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Levelモルフ  作者: 太陽
第四章 『人類の希望』
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第四章 第十話 『群れ』

 時刻は夕刻。椎名とデインは空港へと向かい、そこで移動手段を手に入れるべく、誰もいない砂地の道を歩いていた。

 建物は周囲にあるが、舗装された道は大してない。この国は元々、その国土面積の割に砂漠が多いとのこともあって、舗装が出来ない状態だったのだ。

 砂を踏む音を立てながら歩き続けて、二人は共に一言も発さず、周囲の警戒をしていた。

 今のところ、ただの一体のモルフとも遭遇はしていない。

 数が少ないのか、それとも先に気づき、逃げた人民の数が多かったが故の感染者の少なさなのかは分からないが、気を抜けないことは事実だ。


「拳銃の銃弾はリロード分合わせても三十発か……。心許ないな」


「ごめんね……。私、そういった武器ってあまり使いたくないから」


「構わねえよ。お前はお前で強烈な殺人キックを持ってんだ。多少の自分の身は守れるだろうしな」


「ふふ、酷い言い方」


 クスッと笑う椎名だが、その脚力を実際にこの目で見ていたデインからすれば、その評価は妥当だ。

 あんな蹴り、普通の人間が受ければ脚の骨ぐらいなら折ることは造作もないだろう。

 近距離戦においては、椎名もそれ相応に使えることを理解していたデインだが、デインの場合は少し違う。

 格闘戦が苦手というわけではない。しかし、椎名程の戦闘力を持っているわけではない以上、殺傷能力の高い拳銃を使うのが賢明な選択肢だったわけだ。

 ボリス達との暗殺任務でも、拳銃を使った経験はある。だからこそ、人を撃つことに迷いはないし、狙いを外すこともそこまではない。

 デインにとって、一番の武器となるのは人を殺すことに何の躊躇いもないことだ。

 過去の経験があってのことだが、それが簡単に出来る人間はそうはいない。

 ミラのような頭のイかれた奴なら話は変わるが、大多数から見ればデインのような人間は割と限られてくる。


「にしても、本当にモルフとかち合わねえな。そんなことあるのか?」


「確かに少ないように感じるけど、出会わないのは良いことだよ。数で押されたら、こっちが不利だから」


「そりゃ……そうだな」


 なんとかなるだろうとそう言いたかったデインだが、椎名の経験則からそれを話されればなんとも言えない。

 よくよく考えてみれば、モルフには感染段階がある。今までデインが見てきたものは、初期段階である『レベル1モルフ』のみだ。

 それ以降の感染段階と直に接触したことがない以上、危機リスクを把握しきれていないのはデインの方である。

 そのことを理解したデインは、胸中を締め付けられるような異様な感覚を覚えた。


「久々に緊張してるぜ。こんなのはボリスと一緒にいた時以来だ」


「私も同じだよ。……待って。何か聞こえない」


 椎名がそう言った時、デインは警戒度を一気に引き上げ、立ち止まる。

 耳を澄ましてみると、確かに何か物音が聞こえていた。

 その音の根源はデイン達の進む先、建物の陰からだ。


「動くな。俺が確かめる」


「でも……ミラの可能性も」


「早まるなよ、俺も動かねぇ。こうやって確かめるんだ」


 デインは足元にあった大きめの石を拾うと、それを音の先のすぐ側にあった壺に投げつける。

 大きな音を立てて割れた壺に、椎名もギョッとして驚いていたが、デインはその建物の陰から目を離さない。事前に椎名と共有していた情報によれば、モルフは音に寄せられるというのが基本特性だそうだ。

