第三章 第十四話 『断たれていく絆』
力無く、笠井修二は廊下を歩いていく。
そこは、日本人が管轄している病院であった。
今もここには、あのメキシコ国境戦で傷ついた負傷者達が運び込まれて、治療を受けている。
モルフによる負傷者ではなく、ほとんどがメキシコの兵士から受けた傷が要因ではあったが、その様子は悲壮に満ちていた。
脳に障害を持ち、目を覚まさない者。重傷者に至っては助からないとされ、息を引き取る者も珍しくはなかった。
「――――」
無言のまま、彼はただ歩いていく。
彼はある報告を受けて、ある病室へと赴こうとしていた。
良い報告ではなく、悪い報告だった。
それでも、この目で確認しようとするまでは心が歩くのを止めることは許さなかった。
「――――」
彼の目は既に死んでいた。
虚な目をしたまま、ただ歩くことしかできない。
もう、希望なんてものはどこにも残っていない。
これから目にするものだって、彼にとっては変わらない結果だ。
それでも、行くしかない。
彼女は修二にとっても大切な友人だったのだ。
だからこそ、会わないなんてことは出来ない。
奇跡が起きないなんてことも分かっている。
それでも――、
「――琴音」
足を止め、修二の歩く先には琴音が立ち竦んでいた。
彼女の目も、修二と同じだった。
その目には光はなく、黒く沈んだ瞳が修二を見つめていた。
「静蘭に……会いにいくのね?」
「あぁ……この先に、いるんだろ?」
お互いに声は小さく、聞こえているかも分からない声量であった。
修二の言葉に琴音は頷き、修二も止めた足を再び動かして静蘭の元へと行こうとした。
しかし、すれ違う直前に、琴音は手で修二の行く手を阻んだ。
「ねぇ……出水は、出水は……どこにいるの?」
「――――」
琴音の問いに、修二は何も答えることが出来ない。
既に、その答えは琴音も知っている筈だった。
それでも聞くのは、その現実を受け止めきれないからだということは修二にも分かっていた。
出水はあれから、修二が連れて帰り、集中治療室へと運ばれていったのだが、容態は良くはなかった。
意識が戻らず、かつてリンドブルムから受けたあの時よりも遥かに酷い傷を負ってしまっていたのだ。
医者からの話では、いつ死んでしまってもおかしくない、そんな状態になってしまっていたのだ。
「ねぇ……どこにいるの? あいつのことは私が一番よく知ってる。簡単にくたばらなくて、どんなギリギリの状況でも生き延びて帰ってくる、あの死に損ないはどこにいるの?」
「――――」
琴音の一言一言が、修二の心を抉っていく。
それ故に、何も答えることが出来なくなってしまっていた。
そんな修二の態度に堪えきれなくなったのか、琴音は修二の胸ぐらを掴んだ。
「ねぇ……どこにいるの!? いるんでしょ!? 何で何も答えてくれないのよ!?」
「――すまない……」
「謝らないでよ! 何で……謝るのよ。お願い……出水に会わせてよ……」
その悲痛な叫びに、修二は応えることが出来ない。
もう、戻らないのだ。
あの日常も、彼と話せる時も――。
だから、修二はこう言う他に、言葉を選べなかった。
「――すまない」
「どうして……どうしてなの……。なんで……あいつが……」
胸ぐらを掴む手が弱まり、琴音はそのまま膝をついて崩れ落ちていく。
修二は立ったまま、顔だけは俯いていた。
「私も……何も出来なかった。私があの時、静蘭だけでも逃がしていれば……こんなことには……」
琴音の言いたいことは、修二にも分かっていた。
修二達が前線に出ていた時、琴音や静蘭のいる補給地点は突然の襲撃を受けていた。
その時、外の様子を見に行った琴音は、近くにいた兵士に無理矢理避難させられ、静蘭を連れて行くことが出来なくなってしまったのだ。
「私が……私のせいで……」
琴音は地面に顔を埋めて、泣き崩れていた。
彼女が修二を責めきれないのは、自分にも落ち度があると考えていたからなのだろう。
出水を救いきれず、助けられなかった修二。
静蘭を助け出せず、敵の手に掛かってしまった琴音。
同じ想いだった二人は、絶望に打ちひしがれることしか出来なかったのだ。
「琴音、お前のせいじゃない。悪いのは全て……この事態を引き起こした奴らだ」
「……それで? そいつらはまた雲隠れしたんでしょ? それじゃあ……何の為に……」
結果的には、琴音の言う通りだった。
敵を誘い出すと言う目的の作戦を逆手に取られ、こちらの被害を甚大にしてしまったのだ。
