第五章 第十話 『桐生大我VSリアム』
「――――」
「――――」
お互いに間合いを図りながら、桐生とリアムはその場から動かない。
最初の一手が重要だった。
リアムの強さの本質は桐生と同じく、人間では考えられないほどの超スピードで持って斬りかかってくることにある。
それに加えて、予備動作がほとんど無いことから攻撃パターンを読み切ることが難しいのも厄介な部分としてあった。
桐生が過去に相対した時も、その予備動作の無い動きに翻弄され、打ちのめされてきたことはハッキリと覚えている。
リアム自身も、桐生がそう考えていることを分かっているのだろう。まるで動きがないのは、桐生から動くのを待っている様子だ。
どちらにせよ、このままでは埒があかない状況であった。
「来ないのか?」
「――っ」
痺れを切らした桐生は、リアムの煽りを受けて動き出した。
先ほどと同じく、真っ直ぐリアムへと突っ込み、そのまま長刀を持つ手を切断しようと斬りかかるが、
「遅いな」
リアムは、桐生の攻撃を読み切っていたのか、目で追えない速度の斬り上げを長刀で防ぐ。
鍔迫り合いが起こり、桐生はもう片方の剣でリアムの持つ長刀へと向けて斬りかかる。
「――武器破壊か。それも読んでいるぞ」
刀の側面部分へと狙いを絞ったその攻撃を、リアムは鍔迫り合いになっていた桐生の刀を跳ね返すように押し上げ、これも防ぐ。
とんでもない力で押し返された桐生は、武器破壊狙いの攻撃すら届かなかったのだが、それでも止まらない。
「おぉぉぉっ!!」
雄叫びを上げ、相手の間合いに入るリスクも承知でリアムの懐へと突っ込む。
本来、二刀流の使い手と一刀流の使い手の戦闘において、有利なのは二刀流なのだが、リアムはまるで苦戦する様子もなく、軽々しく桐生の攻撃を受け流していた。
目にも止まらぬ剣戟を、リアムは全て受け止めていく。
反撃こそしてこないリアムであったが、桐生は反撃に対する警戒は全く怠っていなかった。
真剣の勝負において、たった一振りでも当たれば致命傷となりうることを分かっていたからこそ、油断の一つもしていられない。
それを理解していた桐生は、あえて猛攻撃に踏んだのだ。
「懐かしいな。覚えているか? 昔もこうやって、お前とは命の奪り合いをしてきた」
「――っ!」
「あの時よりも速く、的確なまでの急所への狙い。成長したな、桐生」
ナメられているのか、リアムは落ち着いた様子で昔話を始める。
話す余裕すらない桐生は、攻撃の手を緩めなかった。
むしろ、この機を逃さないように更に鋭く、桐生の攻撃はどんどんと勢いを増していく。
「この強さも全て、死んでしまえば無となる。『レベル5モルフ』になれば、そのような心配はなくなるのだぞ?」
「――黙れっ!」
まだ勧誘を諦めていないのか、そう言い張るリアムへと桐生は頭部目掛けて刺突を繰り出した。
薄く笑ったリアムは、その刺突を避けようともせず、確実に殺ったと認識した桐生だったが――、
「お前の攻撃は全て読んでいる。まだ分からないのか?」
「なっ!?」
桐生の刺突を片手で掴み、受け止めたリアムに目を見開く。
当然、無傷では済まなく、ポタポタと握る手から血が溢れ落ちるのだが、リアムは平然とした様子だ。
「この傷も、時さえ経てばすぐに治る。お前の攻撃の全ては、結局意味がないものになる」
「……なら、再生する前に殺し切るまでだ!」
掴まれた剣を無理矢理引き抜き、桐生はリアムの首目掛けて振りかぶる。
そして――、
「まだ、分からないのか?」
「――っ!」
長刀で防がれただけだ。
だが、放たれた殺気は今までに感じたことのないドス黒いものであり、桐生自身の動きが一瞬、止まってしまう。
「いい加減に気づけよ。もうお前に勝ち目なんてないことを」
雰囲気が変わったリアムに、桐生は思わず退いた。
今、攻め込むのは確実にマズイ。少しでも奴の間合いに入れば、胴体を真っ二つにされてもおかしくないほどの確信がそこにあったのだ。
「お前が人間のままでいても、私には絶対に勝てない。その意味を教えてあげようか?」
「……あ?」
「私はまだ、『レベル5モルフ』の身体能力強化を使ってすらいない。この意味がどういうことか、分からないでもないだろう?」
