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Levelモルフ  作者: 太陽
第一章 『御影島』
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第一章 『御影島』 プロローグ

「嘘だ……」


 月明かりの夜、笠井修二は絶望に染まった顔でそう言った。

 鈴虫が鳴き、季節は夏であるにも関わらず、彼の身体はまるで冷蔵庫の中にいるかのようにその身体を震わせていた。

 それは不安と恐怖、緊張からくるものであった。

 目の前にある光景を受け止めることが出来なかった彼は、そうした感情に縛られてしまっている。


 その状況は彼にとって予想だにしないものであった。

 何が起きているのか分からない様子で、心は恐怖と無理解の感情に塗り潰されそうになっていたのだ。


 なぜ、彼がそのような状況に陥っているのか、それは目の前にいるイレギュラーな存在がそうさせていた。


「ありえない……どうして……!」


 絞り出すかのような笠井修二の声を、前方のソレは応えなかった。

 眼前にいるソレは、ただただこちらに向かってズルズルと足を引きずり歩いてきている。

 それに相対するように、笠井修二も一歩一歩下がろうとしていたが、ゆっくりと、それでも確実に距離を詰めるようにソレは近づきつつあった。


 ソレは、腹部からは尋常ではない量の血を流し、出てはならないモノが出ていた。

 そのエグられたかのような傷は腹部だけではなく、肩や足、腕にもあり、人間ならばとても生きていられる状態とは言えなかった。

 出血の量も甚大で、普通ならば輸血を必要とするほどに地面にポタポタと血が流れ落ちていく。

 だが、ソレは痛みを気にする素振りも見せずに歩いてきているのだ。

 普通の人間ならば、そんな状態で平然としていられる筈もない。痛みに苦しんで、歩くことさえままならない筈なのだ。


 その状態を想像するならば、ゾンビモノの映画で登場するゾンビのようなものである。

 痛みを知らずに人へと近づこうとするその姿は、空想上の生き物そのものであった。


 しかし、実際にその状況を目の当たりにして呑み込むには、それを見ていた彼にはできないでいた。


 これが夢であれば、どれほど良かったことだろうか。

 だが、唇を噛む痛み、鉄臭い血の味がすることでこれが現実であることを改めて認識させられる。


 唇を震わせて、笠井修二は信じられないものを見る目で見ていた。

 動くことも、その場から逃げることさえ今はできない。

 恐怖もある。足が竦んでないわけでもない。

 ただ、そういった負の感情とは別に、彼が動けない理由があったのだ。

 なぜなら、こちらに向かってくるソレは――、




「なんで……何があったんだ! スガ!!」





 彼の大事な友達の一人であったのだから。



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