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Levelモルフ  作者: 太陽
第五章 『亡国潜入』
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第五章 第三話 『オヤスミナサイ』

 レインと合流し、アイザック達との合流を諦めた修二は先へ進むことに決めた。

 目的地は東京。その真下にあるとされる地下に敵組織のアジトがあるとされていた。

 先へ進むにつれ、見慣れた地帯へと来ていることに修二は気づいていた。これまでは知らない場所であったのだが、今、歩いている道は知っている道だ。

 ここは、修二がまだ日本にいた時、住んでいた地域であったのだ。それも変わり果てて、所々に草木が生い茂っているのだが、それでも修二は覚えている。

 かつて、クラスメイト達と朝、登校時に共に歩いてきた道であると。


「――そうか。俺、帰ってきたのか……」


 一歩一歩、歩く度に、何気ない思い出が目の前の景色と重なる。

 あの何もない平凡で、楽しいかと言われればそこまででもない日々を思い出す度、心が苦しくなる。

 この道を共に歩いたスガや鉄平も、もういないのだ。

 毎日スガや鉄平がふざけて、後ろから美香が修二の頭を叩いて逃げて、それを見ていたリクが笑い、椎名がおはようと声を掛けてくれる。


 ――もう、あの平凡な日々は戻ってこない。

 そう考えていると、思わず込み上げてくるものがあった。


「――――」


 目頭が熱くなり、修二はその場で足を止めた。

 修二の目の前には、かつて通っていた高校があった

 御影島へ行った際、共にいたクラスメイト達が通っていた学校。そこへ、修二は辿り着いたのだ。


「なんで……こんなことになってしまったんだろうな……」


 当時は、こんなことになるなんて考えもしなかった。

 今となっては、御影島で死んでいったクラスメイトだけではない。

 ここで働いていた教師も、ほかのクラスや学年の生徒達も、もうここにはいないのだ。


「あんた、何をボーッと突っ立っているのさ。暗視ゴーグルがあるとはいえ、迂闊すぎるよ。夜目が効くモルフがいたら、そこで終わりなのが分かってるのかい?」


「すみません……レインさん」


 レインの指摘通り、迂闊すぎるのは事実だった。

 幸いにして、近くにモルフの姿は無かったが、修二は道のど真ん中で突っ立っていたのだ。


「……気持ちは分かるけど、今は任務に集中しなよ。もうここは、あなたの知ってる日本じゃないんだから」


「……はい」


 レインも、修二の気持ちを察してくれていたのだろう。ここが、修二の生まれ育った土地であることを様子から悟ってくれていたのだ。

 改めて気を引き締めると、修二とレインは修二の思い出の場所から離れるように移動を開始した。

 時刻は既に二十時を越えており、月明かりもない為、辺りは真っ暗闇となっていた。

 移動すらままならない状況下ではあったが、暗視ゴーグルを使うことにより、辺りの状況は見渡すことが出来ていた。

 モルフがこちらを視認できるかどうかは定かではないが、修二達が視えないとなれば、夜間の行軍は不可能であり、その上で暗視ゴーグルは便利なものであった。


「今のところ、敵の姿は見当たりませんね」


「どこにでもいるとは限らないからね。蛹は道中、よく見かけたけど……」


「あれ……結局のところ、どうなんでしょうか? 突然変異だとしても、数が多すぎるような気はしますが……」


「それは同感だよ」


 修二達がここに来るまで、巨大な蛹は至る各所にあるのを見つけていた。

 既に中から出た跡のものや、まだ生まれ出てくる前のものと様々であったが、どうしてあのようなものが突然現れたのか、それについてはお互いに想像がつかなかった。


 見飽きるほどに見てきたことに違和感を感じたのは、その数の多さも相まってのことであった。

 現在、他国においてもモルフの被害を確認できていたのだが、あのような蛹の報告は未だかつて無かったのだ。

 単なる突然変異だとしても、同じものが日本だけにあるのは奇妙に過ぎる。時が経過したが故の可能性も考えられるが、その条件はまだ判明していないのだから修二としても恐ろしく感じられた。