「なん……だと?」
リアムは反撃の一つもしてきていない。
それをされるだけで苦戦は必死なのだが、奴は『レベル5モルフ』の能力すら使ってもいなかった。
その意味が、桐生との力の差を思い知らせるには十分すぎるものとなっていた。
「だから、もう諦めろ。諦めてこちら側にこい。そうすれば、お前は今までよりも遥かに強くなれる」
「――――」
どれほど足掻こうと、どれほど小細工を弄しようと意味がない。
それを真っ向から伝えたリアムは、桐生へと再度投げかける。
『レベル5モルフ』となり、殺しにこいと――。
「もう……いい」
「ん?」
「もう……お前の言葉は聞き飽きた」
桐生は全身の力を抜くように脱力した。
リアムも気付いていたのだろう。既に、桐生の右手に持たれた剣は逆手に持ち替えられており、何らかの準備に入ろうとしていることを。
「諦めの悪さは全く変わらないようだな」
「――――」
リアムの言葉がまるで耳に入っていないのか、桐生は閉じた目を薄く開いた。
肩の力も抜き、完全にリラックスした桐生は二刀の剣をゆっくりと上げる。
先ほどとは違う。集中力が一段と増した桐生は目の前のたった一人の敵だけを見る。
今度はリアムも何も話してこようとはしなかった。
本能で感じ取ったのかもしれない。これが、桐生の本気であることを。
状況は一気に動き出した。桐生は前傾姿勢に入り、先の二回の攻防と同じようにして真っ直ぐリアムへと突っ込む。
スピードも変わらない。それでも、普通の人間ならば対処が出来ない程の超スピードでリアムへと一気に間合いを詰め、斬りかかった。
「――ふっ!」
「――――」
リアムは桐生の剣戟を長刀で受け止め、桐生の追撃を躱していく。
どの攻撃も急所を狙っていたが、リアムは紙一重のところでそれを避けていたのだ。
だが、それでも桐生は構わなかった。
反撃する暇も与えない程の攻撃を繰り返し、そこから生まれる一瞬の隙を狙う。
それが出来れば、まだ勝てる可能性が残されていると考えたのだ。
「小賢しいな」
「――っ!」
リアムはそこで桐生の攻撃を躱しきり、持っていた長刀を振りかぶった。
初めて反撃したその攻撃を桐生は片方の剣で受け流し、空いた腰へと剣閃を繰り出そうとするが、
「少しだけ本気を出してやろうか?」
リアムは体勢を崩したのにも関わらず、桐生の剣閃から逃れるように宙に浮き、回転した。
桐生の攻撃は空を切り、リアムは躱した直後に着地して空いた距離を一気に詰めてきた。
「――ちぃっ!」
たった一本しかない長刀の連撃を、桐生は二刀の剣で捌ききる。
剣をもう一本持つというアドバンテージがあったにも関わらず、想像を絶するほど速いスピードで斬りかかられ、桐生は徐々に後退していった。
攻撃に転じる余裕もなく、捌き切るのに精一杯であった桐生は反撃の糸口を模索しようとするが、
「隙ありだな」
「――くっ!」
横腹へと蹴りを入れ込まれ、桐生は後方へと吹き飛び、壁へとぶつかる。
端の方まで追い込まれたことにも気づなかったのだが、そんなことを考える暇もない。
なぜならその直後、リアムは桐生の肩目掛けて刺突を繰り出そうとしてきたからだ。虚を突かれた桐生はなりふり構わずに横っ飛びしてこれを避ける。
「くそっ!」
「まだ抗うのか? 無駄だと分かるだろう?」
「うるっせぇっ!!」
刺突が壁を貫き、その瞬間を桐生は逃さない。
すかさずリアムへと攻撃に転じるが、リアムはすぐに剣を壁から抜き、桐生の攻撃を軽く受け止める。
桐生は既に本気を出して動いていた。
集中力を全開にし、目の前の敵以外の姿以外の情報を頭の中からシャットアウトすることで無駄な動きを消す。
それが桐生の強さたる所以でもあったのだが、リアムにはまるで届きもしない。
どれだけ攻撃しようとも、リアムには隙すら生まれる気配がなかったのだ。
「あああぁぁぁっっ!!」
叫び、普段とは似ても似つかないほどの雄叫びを上げ、桐生はリアムへと剣戟を繰り出していく。
一体、どうすればこの男に勝てるというのか。
何度やり合っても勝つことが出来ず、十年経った今になってもこの男の強さには辿りつかない。
――『レベル5モルフ』になれば、この男に勝てるのか?