なんとも情けなく、不甲斐ない結果だった。
「……奴らは、俺が皆殺しにする。出水も静蘭も、皆の仇は俺が討つ」
そう言い切り、強く発したその言葉に、琴音は何も返すことをしなかった。
琴音が今、何を考えているかは分からない。
修二と同じように憎しみを持ち、復讐を誓うか。
それも一つの手かもしれない。
だが、それは修二が望むところではなかった。
「あなた一人で……何が出来るの?」
それは、酷く修二の心を打つ言葉だった。
誰も救えなかった修二だからこそ、それは耳が痛い言葉だ。
でも、だからこそ、修二は――、
「一人だから、やるんだ。もう、誰かの力を借りるなんてことはしない。俺は……もう止まれないんだ」
孤軍奮闘の意思を見せて、修二は再び歩き出した。
それさえも逃げであることを、修二自身は気づいていない。
琴音は、そう言って去る修二の背中を見つめ、ポツリと呟いた。
「修羅になって、その先に幸せなんてものはないわ……あんたも、私も……」
△▼△▼△▼△▼△▼
琴音と別れ、決別し、修二は静蘭のいる病室の前へと来ていた。
その扉をゆっくり開いて、修二は個室となったその部屋の奥、ベッドに眠る神田静蘭の姿を見た。
彼女は、ベッドに横たわったまま、動くような素振りは見せない。
「きたか……修二」
「神田……」
ベッドの横には、酷くやつれた神田慶次が椅子に座っていた。
彼は、妹である静蘭の看護に努めていたのだ。
もう、ずっと寝ていなかったようで、その目には隈が出来ていた。
「医師が言うには、びまん性低酸素性脳症と呼ばれる症例らしくて、このままだと静蘭はずっと植物状態らしい……。回復方法は、今のところは延命措置をする以外には何もない……と」
「植物状態……」
呟き、修二は静蘭を見た。
眠っているかのように見られた彼女の目は、薄らとだが開いており、それでもここにいる修二は神田のことは認識出来ていないようだった。
意識はあるように見えるが、目で見える外の世界を認識することさえ出来ていないことは、医学に詳しくない修二でも見て取れた。
「回復する可能性はあるらしい。静蘭は若いからって。でも、数ヶ月もこの状態が続けば、回復する見込みは……」
「――――」
聞いていて、目眩がしてくる最悪の情報だった。
静蘭はまともに思考することも、体を動かすことも出来なくなってしまっている。
その上、この状態が長く続けば、間違いなく長く生き続けられる保証もない。
医者にも、修二にも、神田にも、静蘭を完全に回復させる手はどこにもなかったのだ。
「俺の……俺の責任だ。補給地点を守る為に動いていた筈なのに、いつの間にか敵が侵入していたんだ……っ!」
「……神田」
神田は、自らの責任と取るように、小さく叫んだ。
その悲痛な叫びを、その場にいた修二だけが分かってあげられた。
彼も同じなのだ。
何一つ守れず、失い、自分だけが生きて残ってしまっていること。
自嘲的に笑いたくさえなってくる。
何の為の特殊部隊なのか。元々は日本人を、人類を救う為に構成された部隊が、結局のところ、何の役にも立たなかったのだ。
「静蘭をこんな目に合わした奴の特徴は知っている。単独で補給地点に攻め込み、モルフを従えて襲わせたとも聞いている。白装束に身を包み、二本の剣を持った女だと。修二、何か知っているか?」
悲しみの感情から怒りの感情へと変わるかのような、そんな声色で神田は尋ねてきた。
修二は、神田の言う単独で攻め込んできた女のことを見たことがあった。
「俺も、そいつとは一度だけ前線で遭遇したよ」
「なに?」
修二の返答は予想外だったようで、神田は立ちあがる。
「急に襲い掛かってきて、特に被害はなかったけど逃げられたんだ……多分、あの動きは『レベル5モルフ』だと思――」
言い切ろうとしたその直前、修二は神田に胸ぐらを掴まれ、全力でぶん殴られる。
壁に背中から打ち付けられ、修二は肺に溜まった空気を吐き出すように咳き込んだ。
「なんで……なんで逃がした!? お前がそこで仕留めていれば……こんなことには……っ!」
「――――」
「被害はなかった? それだけの重要人物を、なぜ殺さなかったんだ!! 捕縛でも考えていたのか!? 俺は……俺たちは、兵士なんだぞ!!」
怒りの言葉を受けながら、修二は言い返そうとは考えなかった。
神田の言い分が正しいと思っていたからだ。
あの時、修二は白装束の女が逃げた時、是が非でも追跡するべきだったのだ。
