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Levelモルフ  作者: 太陽
第四章 『人類の希望』
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第四章 第十九話 『三百秒の死闘』

 五メートルもの高さを華麗に飛び、椎名は空中姿勢から蹴りの構えをして、板東の近くにいた一体のモルフへと襲い掛かる。


「はぁぁぁぁっっ!!」


 重力に任せて、椎名は板東へと近づくモルフの首を狙い、蹴り落とした。

 骨の砕ける音が鳴り、モルフの首は直角に曲がって地面に倒れ、そのまま動かなくなる。


「板東さん! 無事ですか!?」


「大丈夫だ。椎名、お前……一体何が……」


 板東は、椎名の身体能力の高さの変化に驚く様子だった。

 だが、そんなことを説明している暇はない。


「おい! まだ周囲にモルフがいる! 止まってんじゃねえよ!」


「――っ!」


 デインが声を上げたことで、板東も意識を切り替える。

 第一ターミナルの中は奥に広く構成されており、その中にはラウンジと同じぐらいの数のモルフが蔓延っていた。

 避難民が板東の近くに固まっていたのは、その避難誘導を彼がしてくれていたということだ。


「板東! 避難民はこれだけか!?」


「これだけだ! 他は既に感染して手がつけられなくなっている!」


「分かった! 椎名、周囲のモルフを片付けるぞ! 板東、お前は避難民を連れて行け!」


「了解!」


 全員の目的をハッキリとさせて、各自、自身のやるべきことを全うしようと動き出す。

 椎名が恐るべくスピードで持ってモルフを制圧しようとはするが、その全てを対応できるわけではない。

 デインも拳銃で応戦し、板東はサブマシンガンでモルフへと撃ち込んでいる。

 銃声音が戦慄く中、避難民達はその音に怯えて、板東の後ろをついていこうとしている。


「急げ! 今、リック達が避難民を乗せる飛行機に燃料を移動させているところだ! ここを耐え切れば助かる!」


「説得できたのか」


「ああ。堅物だったけど、上手くやり込められたよ。分かったらさっさと行け!」


「デイン! 後ろきてるよ!」


 状況を説明し、板東にはさっさと滑走路へと向かわせるように伝えた直後、デインの後ろから全身白一色の生物、『レベル4モルフ』が襲いかからんとしていた。


「てめえはもう見飽きたんだよ!」


「ギィッッ!!」


 あわや、デインの首元へと牙が届こうとする寸前、身を翻したデインはモルフのその顔面へと強烈な拳をぶつけて、『レベル4モルフ』を吹き飛ばす。

 その胆力たるや凄まじいものであったが、デインはこれまでのモルフとの幾度とない戦闘で耐性がついてきていたのが要因としてあった。

 経験が活きたこともそうだが、元々、デインはモルフウイルスに感染しない体質でもあったので、負傷するということにリスクが伴わないのであった。

 それが、デインが戦場で戦える根拠となっていたのだ。


「いけ!」


「了解した!」


 板東に先を促し、避難民を連れての誘導を開始する。

 そして、第一ターミナルに残された椎名とデインは背中合わせになると、


「ここもいずれは放棄する。ある程度のモルフを片付けたら離れるぞ。いいな?」


「分かった。後ろは任せるね」


「誰に言ってやがんだ」


 後ろを任せると言われて、責任が重大であることを認識させられたデインは、目の前にいる大量のモルフを見据えながら不敵な笑みを浮かべる。

 椎名とはたった半日の行動を共にした中だが、とても長い時間を共にしたかのような感覚だった。


 後ろを任せるのはかつての相棒、ボリス以来だった。


「いくぞ!」


「うん!」


 二人は同時に動き出し、迫り来るモルフの群れへと突っ込む。

 感染段階がそれぞれ違うモルフが蔓延るこのターミナルの中で、やることは変わらなかった。

 デインは格闘術と拳銃で戦い、椎名は蹴りを用いた格闘術だけで戦う。

『レベル5モルフ』の力を持つ椎名は、この戦闘で苦戦することはまずありえなかった。

 持ち前の身体能力でもってすれば、知性の無いモルフなど、銃を持った人間よりも遥かに手軽に制圧できる。

 デインもデインで、これまでの暗殺稼業での経験が活きていたのか、怖気付くわけもなく、上手く対処が出来ていた。


 あとは、どれだけこの第一ターミナルで耐え切るかだが、それはある声が聞こえたことでハッキリとすることになる。


『椎名ちゃん! デイン! 聞こえるか!? 俺や、清水や!』


「――っ! あいつか!」


 第一ターミナル全体に聞こえる関西弁の声。清水がデイン達に呼びかけてきていた。

 声だけで、デインも誰かはすぐに理解することができた。


『リックから話は聞いたで! 今、避難民を載せる飛行機の手配を済ましとる最中や! どこにおるんか知らんが、とにかくモルフを食い止めてくれ! 滑走路に近づくモルフは俺たちが食い止める!』