「――っ!」
雑念が頭を過り、その瞬間をリアムは逃さない。
一瞬の隙を狙うかのように、桐生の胸から下にかけて長刀を斬り下げようとしたリアムに、桐生は全力で後ろへと飛ぶが間に合わなかった。
切先が桐生の胸へと当たり、それが切り傷となって血が舞い散る。
「――がっ!」
「もう十分だろう? お前は十分に頑張ったよ」
致命傷には至らずとも、痛みは消えない。
初めて傷をつけられた桐生は、傷跡となった胸の部分を抑えた。
「お前はこう考えたのではないのか? 『レベル5モルフ』になれば、私に勝てるのではないか――と」
「――――」
あの一瞬の攻防で、リアムは桐生の考えを読み解くかのようにそう語り出す。
間違いではない。確かに桐生はあの時、『レベル5モルフ』の力に縋ろうと頭の中を過らせたのだ。
無意識な考えだとしても、認めたくはなかった。
どんな手段を用いても勝つ意識はあるが、一番手を出してはならない方法に手をつけようとした自分が許せなかったのだ。
「何もおかしいことはない。それは当たり前の感情だよ。勝ちたいのなら尚更だ」
「……黙れ」
「意固地になる必要もないのだが……何がキミをそうまでさせる?」
そんなことは、戦闘前に話したばかりのことだ。
今もアメリカにいる仲間達の為に、死んでいった仲間達に報いる為に、桐生はここにいる。
その想いさえ無下にされるのであれば、桐生としてもたまったものではなかった。
「お前に……俺の何が分かる!?」
桐生は再びリアムへと斬りかかろうとするが、リアムは予備動作無しで剣を振り上げた。
たったそれだけの動きのみで、桐生の持つ剣は手から離れていく。
一本の剣が床へと落ち、鉄の音が鳴り響く。
勝敗が決したかのような展開であった。
「さて……そろそろ心変わりするには良い頃合いだと思うが……」
リアムは、桐生の心を折る為にわざと殺そうとしないのだ。
殺そうと思えば簡単に出来る筈なのに、あえてそうしない。殺さないのは単純に、リアム自身が桐生を諦めていないからだ。
『レベル5モルフ』という能力を与えるだけ。自身に牙を剥くというデメリットがあるにもかかわらず、奴はそうさせようとしていたのだ。
「もう手がないのか? 全てを出し切った時、その上で俺は何度でも問うぞ」
「――――」
「案ずるな。勝ち負けなんてものは誰にでもある経験の礎だ。それが……人間なのだからな」
人間と『レベル5モルフ』。その決定的な違いを見せつけ、確かめさせるようにリアムはそう言った。
絶対的な力の差とその絶望感は確かに桐生の中で感じている。
だが、それでも彼の片方となった剣を握る力は緩めない。
「お前の……」
「んん?」
「お前の強さは、俺の憧れだった」
傷口を押さえていた手を離し、桐生は正面に立つリアムへとそう正直に話し始めた。
「なぁ、教えてくれよリアム。お前は……お前は一体、何で世界を壊そうとする? そこまでの力があって、どうして人類を滅亡させようなどと考えたんだ?」
「……私の目的……か。簡単なことだよ。人間とは、この地球上において最も賢い生物であった。しかし、なぜ人間は自ら滅びに向かおうとするのだ?」
「――あ?」
「戦争、差別、貧困、垂れ流される汚染水、地球温暖化。なぜ、それが自らの滅亡を招くことと分かっていて彼らは止めない? なぜ、そのような愚行を何年経っても改善しようとしない?」
「――――」