 これがもしも時間経過による産物ならば、早急に全世界へと通達しなければならない。

 それほどに、今の日本の危険状況を見てもそれは明らかであった。


「問題はあのカマキリ型のモルフですね。奴は景色に紛れ込むことが出来るのは分かっていますが、この暗視ゴーグルでそれが判別がつくかどうか……」


「十中八九、判別はつくと思うけど、過信はできないね。その時は、生き残りが先に進むしかないよ」


「――それは……」


 考えたくもない最悪の状況だ。

 仮にどちらかが生き残る状況になっても、そうせざるを得ないことは確かだ。

 だが、修二としてはそんな状況は考えてもいなかった。いや、考えたくなかったというのが正解だろう。

 仲間を失うところなど、もう二度と見たいとは思わなかったのだからそれも仕方のない話であった。


「それでも、進むしか私達に選択肢は残されていない。とうに覚悟は決まっているからね」


「レインさんは、どうしてこの任務に参加したんですか?」


 修二はそこで初めて、レインへとこの任務に参加した理由が気になり、それを問いかけた。

 アイザックやアレックスもそうだ。今の状況がこれほど危険であったとしても、どれほどこの任務における生存率が低いことかは分かっていた筈だろう。

 なのに、それでも志願をしたという理由については修二には分かりようがなかった。


 辺りにモルフの気配は感じられない。

 それをお互いに理解していたからが故の問いかけでもあったのだが、それまで黙っていたレインはゆっくりと話し始めた。


「復讐……でもあるのかな。この場合……」


「復讐?」


「私は……元々孤児だったのさ。生まれてから親に捨てられて、生きる以外に目的も何もなかったんだ」


 過去を語り出すレインに、修二としては最初に話していた復讐という言葉にとっかかりを覚える。

 それを整理するまでもなく、レインは続けた。


「アメリカではね、親を失くした子ども達は大体、大人になっても良いことがあるとは限らなかったんだ。他のアメリカ人のように、社会に出てもホームレスになるのがオチだったりしたのさ」


「……レインさんも、そうだったのですか?」


「私は……少し違う。陸軍に入るキッカケになったのも、ある男が手を取ってくれたのがそうだったね」


 索敵を続けながら、レインの口調は少し重い感じがした。

 それが復讐とどう繋がるのか、いまだに見えてこなかったが、レインにとってはそのある男が手を取ってくれたという話から、恩人とも取れる言い方にも汲み取れた。


「恩人の仇打ち……ってところですか?」


 なんとなく、推測が頭に浮かんだ修二は、レインが話す前にそれを聞き出した。

 ありうる可能性としては、それが最もなものだと考えたからだ。


「いや、違うよ。私が復讐したい相手は、その男だからね」


「――え?」


 想像とは違う答えを聞いて、修二は瞠目した。

 今回の任務、復讐の相手、ある男。この三つから考えられる人物はつまり――、


「リアム。彼が私の復讐したい相手でもあり、絶対に殺さないといけない奴でもあるのさ」


「ど、どういうことですか?」


 一体、何があって今に至ったのか、修二には皆目見当が尽かなかった。

 リアムは本作戦の暗殺対象でもあり、アメリカ軍隊を一度は絶望に陥らせた大罪人だ。

 レインとも関わりがあって、その上、孤児であったレインを手助けしたのがリアムという男であるにも関わらず、修二にはリアムの行動の意味がまるで分からない状態だった。


「奴は……リアムは元々、軍人ではなかった。はじめは世界各地にいる親を失くした子ども達を集めて、道を示すような男だったのさ。でも……集められた子ども達はどんな教育をされたと思う?」


「教育……ですか?」


 虐待をしたとは思えない。

 そもそも、手を取ったというレインの行動からも、今までの生活よりかは豊かになった筈である。

 リアムの目的が分からないままで、修二は考え込んでいると、レインが答えを告げるように続けた。


「リアムは、子ども達に対して戦闘教育を施そうとしていたのよ。ただの護身術なんて生半可なものじゃない。人を殺すことに特化させた戦闘術を身に付けさせようとね」


「戦闘教育? でも、一体なんの目的で……?」


「今となってはというところだけど、後回しにするよ。わたしはリアムに教えられた通り、ナイフや小銃の扱い方を学ばさせたりした。その後、軍隊に入ることになったんだけどね」


