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Levelモルフ  作者: 太陽
第五章 『亡国潜入』
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第五章 Phase0 『ティータイムは遠く』

「烏丸、聞こえるか? 仕事の時間だ」


『はい、聞こえていますよ? どうされましたか?』


 仲介役ともされる烏丸と連絡を取り、テオは要点だけを絞ってこう問いかける。


「今、モルフと交戦中だ。救助ヘリの降下先と正確な時刻を知りたい」


『交戦中……ですか。危ない状況なのですか?』


「お前が今の質問にさっさと答えてくれれば危なくなくなるかもな」


 嫌味ったらしくそう伝えるテオに、烏丸も少し間を置いて状況を理解したのだろう。テオの問いに簡潔に答えようとした。


「あと十分以内に到着します。場所は村の西側にある空き地に降下する予定です。が、降下するには一定の安全を確保する必要があるでしょう」


「全部を排除するのは不可能だ。十分だな? それまでに出来る限りはなんとかしてやるよ」


『ちょっと待って下さい。今、戦闘中とのことですが、その中にリキッドモルフはいますか?』


「いや……いないが?」


 リキッドモルフの名を出されて、テオはこの場にいないことを伝える。

 その問いかけは、まるでいたらマズイかのような問いかけにも聞こえた。


『もし、一体でもいれば優先的に排除して下さい。あの存在は一体だけでも、ヘリの降下に支障が出ます』


「……たくっ、なんてもんを作り出してやがんだよ。クリサリダは」


『とにかく、そういうことなので今は戦闘に集中して下さい。その他に必要な情報があれば出来る限りのことはこちらでも手配します』


「ああ、分かった」


 限りなく最小限の会話で持って、テオと烏丸は会話を終了した。

 残り十分以内に救助ヘリがここに来るということは、外に出ればそのヘリの姿は遠目に確認はできるかもしれない。

 だが、ここから無事に抜け出す為には、外の安全の確保をすることが先決であった。

 やることが明確になったテオは、持っていたショットガンの銃身を握り直す。


「リキッドモルフが現れる前に片をつける」


 レスター達には逃走経路の確保は任せている。

 なればこそ、テオが今出来ることはフィンのサポートだと、そう考えた時だった。


「ん?」


 その時、テオの全身に駆け巡る嫌な予感を感じ取ったテオは、即座に後ろへと引いた。

 その瞬間、屋敷の入り口が大きな爆発音を立てて崩壊する。


「っ!? なんだ!?」


 粉塵が巻き起こり、目の前が見えなくなったテオは、状況が分からずに混乱するのみだ。

 そして、粉塵が収まると同時に、外にいたフィンの声が聞こえた。


「テオさん! すみません! 『レベル4モルフ』の相手をしていたら手榴弾がそっちに行ってしまって!」


「馬鹿野郎!! なんてことしてくれやがんだ!」


 外にいたフィンが間違えて手榴弾を屋敷側に投げてしまったことによって、屋敷の入り口は木端微塵に破壊されてしまった。

 その影響から、屋敷の中はモルフが入り放題の状況となってしまっていたのだ。


「てめぇ! 帰ったら絶対シメてやるからな!」


「すんません!」


 謝りながらも、フィンは仕事を続けて迫り来るモルフへとショットガンを放ち続ける。

 テオも加勢して、周囲から迫り来るモルフへと迎撃を開始していた。

 威力の高いショットガンで持ってすれば、一発ぶつけるだけでも無力化出来るという点が強みだが、現れるモルフの数が多い。

 リロードに間に合わなくなることが懸念される状況ではあったが、それについては既に別の手段で解決していた。


「サーシャ!!」


「あいよ!」


 テオの声に応じて、屋敷の二階にいたサーシャが地上にいたモルフを狙撃する。

 ピンポイントで頭部へと命中させられたモルフは完全に動かなくなり、その間にテオ達はリロードを開始する。


「よしっ!」


 僅か三秒にも満たないその時間でリロードを終わらせて、テオ達は近づくモルフ達をどんどんと無力化していく。

 どんなに訓練された軍隊でも、リロードの時間は隙と称されるのだが、彼らは特別だった。

 サイレントハウンド部隊の面々はそのほとんどが軍隊上がりであり、素人は一人もいない。