「答えは簡単。人間とは自分一人さえ良ければ後はどうでもいいと考えているからだ。これから生まれる子ども達のことなど知ったことではない。そしてそれは、人類全体が納得した上で起こっている事象だ」
この世界の真理について、リアムは自身の主観で持って話そうとした。
確かに、桐生も風間と共に行動を共にし、世界を知って思うところはあった。
平等という言葉は国を隔てて見れば浅ましく、日本という裕福な暮らしは桐生が育ってきた環境からすれば大きな違いさえもある。
その世界の現状とこれまでのモルフウイルスを使った世界へのテロ。これらを踏まえた上でのリアムの目的はつまり――。
「わざわざ滅びに向かうのならば遅かれ早かれだろう? 私が人類を滅したところで、元々人間が辿り着く果ての結末だ。ならば、モルフという数少ない異種だけが生きる世界はそう不都合でもあるまい」
「……それが、お前が世界と敵対する理由か?」
「ああそうだ。だから、キミはその生き残りに選ばれたのだ。辛く、苦しい生活を生き抜いてきたキミだからこそな」
リアムはそう言って、桐生に薄く微笑む。
ようやく、理解ができた気がした。リアムが孤児を集めて、世界を股にかけて暗躍する組織を作り、こうして世界と敵対する理由が。
だけど――、
「俺がお前と離れてから、その後のことを知っているか?」
「さぁ?」
「俺は……俺には仲間が出来た。かけがえのない、失いたくない仲間がな」
「――それで?」
桐生の話を聞きながら、微笑んでいた表情を無表情に変えたリアムは続きを聞く。
まるで、興味の無さそうなそんな様子だが、桐生はそれでも続けて話す。
「俺にとっての平和はそれだけでも十分だった。人間は確かに浅ましく、欲望に駆られる愚かな存在かもしれない。それでも、俺は――」
「…………」
「俺はあいつらといて、楽しかったんだ。その一時を奪ったお前に何を言われても、心は動かねえよ」
隠密機動特殊部隊を共に活動した仲間達。
まだ子どもだったが、それでも生き抜く為に互いを支え合った彼ら。
その全てを奪い、奪おうとしているリアムに今、桐生が何を言われようとも心が動く理由にはならない。
そう語った桐生の言葉に、リアムはため息を一つついた。
「……桐生。どうやらあの時、キミを送り出したのは私のミスだったのかもしれないな」
「――――」
「最後通告だ。私と共に来い。そして、モルフだけが生きる世界を作ろう」
これが最後のチャンスだと言わんばかりに、リアムは桐生へと手を差し出す。
その答えがどうなるか、もう分かっている筈なのにそう聞いてきたのは考え直せとのことなのだろうが、桐生の答えは変わらなかった。
「俺はお前とは行かない。死ぬ時は……あいつらと一緒だ」
「――そうか」
暗く、重くなる空気に桐生はたった一本となった剣を握り直した。
もう、これまでのように手加減などリアムはしてはくれないだろう。
確実に桐生を殺す為だけに動こうとするのを察知した桐生は、今まで以上に集中力を増した。
「なら――、もうお前は用済みだ」
――瞬間、リアムの姿がブレて見え、桐生は咄嗟に剣を盾にするように構えた。
リアムの長刀が桐生の首を捉えようとし、その一瞬の判断で攻撃を防ぐ。
「――っ!」
防ぎ切り、それでもリアムの攻撃は止まらない。
回転するように、逆側から桐生の首目掛けて剣閃が来ることを予測した桐生は避けるように横っ飛びした。
ちょうど避けた位置が、桐生の手から離れた剣が落ちている場所となり、桐生は即座に剣を拾い直す。
だが、その瞬間でさえも命取りになりかねなかった。
「なっ!?」