「…………」


「リアムが軍人になったのも、わたしは知らなかった。あなたが聞いたあの事件の日、初めて彼が軍隊に所属していたことを知ったのさ」


 少しずつ、明らかになっていくリアムの全貌を聞きながら、修二の心はざわついていた。

 リアムの行動の意味が今に繋がるのだとすれば、彼が孤児達に戦闘教育を施した理由は、思い当たるとすれば――、


「あの事件以降、リアムは自分が育てていた孤児達を丸々連れ去り、姿をくらましたのよ。わたしも知っている人は何人かいたけど、噂で聞くには紛争地帯で自爆要因に使わせたり、今も国際指名手配に上がる人物の名前にそれがあったりしたのさ」


「なん……ですか、それは……」


 聞くだに、異常を極めた話だった。

 そのことから察するに、孤児達を洗脳して、戦闘の道具に使っているということでもあったのだ。

 ならばこそ、レインが復讐をしようという決意に至った理由にも考えがつく。


「わたしは、リアムを許せなかった。身寄りの無い子ども達を使い、世界を敵に回そうとするそのやり方に怒りを感じたのよ。彼がわたしを軍隊に送ったのも、恐らく分かっていたからでしょうね。いずれ、わたしがリアムを裏切ることを……」


「そう……だったんですね」


「今も、リアムは世界に対しての脅威にもなっている。だから、私自身の手で決着をつけないといけないのさ。日本でいうケジメってやつさね」


 一度は取った手でもあり、レインはそのケジメとしてリアムを殺さないといけない。

 それが、彼女が今回の任務に参加したという理由だった。


 修二にも、レインの気持ちはすこぶる理解が出来ていた。

 もしも自分が同じ立場になっていたとすれば、リアムは許せるような男ではない。

 自らは影で暗躍し、善悪の区別がついていない子ども達を使って人を殺す道具にする。

 そんなクズを相手にすることを、修二は今初めて認識することができた。


「一応、必要になるかは分からない情報だけど、これは伝えておくよ。今はどうか知らない、リアムにはお気に入りの孤児達がいた。名前は定かじゃないけど、彼はその子達を『娘』と呼んでいたわ。三人いて、今も生きているかは分からない」


「娘……ですか?」


「血は繋がっていないそうだけどね。ただ、お気に入りということは彼にとっては教育をした上での最高傑作ということになるはず。つまり、実力もかなりのものと思ってもいいかもしれないさね」