 どんな種類の銃においても、リロード時間は最短最速で行うことができる為、一瞬の合間さえあれば彼らは即座に銃弾を装填することができたのだ。


「レスター達が来るまで粘れ! 救助ヘリが来るまであと十分! それまでに出来るだけこいつらを排除するぞ!」


「「了解!」」


 テオの言葉を受けて、フィン達も状況を理解したのか、真剣な表情になる。

 一際静かだったこの村も、いつの間にかモルフで溢れかえり、その全てがテオ達へと向けて歩みを寄せてきている。

 命懸けとは正に今の状況でもあり、その中でテオ達三名は誰一人文句を言うことなくショットガンを放ち続けた。


「ちっ、歩きづらいな」


 常に移動しながらも戦いではあったのだが、テオは地面に倒れる無数のモルフ達の死骸を邪魔に思い、舌打ちした。

 これだけ倒しても、数は増すばかりでキリがない状況だ。

 それでもやらなければならないと、十分に注意しながら発砲を繰り返すが、このままではジリ貧だった。


「テオ! 加勢するぞ!」


「レスター、ナイスタイミングだ!」


 ちょうどいいタイミングでレスター達が合流し、テオ達と共にモルフの掃討に手を貸そうとする。

 やるべきことを果たしてくれたと認識したテオは、部隊の面々が揃ったことで声を張り上げようとした。


「ラストスパートだ! 無事に帰ってティータイムを貰うぞ!」


 安息の時を求めて、テオは最後の力を振り絞れと隊員達を鼓舞していく。

 その声に合わせるようにして、全員が有無を言わさずショットガンを放ち続ける。

 次第に数は減っていき、このままどうにかなると、そう思った。

 しかし――。


「テオ! 何かきてるよ!」


「なんだ!? 救助ヘリか!?」


「いや……あれは……」


 サーシャからの言葉を受けて、救助ヘリがやってきたのかと考えたテオだが、それは違うことをすぐに理解した。

 ヘリの羽ばたく音がまだ聞こえないこともそうであり、目視される先に何か――何かデカい生物がいたからだ。


「――おいおい、冗談だろ?」


「でっけえ……」


 フィンも唖然とした表情でショットガンを撃つのを止めていた。

 冗談がキツすぎるとは正にこのことを差すのだと思った。

 テオ達が見る先、およそ五十メートル先におよそサイズが桁違いの動物がいた。

 黄色い毛皮を纏い、鋭い爪と牙を持ち合わせ、おそらくこの世界のどこにも存在しえないであろう規格外のサイズをしたライオンがいた。

 写真でも取ってSNSにでも流せば、調査員が駆けつけてギネス認定でもしそうな、それほどに巨大なライオンであったのだ。

 それを目視しただけで、テオはすぐに何かを察することができた。


「リキッドモルフか!」


「どうする、テオ!?」


 リキッドモルフに感染し、巨大化したライオンはテオ達を真っ直ぐに見つめてゆっくりと近づいてきている。

 獲物を見つけたかのようなその姿勢は、テオ達にとって絶望を植え付けるには十分であった。

 しかし、テオもその状況を想定していないわけではなかった。


「屋敷に待避! サーシャも降りてこい! 奴を屋敷の中に入れさせるぞ!」


「テオ?」


「何の為にこんなデカい屋敷を拠点にしたと思ってる。やることは一つだろ?」


 事態は最悪で、苦境とも言うべき状況であるにもかかわらず、テオは口元を薄く緩めて笑う。

 まるで、この時を待っていたとも言わんばかりのその問いかけに、レスターもどういうことかをすぐに察することが出来た。


「総員、退避!」


 レスターの声に応じて、全員が屋敷の中へと退避していく。

 外に残されたのは数が少なくなった数体のモルフとリキッドモルフに感染し、巨大化したライオン。

 ライオンの方は、獲物が逃げようとしたのを見計らったのか、ゆっくりと動かしていた脚を早めさせ、一気にダッシュしようとする。


「急げ急げ! 全員、中に入ったらレスターの後に続くんだ!」


「ひぇー、めちゃくちゃ速いっすよ! あいつ!」


「フィン! 愚痴を言う前に足を動かせ!」


 立ち止まる余裕すらないほどに物凄いスピードで迫り来る巨大なライオンから逃れるべくして、一同はすかさずに屋敷へと逃げ切る。

 そして、レスターの後を追ってもう一方の出入り口を確保していたであろう方へと走ると、テオは走っていた足を止めて振り返る。


