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迷宮白書  作者: 深海 蒼
69/69

69話


 フィーリアス大迷宮のエリアの一つ「朝霧の森林」は、文字通り薄い霧を常に纏う神秘的な森である。出てくるモンスターも植物、動物系の分類に入るモンスターが多い為、安定した稼ぎを狙いたい冒険者は基本常勤している場所である。現在は坑道にて例の『月鉱石』ラッシュが発生している為ほとんどの冒険者が坑道へ潜っている為、平時であれば1、2を争う人気のエリアでも人はほとんど居なかった。そんな中をモンスターと遭遇しながら拳児達は道を進んでいく。自転車程度のサイズのイノシシが鼻を鳴らしながら思い切り突っ込んで来た所を、拳児は手にした棍を平に構えて真っ直ぐイノシシの額に突っ込んだ。


「グヒィイイッ!」


 額から思い切り突っ込んだイノシシは盛大な悲鳴を上げながら地面を擦りながらスピードを殺して前進する。拳児は既に正面から退避してイノシシの動向を観察している状態だ。地面に顔を埋めながら足をピクピクと動かしていたイノシシだが、少しすると痙攣を止め、停止する。その様子を見てから拳児が周囲を見渡すと、仲間全員が何らかのモンスターと対峙している状態だった。フランチェスカと恵は火を吹くキノコと攻防を行っており、綾子とレテスティアが蔦をムチのように振り回す巨大なウツボカズラと戦っている。そしてマリエルとニアは上空を飛び回る巨大なツバメを狙撃している状態だ。さてどこに混ざるかと一瞬検討してから、拳児はマリエルとニアの所に跳躍した。足元にマジックシールド、魔法の盾を展開して飛び乗り、それを何度も繰り返す事で空中を足場にして飛び上がり、マリエルとニアの狙撃を避けながら旋回を繰り返すツバメのルートの一つに拳児が突然立ちふさがる事でルートを潰し、拳児は正面からツバメに棍を振り下ろす。


「ギャピッ!」


 中々奇妙な鳴き声を上げた巨大なツバメは、その一瞬を突かれてニアの光の矢が胴体に突き刺さり落下する。空中に拳児という壁が現れた事で今までヒットアンドアウェイで戦っていたツバメ達は戦術が狂ってしまい、動きの統制を欠く。その隙をマリエルとニアは的確に狙った。マリエルは小さな石を四角状にして射出して面制圧を行い、ニアは精密な射撃へ確実にツバメを落としていく。そんな彼女達の動きをカバーするように拳児は空中を駆け回りツバメの前に立ちはだかり進路を妨害しながら撃墜していく。そんな作業によりツバメを全滅させた所で拳児は空中から飛び降りてマリエルとニアの前に降り立った。


「お疲れ様、拳児」

「あぁ、そっちこそお疲れ様」

「文字通り飛ぶ鳥を落とすならやっぱり壁に追い込むのが一番だよね」


 着地した拳児に地上に待機していたマリエルとニアが声をかけ、すぐさま撃墜したツバメ達の解体を始める。このデカいツバメは嘴と羽根に素材としての価値はあり、また肉は普通に鳥肉なので食べられる。とはいえ食用に飼われた鳥では無い為味はそこそこで価格もそこそこ、手を加えれば美味しく食べられる程度の下味であり、大量生産のブロイラー並に生鮮食品の棚に並ぶ庶民の味方な食肉であった。このツバメに比べると先程拳児が倒したイノシシの方が食肉としての価値は高い。だがそれで折角ある肉を粗末にするのも嫌なので、三人で仲良く羽根を毟ってからナイフを入れて解体した。それぞれ荷物袋に素材を入れたのを確認して立ち上がると、フランや他の面子も相手していたモンスターをしっかり始末して、後片付けの段階に入っていた。相変わらず火を吹くキノコだけやたら意味不明だなと浅く考えていた拳児に対し、ニアから問いがかかる。


「それで、上空飛んでみてどうだった?」

「全然、そんな濃霧なんて見えなかった」

「そっかぁ」


 空中を飛び跳ねていた拳児にニアが問いかけるがその意味を理解した拳児はすぐさま首を振り、ニアはがっかりした表情を浮かべる。そんな彼女に苦笑を向けながらマリエルが口を開く。