 リアムの娘。つまり、彼には三人の娘がいるということだ。

 それが誰なのかは分からないが、もしも敵組織のアジトに潜入した時、その者達と遭遇する可能性だってある。

 そうなれば、殺し合いになることは必須だ。

 少なくとも、対人間の想定として、敵が戦力を整えていることは加味しておかないといけないことは事実であった。


「わかりました。頭に入れておきます」


「じゃあ、そろそろ気を引き締めていくよ。ここを抜けると、多分もう近くまでこれる」


 話しながら歩いていると、どうやら目的の場所まで近くのところまで来ていたようだ。

 修二も知る道であり、確かにもうここは東京の都内にいることは確かであった。


「思ったのですが、地下から進むことはできないのですか? モルフがいる可能性は否めないですが、一つの手段になると思うのですけど」


「無理だよ。地下鉄があった場所は今ごろ水で溢れている筈だからね。人間がいなくなってしまったから、排水が出来ない状態になってしまっているのさ」


「……なるほど」


 地下からの潜入の方法は、どうやら不可能のようであった。

 確かに、人間がいなくなってしまった以上、電気の供給も不可能であり、他の施設でさえも止まってしまうことは明白だ。

 もう長らく、人間がいない場所となってしまったこの日本では、人間が作り上げた産物はほとんど役に立たない。そう考えて行動する方が賢明であった。


「東京の地下ということですが、具体的な位置は分かるのでしょうか?」


 修二はふと、一人になった時に考えていた疑問をレインに問いかけた。

 いくら面積が狭いとはいえ、東京という中だけでみれば、広いことは事実なのだ。詳しい場所だけでも把握しておかなければ、今後にも影響しかねない。


「一応、こちらで把握している情報としては銀座ね。東京タワーからすぐ近くのところになるから、まだ距離はあるけど」


「了解しました」


 レインの言葉が正しければ、確かにまだ距離はある方だ。

 とはいえ、始めに降りた場所からすればかなり目的地までの距離が縮まっていたともいえる。

 あとは、道中の敵をどうやって凌ぐかというところになるだろう。


「ストップ」


「――――」


 レインから指示が飛び、修二達は足を止めた。

 壁際に身を隠し、進む先を見やると、そこには黒い色をした小さな生物がいた。


「あれは……カラス?」


 黒い羽を身に纏い、姿形には何の変哲もない、感染しているかどうか分からないカラスがそこにいた。

 数でいえば五羽程度だが、カラス達は羽休めをするかのように道路上に止まっていた。


「恐らく、感染したカラスの可能性が高い。少し遠回りだけど、道を変えるよ。ここで戦闘のリスクは負いたくないからね」


「でも……変異の様相は見られないですよ?」


「いつ感染したか、私達には区別がつかないでしょ? それに、仮にあれが巨大化したとして、蛹から出た奴がカラスを呑み込めると思う?」


「それは……そうですね」


 あの蛹から出た化け物がカラスを異形の姿に変えるとしても、まずはカラス自身を捕らえる必要がある。

 空を飛べるカラスを、あの化け物が捕らえられるかといえばそれは難しいだろう。

 それに、カラスは死体でさえも貪り食うものだ。

 感染していた人間の死骸を食い摘んでいれば、その時点で感染していてもおかしくはない。


「物音を立てずに慎重に移動するよ」


「――いや、レインさん。ダメです!」


 修二が声を大にして言った瞬間、レインも気づいた。

 いつのまにか、修二達を取り囲むようにカラス達がこちらを見ていたのだ。


「これは……マズイね」


 銃を構え、焦るかのようにレインはそう零した。

 それは、修二も同じだった。

 感染の疑惑があったとはいえ、これは明らかに不自然すぎる。

 人間を警戒しないと言われたカラスだが、その全てが修二達へと視線を向けて、そこに止まっているのだ。

 すぐに襲いかかろうとしないのは、暗闇の中でまだこちらの出方を窺っているのか、現状では判断がつきずらいが、少なくとも発砲を開始すれば動き出すことは間違いがなかった。


「どうしますか……? 一か八か、走るぐらいしか……」


「……ちっ」


 舌打ちをしたレインは、周囲を見渡す。

 修二はどうすべきか逡巡しながらも、打開策を練ろうとするが、その間にもカラス達は修二達を取り囲むように集まりだしてきていた。


「このままここに居続けても、いつかやられるのがオチだね。さっき、進む先にいた方向へ一か八か、ダッシュで突き進むよ」


「了解です。後ろは俺に任せて下さい」


「……あんた、エイムに自信があるんだって? 任せてもいいなら、あんたに私の命を預けるよ」


 レインはそう言って、修二と背中を合わせる。

 簡単に言うが、命を託そうとすることは簡単なものではない。

 短い付き合いの中でも、修二のことを信頼して背中を預けようとしているのだ。

 それを裏切ることを、出来る筈はなかった。


「じゃあ……いくよ」


「はい」


 互いに確認を取り、その瞬間、修二達は駆け出した。

 とにかく、逃げることを最重視して、全速力で二人は走る。

 その時、獲物が動き出したことを視認したカラス達は同時に羽ばたきだして、修二達へと向かって追いかけてきた。


「ついてくるんじゃねえ!」


 走りながら後ろへと体を向けた修二は、迫り来るカラス達へと発砲を開始した。

 体色が黒色ということもあって、狙いが上手く定まるかどうかが問題でもあったが、修二には関係なかった。月明かりが微妙に照っていたこともあるが、カラスの羽の動きが景色に溶け込むことまではならなくなっていたので、一羽一羽を正確に狙い撃ちすることが出来たのだ。


