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復讐条例  作者: あまやどり
第2章 テレビ局殺人未遂事件
25/34

第25話 「なにか起きる予感がいたします」

今後もやっぱり週一更新です(/・ω・)/

まったりめでお付き合いいただけたら、と思います(平伏)

 当麻と万斗果はNテレビに移動した。無論、万斗果が「持ち物」であると言う、ロールスロイス・ゴーストの送迎付きで。

「いつも足代わりにして悪いな。交通費は全部万斗果に回すから」

「あら、精々ガソリン代ぐらいですわ」

「その油代にしたって安くないだろ。ハイオクだろうし、こんなデカブツ動かすんだから燃費の面でも」

 2人はNテレビの会議室に招集されていた。収録に予定されていた日である。

 入口の前には複数の見物人がいた。でかでかと局の正面に陣取る大きな時計のオブジェは、この局の名物である。そこに、音もなく停車するロールスロイス。

「うわっ」

「なにこの外車?」

 すわ有名人か、と身構える見物人たち。注視の中、車椅子の黒い少女が降りてくる。

「……はー。すっげえ」

 少女は一種俗世を超越した空気を(まと)っている。彼女の周囲だけ、温度が違っていた。非才なるものはそれに惹きつけられてしまう。気後れしないのは、強固な精神力の持ち主か、何かが破綻した人間だけだろう。

「アイドル?」

 構えたスマートフォンで撮影することも開いたままの口を閉じることも忘れて万斗果を見送る見物人たち。彼女のことは後々まで話題に上っただろう。そして、車椅子の後に続いた冴えない印象の薄い男のことは、数分後には存在ごと忘れたに違いない。

「なんでこんな、悪目立ちする連中と組まなきゃならないんだ」

「あら、業腹ですわね。わたくしは一言も喋っておりませんよ?」

「存在が目立つんだよ」

 とんでもない難癖だが、掛け値なしの本音だった。

「わざわざ正面でなくても、地下駐車場に停めれば目立たなくていいのによ」

「あの車では、地下への段差で底をぶつけてしまいますから」

 車体が長すぎて、勾配に対応できないらしい。

「それ、割と車として致命的じゃないか?」

 些細(ささい)なやり取りの後、控室に入った。


 事前に収録を言い渡された日であるが、集まってみれば事情が変わっていた。スタッフがバタついている。

「悪いけどまだ修正作業でてんやわんやで。オープニングだけ撮ったら待機してもらうことになりそう」

 入るなり、サードADアシスタントディレクターに言われる。寺蔵(じくら)の件で、スタッフはおおわらわだった。なにせ現役の復讐条例調査人の逮捕だけあって、ニュースで報道もされていれば、新聞の一面にも載っている。

「すみません」

 意義路(いぎろ)は深く頭を下げた。NPAsが選出した調査人が犯罪行為を働いたとあっては穏やかではない。補助公務員待遇ということは、責任を国が取る、ということでもある。(たと)えそれが、名目上に過ぎないことであっても。