「――――」


『時間にしてあと六分あればってとこやから、それまではなんとかモルフを出来るだけ片付けてくれ! 避難民を乗せたら、その飛行機はすぐに飛ばす! お前達はリックの私物のジェット機までこればいい!』


 こちらの声が相手に届かないことをお互いに理解した上で、清水は現状の確認を全て告げた。

 約六分。短いといえば聞こえはいいが、ことこの状況においてはそう簡単な話ではない。

 六分間も全力で体を動かしつつ、モルフと戦闘をするということは、どれほどの体力を削られるか、予想に難くはなかった。

 しかし、やるべきことが明確になったデインは腰をまっすぐに据えて、


「三百秒だな。やってやろうじゃねえかよ、クソッタレが!」


「なんとかしよう!」


 迫り来るモルフとの戦闘を継続しながら、デインと椎名は第一ターミナル内のモルフを引き付ける。

 最も、この場所にさえいれば、第一ターミナル内のモルフは滑走路に向かうわけでもなく、自然とデイン達の元へと集まってくる。

 つまりは、デイン達がこの場でどこまで耐えられるかに命運が分かれていたのだ。


「はっ! やっ! てりゃぁっ!」


「うおらぁっ!」


 足技だけで対応し、たったの数秒で三体近くのモルフを捻じ伏せる椎名に対し、デインは一発一発に重い拳を乗せてモルフを殴り飛ばす。

 たまに、格闘術で応戦しきれないモルフに対しては拳銃で応戦するデインであったが、問題は弾数にあった。


「リロードはあと三回分か……っ! クソッ! 月島達に恵んでもらえばよかったな!」


「危なかったら私を頼って! すぐに助けるから!」


「余裕あるなら全部倒してほしいぜっ!」


 そんなことは不可能だということは分かっていても、この場は椎名に全振りして任せたい気持ちがあったデインはそのようなことを口走った。

 椎名だけで、この第一ターミナルのモルフを対処するのはさすがに無理だったのだ。

 デインが一部のモルフを対処することによって、椎名は普段通りのモチベーションを保って動くことが出来ている。

 ここでデインがいなくなれば、数に押されて椎名もやられてしまうことは確定的なのであった。


「そりゃあっ!」


 両足を地面から離して、椎名は迫る『レベル4モルフ』の顎を打ち砕く。

 吹き飛ばされたモルフは、その背後にいたモルフと一緒に薙ぎ倒されて、動けるスペースが空いた。

 そのスペースへと移動した椎名は、三百六十度、全方位から迫るモルフに対して、体を回転させて蹴りを入れ、モルフからの攻撃を未然に防いだ。

 そして、遠くに掛けられた時計に視線を向けた椎名は、


「まだ……一分……っ!」


「ちくしょうが! もう三分はやり合ってる感覚だぞ!」


 これだけやって、まだ一分しか経っていないという事実に二人は頭を抱え込みそうになる。

 体感的には、一秒一秒がとても長く感じるのだ。

 それもそうで、デインと椎名はたったの数秒で三体以上のモルフと戦っている。

 休む暇さえ与えないその地獄は、徐々に二人の体力を蝕んでいっていた。


「はぁっはぁっ! おらぁっ!」


 息が切れてきたデインは、刃物に変異した腕を振りかぶる『レベル3モルフ』に対して、渾身の一発でもって殴り飛ばし、手を膝につける。


「デイン!」


「だい……じょうぶだ……っ!」


「まってて! せいやぁっ!」


 デインが危ないと感じた椎名は、すぐさま目の前にいたモルフの首を上段蹴りで蹴り飛ばし、デインの元へと近づく。

 そして、デインに近づいてくるモルフへと飛び膝蹴りを決め込み、なんとか危機を乗り越えた。


「デイン、大丈夫!?」


「はぁっはぁっ……!」


 返事すら返す余裕もないデインは、椎名の声に顔すら向けることもできずに動くことが出来ない。

 しかし、椎名がやってきたところで、何か出来ることはなかった。

 椎名の超速再生能力は傷を治すことはできても、疲労をどうにかできるものではない。

 蓄積した疲労は体を蝕み、本来のポテンシャルを出せない状況へと追い込まれてしまっていたのだ。


「デイン! もう少し頑張って!」


「――くそがぁぁぁっっ!」


 このまま動かないままでいれば、どんどんと迫り来るモルフに椎名も対処が出来なくなってしまう。

 酸素を吸収したデインはヤケクソばりに立ち上がり、接近していたモルフに殴打を喰らわす。


 だが、それも一時的な抵抗にしかならない。

 すぐに膝に手をついて、体が言うことを聞かないことに歯噛みしながら、デインは考える。


 ――椎名一人で先に行かせるか?


 その無謀な作戦は、意味がないことだ。

 デインも椎名も、特殊な体質を持っており、どちらかを失うなどあってはならない。


 ――ここを放棄して、滑走路へ向かうか?


 それもダメだ。燃料の補給に間に合わず、避難民を飛行機に乗せて飛ばすことが出来なければ、デイン達も退路を失ってしまう。


 これまで、デインは死線を乗り越える為に数々の最善を組んで行動してきた。

 しかし、どう足掻いてもその最善の案が思いつかない。

 犠牲前提の作戦を組む以外に何も出来ないというこの最悪の状況で、果たしてどうするべきかすら決めることも出来なかった。


「――あと三分!」


 残り時間が半分を切り、それでもまだ半分もあるということにデインは絶望する。

 周囲にはレベル1からレベル4までの感染段階のモルフがウヨウヨといる中で、たった二人だけでどうにかするという現実に、自分達がやろうとしていることがどれほど無謀なことかを再認識した。


