなかったのか。

 死ぬかもしれない場面は幾つもあったわけであり、デインはいつでも報酬の金を諦めるタイミングはあった。

 だが、彼はその選択をすることはなかった。


 それは、彼なりの心境の変化なのか、それとも――。


△▼△▼△▼△▼△▼


「――い、おい。起きろ」


「……っ」


 目覚めの気分は最悪だった。

 髪を掴まれて、膝をついた状態で目を覚ましたデインは目を開けて、前を見た。

 そこには、見たこともない男がいて、デインの髪を掴み、様子を窺っていた。

 見たところ、三十代ぐらいの容姿をしたその男は、ツーブロックのヘアスタイルを気取りながらも体格はガッチリとしており、その服装は明らかに普通の一般人とは異なっていた。


「さっさと起きろって言ってんだろうが」


「がっ!?」


 その直後、目の前にいた男はデインの腹部へと膝蹴りを入れて、デインは頭から地面に崩れ落ちる。

 訳もわからない状況に頭が追いつかないまでも、一つだけは理解していた。

 今、目の前にいる男が敵だということを。


「なんだ、その目は? 立場が分かってなさそうだな」


「――っ」


 殺意を目に宿らせ、デインは目の前の男を睨みつける。

 手も後ろで縛られているのだろう。何も動かせないことから、抵抗の一つも叶わないことも分かってきた。


「テオ、その辺にしときな。今回の作戦にその男は関係ないとはいえ、情報ぐらいは持ってるだろうし」


「関係ない? いや、大いにあるね。俺の安らかなティータイムを奪う奴はどんな野郎でも万死に値する」


 テオと呼ばれたその男は、後ろから止めようとした金髪の女性へとそう返事を返す。

 わけもわからない理屈を並べ返され、デインも正気ではいられなかったのだが、そこで隣にいたもう一人の仲間の存在に気づく。


「……椎名」


「――――」


 口を塞がれ、うめくように椎名は何かを話そうとしているが、デインには何も伝わらない。

 その時、デインはようやく理解した。


 デイン達はあのホテルで、敵勢力に捕まり、拉致されたという事実に。


「お前らは何者だ?」


「あん? ようやく状況を理解したのか? っても、それを知ってどうする? お前らに選択権なんてねえんだぞ」


「……目的は椎名か?」


 意味のない問答をしても無駄だと知ったデインは、単刀直入にそう問う。

 さっき、後ろにいた女はデインのことを関係ないと言った。

 これは、デインの特異性のことを知らない意味とも取れるが、こいつらの目的が椎名にあるということでもあった。


「そうだよ、なんでも、この女は『レベル5モルフ』なんだろ? 俺もよく知るわけじゃねえけど、上の連中が欲しがってるとのことなんでね」


「――――」


 最悪な状況であることは理解しつつも、デインは一つ一つ頭の中で整理していこうとした。

 椎名を狙うということは、こいつらはミラと同じ組織、クリサリダの一員ということだ。

 まんまとしてやられたこともそうだが、清水はどうなったのか。それも分からない。


 あれからどれくらいの時間が経った?