「どうにか対応するのでご安心を。NPAsさんに迷惑はかけません」

 首にタオルを巻いたスタッフが報告する。さすがにこの密談は放送できないらしく、カメラは回っていない。

「寺蔵の件、いちおうテロップで謝罪します? なら美術・CG制作室にテロップ発注しときますけど」

「いや、それだと対応軽すぎだろ。クレーム来たら大問題だ。いっそのこと大華先生に一言言ってもらえれば……」

「それだと逆に一大事みたいに思われるでしょ。大華先生悪くないし。落としどころは、菊尾さんか印田さんあたりに――」

 まだ方針が定まってないらしく、スタッフは丁々発止(ちょうちょうはっし)議論を戦わせている。

「ああ、寺蔵が捕まったからな。それに対する説明とか謝罪か」

 何せ公共の電波に「犯罪を働いていた者」を流していたのだ。N局や“ザ・チェイサー!”が責任を問われることは否めない。

「災難だったな」

とテレビ局に同情する。

「で、今回は寺蔵特集ですね!」

「うむ。モザイクで顔を隠して、寺蔵の映像を一気に放出しちまおう。緊急特集だ」

どうやら、話題になっているのを幸いと、収録した寺蔵の映像でもう一儲け企んでいるらしい。

「寺蔵の映像量ならN局(ウチ)の独壇場だ。来週の放送になったら話題性が下がる。今日目鼻を付けるぞ」

「了解です!」

 意気上がるスタッフたち。

「商魂たくましいと言うか、なんと言うか」

「同情する必要はなさそうですわね」

 涼しい顔で万斗果が告げた。



 “ザ・チェイサー!”はオープニングを定期的に撮影する。調査人たちが織りなす生の表情の変化を収めたい、という大華典膳(だいか・てんぜん)の意向だった。が、その収録も話題の伊勢乃木貴美(いせのぎ・たかみ)の欠席から、あまり締まらないままに終了してしまった。

「なんだ、あの和服美人はいないのか」

 中には、露骨に失望しているスタッフもいる。

「あんな目立ちたがり女なんかより、私の話を聞きなさいよ!」

 嫌煙女こと、教師の穂塚聖子(ほづか・せいこ)がキンキン声でがなり立てている。

「貴美は、目立ちたくて目立ってるわけじゃないだろーに」

 ボソリと貴美の弁護をする。

「逸材は尖った槍と同じ。麻袋に入れておいても、突き破ってしまうものだ。という中国の故事がありましたわね」

 才能故に結果的に目立ってしまうのであって、貴美の意図とは異なる。

「前回の放送分はどういうこと? 私の50時間考えたプランをカットして……! だいたい、アンタらFランは――」

 一般的に、テレビ局に勤める人材は高学歴者が多いことを穂塚は知らない。

「これも教師の特徴だなあ」

知らないでおきながら、自分の知識に誤りはないと妄信している。

「なぜだか、俺が公選調査人に選ばれたことよりも、あのオバサンが選ばれたことの方がアウトな気がする」

 穂塚よりも精神的に成熟しているスタッフたちは、適当に受け答えしつつ流していた。

 収録が一段落すると、他にも謝罪行脚の予定があるらしく意義路はすぐに去って行った。


 当麻たち調査人は基本外様である。収録の進行に関われない。調査人の面々は控室に押し込められたまま、ヒマを持て余していた。スタッフたちは寺蔵の件にかかり切りになっているようで、何の音沙汰もない。

「こりゃあ、今日はこれで終わりじゃないか?」

と思っていると、

「お先に失礼しまぁす」

バッグを肩にかけ、菊尾レイはさっさと出て行ってしまった。マネージャーや、同じグループの樫内洋志(かしない・ようし)国塔陽区(くにとう・ようく)の取り巻き連中もそれに従う。


(さては、午後は収録はないと踏んで休みを入れたか?)


 アシスタントをしている菊尾は“ザ・チェイサー!”の内情に詳しい。スタッフも寺蔵特集を企んでいた。これ以上スタジオに留まっても無駄に終わると判断したのかもしれない。

「あっさりしたもんだな、おい」

 それを見て同様の判断をしたのか、須田卓也(すだ・たくや)富井内人(とみい・うちと)野可部花(のかべ・はな)のEチームもさっさと帰り支度を始めた。扉を開け、働きアリのようにせわしなく動き回っているサードADを見つけ、捕まえる。

