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迷宮白書  作者: 深海 蒼
67/69

67話


 神殿にて高木の現状と目的についての情報を共有した後、拳児達はすぐに冒険者の聖堂へと赴いた。いつもの冒険者協会の窓口に辿り着くと、拳児が今日の目的を受付担当に連絡する。


「すみません、サポート登録している仲間の登録解除?というか奴隷契約からの解放をお願いしたいんですけれど」

「えっと――あっ、レテスティアさんですね。分かりました、少々お待ち下さい」


 拳児の言葉と同時に出された冒険者証を確認しながら手元の書類を確認し、記録が正確なのを確認してから受付担当はすぐに他の場所へと移動した。少ししてから受付担当が戻って来ると同時に、当時契約の時に立ち会っていたギルド職員であるエルフの男性がやってくる。


「用件を賜りました。それではコバヤシ様とレテスティアさんはこちらへお願いします」

「はい」


 拳児とレテスはエルフの男性に案内されるままに契約当時に使用していた小部屋の一つに入り、エルフの男性と向き合い椅子に腰掛ける。するとエルフの男性は懐から書類を取り出して、二人に羽ペンを差し出した。


「書面をよくお読みになってからサインをお願いします」

「分かりました」


 拳児は契約当時に読んだ書類の事を思い出し、これも契約書の一つかと思いながら書類を読み進める。記載された内容はやはり契約書の類で、サポーター契約の破棄による問題はギルドでは一切責任を取らない等、本当に解約通知書みたいな内容が記載されており、地球で自分でスマホの回線業者と契約した時に延々と読まされた解約特約の通知書を思い出したりしながら全て読み終え、署名欄に渡されたペンで記載を行った。レテスも同じく署名を終えた所で、差し出された二人分の書類の署名欄を確認したエルフの男性が一つ頷くと次へと進む。


「署名を確認しました。それでは次は契約の破棄およびレテスディアさんへの奴隷階級から市民階級への手続きとなりますので、金貨を10枚頂戴いたします」

「え、そんなもん?」

「普通の人からすれば金貨10枚は相応に大金ですよ」


 要求された金額の少なさに思わず拳児が呟くと、レテスが苦笑しながら言う。現在の拳児達の懐には月鉱石ゴーレムで得た4桁以上の金貨がある為「そんなもの」扱いになっているが、れっきとした高額ではある。なので拳児は袋の中からポンと金貨10枚を取り出してエルフの男性に渡すと、男性はそれを確認してから頷いて、懐から小さな水晶を取り出した。その水晶を確認して、エルフの男性がレテスに言う。


「それではレテスディアさん、腕輪を」

「はい」


 男性に言われた通り、レテスは右手に付いている腕輪を差し出すと、そのまま男性は水晶部分に水晶同士を接触させる。一瞬光ったと思ったら、レテスの水晶部分に嵌められた水晶の色が、ほんのりとした赤みが青へと変化していた。その様子を見てエルフの男性が笑顔で言う。


「おめでとうございます、これでレテスディアさんの戸籍は市民階級へと昇級しました。今日中には無理ですが数日後には書類上でも市民階級の証明書を発行可能ですので、なにか必要がありましたらご連絡下さい」

「はい、ありがとうございます」


 エルフの男性の言葉にレテスはにっこり笑ってから、腕に付けていた腕輪を軽く触り、スルッと腕から外してみる。


「……外れますね」

「それってやっぱり外れないものだったんだ……」

「奴隷契約の一つですから」


 今更ながら外せない腕輪が装着されていたレテスの腕を見て少し眉を寄せた拳児だが、それも今となっては過去の話なのでこれ以上追求する事は止めにした。その様子を見てエルフの男性も言葉を続ける。


「それは変わらずギルド証としても機能しますので、紛失や破損の際には届け出て下さい。再発行しますので」

「はい、ありがとうございます」

「では手続きはこれで終わりですが、他にはなにかありますか?」

「いえ、特にはありません」


 エルフの男性の言葉にレテスが返事を返すと、そのまま席を立つ流れになった為拳児とレテスも一緒に席を立つと、エルフの男性が軽く頭を下げてきた。


「それでは。また何か御用がありましたらギルドカウンターにてお願い致します」

「はい、ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 拳児とレテスはエルフの男性に軽く会釈をしてから小部屋を出て、他のみんなが待っている冒険者の聖堂中央にある、円形に配置された長椅子の1列に固まって座っているマリエル達の元へと戻る。仲良くおしゃべりをしていたマリエル達は、レテスと拳児の姿を見て座っていた椅子から立ち上がりマリエルが声をかけた。


