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迷宮白書  作者: 深海 蒼
70/71

70話

年始からバタバタと引っ越しして最近少し落ち着きました。また定期的に更新できれば良いなと思ってます。


 「朝霧の森林」の探索を開始してから10回を超え、そろそろ20回に差し掛かろうかという時に、拳児達は林道を歩いている途中で猛烈な濃霧に身を包まれた。強風が吹いている訳でも無いのに自分たちを取り巻くように吹き付けてきた霧に拳児は顔を顔を手で庇いながら大声を出して声をかける。


「大丈夫か!?」

「ちゃんといるわ!」

「こっちも大丈夫!」


 拳児の問いかけに拳児の後ろを歩いていたマリエルと殿を務める綾子の返事を聞き、その場で足を止める。顔を左右に動かして周囲を見渡すが、拳児の視界から先は本当に濃霧が広がっており、1メートル先も見えているかどうか定かではなく、距離感も狂っていた。


「本当に凄い濃霧ね、前が見えないわ」

「あぁ、そうだな」


 拳児の横に並んで歩いていたフランの言葉に頷きながら周囲を見渡して同意を示す。濃霧が出たら一旦足を止めるという事前の対応を相談していたので、そのまま全員で一塊となって周囲を見渡していると、少ししてから軽い音がしてきた。地面に生えている草の上を歩いている、草の鳴る音が複数近寄ってきて、濃霧越しにその姿が見える。確かに人影、大きな影だ。その影が合計3つ、拳児達の正面に現れた所で、その影から低い声が響いてきた。


『人よ、こちらだ』


 低く唸るような、それでいて機械音声じみた声色に拳児達は強い違和感を覚えたが、その違和感を無視して恵がその声に返事をした。


「ちょっと待って、私達はあなた達に用事があって来たのよ。属性球を集める為に来たの、ダンジョンの機能をいくつか解放したいの」


 すぐに背を向けて前に進もうとした人影を呼び止めるように恵が言うと、その人影はピタリと足を止めて拳児達へ振り向く様子を見せた後、3人分の人影が一箇所に集まった。どうやら相談か何かをしているらしいという雰囲気を感じ取った拳児達に対し、相談を終えた人影が再び三人に分散した後で、今まで進もうとしていた道から右手の方向へと移動した。


『人よ、こちらだ』


 再び響いた機械音声のような声に促されて彼らの後ろを拳児達は歩き始め、濃霧の中を進む事となった。道を進んでも一向に先を進む大きな人影との距離が縮まるのを感じない事に違和感を覚える拳児だが、その違和感に関してはニアも感じ取っていた。


「なんか、変。霧で誤魔化されてるんだろうけど、少しぐらい距離が広がったり縮まったりするのが普通なのに、影の大きさが一定から変わんない」

「俺達と付かず離れるで歩いているって事か?」

「いや、多分魔法か何かで影の大きさを誤魔化してると思う」


 ニアの言葉を受けて拳児が問いかけたが、その回答としてニアが提示したのは別の可能性だった。影の大きさを自在に変えられる、もしくは自身の姿形が自在に変えられる能力なのか、不明ではあるが現状では間違いなく正体の判明しない存在が道案内をしているという状態だった。そんな彼らの後ろを付いて歩いていると少し右に曲がったり左に折れたりと、進行していた方角が分からないように誤魔化されて歩かされているのを感じていたが、それでも拳児達は自分達の前に姿を現した影の進む方向にピッタリとついて進んできた。そうして30分程歩かされた所で道の先から強烈な光が発せられた事で、拳児達は全員咄嗟にマジックシールドを展開した。


「どうした!?」

「わっかんない!」


 猛烈な光に目を瞑りながら拳児と恵が大声で言い合うがとりあえずマジックシールドに何らかの衝撃などは伝わって来ない事を確認しながら薄く目を開けると、そこには完全に霧の晴れた、広い丘のような場所に辿り着いた事が分かった。


「え、森じゃない!?」

「天然芝の丘?」

「すっごい」


 自分達が今居る場所が森ではなく丘になっている事に驚きながら周囲を見渡し、その景観の良さにレテスとニアが軽く喜びながら言うと、拳児達の前に3体の人影、というか人形のモンスターがやってきた。ドーベルマンのような精悍な顔つきをした、多毛種よりもキリリとした顔をした犬の頭が付いた人形のモンスター。マリエルとニアと余り変わらない大きさの人型モンスター、コボルトと呼ばれる種族だった。その3人が鎧に身を包み手にはランプを掲げていた事が分かる。背中にはそれぞれボウガンと剣、そして杖を背負った3体のコボルトのうち1人のコボルトが、ハロウィンのカボチャのように顔が書かれた小さなカボチャを口の前に差し出して、そこに息を吹きかけると先程と同じ機械音声のような声が響いた。


『人よ、こちらだ』

「息を吹き込むと入力された言語に変換されて出る道具ですね。フィーリアスで行われるお祭りの屋台とかで子供向けに売られているのとほぼ同じ魔道具の類かと」

「魔法のオモチャみたいなものか」

「そういう事ですね」


 レテスの説明にフランが納得したのを見てから、コボルト達は再び拳児達に背を向けて道の先を進み始め、慌てて拳児達も付いていく。その道中でニアが彼らの姿を見て頷いていた。


「手にしたランプも魔道具だと思う。濃霧に映る影の大きさを一定に拡大して見えるように出来るんじゃないかな」

「実際よりも影が大きく、距離も誤魔化して見えるって事か。濃霧みたいな距離が分かりにくく影が反射しやすい場所であれば有効なのね」


 ニアの説明にマリエルもうんうん頷きながらその道具の効果を予測しながら道を進み、丘を登って少し見晴らしの良い場所に出ると、緩やかな坂の下に、木製の杭を柵にして囲まれた茅葺き屋根がいくつも建っている集落が見えた。


「見るからに集落ね」

「コボルトの村って事か」


 見たままの感想を綾子が呟くとコボルトの1人が軽く同意するように首を動かしてから再び道を歩き始める。集落に向けてそのまま一直線に道を進むのを後から拳児達も続くと、集落の入口側へと差し掛かると、集落の入口前にはわらわらとコボルト達が集まっているのが見えてきた。その様子がどうにも犬が集まっているだけに見えてしまい綾子が思わず広角が上がるのを感じていると、その集団の中に1人、明らかに『色』が違う存在が人型の何かが居た。


『ケネルさん達、どうもお疲れ様でした。それで、属性球の事で話があると伺いましたが』

「その前に一ついいですか。レトロゲームの反射型液晶みてぇなカラーリングだなあんた!!」

『おや、そのような知識をお持ちとは。興味深いお客様が来たようですねぇ』


 奏でるようなバリトンボイスが出てきた古い機種の液晶のようなグレーと緑、黒のグラデーションで作られたホログラフィにしか見えないその人物に対して拳児が思いっきり突っ込むと、相手からは好意的な返事が返ってきた。その様子を見てコイツはダンジョン側の存在で、どうもこのダンジョンの成り立ち自体が急に胡散臭くなってきた事をフランは嗅ぎ付けてしまうのであった。

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