空白
私には何も無い。
私は、一般の人より空白が多いのだ。
私には、<削除>が分からない。
私は、<削除>されているのかがわからない。
私は、私ではない。
そういう日々を送ってきたのだ。
そう感じざるを得ない環境だったのだ。
それが、私の運命だったのだ。
ある日までは。
私は1人の青年と出会う。趣味が同じただの青年。
私は私ではない顔で、私ではない感情で
私ではない言葉で彼と会話をする。
楽しんではいなかった。
ただ、疲れがたまる。ただ、空白が増えていく。
そんな会話だった、私が気づくまでは。
彼は、私と同じ空白を抱えていた。
彼も私と同じように彼ではない顔で、彼ではない感情で
彼ではない言葉で私と会話をしていた。
彼に通ずる何かを感じることが私には不思議だった。
そこから、私の中に疲れがたまることも
空白が増えることもなかった。
彼と会話をしている間だけは。
彼も同様、私の空白を感じ取ったのだろう。
私達が似ている、そう表現した。
似ていて非なるもの、これはそうではないかと
私は思った。似ているだけで、根本は違う。
私と彼は空白を持つが、私と彼の空白は違うものだ。
似ている、それだけで表現していいものではないと感じた。
でも、言い得て妙なものなのだ。
似ている、否定はできない。
私も感じ取ったものだ。肯定できる。
似ていて非なるもの、肯定は難しい。
非なるものという判断がつかないからだ。
私はこの考えに結論を出すことを諦めた。
似ている、それでいいと思ったからだ。
彼と会話を進める。
いつからか私は楽しんでいた。
「私」が楽しんでいた。
空白が埋まっていく。
疲れは消えていく。
居心地がいい。
彼は言った。私を好きだと。
私は迷う。
私とは、どっちのことか。
彼が捉えている私は、私なのか。
私は悩む。
私はわからない。
<削除>がなにかわからない。
どういうものなのかよくわからない。
不安で、恐怖で、苦痛で、
私は思考をやめた。
心が叫んでいる。
私は、惹かれている。
私は、<愛>されている。
これが、<愛>だ。
私は答える。
私は私として言葉を紡ぐ。
恐れてはいけない。
彼は、彼なら、受け止めてくれる。
そう、思ったからだ。
「私も、君が好きだよ。」