「――――ッッ!」


 カラスを撃ち落とす度に、鳴き声を上げながら力無く倒れるのを見た修二だが、躊躇いはない。

 この状況はもはや、命の奪り合いに等しいものだ。

 一つ一つに迷いが起これば、それが勝敗を決しかねないのだ。


「いけます! このままなら、後ろはなんとかなりそうです!」


「いいね! こっちも前は大丈夫だよ! どこか、建物の中に一時避難するよ!」


「了解!」


 前方を確認していなかった修二だが、レインがそう指示を出したことにより、後ろに集中することができた。

 お互い、役割を決めた方向にしか意識を割けなかったことがあったのだが、結果的にはこの形が上手くハマっていた。

 なにより、レインも修二と同じくエイム力には自信があると聞いている。撃ち漏らしをするほど、彼女も甘い人間ではないだろう。

 修二達を追いかけるカラスは、もうほとんどが撃ち落とされ、数は数羽といったところとなっていた。


「こっちはもう片付きます! 銃声音に奴らが気づいて集まる前に移動しましょう!」


「ああ、そうさね!」


 修二達は道路を駆け抜け、縦長のビルが建ち並ぶ一角へとついていた。

 もう、ここは都会と呼んでもいいところまできていたのだ。

 すぐさま、修二達は身を隠そうとするべく、近くのビルの中へと入り、受付カウンターの後ろに身を隠す。


「はぁっ、はぁっ。どう……でしょうか?」


「しっ、音を立てないで」


 人差し指を立て、静止を促すレインを見て、修二もそれに従った。

 身を潜めることが出来たとはいえ、上手く撒けたかどうかは不確定でもあったからだ。

 加えて、あれだけ銃弾を発砲したこともあり、辺りにはモルフ達が集まっていてもおかしくはない。ならば、今はとにかく、事態が少しでも収まるまでは大人しくしておく方が賢明であったのだった。


「カラスもいないね……。逃げ切れた、といって良いのかどうか……」


「まだ、外にはカラス以外のモルフがいる可能性は高いでしょう。少しだけ、ここで休んでから動きましょう」


「――そうだね」


 二人は、息を吐くようにその場で脱力した。

 まだそれほど走ったわけでもないのに、ここまでの疲労を感じるのは異常だった。

 ここが敵の本拠地に近いこともあるが、安息の出来る場所がほとんどないわけであり、周りは敵だらけの危険地帯でもある。

 索敵だけでも神経を擦り減らしてきたわけだから、この疲労感は客観的に見れば当然のものであった。


「それにしても……かなり疲れてきましたね。眠気がくるぐらい……」


「ああ……そうさね」


 安心すると、ここまで眠気がくるものなのだろうか。一度、力を抜いただけで、もう腕が上げられなくなるほどの倦怠感が修二の体を包み込む。

 出来るならば、ここで一休みして朝まで寝ていたい気持ちが一層強くなる。

 朝になれば、日照りもあって索敵も容易になるだろうし、何より移動も夜よりかは楽になる筈だからだ。

 だが、いくらなんでもそれは安直で危険すぎる考えでもある。

 こんな場所で寝てしまえば、周囲にいるモルフに気づかれて殺される恐れがあるからだ。

 それを分かっているにもかかわらず、体は休むことを優先するように力が入らない。


「……何でしょう? 俺……こんなに……疲れてたっけ?」


「――――」


 問いかけるようにレインへと言葉を投げかけたが、彼女からの返答はなかった。

 修二もレインの方を見るほどの気力が残されていない。

 どうして、力が入らないのか、まるで分からず、ただ、欲望に任せるように、腕を下ろし、力を抜き、目を閉じた。

 今、寝れば、起きた時に、頑張れる。

 全ては、その時に、考えれば、いいだろう。

 こんなにも、体は、疲労を抱えて、いたのだから、仕方ない。

 でも、本当に、それで、いいの、だろうか?

 何か、ナニカ、ナニカガオカシイヨウナ、ソンナカンガエガ、アタマニウカンデ、ウカンデ、キエテイク。

 アァ、モウ、メンドウダ。

 デモ、ナンダカ、ココチヨクテ、ナンダロウカ。

 ハナニツク、アマイカオリガ、キブンヲヨクシテ、ソシテ――。


 ソシテ――――――――――――――――――――――――。


次話、6月13日19時投稿予定

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