 ならば、こうやって誘き出す方法を使えば、モルフであれば出てくるに違いないだろう。と、そう考えていた時、建物の陰から物音の原因たるナニカが現れようとした。


「あれは……なんだ?」


 デインはその全貌を見て、目を見開く。

 全身の皮膚が剥がれ落ち、赤黒い肉が露わになった人型のそれは、今までに見たことがなかったからだ。

 咄嗟に固まっていたデインだが、椎名だけはその姿に見覚えがあるようで、その歪な化け物をこう呼んだ。


「『レベル3モルフ』――っ!」


「おいおい、冗談だろ。とんだクリーチャーじゃねえか!」


 まさか、このタイミングで『レベル3モルフ』と遭遇するとは、デインも予想外であった。

 そして、実際にこの目で見てもその化け物ぶりには声を上げざるを得ない。

 一体どうして、あのような姿のまま生命活動を続けることが出来るのか、まるで理解不能だったからだ。


「――――ッッ!」


 こちらに気づいた『レベル3モルフ』は雄叫びを上げ、そのまま四足歩行の体勢になる。

 よくよくその姿を見てみると、手足は人間の形をしていなかった。

 四足歩行となる前足、元は手の形をしていたそれは鋭い刃の形状をしていた。それもただの刃ではなく、曲がった形状をしており、例えるならばククリナイフのそれに近い。

 後ろ脚となる元は足の形をしていたそれは、両脚とも極端に細く、骨だけに近い状態だった。

 しかし、デインにはそれが何か意味があるものだと考えていたその時――、『レベル3モルフ』はデイン目掛けて飛び掛かろうとした。


「っ! コイツ!」


「デイン! 避けて!」


 すかさず拳銃で応戦しようとしたところ、椎名の声を聞いたデインは椎名との間にモルフが抜ける形で避ける。が、椎名はデインに避けろと指示を出しただけで、何もしないわけではなかった。

 間を抜けようとしたモルフの頭目掛けて、椎名はタイミング良く足を振り下ろし、モルフの頭部へとクリーンヒットさせたのだ。

 勢いよく地面に顔から落ちたモルフを見て、さしものデインも驚いていたのだが、


「デイン! 今!」


「っ、おう!」


 椎名の声を聞いて、デインは咄嗟に持っていた拳銃で地面に頭を埋めるモルフの頭部へと発砲した。

 椎名の蹴りで損傷していたモルフの頭部は弱点がガラ空きであり、銃弾を受けたモルフは悲鳴を一瞬上げると、全く動かなくなった。


「ふぅ、まさかこんなクリーチャーと戦うとはな。まさか、『レベル3モルフ』ってこんなんばっかなのか?」


「見た目についてはそうとしか言えないけど、違うとも言えるよ。手足の形状が違う個体もいれば、頭部を守るように変異させる個体もいるから」


「そういやあの臭え地下でも言ってたな。自信失くすぜ、おい」


 今回、対峙した『レベル3モルフ』はあくまでその一例。また、別の『レベル3モルフ』と遭遇すれば、恐らく同じ形態ではない。腕や脚の変異が別のものになっているということだ。

 今回は偶々、椎名が無力化できたのだが、次も果たして同じようにいくかどうか――先のことを考えれば、デイン自身の士気を削ぐには十分なものだった。


「考えを改めるよ。そういえば、お前はこんなのと戦ってきたんだよな」


「私も戦ったのは今のが初めてだよ。だって、ただ見てきただけなの。皆が戦うところを」


「こんな奴らと戦えるなんて凄えな」


 椎名は『レベル3モルフ』と戦ったのはこれが初めてのようだが、それでも今、ここで戦えたことは事実だ。それに、こんな奴らを相手にしてきた椎名の仲間とやらはどれほど肝が据わった連中なのか。思えば、日本が崩壊する時、椎名達は無限に近い数のモルフを相対してきたのだ。