「「――――」」


 椎名ももう黙り、ひたすらにデインに近づくモルフを蹴飛ばしている。

 デインもギリギリの体力の中、タイミングを見て体を動かして時間稼ぎをすることしかできていない。


 もうダメだと、頭の片隅に諦めの考えが浮かんだ時であった。

 爆発音が聞こえて、モルフの動きが一瞬だけ止まり、デイン達もその方向を見た。

 そこには、手榴弾でも投げ込まれたのか、一帯にモルフ達が地面に倒れ伏していたのだ。


「椎名、デイン! 大丈夫か!?」


「板東さん!? どうして!」


「あとは月島に任せた! 俺も加勢する!」


 サブマシンガンを握り、そのまま銃撃を開始する板東。それを見た椎名達は互いに拳を握ると、


「椎名! ラストスパートだ!」


「うん!」


 疲弊し切っていたデインも、加勢が来たことによって限界まで体を振り絞ろうと立ち上がる。

 脳が限界を知らせていることなど知ったこっちゃない。

 ここで何も出来ずに終わることなど、そんなことを許容できるほどデインも心が弱いままではなかったのだ。


「うらぁっっ!」


 もはや、なりふり構っていられる状況ではなかった。

 デインは近くにあった手掴みの鉄パイプを掴み、それを振り回してモルフを撃退していく。


「やぁっっ!」


 それだけで対処しきれないモルフは、椎名が蹴り技で応戦することでなんとか形になってきていた。

 板東がこなければ、この場での耐久戦は負けていたようなものだ。


「おおおおおおっっ!!」


 雄叫びを上げ、デインは器用に鉄パイプを振り回してモルフを薙ぎ倒していく。

 棒術の心得はないが、それでも鉄でできた素材だ。

 避ける動作も出来ない感染段階の低いモルフに対しては、それだけで対処が出来ていた。


「あと一分!!」


「もう少し……だ!」


 残り時間があと一分を切り、ゴールが見えてきたと感じたデイン達は力を振り絞る。

 もう既に、百体近くのモルフを相手にしてきていた二人は、体力の限界を超えてでもパフォーマンスを崩さない。

 息が苦しくても、力が入らなくとも、それでもこの場はなんとか持ち堪えなくてはならないという意地だけで、二人はここまで我慢を押し通すことが出来たのだ。


「少しずつ下がるぞ! あと一分なら、離脱の準備をする方がいい!」


 板東からの呼びかけに、椎名もデインも頷く形で了解し、徐々に足を後ろへと下げていく。

 残り時間がもう僅かな以上、ここに残り続けるメリットなんてものは存在しない。

 減り続けることもないモルフに対して、今まで通り、出来るだけ応戦していこうとしていたその時であった。


 デインは視界の中に、妙な形をした生物を見た。


「あ?」


 椎名も板東も、その存在には気づいていない。

 その存在は一個体に留まらず、複数いた。

 四足歩行のように足を地につけて、皮膚が剥がれ落ちた状態でいるそれは、動物だったものだ。

 その見た目は犬。鋭い犬歯をしたそれを見せつけて、デイン達を見ている。


「待て待て待て……冗談だろ!?」


「どうした!?」


「デイン?」


 板東も椎名も何事かとデインの方を見るが、反応が遅れてしまっている。

 モルフに感染したその犬は、一斉に走り出し、デイン達へと向けて襲いかかってきたのだ。


「犬型のモルフだ! 走れぇぇぇっっ!!」


「――っ!」


 体感的に、残り時間はあと二十秒を切ったところだ。

 あと少しのところで、絶対的なピンチになったこの状況に、デインは逃げることを選択した。

 あの速度とサイズからすれば、人間体の『レベル4モルフ』よりも対処が困難であることを理解していたからだ。

 しかし、デイン達が走る速度よりも犬型のモルフの走るスピードの方が速い。

 滑走路へと向かう出口まで間に合わず、その鋭い牙で持ってデインに襲いかかろうとした犬型モルフに、デインは負傷も止む無しと考えて防御の姿勢を取ったのだが――、