 振り返ったその先には、屋敷へと突っ込んだ巨大なライオンがテオへと向けて鋭い牙で持って威嚇してきていた。


「お前に人間並みの知能があれば、気づいていたかもな。この罠によ」


 もう一方の出口へとバックステップしたテオを見計らい、サーシャが手元に持っていたあるスイッチを押す。

 その瞬間、屋敷の上階が大きく爆発を引き起こし、屋敷全体が倒壊した。


 有無を言わさないトラップであった。

 サーシャが二階へ向かっていた時、同時に爆弾の罠を仕掛けていたのだ。

 結果的に、三階建ての屋敷は一気に崩れ落ち、巨大なライオンがいた一階は丸ごと埋め尽くされる事態となった。


「すっげぇ、テオさん! さすがっす。ここまで見込んでたんですね!」


「サーシャとレスターには事前に伝えていたからな。本当に良かったぜ」


 倒壊した屋敷を見ながら、作戦勝ちしたテオは事前策を打ったことに安堵する。

 予防線を張っていなければ、誰か一人は死者が出ていてもおかしくなかったはずだ。

 全員が生き残ることができたのは、テオの判断が功を成したのも当然の事実だった。


「気を抜くな、テオ。俺の予測だと、あの程度で死ぬとは思えない。今のうちに脱出ポイントまで行くぞ」


「だな、ちょうど、迎えも来たことだし」


 タイミング良く、テオ達を乗せる為の救助ヘリがこちらへと近づいてきているのを見計らったテオは、すぐにでも動き出す。

 着陸したヘリは、どう見てもイラクのものらしき軍用ヘリであったのだが、これはカモフラージュに使われるものだということにはテオも知っていた。

 ともあれ、これ以上は長居は無用だ。

 すぐにでも一同は救助ヘリへと乗り込み、回転翼が再び回り始めて地上から離れようとする。


「ふぃー……、ようやく終わったな」


 空中にまで飛んでしまえば、もう警戒などする必要はない。そう安心したテオは一息吐くと、仲間達の方へと顔を向けて、


「おい、お前ら。ケガはしてないか?」


「突然なんだい? らしくないね」


「心配してやったってのに酷い言い草だな、おい」


 確かに、テオ自身としては珍しい気遣いではあったように自分でも思っていた。

 死線は何度も潜ってきた身だが、それでも不安は残っていたのだ。

 サーシャもレスターも昔からの付き合いであり、フィンとセルゲイは新入りでもある。

 隊長だからというわけではなく、ただ彼は死なせたくなかったのだ。

 同じ釜の飯を食うメンバーであるからこそ、行動を共にするからには生きることを目標にしたかった。


「さぁて、さっさと帰って俺は休むぞ。もうそろそろゆっくりさせてくれてもいいだろうしな」


「テオ、烏丸から連絡が来ているぞ?」


「あ? 作戦終了の確認か?」


「分からないが、とりあえず応答してみてくれ」


 レスターから通信機を渡され、テオは嫌そうな顔をしながら烏丸との連絡を試みた。


『お疲れ様です。無事に救助ヘリに乗り込めたようですね』


「ああ、迅速な対応、感謝するぜ」


『ええ、全員無事で何よりです』


「で? 何か用かよ?」


 わざわざ確認を取る為だけに連絡をしてきたとは思えない。

 そう勘繰ったテオは、用件を烏丸へと問い正そうとした。


『作戦が終わってから言うのもあれなんですが……』


「いやだ」


『え?』


「追加の任務とかでも言うんだろ? そろそろ本気でキレるぞ」


『私に言われても困るんですが……』


 否定はしないことから、どうやら次の任務に関しての説明を烏丸はしたいそうだ。

 もちろん、テオとしてもそれだけはごめん被りたかった。

 なぜなら、この二週間ぐらいはまともに休んだことがなかったからだ。

 ティータイム以前に、せめてまともな食事とベッドでの睡眠をさせてほしいとさえ思う。


「あのなぁ、少しは俺の体も労って欲しいもんだぜ? そもそも、他に動ける奴らはいねえのかよ」


『文句は上に言ってください。面倒なので詳細だけ送りますね』


 烏丸もテオの愚痴に付き合うのを嫌ったのか、早々に話を進めようとして手持ちのタブレットに次の作戦の概要を送ろうとしている。

 渋々、その中身を改めようとしたテオだが、中身を見たテオは眉を顰めた。

 そこにあったのは、二枚の画像だ。若い女性と男性の二人組の写真を見せられたテオは、任務の概要がまるで理解出来ずに首を傾げる。