 そう考えれば、さすがの歴戦の猛者と評するには値するものだろう。


「――デイン」


「……おい、嘘だろ」


 落ち着いたと思われたその時、二人は別の物音を聞いた。

 それも、一つではなく複数だ。更に言えば、その物音はもっと近い場所から聞こえて――、


「椎名、離れるなよ」


「――うん」


 いつの間にか、デイン達は取り囲まれていた。

 周囲の建物の壁。デイン達の後方。そして、前方も同様だ。

 まるで、この時を待っていたかのように、『レベル3モルフ』の群れが、デイン達を逃がさないようにして取り囲んでいたのだ。


「まさか……さっき叫んでいたのは」


「モルフを呼び寄せたっていうの?」


 一番はじめに遭遇した『レベル3モルフ』はこちらを認識したと同時に雄叫びを上げていた。

 あれが近くにいたモルフを集める為の行為なのだとすれば、今のこの最悪の状況にも合点がいく。


「クソッ! 椎名、こっちだ!」


「え!?」


「お前もさっき言ってただろ!? 奴らは群れを成すことで脅威になるって! 今は逃げるしかない!」


 椎名の手を取り、デインはすぐ側の建物の中へと誘導した。

 その瞬間、周囲にいたモルフ達は同時に動き出し、デイン達へ襲い掛かろうと追いかけてくる。


「クソッ! はええな!」


「デイン、こっちから逃げよう!」


 椎名がこっちへ来いと指示を出し、デインはそれに従って狭い廊下を走る。

 裏口の扉を開け、すぐさま閉めた二人だが、意味がないことをお互いが理解していた。すぐにその場から走るが、追いかけていた『レベル3モルフ』の一体が変異した両手の刃物を使ったのだろう。閉められた裏口のドアがバラバラに壊されていた。