たとえ殺せなくとも、それで奴の動きは阻害できた可能性もあり、そうすれば補給地点でのあの出来事はなかったこともありえたのだから。
だから、修二の返答は琴音の時と同じだった。
「――すまない」
「――っ!」
神田は、尻餅を付いた修二へと再び殴り掛かろうとしたが、振りかぶったところで手を止めた。
そのまま殴り掛かろうとはせずに、悲痛に歪めた顔を冷静になろうと意識しているのはうかがえた。
「……悪かった」
「いや、神田の言うことは間違っていない。全ては……俺の責任だ」
「いや、違う。悪いのはあの白装束の女だ。お前も、精一杯だったんだろ?」
怒りを鎮めて、冷静になることが出来た神田は、先ほどとは打って変わった発言だった。
心の底では、先程の激昂こそが本音だったのかもしれない。
そうして、修二は疑おうとはするまでも、神田の意見は間違ってはいないと認識しており、考えるまでもなかった。
「白装束の女は、間違いなく『レベル5モルフ』だ。動きも反応も、人間とは程遠い桁違いなものだった」
「椎名と同じ……か」
椎名と同じと言った神田の言葉を受けて、修二は言葉に詰まった。
確かに、同じだ。
ただ、彼は知らなかったのだ。
今、目の前にいる笠井修二も同様に『レベル5モルフ』であることを。
「――――」
出来るならば、今ここで全てぶち撒けたい。
何が守秘義務か。重要な情報を仲間に黙っておいて、それで選択肢を減らして何の意味があるというのか。
だが、それを放棄するということは、風間や桐生、日本を裏切ることと同義でもあった。
後ろ盾が無くなれば、修二に残されるのは強制的な隔離になる。
そうなれば、復讐に出ることも出来なくなってしまうのだ。
「神田、話しておきたいことがある。大事な……話だ」
修二は、神田へとあることを伝えた。
その傍らでは、ベッドに横たわる静蘭がいて、微かにだが指が動いていたことを、彼らは気づく由もなかった。
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修二は静蘭の病室を離れて、これからの展望について考えていた。
出来ることは限られていた。
修二は『レベル5モルフ』であり、行動を制限される身だ。無作為に動くことは許されず、簡単にはいかないことも承知だった。
だが、風間や桐生を信用できないことも事実だ。
彼らは、椎名を国外へと赴かせ、何らかの任務につかせていると言っていた。修二と同じく『レベル5モルフ』の力を持つ彼女をなぜ、そんな危険なことに立ち回らせたのか、たとえこの日本自治区にいて危険だとしても、修二からすれば考えられない所業でもあったのだ。
ともかく、何か行動を起こすべきだとは考えてはいた。
このままでは、近い内に修二の近くには監視を置かれるのはまず間違いない。
そうなれば、思うように動けなくことも事実であった。
考えて考えて、それでも答えは出てこない。
椎名も、今はどこにいるか分からない。
たとえ、どこにいるのか分かったとしても、そこに向かえば椎名が危険になることになってしまう。
それは許されないことだ。
だからといって、何もしないということも修二は自分を許せなかった。
何一つ、言葉も発さずに、誰一人話しかけることすら出来ない雰囲気を見にまといながら、歩いていた時だった。
「やあ、キミ、風間司令の部下の一人だよね?」
修二の前に、高そうなスーツを着こなした、外国人の見た目をした男がいつのまにか立っていた。
身長はかなり高く、百九十センチ近くはあるような男性だ。
髪は茶色に染められており、恐らく地毛なのだろうが、その見た目はハリウッド俳優にいるかのようなハンサムな顔つきをしている。
「――あんたは?」
「くく、私にあんたなんて声を掛ける者がいるとはキミも良い度胸をしているな。いや、失礼、別に怒っているわけではない。しかし、ここに護衛を連れてこなくて正解だったよ」
只者ではない雰囲気を漂わせながら、そう返す男に、修二は警戒した。
警戒の理由は分からない。
ただ、この男からは何か、危険な香りを感じたのだ。
「そう硬くならなくてもいいよ。私の名はシェリル・シャルロット。このアメリカという国で副大統領をしている者だ。よろしくね」
「副……大統領、だと……。どうしてこんなところに?」
「君の疑問も一理あるね。理由としては護衛を撒いて逃げてる最中でもあるのだが、良ければ手を貸してもらえないだろうか?」
そう言って、困った顔をしてシェリルは修二にそうお願いした。