「なあ、今日はもう帰っていいんじゃねえカ?」

 悩むこと4秒。

「んー、念のためにいて欲しいんですが。重要な用件があるならいいですよ」

 調査人の出番はない、と判断したのだろう。野可部が電話をした。

「意義路さんは、“後で半休の申請をするならば帰ってもいいですよ”ですって」

「よっしゃ帰るか」

 3人はぞろぞろと控室を出て行った。Dチームの椎田恵(しいだ・めぐむ)の姿もいつの間にかない。

「んー、俺らも帰るか?」

 万斗果に問いかける。

「いいえ、帰るのは止めておきましょう」

 すました顔で少女は言った。

「いるのか?」

「なにか起きる予感がいたします」

 黒い少女は、にっこりと微笑んだ。



各坐(かくざ)か、つまらん。せっかく珍重な発見をしたというに、主張する場を設けられんとは」

 兵藤勝成(ひょうどう・かつせい)(つぶや)いた。

「発見? 何のことです?」

 当麻の質問に、兵藤は言い渋った。

「まだ勘弁してくれ給え。今度、万座の席で言いたいのだ」

 

(もったいぶるほどの内容か?)


 尊大な性格に相応(ふさわ)しい成果を抱えているのか、と(いぶか)る。が、次の言葉に凍り付いた。

「“切り裂きジャック”について、大きな発見をしたものでな」



(ジャック……サツキの? 何だってんだ)


当麻には気遣(きづか)わしいことこの上ないが、探ろうにも

迂闊(うかつ)に漏らして、出し抜かれてはたまらんのでな。我慢してくれ給え」

ときっぱり言われてしまっては、食い下がるわけにもいかない。


比嘉石弥栄(ひがいし・やえい)の死体は裸だった。サツキや俺に辿(たど)り着く証拠は何も残してないはずだが)


 結果当麻は、悶々(もんもん)と悩み続ける羽目になった。


(俺の読みが正しいなら、兵藤は警察(ムラ)の出身だ。特殊なノウハウを心得てて、マンホールまで突き止めたとか? いや、それにしたって)


「だーかーらー! 私にそんなこと言わないで!」

 思考は耳に障るヒステリックな声に遮られた。叫んでいるのは穂塚聖子(ほづか・せいこ)である。

「私はそんなことする人間に見える? 見えないでしょ! 華々しい成果の数々を持つ私によくも……」

 電話相手と何やらもめているらしい。

「よくもまあ、あそこまで自分に自信が持てるもんだ」

 思考の迷路に(はま)り込んでいることを悟って、当麻は考えるのを辞めた。少なくとも、他人が大勢いる控室でわめき散らしている時点で常識はない。

「さぞかし頑丈な鼻をしていらっしゃるのでしょうね」

 愉しそうに万斗果が言う。

「ピノキオや天狗より長い鼻をしてそうだからな、あのおばさん。忙しいならさっさと帰ればいいだろうに」

「忙しい=有能と誤解して、周囲にアピールしているのでは?」

 万斗果の推測も容赦がない。

「その割には電話での会話が、本人の性格並みに(こじ)れてる様子だったけどな」

 当麻はパイプ椅子に座り込んだ。帰りたいが、万斗果に帰る意思がない。甲斐老人の復帰が絶望的で、且つ伊勢乃木貴美が活動に不自由な今、チームが割れて行動することはデメリットしかなかった。


(車椅子のコイツ(万斗果)だけ置いて帰るのと、さすがに非難されそうだしな。しかし、なんだって収録もなさそうなテレビ局なんかに残ってるんだ?)


 横顔を盗み見ると、黒い少女は平然と本を読んでいる。

「おもしろいのか? それ」

 当麻は暇潰し用の本など携帯していない。

「はい、時間を忘れて読んでしまいますわね」

「どんな本だよ?」

「夢野久作の“ドグラ・マグラ”です」


(“読んだら気が狂う”とか言われてる本じゃねーか!)


図書館が閉鎖して、完全予約制になってしまいました(´;ω;`)ブワッ

不便でしかたない(汗)

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― 新着の感想 ―
[一言] なんというか、不意のアクシデントっていうのは何処の業界も大変ですよねえ(*´∀`)♪ まあ、しかしなんというか穂塚さん、教師云々以前に良く社会人やれてたな、この人という域に突っ込んでいってる…
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