「何でもありかよ! おい、椎名! 俺の手を使って飛べ!」


「デインは!?」


「俺は一人でも大丈夫だ! これでも器用貧乏だからな」


 デインの声を聞いた椎名は応答も無しに頷くと、デインの両手を足場にしてその場を飛び、建物の屋根へと飛び移る。

 振り向いた椎名が手を差し出して、デインを引き上げようとするが、デインにはそんな必要はなかった。

 すぐ側の支柱を掴み、木登りをするようにして椎名のいる屋根へと登ったからだ。

 その瞬間、追いかけていたモルフが支柱目掛けて突っ込んできていたが、ギリギリで避けることが叶っていた。


「あっぶねぇ。もうちょいで体が傷物になるところだぜ。よし、走るぞ!」


「え、でもここまできたら安全じゃ……」


「なわけないだろ! さっき、コイツらは建物の壁にへばりついていたんだぞ! 放っといたらすぐにコイツら登ってくるぞ!」


 デインがそう指摘した通り、砂地にいた『レベル3モルフ』の群れはデイン達を追い縋ろうと屋根へ登ろうとしていた。

 それを見ていた二人は焦るようにしてその場からダッシュするが、このままでは埒があかないのも事実だった。


「戦うにしても数が多い。感染しないにしても、ここで負傷するわけにもいかねえし……どうするよ?」


「一番良いのは一体ずつ倒すことだけど……ここじゃ足場も悪いしね。今はとにかく走って逃げるしかないと思う!」


「クソッ! なんだかんだ走ってばっかだな、今日は!」


 愚痴を零しながらも、デインは椎名の言う通りにしてとにかく屋根の上を走って移動していく。

 後ろをみると、屋根を登った二体のモルフがこちらを見て雄叫びを上げていた。


「冗談だろ!? また仲間呼ぶつもりか!?」


 雄叫びを上げられれば、また近くにいるモルフ達がこっちに集まりかねない。

 モルフが連携行動を取ることにも驚いていたのだが、そんなことを言っていられる状況でもない。

 なんとかして撒く為に、何か手立てを模索しなければと考えていたその時だった。


「こっち! こっちにきて!」


 デイン達は声のする方向、屋根の下にいた生きている人間の姿を見た。

 モルフではない。その女性は、デイン達にこっちに来いと手振りをして呼んでいたのだ。

 それに呼応するように、椎名が迷わずして屋根から飛び降りた。


「おい!? ――クソッ!」


 勝手な行動を取る椎名に悪態を吐きたくなったが、今は離れるわけにはいかない。

 デインも屋根から飛び降り、こちらに来いと誘導する女性についていった。

 入り組んだ迷路の道を走り続けて、デインと椎名は前を走る見知らぬ女性へとついていく。

 そして、立ち止まった時、後ろにはもう『レベル3モルフ』の群れの姿はどこにもなかった。


「はぁっ、はぁっ、撒けた……か?」


「――うん。そのようだね」


「お前、どういうつもりだよ?」


「え?」


 安全を確保できた状況ではあるが、デインはさっきの椎名の行動を咎めようと、そう問いただす。

 それは、最初に決めていた話とかけ離れた行為だったからだ。


「――大丈夫ですか?」


 そうこうしている間に、デイン達を逃がすことに協力した見知らぬ女性が安否を気遣ってきていた。

 見た目はこの国に元々いたかのような風貌をした女性だ。印象深いのは、肌が褐色した色をしており、髪の色は銀髪で背中まで伸ばした長い髪をしている。首筋から髪をまとめており、ポニーテールになっていたその女性は、その茶色い瞳でデイン達を見やる。

 椎名は笑顔で「大丈夫です」と答え、お礼を言っていたが、デインは椎名の手を掴み、それ以上前に進ませることを止めさせる。


「デイン?」


「お前は下がってろ」


 そのまま椎名を後ろに下がらせたデインの次の行動は、椎名にとっては理解し難いものだったのだろう。

 デインは褐色の肌をした女性の前へ立つと、迷いなく拳銃の銃口を向けた。


「何をしてるの!? デイン!」


「お前は何者だ? なんであんな危険な状況で助けを出せた?」


「え? え?」


 椎名が止めようとするも、デインは取り合わずに銃口の先を下ろさず、目の前にいる何者かに問う。

 デインが警戒する理由はただ一つだ。

 ここにいる椎名以外の人間が、果たしてミラが化けたものではないのかという疑問。証明する手立てがない以上、悪魔の証明には違いないのだが、今のデインからすればこの褐色肌の女性は信用するには値出来なかった。


「答えろ。お前は何者だ? どうして俺達を助けた?」


「デイン!」


 怒った素振りで、椎名はデインの腕を掴んで拳銃を離させようとする。

 しかし、デインは椎名の肩を強く押して無理矢理引き剥がすと、


「お前も分かってるだろ!? こいつがミラでないと、どうしてそう思える! 少しの可能性も今は排除しなきゃならねえんだぞ!」


「まだ決まったわけじゃないでしょ!? いいから銃を下ろして!」


 尚も食いつく椎名に、デインは苛立ち気に舌打ちをすると、銃口を下げた。ここまで邪魔をされれば、照準もへったくれもなかったからだ。

 この褐色肌の女性がミラの可能性であることを、デインは危惧していた。なぜなら、タイミングが良すぎるからだ。このモルフが蔓延る街で生存者がいたとして、なぜわざわざ留まっているのか、それさえもよく分からない。

 だとすれば、この女は十中八九、ミラであるとみていいのだ。確実ではないにしても、ここで接触するには、あまりにもリスクが高すぎた。


「あの……何かお気に触られましたか?」


 褐色肌の女性はデインの行為に臆しながらも、ビクビクとした様子でそう問いかけてくる。

 それさえも演技に見えてくるデインであったが、まずは確認を急がせようと、


「お前は何だ? どうして俺達を助けたんだ?」


「あ……、えと、さっき、あの奇妙な化け物に襲いかけられてたのを見ていたので……」


「じゃあ、もう一つ聞くぞ。どうしてこんな危険地帯にまだいる?」


 核心を突くようにして、デインは一番に疑問に感じていたことをそのまま口に出した。

 この女がミラだとするならば、聞かれた問いに対して何か動きがある筈だ。

 それは、体の一部分の微かな動き。嘘を吐いているのならば、何かしらの変化というものが出てくる。それを見つけさえすれば、デインは即座に持っていた拳銃で躊躇わずに撃つつもりだった。