猛追するように、リアムはいつのまにか桐生の懐まで接近し、桐生の首を目掛けて再度斬り落とそうとする。
桐生はこれを片方の剣で捌き、何度も急所を狙おうとするリアムの攻撃をギリギリで受け止め、躱していく。
確実に、殺しにかかってきていた。
用済みだと言ったのは、もう桐生を『レベル5モルフ』にする必要はないと考えてのことだったのだろう。
ギリギリの命の奪り合いに、桐生は攻撃に転じる余裕すら作れなくなってしまっていた。
「死ね」
「――っ!」
凍りついた視線で桐生を見ながら、リアムは桐生へと迫り来る。
三度もやった攻防の末に、桐生はリアムへの対抗策を練っていた。
こちらの攻撃はまるで当たらず、その為にリアムの攻撃から受けに徹しず、攻撃に転じるにはどうするべきなのか――、完全無敵とも言うべきその身体能力のどこに弱点があるのか――、桐生は一つの仮説をつけていた。
「――ふっ!」
「――――」
迫り来る剣閃の一つ、桐生へと目掛けて刺突してきたリアムに、桐生はあえて真っ直ぐ突っ込んだ。
無謀とも言うべき行動だっただろう。普通に考えれば、串刺しになる覚悟で攻め込んでいっているようなものだ。
それでもその行動に出ようとしたのは理由があった。
単純な高速スピードによる攻撃はまるで当たらない。ならば、紙一重の隙を作る為には、相応のリスクを払うしかなかったのだ。
刹那と呼ぶには正しい解釈だった。
高速で首目掛けて突きにかかるリアムに対し、桐生は真正面から突っ込んでいき、そして――、
リアムの長刀が桐生の首に刺さる直前、桐生は首だけを横にしてギリギリのところで刺突を避ける。
「――っ!」
「おおおおおっ!!」
完全には避けきれず、頸動脈に届かない刃が首に届きながらも、桐生はリアムの刺突を紙一重で避けた。
そして、リアムに一瞬の隙が生まれる。
もう、ここしかなかった。
この瞬間に奴の息の根を止める。
この千載一遇のチャンスを逃せば、奴はもう同じヘマを犯さないだろう。
だから、ここで殺すしかない。
「ああああぁぁぁぁぁっっ!!」
桐生の剣がリアムの首目掛けて薙ぎ切ろうとしたその直前――、
「遅かったな。リーフェン」
当たると思われた剣での攻撃が、別方向からきた同じ刃で持って防がれる。
「――なにっ!?」
防がれた攻撃に目を剥くと、桐生はリアムではない何者かの回し蹴りを受けた。
そのままリアムとの距離を離され、桐生は前を見た。
そこには、リアムともう一人、白装束を身に纏い、レイピアの形状をした武器と両刃がついた剣を持つ女が立っていた。
「お前……は?」
桐生はその姿に見覚えがあった。
メキシコ国境戦でレオと名乗る銃剣使いと交戦した後、奴とは一度だけ目が合ったことを覚えている。
「父さん、何を遊んでいるの?」
「ああ、助かった。今のは完全にしてやられたね。もう少しで死ぬところだったよ」
首を鳴らしながら、リアムは白装束を纏う女へとそう話をし出す。
白装束の女はリアムのことを父さんと呼んだ。
実の父ではないのにそう呼んだことに、桐生は違和感を感じない。それよりも、その発言を聞いたことで、桐生は怖気さえ立った。
リアムが桐生と話していた時、奴は言っていた。
『レベル5モルフ』の力を有する者が、リアム以外にもいること。そして、その者達はリアムの――。
「紹介しよう。私の娘の一人――『レベル5モルフ』の力を持つ類稀なる天才、リーフェンだ」
絶望を告げる紹介を、リアムは桐生へと話した。
次話、7月6日20時投稿予定