「……ん?」


 牙が目の前まで見えていたのにも関わらず、その牙はデインへと届くことはなかった。

 デインの目の前には、板東の背中が見えていた。

 その状況がどういうことなのか、デインは理解すると怒りに震えた。


「てめぇ、何やってやがんだ!?」


「……椎名、デイン。その出口の扉を閉めろ」


「おい! 聞いてんのか!?」


「板東さん!」


「俺はもう感染した! もうここで死ぬことは確定している! さっさと行くんだ!」


「――っ!!」


 そんなことは見れば分かる。

 板東の腕や腰に噛み付いた犬型モルフを見れば、もう手遅れなことくらいは。しかし、デインが怒っているのはそんなことではない。


「なんで……俺を庇いやがった!」


「お前をアメリカへ連れていくことが最優先事項……。だから、俺の命は捨て置いていくんだ」


「――っっ!」


 あくまで、デインの特異体質を失わせない為の行動だと、板東は一貫してそう答える。

 ふざけるなと叫んでやりたかった。

 デインは、誰かに助けられる経験なんてない。

 助けられて生き延びるなんてことも望んではいなかったのだ。


「早くいけ! モルフがくる!」


「――クソッタレがぁぁぁぁっっ!」


「デイン!?」


 どうすることもできない今の状況に、デインはキレながらも椎名の手を掴んで出口へと走る。

 椎名が動けないことも理解した上で、デインは椎名の腕を掴んで進むことを選んだのだ。

 そして、デインが第一ターミナルの出口の扉を閉めようとしているのを見た椎名は、


「待って! まだ板東さんが……っ!」


「うるせえ! お前も気づいているだろうが!! もうどうしようもないことをよ!」


「でも……こんなところで……っ!」


「あとでいくらでも俺のことを蔑めばいい! でも……もうこれしかねえんだよ!」


「――っ」


 非難は覚悟の上で、デインは第一ターミナルの出口となる扉を塞いだ。

 鍵も閉めて、もう向こう側から開けることも叶わなくなる。

 そして、もう板東の声も聞こえなくなった。


「板東……さん」


「あの野郎は……俺を庇って死ぬことを選んだ。何だってんだ……ちくしょう」


 悲しみに暮れる椎名に対して、デインは如何ともし難い感情を身に宿していた。

 デインにとってはそうだろう。これまでの人生で、デインは誰かに頼ることも頼られることもまるでなかった。

 微かな違いは、ボリスや椎名との出会いのみであり、それ以外は一匹狼のような人生だったのだ。


 だから、理解できなかった。自分の命を犠牲にして、誰かを助けるという行いの意味が――。


「俺が……モルフに感染しない体質だから、奴は身を盾にしたのか?」


 それは、板東が自分で言っていたことでもあった。

 デインがモルフに感染しないという体質であり、それは他の誰かに代わってどうにかなるようなものではない。

 この地球上で、果たしてデインの他にモルフに感染しない体質の人間はいるのか。いたとして、それを見つけ出すのは途方もないベクトルの可能性だ。

 今ここで、デインを失わせるリスクを取るぐらいならば、自分の命を投げ打つ覚悟で板東は――。


「――っ」


 それまで、脳に酸素が行き届いていなく、まともに思考することもできていなかったデインは、ようやく板東の行動の理由に納得がいった。

 しかし、理由に納得はすれども、その行いに納得はしていない。


「必ずこの国から脱出してやる……必ずだ!」


「……デイン」


 板東の行いに報いたいわけではない。ただ、こうなってしまった以上は報いる他に選択肢は残されていない。

 それが、デインの心が決めた瞬間でもあった。


「行くぞ……椎名。もう避難民の誘導は完了している頃合いだ。俺達も急がねえと……」


「……分かった」


