61話
綾子が拳児達のパーティーに合流してから2回ダンジョン攻略を行い、綾子の戦闘力も問題無いと分かった所で、本格的に現在探索しているダンジョンエリア「朝露の森林」の攻略を開始しようと思い、その日は朝早めに全員が起床し、装備の点検等をしていた所で、屋敷の扉に取り付けられているドアノッカーが高い金属音を出し、来客を告げた。こんな朝早くから誰だろうと思いつつ一番ドアに近かったニアが開けると、そこには神殿の神官であるセシリアと、司祭マリーナが立っていた。2人は顔を出したニアに向かって丁寧に頭を下げる。
「おはようございます、ニアさん。皆さんまだお揃いでしょうか?」
「あ、おはようございます。今から朝ごはんを食べに行こうと思ってました」
「そうですか、お話がございますので入ってもよろしいでしょうか」
「分かりました、どうぞ。みんな~、マリーナ司祭様が来たよ~」
マリーナの言葉に大人しく従ったニアは彼女達を引き連れて屋敷のリビングに通すと、諸々の点検を行っていた全員が集まり挨拶をしてから、マリーナが早速本題を出してきた。
「昨日に城から伝令がありました。属性球に関して話をする為、可能なら本日会って話がしたいとの事です。発見した皆様方だけではなく、神殿にも関係する事なので私共も一緒にと」
「神殿も関係しているのか……やっぱり面倒な話になってきたわね」
マリーナの言葉に応対した恵と同じように全員半笑いになりながら聞いていると、更にマリーナは言葉を続けた。
「また今回の対面に関しては謁見という形では無く、私的な顔合わせという事で内密に行いたいとの事です。謁見となると公の対応となる為、極秘の話は出来ませんので」
「そういう理由なら仕方無いわよね、私達も情報さえ貰えれば良いから」
「ご理解いただけて何よりです」
マリーナの説明に納得したフランに全員が同意するよう頷くと、マリーナは軽くほっとしたような表情で頷く。そうしてからまたマリーナは口を開いた。
「では慌ただしく申し訳ありませんが、今から城へ向かいます。王も政務がある為朝の時間しか空いていないとの事ですので」
「王って意外と忙しいんだ……」
「国の最高責任者ですから」
説明に拳児が軽くアホな事を言うとセシリアが苦笑しながらツッコミを入れ、全員で席を立つ。既に荷物は準備してある為それからすぐに屋敷から出発した。城までの道中、まだ朝早い事もあり屋台は準備中で人影もまばらな街中を歩き、そのまま貴族街への通路へ入る。拳児達が住む居住区より更に上の豪華な屋敷が並んでいる街並みを眺めながら城の正面入口に向かい、入口を守る全身金属鎧の2人の門番が先頭のマリーナの前に立ち、頭を下げる。
「マリーナ司祭様、お話は伺っております」
「ありがとうございます、ご案内頂けますでしょうか」
「はっ、私が行います」
マリーナに対し丁寧な礼を見せた門番の一人はそのまま拳児達を先導する形で先頭を歩き、拳児達は初めて城内へと入る事となった。豪華絢爛といったモノでは無いが、調度品と城内の雰囲気が調和した、美術館のような静かな雰囲気の城内を進みながら、周辺の絵画や壺を眺めつつレテスが呟く。
「まさか私に、城内に入る機会があるとは」
「私もそれ思った」
レテスの少し感慨深い呟きにニアも苦笑しながら同意する。普通の冒険者なら一生入る事の無かったであろう城の中を歩いて不思議な気持ちを浮かべながら前へと進み、そのまま拳児達は城内の一角にある個室へと通された。門番はそこを二度ノックしてから室内に入り、拳児達を先導する。内部は応接室のような場所で、ソファーと背の低いテーブルが置かれた簡素な部屋だった。拳児達はそのまま門番に従ってソファーに座ると、部屋に控えていたメイド服の侍女がすぐさまお茶を出してから部屋を出て行った。それを見届けてから門番はドアの横で静かに槍を縦に持ち停止する。なるほど見張りか、と拳児達が納得していると、すぐに部屋のドアが叩かれて開いた。それを合図にマリーナとセシリアが席を立った為、全員ソファーから立ち上がった。
室内に顔を出したのは菅原よりは若いであろう、洗練された身振りで拳児達を確認するように見渡す美丈夫であった。そんな彼と共にこちらも高貴であるが、先の美丈夫よりも年上に見える男性も拳児達を確認しながら室内に入る。そんな彼らにマリーナは礼をしながら口を開く。
「陛下および摂政様、お時間を頂き感謝いたします」
「いや、マリーナ司祭からの願いではな。普段から世話になっている方の数少ない願いは聞き入れるのが人の情であろう」
「勿体無きお言葉」
マリーナの言葉に美丈夫は笑顔で応じてから拳児達の座るソファーの対面へと向かい、そのまま腰をかけてから拳児達に声をかける。
「そちらも座るが良い。立ったままでは話も出来ぬからな」
「はい」
美丈夫の言葉にマリーナが同意して着席してから拳児達も一緒にソファーに座ると、美丈夫は早速口を開いた。