 腹の空き具合から見ても、恐らくは夜は明けた頃合いに近い頃だろう。

 そうであれば、もう一日は経っているということになる。


 目線を周囲に配り、デインは今いる場所を把握しようとした。

 そこは、何かの倉庫のような場所で、クリサリダのアジトとは言えなさそうな場所だ。

 ただ単純に、尋問にうってつけとも言わんばかりに選んだかのような場所だった。


「テオ、烏丸から連絡だ。繋げるがいいか?」


「ああ、さっさとしてくれ。もう十分に仕事はこなしただろ」


 堀の深い顔をした、優男のような風貌をした男はテオの言葉を聞き、大きめのタブレットを取り出して誰かと連絡を取ろうとした。

 中継役の者と連絡を取ろうとしているのだろうが、このままではマズイ。

 なんとかして、隙をついて椎名と逃げる必要があったのだが、縛られた手足の紐を解くことが出来そうにもない。

 心の中で舌打ちをしながらいると、タブレットをスピーカー状態にしたのだろう、女性のような声色をした女の声が聞こえた。


『どうも、テオバルトさん。お疲れ様です、もう終わらせたんですか?』


「この程度の任務、楽勝にもほどがある。まあ、あんたの策案でもあったんだけどな」


『ええ、上手くいったようで何よりです。私も今からそちらへ向かいますが、対象は傷つけていませんよね?』


「無傷でってのがお前らの注文だったからな。問題ない」


『それは何よりです。では今後についてですが――』


 テオという男が、スピーカー越しに烏丸と呼ばれる女性へと連絡を取っていた時だった。

 烏丸は話を止め、テオ達も不思議そうに顔を見合わせていると、


「おい、どうした?」


『そんな……これは一体……?』


「なんだってんだよ?」


 何かに焦っているのか、烏丸は震えるかのような声色でいた。

 デインも何やらよく分かっておらず、隙を見ながら手首をゆっくりと動かし、縛られた手首の拘束を解こうとしていた。

 バレれば即殺されるだろうが、何もしなければそれでも死ぬ。

 細心の注意を払いながら、彼らの会話を聞いていたのだが、


『テオバルトさん。いや、皆さん。今すぐそこから離れて下さい』


「あん? どういうことだ?」


『……本日、AM十一時、アメリカ全都市区へとモルフウイルスの上空からの散布を開始。クリサリダによる世界への宣戦布告が行われるとのことです』


「な……に?」


 その衝撃的な発言を聞いて、テオだけではない。後ろにいた取り巻きメンバーも、デインも椎名も目を見開き、驚いていた。

 それは、ここにいるメンバーの誰もが、予想だにしていなかったかのような反応だったのだ。


「どういうことだ。烏丸!?」


『今は何かを言い合ってる余裕はありません! あと数十分もしない内に、空からあの最悪のウイルスが散布されるんです! 今から全員の携帯に避難場所の地点を送ります! 急いで行動して下さい! 私もそこに向かいます!』


「クソッ! ふざけやがって! お前ら、聞いたか!? すぐに動くぞ!」


「テオ、そいつはどうするんだい?」


 テオの仲間である女がデインを指差して、処遇を問いかける。

 その瞬間、テオが返事を返すその前に、デインは好機と捉えた。


「俺も連れて行け。さしずめ、あんた達は裏切られたんだろ?」


「なに……?」


「俺の体には椎名よりも遥かに高い価値がある。お前らが仕返しをする意味でもな」


「――――」


 まるで、誘いを掛けられていると考えたのか、テオは目を細めてデインを見る。

 デイン自身も、賭けに出たようなものだった。

 このまま何もしなければ、デインは殺されて終わるだけだ。

 時間がないことをわかっていても、交渉に持ちかける以外に何もなかったのだ。

 互いに視線が交錯しながらも、テオとデインはその場から一歩も動かない。


「隊長! 急ぎましょう! もう時間が……」


「落ち着け、フィン。――おい、お前、名は?」


「デイン。――デイン・ウォーカーだ」


「嘘は言ってなさそうだな。サーシャ、こいつの縄を切れ」


「いいんだね?」


「さっさとしろ」


 急かすように指示をされたサーシャは、何一つ不満を言うこともなく、デインの拘束を解く。

 ようやく自由になれたデインは、手首の感触を確かめながら立ち上がる。


「よし、じゃあ行くぞ。お前らはどうする?」


 テオは、自由の身となったデインへそう確認を取り、確かめようとする。

 もう、用済みだとも言わんばかりのその確認は、彼らにとっては任務を放棄していることの証明でもあった。


「俺らもいく。あんたらには聞きたいこともあるしな」


「……わかった。さっさとついてこい」


 無愛想にそう返されるも、デインはテオ達について行くことに決めた。

 残り十分以内にアメリカ全土へと降り注ぐモルフウイルス。それに対して、椎名とデインに感染することはなくとも、降りかかる犠牲者のことを考えていた椎名を横目に、デインは一つの可能性を見出し、テオ達と行動を共にする。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 テオ達はその後、烏丸が指定した避難場所へと移動した。

 そこは、シェルターに近い構造になっており、最低限の食料と物資が置かれていた。

 あらかじめ、クリサリダ側が用意していたシェルターなのだろう。そこには武器もあり、補給場所としても使用することができる場所ともなっていた。


「さて……全員集まりましたが、彼らも連れてきたんですね」


 円になるようにそれぞれが立ち並び、そこで烏丸と呼ばれる女性がデイン達を見ながらそう言った。

 黒髪に眼鏡を掛け、肌の色と名前からして日本人であることは見て取れた。


「ついてきたいって言うもんでな。それで、地上は今どうなってる?」


「最悪ですよ。モルフウイルスに感染した人間がどうなるかはテオバルトさんもご存知では?」


「――ちっ」


 烏丸から地上の状況を聞いたテオは、当たり前の返事を聞かされて舌打ちをする。

 このシェルターへ避難してから、既に一時間が経過しており、地上の様子を直接見なくとも、どうなっているかは明白であった。


「さっきまで入り口の扉を微かに叩くような音も聞こえましたよね。あれ、生きた人間っすかね?」


「気になるなら見に行ってみろよ、フィン」


「勘弁してくださいよ……レスターさん」


 レスターと呼ばれる男にそう冗談混じりに言われたフィンはタジタジになる。

 それもそうで、ついさっきまで、シェルターの入り口の扉を叩くような奇妙な音がずっと聞こえてきていた。

 誰も開けようとはしなかったが、その不規則な叩き方から見ても、生きた人間とは到底考えられない、モルフに感染した人間であることは予想していたことだったのだ。


「――これから、どうするかについて話し合う。全員、聞け」


 その時、テオが今までとは違う、圧迫感のあるような声色で話し出したことで、皆の表情が変わる。

 元々、関係のなかったデインと椎名も、敵でありながらテオの方を見ていた。


「俺達の今後について、今から再確認していく。その上で、お前達がどうするかを自身で選択しろ」


 そして、テオは語り出していく。

 サイレントハウンド部隊の今後の行く末を――。



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