文学少女はストーカー
「なあ、ちょっといいか」
声をかけられて私は顔を上げた。そこには一人の男子が少し困った表情をして立っていた。彼とは近所だけどほとんど話したことがない。
「どうしたの?」
「ちょっと相談があってさ。ちょっとこれを読んでみてくれ」
そういって2枚の紙を僕に差し出した。話がよくわからないが、とりあえず紙を開いてみる。
吾輩はあなたの恋人である。名前はまだ言わない。どこであなたを好きになったかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でチラチラ見ていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて恋愛というものを知った。…
私は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の浮気相手を除かなければならぬと決意した。朝早く集まり、あいつと遊んでいた。私はあいつに対しては、人一倍怒っている。きょう未明私は家を出発し、野を越え山越え、遠くはなれたあいつの家にやって来た。…
「出来はひどいし、気持ち悪いね」
「こういうのが毎日下駄箱に入っていたんだ。心当たりない?お前文芸部だし、たしか妹さんも文芸部だっただろ?内容からして本が好きな人だとは思うんだけど」
「うーん、わからないなあ。本好きが必ず文芸部に入るわけでもないし。この2枚目の相手って確か」
「彼女だよ。友達に言われて今は少し距離を置いているんだけど」
うわぁ、何も言えないことがなんだか申し訳ない。せめて何か手がかりだけでも。
「このデートは何時?」
「土曜の朝早くからだよ」
「その予定は誰にも言ってない?」
「誰にも言ってない」
「確かいろんな人に彼女できたこと言いまわっていたよね」
「嬉しくって、つい」
「だとすると休日に部活していない文化部の後輩だよ、たぶん」
「えっ。どうしてわかるんだよ」
「二人が付き合っているのは人気者だから3年のほとんどが知っているけど、これを書いた人は知らなかったから1・2年のどちらか。土曜日はたいていの運動部が練習しているから文化部かなって」
うちの学校は部活参加が義務だ。帰宅部はない。
「なるほど。お前、すげーな」
「こんな簡単なことしかわからないけど。一応妹にも聞いてみるよ」
「いや、助かったよ。サンキュー」
そう言って彼は手紙をもって教室から出て行った。
休日に部活していない文化部の後輩、しかも朝からつけれる。
「まさかな」
そう独り言を言いながら念のため、妹に電話をした。
近くから着信音が聞こえた。