「さて、この場では形式等も無い故自己紹介をするが、余はコルスタイン、フィーリアスの城主にして王だ。そしてこちらは摂政のグスタフ」
「グスタフと申す」
「よろしくお願いいたします、国王様、摂政様」
王と執政の挨拶に拳児が頭を下げながら返事を返す。以前のエライ村村長との対話で挨拶等は男が先に口を開くべき、というこの世界のルールを理解した為、今回は拳児が基本的に話をする役割を担う事にしていた。拳児のその言葉に王は軽く頷いてから口を開く。
「では早速であるが本題に入ろう。そなた達はマリエルパーティーという冒険者チームであったな」
「はいそうです、陛下」
王の言葉に事前にギルドから申請していた資料を見たのだろうなと察した拳児は動揺を見せずに返事を返すと、そのまま王が話を続ける。
「ダンジョンで見つかった属性球というもの、資料が無いか確認をした所で宝物庫に保管していた書物に簡単な記載があったので説明しよう。グスタフ」
「はい」
王の言葉に応じてから摂政のグスタフが手にしていた古い書物を軽く開き、説明をする。
「この本には『6つの広場』に『6つの鍵』があると記載されている。この鍵というのは属性球の事だ。これを用い神の使徒が儀式を執り行う事で、ダンジョンは全ての機能を復元するらしい。6つの鍵で6つの機能、司祭様からの連絡により4つ探す必要があるという事で、4つの機能の復元という事だな」
「6つの広場に6つの鍵……ダンジョンフロアの数と同じですか」
「そういう事だ」
本を読み上げたグスタフは一度お茶を飲んで口を濡らしてから、続きを読み始める。
「ダンジョンは力の集約地となっているが、今は『フィーリアス大迷宮』と呼ばれている我が国のダンジョンは、古代魔導王朝の時代には再生魔導晄炉という廃棄物や大地のエネルギーを別のエネルギーに変換できる施設であったらしい。その頃の廃棄物、淀み、汚泥の力などが残されており、それをエネルギーにダンジョンは稼働し、モンスターやアイテムを生産する。それが、今の大迷宮の正体だ」
「廃棄物処理施設か、なるほど」
グスタフの説明に納得して頷いた拳児に対し、王が告げる。
「マリーナ司祭からは4つの鍵を使うと聞いておる。即ち神は機能の全てを解放する事は望んでいないという理解で間違い無いか?」
「そうであると思われます。今必要なのは4つの機能だけなのでしょう」
「ふむ、そうであるか」
王からの質問にマリーナが正直に返事をすると、王がグスタフに視線を向け、それに応じたグスタフは無言で本をもう一冊取り出し、それをマリーナに差し出した。
「これは?」
「宝物庫に入っておったもう一つの本。本来であれば神殿に渡すべきであったダンジョンの取り扱い説明書と呼ぶべき本であった。此度の件が無ければ発掘出来なかったであろう資料の為、本来の持ち主である神殿へお返しする」
「これはまた……確かに受け取りました、ありがとうございます」
王からの説明に驚きに目を見開いてからマリーナは恭しく差し出されたその本を受け取った。それを手にし、軽く溜息を吐いてから懐にしまうのを見てから、王は頷き言葉を続ける。
「この国が『フィーリアス』と呼ばれるようになって200年、その前身であるティネル王国の頃は神殿の権威を邪魔に思いあらゆる権利を奪い取っていたからな、その本もその権利の一つなのであろう、厳重に封がされておった」
「左様ですか、過去の歴史で知ってはいましたが、このような本すらも奪っていたとは」
「歴史を学ぶ程碌でもない国であった事を実感する」
王はそう言うとお茶を一口飲んでから今度は拳児に向かって口を開いた。
「してその方らは鍵を探す為にダンジョンへ潜るか?」
「はい、当然そのつもりです」
「ふむ、そうか」
王の問いかけに拳児が当然という格好で頷くと、王は軽く自身の顎を擦ってから拳児に告げる。
「以前にギルドより献上されたゴーレムは受け取った。次に何か珍品を見つけたら直接献上しに来るが良い。さすれば褒美も与えられよう」
「それは……分かりました、次はそのように致します」
王の言葉の意図を察した拳児は軽く驚きながらも、有り難く受け取る事にした。褒美を与えるという形で何らかの協力をしてくれるのだと理解したパーティーメンバーはかなり驚いた表情を浮かべたが、それを口に出さずにいると王と摂政が席を立った。
「ではそろそろ政務の時間であるからな、短い時間で済まないが、後は司祭様にお任せする」
「かしこまりました」
「うむ、では失礼する」
王と摂政はマリーナの返事に頷いてから部屋を出ていく。その姿を見送ってから、全身鎧の門番がすぐに拳児達の所へとやってきた。
「それでは、出口までご案内いたします」
「ありがとうございます」
礼をする門番に拳児も礼をして応じ、全員でとりあえずその場を離れるのだった。