 たとえ間違っていたとしても、掛かるリスクを取り払う上でならば何も感慨も湧かない。


「答えろ。お前はなぜこんな場所にいた?」


「――私は生存者です。娘がいなくなってしまったので、一人で隠れ家から出てきたんです……」


「隠れ家?」


「私以外にも生存者はいます。娘を探している途中であなた達を見つけて、それで今に至るんですが……」


 褐色肌の女性はタジタジとそう答える。

 その挙動に、今のところは不審な部分はない。

 だが、それでも気が抜けないことは明らかであったデインは、「ふぅ」とため息を吐くと、


「分かった。助けてくれてありがとうな。娘さん、見つけ出せるといいな」


「……えと、はい」


「ちょ、ちょっと、デイン?」


 話を終わらせようとしたデインに、椎名が割り込んで話に入ろうとした。

 嫌な予感がしたデインは椎名の肩を掴み、褐色肌の女性に聞こえない距離で小さい声でこう言った。


「……お前、まさか一緒に娘を探そうなんて言うんじゃねえだろうな?」


「う、うん。だって、こんなところに一人でいるなんて危なすぎるよ……」


 やはりというべきか、甘っちょろいことを言う椎名に、デインは頭を抱えそうになる。

 これが椎名の弱点でもあった。困っている人が目の前にいれば、意地でも助けてあげたい。言いようによっては人道に則った行いなのかもしれないが、今のデインと椎名の立場からすれば、そんな余裕がないことは椎名にも分かっている筈だ。


「あのな……時間が無いって言っただろ? それに、もしこいつがミラだったらどうするつもりだ?」


「でも……隠れ家から出てきたって言ってたじゃない。確かに時間は無いけど……助けてくれた恩を返さずに進むのは嫌だよ」


「助けてくれた恩……ね」


 きっと、何を言っても無駄だとそう考えながらも、デインは横目に褐色肌の女性を見やる。

 助けてくれた恩。椎名が言ったその言葉には、デインも思うところはある。

 もしも、この女性がミラではなかったのならと、一部の可能性を考慮しながらデインは、


「あんた、名は?」


「え、えと、シーラです」


「……娘はどこにいるか分かるのか?」


「――分かりません。ですが、見た目については分かります。多分、あなた達でも見分けられるかと……」


 一緒に探してくれるのだと、褐色肌の女性、シーラはそう考えていたかのように言った。

 正直、今でもデインは乗り気ではなかったのだが、椎名を残すわけにいかない手前と、シーラがミラでない確証を得る為にはやむを得ない部分もあった。


「――分かったよ。あんたの娘を探すのに協力してやる。ただし、一時間だけだがな」


「デイン……」


「勘違いするなよ。あくまで借りを返す意味での協力だ。椎名、お前のわがままもこれが最後だからな」


「うん。ありがとう!」


「あ、ありがとうございます!」


 共に感謝の言葉を述べられるが、デインはこれを無視して早速本題に移ろうとする。


「んで、娘の特徴を教えてくれるか?」


 シーラの娘。名前は別にどうでもいいが、見た目に関しては聞いておく必要がある。

 少なくとも、デイン達でも見分けがつくと言ったのはシーラ自身だ。

 それくらいならば、大した時間を掛けずに見つけられるかもしれない。と、そう考えていたデインだったが、


「娘の特徴は――」


 さっさと終わらせて空港に向かわければと、今後の展望を考えながら話を聞くデイン。今は、シーラがミラである可能性は五分五分という判断だが、ゼロになったわけではない。

 もしもミラだった時、どうやって対応すべきか、頭の中で様々な手段を思い浮かべていたデインだったが、シーラは先を続けた。


「三つ編みに髪を巻いて、歳は七歳です。目元は少し細くて……そうだ、クマのぬいぐるみを持ち歩いている筈です!」


「ん?」


「え?」


 シーラが最後に言った特徴と、それを聞いた時の見た目の特徴。それらを符合した時、椎名とデインは共にある違和感を感じた。

 なぜなら、彼等はその特徴に当て嵌まる者と遭遇していたからだ。

 だが、一度会った、などと簡単に口ずさむべき内容ではなかった。

 だって、それは――、


「ミラが化けていた時のガキ……か?」


 デインが自前のナイフを渡した、あの時の女の子の特徴と全て合致していたのだった。

 



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