片棒を担いだことで何かしらの処分を受けかねないと考えた修二は、余計なトラブルは避けようと考えて、
「……すみませんが、俺も今は忙しい身なんです」
「ふむ、それは困ったな。一度、キミとは話をしてみかったんだがね」
シェリルは、あえてキミという言葉を使った。
つまり、修二自身に会いに来たとも取れる発言であったからだ。
それを聞いていた修二は、なおさら警戒心を強めた。
先ほど聞いた、風間の話を思い出していたのだ。
メキシコ国境線での作戦行動時、アメリカの要人がこの場所に来ていたという事実がある。
それは、この男が仕組んだものではないのかと、修二は疑ったのだ。
「キミの話は聞いているよ。日本でのあの惨事の時、自分の幼馴染を助けたそうじゃないか。アリスと二人だけでそれが出来るのはキミぐらいじゃないのかな」
「アリスのことを知っているのですか?」
聞き慣れた人の名前を聞き、修二は反射的に反応してそう尋ねた。
その物言いは、アリスと知り合いであるかのように聞こえたのだ。
「彼女は何度か私の護衛任務をお願いしたことがあったからね。戦力としても技術としても申し分ないから、継続雇用を打診したりはあったのだけど、もう何度もフラれているよ」
「それは……」
「その時にキミのことを聞いてね。アリスと行動を共にして、ガッツのある青年がいると彼女は言っていたよ。武勇伝を聞いてみれば、なんとも凄い話じゃないか」
「いえ……そんなことはありません」
シェリルの目線から外れるように、修二は顔を下へと向けて否定した。
話を聞いていて、納得がいっていた修二は、徐々に警戒心を解いていた。
そもそも、アメリカの副大統領とこうして二人で話せるなど、普通は考えられない話だ。
修二は言葉こそ選んではいたが、シェリルの言う笠井修二とは、そんな大層な人間ではない。
「俺は……俺は誰も救えませんでした。仲間が危険に晒されても、何も出来ずに……それなのに、のうのうと自分だけが生きて……結局、誰一人俺の周りには残っていなくなった」
自らの思いを吐き出すように、修二は拳を握りしめてシェリルを見た。
御影島で失ったクラスメイト達。
日本でモルフとなり、死んでいった者達。
メキシコ国境線作戦時に死んでいった隊員達。
更に言えば、唯一救えたであろう椎名さえこの場にはいない。
数え上げれば、キリなどなかった。
すべてを救うなど、思い上がりでしかないのかもしれない。
でも、すべてを救うことが出来なくとも、すべてを失うなんて結果はいくらなんでも不甲斐なさすぎていた。
結果、周囲からは糾弾され、いつしか、少し前にはあった仲間達との絆は断たれてしまっている。
そんなことを、笠井修二は自分を許せるとはなり得なかった。
自分の心情を吐露した修二を見ていたシェリルは、共感したように修二の肩に優しく手を置いた。
「キミは後悔しているのかい? 過去を?」
「ええ……戻れるのなら、どんな代償さえ払ってもいいぐらい、それは確かに……」
過去に戻れることが出来るのならば、どんな代償でも払う覚悟が出来ていた。
そんなことを考えるぐらいに現実から逃避してしまっていることに、修二は自分が馬鹿らしく思えてさえきていた。
失った命が戻ってこないのは、当たり前のことだ。
だから、失わせないように行動した筈なのに、修二の力は通用すらしなかった。
足掻いて足掻いて、その結果が今の結果だ。
「そうか……。キミはすべてを失ったということなのだね」
「……はい」
肯定以外の言葉はない。シェリルの言う通りなのだから。
諦めと絶望の感情が渦巻きながらも、その様子を見ていたシェリルは問いかけた。
「だが、キミはこのままで良いのかい?」
「え?」
「キミには……いや、キミ達には申し訳ないと思っている。日本の兵力が必要とはいえ、あんな危険な作戦に参加させたことを。犠牲者については、私の責任だ」
シェリルは、取り繕うわけでもなく、そう言って頭を下げて謝罪した。
「や、やめて下さい。こんな所で副大統領が頭を下げるなんて……」
それを見た修二は、焦るように周りを見渡しながら諌めようとした。
仮にも国のトップ2が、ただの日本人に頭を下げるなど、誰かに見られていたらたまったものではない。
そうして、シェリルは深々と下げた頭を上げて言った。
「キミに伝えたいことがある。いや、これは我々が独自に手に入れた情報の一つなんだが、是非とも聞いてもらいたいんだ」
「情報……ですか?」