「おかえり、契約は?」

「はい、無事解除されました」


 マリエルの問いかけにレテスが笑顔でスルッと腕輪を外してみせると、マリエルとニアはおおーと声を上げる。


「本当に奴隷階級から外れたのね」

「見た事無いよ私」

「そういうものなの?」

「そういうものなの」


 マリエルとニアが本気で感心している所にフランが微妙な顔で問いかけるが、マリエルは大きく頷く。つまり普通奴隷は一生奴隷のまま終わり、奴隷の子供はやはり奴隷階級の子供として生まれる事になる。だがレテスは今日その階級から脱した為、今後の人生は一般市民と何ら変わりない生活を送れる事が保証される事となった。それを実感してから、マリエルが口を開く。


「神殿では自分達が居なくなった後の事は知らない、って言ってたのに、ちゃんとレテスの後の事は考えてるわよね」

「世界の事は知らないけど、レテスさん個人の事は別だし。俺に責任がある状況で放って置くのも良くないじゃん」

「それは確かにそう」


 マリエルのからかいにも似た声色に拳児は苦笑気味に答えると、ニアが完全に同意して頷く。自分達が居なくなった後の『世界』の事はどうにもできない。けれど拳児には自分達が居なくなった後、レテスが再びどこかの知らない人間の奴隷になる事態を避ける為に、奴隷階級からの解放を行ったのだ。それは正直レテスの為でもあり、拳児の心の平穏の為でもあった。そんな思惑を透けて見るようにマリエルとフランがニヤニヤと笑みを浮かべていると、拳児は軽く頬を赤らめてから言う。


「と、とにかく!次は資料室、図書館に行くぞ」

「はいは~い」

「お前ぶん殴るぞフラン」

「やってみればぁ~?」


 心底イラッとした拳児の言葉にフランはからかいの声色を隠さずに言うが、拳児は拳を握りながら我慢する。ここで本当に殴るのは安い挑発に乗った形になるのでそれでまたバカにされたくは無いのだ。そうして深呼吸しながら落ち着きを取り戻そうとする拳児を見て、レテスが苦笑しながら言う。


「フランさんもあまり拳児さんを困らせないで下さい」

「分かってる分かってる、これ以上はしないわよ」


 レテスの言葉にフランはカラカラと笑いながら道を進み、そのまま全員で冒険者の聖堂にある図書館に辿り着く。あいも変わらず全く人気の無い場所だなぁと思いつつ、広々とした空間に詰められた本棚の数を眺めてから、いつも通り司書カウンターで一人帳簿を確認している司書であるセーナさんが居た。彼女も近づいてくる拳児達の気配を察知して、顔を上げてからにっこり微笑みかけた。


「皆さんお揃いで。今日はどんな資料を探しますか?」

「こんにちはセーナさん。今日はダンジョンの特殊な出来事とかの情報を。今のような月鉱石が稀に生成される期間とか、そういう情報を」

「なるほど、ダンジョンでの出来事ですね、少々お待ちを」


 セーナの言葉に恵が素直に答えると、セーナが司書カウンターの下からいくつかの冊子を取り出してパラパラと確認してから、目当てのページを発見して指で撫でる。


「えっと、Uの20番の本棚からですね。ギルドのダンジョンに纏わる報告書の資料が纏められた書類はその棚からあります。今案内しますね」

「ありがとうございます」


 セーナの言葉に恵は頷いて礼をしてから全員でセーナを先導にして図書館内を進み、目的の本棚の所に辿り着く。そこは広々とはしていたが、本当に本では無く書類が纏められ横に穴を空けた書類を紐で括って纏めた資料群が広がっていた。その様子を見て思わず綾子が問いかける。


「えっと……ここから、全部?」

「はい、全部、ですね」

「全部……全部かぁ……」


 綾子の言わんとしている事を理解しつつも、セーナは苦笑交じりに応じ、綾子は軽くため息を吐く。ズラッと視界一面の資料群を見て、この山から探すのか、と軽い絶望を綾子は味わっていた。その様子を見て、セーナも申し訳なさげに言う。


「わ、私も手伝いますから、みんなで頑張りましょう!」

「ニアも、今日は本で寝ちゃダメよ」

「わ、分かってるよぅ!」


 セーナの掛け声の後に、マリエルが本に弱いニアにからかい混じりに言うと、ニアも顔を赤らめてから、資料群から情報を探る作業へと突入する事となった。

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