「そうそう大きな変化が起きるようなものじゃないんでしょ、ダンジョンって。月鉱石も8年振りなんだし」

「そりゃそうだけどねぇ」

「ある程度の時間は必要ではあるだろうなとは思うよ俺も。とはいえ具体的な予兆とかそういうのがあるのかも全く分からないからな、こればっかりは」


 マリエルの言葉に落ち込みを隠さずニアが言うと、拳児も苦笑を浮かべる。現在「朝霧の森林」を探索している理由には勿論ダンジョンのシステムが関わっており、そのトリガーが濃霧であるという情報が冒険者の聖堂にある書庫の資料から導き出された結論であった。元々全体的に薄い霧が漂う森の中に、ほとんど前が見えなくなる程の濃霧が立ち込める空間が発生し、そこに迷い込むと時間感覚と方向感覚が完全に狂わされてしまうという情報がギルドの資料にはいくつも出てきたのだ。そしてそんな霧に迷い込んだ先で複数の大柄の人影に遭遇し、その人影の後を追うと濃霧から脱出出来る、という話だ。その人影の正体は分からないが、間違いなくその人影に付いていけば濃霧を抜け出せるという話は割と有名な話らしく、森の守護者的な存在ではないかと言われていた。当然この存在に目を付けた拳児達は、その人影達に遭遇する為、今は「朝霧の森林」を探索している状態である。


「解体終わったわよ」

「この蔦とか何に使うの?」

「普通のあみ紐よりも丈夫なロープになるみたいです」


 モンスターの解体を終えた恵の後に蔦を持ちながら不思議そうな目をしながらフランが観察を行い、レテスがその使い道について説明する。確かに繊維質でモンスター産の蔦なので、普通の紐よりは幾らか頑丈なのは間違いないだろうと思いつつ、全員で合流する。そうしてお互いに情報交換を行う。


「本当に濃霧なんて現れるの?」

「そう簡単に現れるものではないみたいですから、気長に探索しましょう」

「1ヶ月に1度遭遇するかしないか、って話だったよね、このエリア常連の冒険者の証言だと」


 濃霧の存在に疑念を覚えるフランだが、レテスと綾子の冷静な返しに軽く息を吐いて諦める。グレスやギルド長、そして資料に書いてある情報ではその濃霧は1ヶ月に1度遭遇出来たら儲けものという扱いであり、ある意味突発的なアトラクションのような扱いであった。そのアトラクション扱いされる理由も、人影に誘導されて濃霧を出た先には珍しい果実を実らせた樹木やキノコ、益虫や薬草などが採取可能なボーナスエリアのような場所に行き着くからだ。傍には転移装置も出現していて、濃霧を彷徨ったご褒美としてそんなボーナスに遭遇出来るアトラクションこそが、拳児達の求める「属性球」の鍵であろうと行き着いたのだ。通常の動きとなんか違うな?が属性球に繋がるギミックであると前回の坑道で学習した為、今回も珍しいシチュエーションを狙うという方向性で全員一致している。なのでその濃霧に遭遇する為に拳児達はこの日も朝霧の森林を訪れてはモンスターを倒してお金を稼いでいる理由である。


「流石に1ヶ月すると月鉱石ラッシュは終わるわよね?」

「前例としては大体1ヶ月前後らしいから、1ヶ月後はさすがに坑道フィーバーは打ち止めで元の環境に戻るんじゃないかしら」


 現在ダンジョンに起こっている月鉱石の祭りについて恵が確認すると、綾子がその意見に同意を示す。過去の資料を当たってもその程度の期間で祭りは終わるという情報はしっかり残っていたので、大体1ヶ月前後とギルドも目算を立てて「今のうちに月鉱石を稼げ」と冒険者に発破をかけているのだ。今回8年ぶりに出てきた月鉱石が次は何年後になるか分からない上にこのフィーリアス大迷宮だけでしか確認されていないファンタジー鉱石なのだ、冒険者は元より貴族や政治家、治世者の多くは賞金を賭けてこぞって冒険者に依頼を出して採取させているのだから本当に大変なお祭り騒ぎである。そんな中濃霧を探している集団など、拳児達しか居ない。その事にある程度諦めをつけてから、拳児は水袋から水を飲み下しながら口を開く。


「そろそろ、お腹空いたな」

「ご飯にしよっか、丁度モンスターも片付けた所だし、すぐに近寄ってくる事は無いでしょ」

「賛成ね」


 拳児の呟きにフランがご飯、昼食を食べる事を伝えるとマリエルも同意する。モンスターが戦闘の末に倒された空間というのは、倒した者と倒された者の魔力の残滓等が残っている為、ある程度モンスター避けになる空間なので、そこを利用して拳児達は地面に敷く用に購入した丈夫な絨毯を広げて荷物袋からそれぞれバスケットなどを取り出す。


「じゃ、いただきます」

「今日はサンドイッチね」


 バスケットの中身を見ていつもお世話になっている小鳥の羽音亭の面々に心の中で礼を言いながら、みんなで美味しい昼食を開始するのだった。

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