「なぁ、なんだこれ?」


『次の作戦の目標人物のリストですよ』


「おいおい、後始末の次は人攫いか? 俺らじゃなくても出来る内容じゃねえか」


『男性の方はまだしも、女性の方はそうはいかないでしょう。彼らはクリサリダにとっても最重要人物らしいですから』


「ふーん」


 適当に相槌を交わしながら、テオは烏丸から送信されてきた画像を見る。

 どう見ても、二十代ぐらいの顔つきをした男女だ。

 女性の方は烏丸と同じく、日本人であることが見受けられるが、これのどこがこの部隊の手を焼く存在なのか。それが分からずにいたテオであったが――。


「で? 何者なんだよ、こいつらは」


『現在、クリサリダにとって今後を左右するほどの人物とのことです。私も全容を把握しているわけではないですが……』


「また俺達には隠し事するってやつか。とにかく、こいつらが俺のティータイムを邪魔する奴らって認識でいいんだよな?」


『そう捉えて頂いてもいいですよ』


 半分、冗談だとそう思っていたテオだが、そう思うのも無理はなかった。

 どっかの大統領の娘とかなら分かるが、見た目から見てもそんな高尚な雰囲気は感じられない。

 こんな奴らのどこにクリサリダは目をつけているのか、それだけが疑問に感じていたテオに対して、烏丸は後からこう付け加えた。


『次からは私も作戦に参加します。人心掌握には手慣れていますからね』


「怖い女だな。別にお前がいなくても俺らはしっかりやれるぞ?」


『そう簡単にはいかないでしょう。なにせ、相手はあのレベル5モルフなんですからね』


「……は?」


 全ての疑問を解決に導く答えをサラッと答えられたテオは、その言葉を聞いて画像を二度見する。


 これが? この弱そうな女が『レベル5モルフ』だと?


 一重に信じきれなかったのは、見た目がか弱い女性にしか見えなかったこともそうであった。

 噂でしか聞いたことがない、クリサリダの中にもいるとされる特殊な感染段階を踏む人間。モルフの力を生きたまま行使する事が出来ると言われるあの『レベル5モルフ』がこの女だとするならば、クリサリダが血眼になってでも捕らえたいというのも頷ける理由だった。


「となると……報酬もそれなりになるはずだよな?」


『ええ、今回の作戦は今までとは違う。それこそ、クリサリダにとってはとても重要なものとなるでしょうから、それなりに……ですね』


「はっ、やる気が出てきたね」


 ティータイムが無くなることをそれまでは嫌がっていたテオであったが、作戦の概要を聞いたことによって、我慢することができそうだった。

 なにせ、クリサリダの報酬は歩合制と呼ぶには正しい組織形態ともなっている。

 今でさえ、死にものぐるいで後始末を終わらせた作戦であっても、せいぜい成人男性の年収分ぐらいの報酬が関の山だ。

 それを、今回は作戦の難度こそ高くなくても、成功させる意義は高いものであるからこそ、報酬は今までと違って莫大なものになるのは違いなかった。


「全員、今すぐに寝ろ。起きたら作戦会議だ」


 作戦を万全に期すため、テオは隊員達へと向けて休むよう指示を出した。

 

 ――phase0。最後の作戦が始まるもう一つの段階。

 今、この瞬間で持って全てがアメリカへと集っていく。

 様々な思いを胸に抱き、ある者は希望を。ある者は絶望を。そして――、ある者は救いを求めて……。



遅くなりました……。

これにて最終章前の物語は全て完了となります。

最終章の部分構成を考えていたら投稿にめちゃくちゃ時間がかかってしまった次第です。

これまでに登場した全キャラクターを動かすので、脳がパンクしていましたね……。

小説を書きながら気づいたことは物語を考えて書こうとした時、キャラが勝手に話を広げるので、起承転結の結まで繋げていくのにどんどん壮大になっていくという点ですね。


これから最終章へと進みますが、これまでとは違ったシーンを書いていきたいなと思っています。

例えばですが、ゾンビモノにありがちなゴリゴリなホラーな展開であったりなどですね。


初めての小説投稿で拙い文章だったりしましたが、ここまで見ていただいた方々、本当にありがとうございます。

最終章、プロローグ 8月5日20時投稿予定

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