シェリルの顔色が変わり、真剣そうな表情で修二を見る。
そして――、
「我々は、モルフウイルスを拡散、流出している敵組織のアジトを突き止めることに成功したんだ」
「――え?」
その言葉を聞き、修二は目を見開き、固まった。
その情報は、今、全世界の人間が望む値千金の情報だったからだ。
「ど、どこに! どこにいるんですか!?」
逸る気持ちを抑えながら、修二はシェリルへとその所在を尋ねる。
落ち着けるわけがなかった。
なにせ、今の今まで敵の所在はおろか、その組織名ですら判明しなかった連中だったのだ。
「待ちたまえ。キミにこれを伝えたのには理由があるんだ。まず、これはこちら側でも極秘に動いている任務になるのだが、修二君、キミにもその任務に参加してもらいたいんだ」
「極秘……? 風間司令はこのことを知っているのですか?」
「もちろんだ。桐生部隊長は既に敵アジトへと潜入を試みようとしている。キミはそれを追って、彼のサポートをしてほしいのだよ」
既に桐生が動き出していることを聞いて、修二は訝しむ。
桐生とは、数時間前に風間と話し合っていたばかりだ。
その時には、既に彼らはその情報を知っていたということになる。
「じゃあ……すぐに動かないといけないということですか? 風間司令の許可もいります」
その質問の意味は、説明こそできないが必要なものだった。
修二は『レベル5モルフ』であり、簡単に動いていい存在ではない。
それこそ、待機命令を出される可能性も十分にありえたのだ。
「既に風間司令の許可は取ってあるよ。今、キミ達日本人の部隊で動ける人間は少ない。よって、こちらで編成した部隊に混じり、キミも作戦に合流してほしいんだ。……申し訳ないが、今すぐということになる」
「となると……今すぐにということですね」
「装備についてはこちらで準備してある。外に黒い乗用車が停まってあるからキミはそれに乗り込んでくれ。既に話は通してあるから問題はないよ」
「っ、わかりました!」
声に出して、了解の意を示した修二は、すぐにでも動き出そうと病院の外へと駆け出そうとする。
しかし、確認し忘れていたことを思い出し、彼はシェリルへと振り向いた。
「あの……それで、連中のアジトはどこにあるのでしょうか?」
少なくとも、それだけは先に聞いておきたい情報であった。
国内なのか、国外であるのか、移動時間も考慮すれば部隊とのフォーメーションや準備をする必要があったからだ。
シェリルは修二へとゆっくりと振り向き、そして言った。
全ての原因となる敵組織、その連中の居場所は――、
「――日本だ。日本の首都、東京に奴らはアジトを構えていたんだ」
短いですが、幕間を残り二話を入れて第三章は終幕となります。
今回はかなりヘビーな内容にしたいと考えていましたが、実はかなり迷っていました。
気づいている人もいるかもしれないですが、本当は出水陽介はこの第三章で死ぬ予定でした。
ですが、個人的に出水は作者自身のお気に入りでもあったのと、最終章のプロット構成で必要なシーンがある為、こういった形になりました。
また、碓氷氷華については第三章のラスボスで登場させるつもりで書いていました。
彼女が世良望を嫌っているのは、嫉妬心からあるものです。モルフの研究に執着し、成果を出していた碓氷は、モルフの力を自身で扱うことが出来ないかと考えていました。
その中で、『レベル5モルフ』となった世良が現れたことで、碓氷はどんどんと非道な実験を繰り返していくことになったのです。
また、序盤で登場した白装束の女、リーフェンについてですが、彼女は一人で補給地点にいる軍隊を殲滅していました。正直、頭がおかしいレベルのチート設定です。(笑)
そして、主人公である笠井修二に関しても、『レベル5モルフ』の力を徐々に引き出してきています。
本当にこれからの修二を見てほしいのは、第一章からの彼と終盤に近付くにつれての彼との雰囲気が全く違っていくことです。
最終章の結末までのプロットは細かい部分を除いて変えるつもりはありません。
続いて、第四章へと幕が上がりますが、その主人公は笠井修二ではないです。
最後の展開から日本編へと続くと思われた方もいらっしゃるかもしれないですが、まだ先になります。
趣味で書いていましたが、少しでもブックマークや評価をくれて本当に嬉しかったです!
なんとなく、それだけでやる気が出ることも多いので、これからもよろしくお願いします!