 一粒の涙を頬に伝わせて、椎名は覇気のない声量で了承した。

 彼女からすれば、板東との付き合いは見知った仲で終わるようなものでなかったのだろう。

 きっと、たった半日の出会いであるデインよりも遥かに長く、互いに頼りあった仲であることは、椎名の表情を見るだけでもわかる。


 そしてそれは、月島や清水達とも同じことだ。


「もうクタクタだが……これが本当に最後だ。一気に滑走路まで抜けて、ここを脱出する」


「そうだね。――デイン、あれを見て」


「……あれは」


 第一ターミナルを抜けて、そこは管制塔へと向かう為の橋渡しとなる通路の中を走っていたデイン達は、そこから外の様子が見えることがわかった。

 地面以外がガラスで出来たその場所から滑走路の様子を窺うことが出来、そこで彼らは目にした。

 ちょうど、滑走路の上をゆっくりと動き出す飛行機の姿を――。


「目的は達成できたな。あとは俺達だけだ、急ごう」


「うん、そうだね」


 足早に動き出そうとして、椎名が先に前へ進んだ時だった。

 何か、音が聞こえたデインはその場で足を止める。


「なんだ?」


 滑走路から聞こえる飛行機の莫大なエンジン音とは別の、何かの音が聞こえる。

 何か――巨大な何かが落ちてくるようなその音を耳に感じたデインは真上を見た。


「――っっ!?」


 デインだけがその音の正体に気づき、その場から真後ろへと飛んだ。

 その瞬間、デインの先ほどまでいたその場所へと壮絶な破壊が巻き起こり、橋渡しとなっていたその通路が破壊されて、椎名と分断される。


「デイン!?」


「俺は大丈夫だ! ……やっぱりてめぇかよ」


「ブオオオオオッッ!!」


 真上から落ちてきた巨大な物体の正体はヴェノムだった。

 奴は通路を破壊して、そのまま下へと落ちそうになっていたが、かろうじてそれを回避し、デインのいる方の通路側へと来てしまっていたのだ。


「どうしても俺を殺したいらしいな」


「デイン! 早く逃げて!」


「うるせえ! 椎名、先にリック達と合流しろ! 俺はこいつとケリをつける!」


「――っ! そんな……」


「安心しろ! こんな堅物野郎に負ける気はサラサラねえ! ――俺を信じろ!」


 真っ直ぐに、嘘すらない本音でそう伝えたデインに、椎名もたじろぐ。

 椎名も、それがデインの純粋な本音であることに気づいていたのだろう。

 本気で、この場であのヴェノムと決着をつけようとしているのだ。


「――先に行って、月島さん達を呼んでくるよ!」


「へっ、来る頃には終わらせてやるよ」


「なんとか……持ち堪えて!」


 それだけを言い残して、椎名はデインを置いて先へと進んでいった。

 そして、この場に残ったのはデインとヴェノムだけとなり、互いに顔を見合わせる。


「よう、よっぽど俺のことが好きらしいじゃねえかよ。この変態野郎が」


「フシュゥゥゥゥゥ」


 体力が限界を迎えてはいたデインではあったが、それでも余裕を崩さず、煽る姿勢でヴェノムと向き合う。


 そして――、


「タイマンかよ、おもしれぇ」


 拳銃を持たず、拳を構えて、デインはヴェノムとの戦闘を開始する。


ダイイングライトにハマって銃縛りでやってみたら走るゾンビにボコられました。

あれ見て思いましたが、『レベル2モルフ』って雰囲気はあんなイメージなんですよね。迫ってくる恐怖っていうかなんていうか……。モルフの脅威は数の暴力とは言いますが、あれは本当にその通りで、銃を持っていても簡単に処理できるものではないです。なにせ、死ぬ恐怖すら持ち合わせていないモルフは銃に臆することなく突っ込んできますから。

第四章はあと二話分で終わるかと思われます。

もしかすると、あと一話分追加になるかもですが、書きながらの状況によりけりです。

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