54話
水竜カミュー、と呼ぶ事となった存在により急遽エライ村からフィーリアスへ戻る事となってしまったマリエルパーティー。案の定マリエルのパパが「いやだいいやだい」と泣いて駄々をこねるという無様を晒したのだが、周囲は見なかった事にしてマリエルの実母であるベルに笑顔で見送られ馬車に揺られて戻る事となった。何故か一緒に馬車に乗る事となったカミューに、フランが問いかける。
「なんで一緒の馬車で戻るの?先に飛んでフィーリアスに行ってても良いんじゃ?」
「先に行ってもあなた達が居ないと同行者として入れないのだから、馬車に揺られても同じでしょ?だったら待ちぼうけするよりも久方ぶりの馬車の旅でも楽しむ事にするわよ」
「過去に馬車に乗った事があるんですね」
フランの問いに開いた馬車の窓から吹き抜けてくる風を感じながらカミューが楽しそうに言うと、レテスが若干踏み込んだ質問をする。それに何とも無くカミューは応じた。
「若い頃、といっても成年になってからだけど。違う生き物ってどんな生活をしているのか、興味が湧いて真似してみたのよ。魚や馬にも変身して真似してみたり、人の真似をして荷馬車に乗せて貰って1日こうして馬車に揺られていたわ。特別何かあった訳では無いけれど、他人の力で移動するという事には新鮮味を感じたわ」
「あー、なるほど。基本野生動物とかは自分で移動するから、人みたいに馬や牛を使って馬車を引くという事をする生物は中々無い、と」
「そういう事よ」
カミューが感じた新鮮味を軽く言語化した恵の言葉になるほど、と拳児は頷く。自分の力で動くのが生物の基本だが、他の生物や燃料を用いて移動手段を道具化する生物は確かに余り見当たらない。鳥も馬も自力で走るし飛ぶ物だから、そこに新鮮味を感じられるというのは中々人には出てこない発想だった。割と動物って色々あるんだなぁと拳児は思いながら窓の外を眺め、ふと呟く。
「フィーリアスを一歩出たらこんなに長閑な景色なのは、未だに違和感があるなぁ」
「発展度合いを比べたら天と地だものね。エライ村はそれでもフィーリアスに近いからまだ発展している方だけれど。エライ村より先の山岳地帯とかはもっと田舎よ」
「そっかぁ、すごいなぁ」
拳児の呟きを拾ったマリエルの言葉に恵が納得したように頷く。エライ村でも長閑な村という感じだったのに更に田舎という事は、本当に集落といった感じで寄り合い所帯暮らしをしている感じだろうか。余りそういった光景を見た事が無い日本出身都心組の3人は、中々実感が薄かった。そんなどこか違う3人に対して、カミューが問いかける。
「あなた達が言う都会って、どんな所なのかしら」
「えーっと、公共交通機関が張り巡らされていて、都心部だったら大体2時間程度で一周できる感じ」
「通過するだけならね。歩いたらもっと掛かるけれど電車なら環状線で2時間なのは確かね」
「あとは人が多い、お店が多い、観光地が多い?」
「高層ビルとかタワマンとかスマホの電波が入るとか」
カミューの言葉に拳児と恵、フランで色々自分達の住んでいた都心部の事を話していて、スマホという単語で拳児がつい溜息を吐く。
「日課のソシャゲ、出来てねぇんだよなぁ」
「そりゃスマホの電波がこの世界じゃ無い訳だし」
「そもそもこの世界にソシャゲのサーバーが存在しないし」
「なんか思い出したら余計プレイしたくなってきた、ガチャ回してぇ」
拳児の言葉にフランと恵が呆れ顔で正直な事を話すが、それが余計に拳児の欲求を駆り立ててソーシャルゲームをプレイしたいという欲が出てくるのであった。そんな事を話している中で、ニアが3人に問いかける。
「そしゃげ、ってなに?」
「あー、スマートフォンでできるソーシャルプラットフォームでプレイするゲーム、なんだけどこの世界じゃ何言ってるか理解できないわよね」
「うん、全然何言ってるのか分からないわ」
ソシャゲの概念についてフランが正直に答えるがマリエルが笑顔でフランの言葉に同意する。それを見てから恵が荷物袋の中から一つの鉄板のような物体を取り出し、電源を起動させた。スマートフォンブランドのロゴが表示されてからトップページに遷移した画像を見せると、レテスとニア、そしてカミューも驚きで目を見開く。
「これがスマートフォン。で、これは機械なんだけれど、この色々な絵がそれぞれ色んな機能を持っていて、遊べるゲームもあったりするの。えっと、オフラインでもプレイ出来るのは、このソリティアかな」
恵が一つ一つ画面を開いては閉じてを繰り返し、オフラインでもプレイ可能なソリティアを起動して画面を見せると、おぉ~、とマリエル達が感動を覚えながらじっとスマホを見つめる。そんな中でフランがふと気付き、問いかけた。
「ずっと電源切ってたにしても、こっちに来て一ヶ月以上は経ってるのに充電切れてないの?」
「……あ、共有忘れてたわ」
フランの問いかけにサッと表情を変えた恵が再びゴソゴソと荷物袋に手を入れ、中から3つの四角い平らな物体を取り出す。それを見て拳児とフランは驚愕に表情を変えた。
「は?携帯バッテリーじゃん!それも3つも!?」
「てか手回し式と太陽光じゃん!なんで黙ってたの恵さん!!」
「いや、ごめん。正直こっちに来た当初は周囲に不信感しか無かったから自分の手札を見せたくなくって。その内スマホ触る事も無くなってたから今まで忘れてた」
「……まぁ、確かにこっちでスマホ見て電波が入ってない事を確認したら普通電源切るよな」
「それはそうよね」
恵の言い分に拳児とフランはまぁ一理あるという感じで納得しながら言葉を続ける。
「じゃあ、充電させて貰ってもいいすか。自分も充電コネクタは同じ規格なんで」
「ていうか最新機種であれば大体同一規格だから大丈夫でしょ。私にも貸して!」
「はいはい、献上します」
拳児とフランの有無を言わせぬ勢いに恵は乾いた笑いを浮かべながら2人にバッテリーを渡し、内部に残された電力の充電を自分達のスマホに開始させた。その様子を見てレテスが不思議な物を見る顔で拳児とフランを見つめ、問いかける。
「あの、それは何をしているんですか?」
「充電、電気を流しているのよ。内部に電気を溜め込む性質の物質があって、それに電気を流す事で蓄電させて、蓄電された電気を消費して機械を動作させる仕組みなの」
「……魔法で雷を利用してそのチクデンをするのは出来ないのですか?」
「電圧とか規格とか色々あって難しいというか、出来なくは無いけれど、直接魔法で電気を作って送り込むと余程調整が上手じゃないとスマホの規格に合った放電は難しいかなぁ」
「難しい物なのですねぇ」
「私達の世界でも科学技術の粋の一つではあるからねぇ」
恵の説明にとりあえず何だか難しそうな物で魔法では解決出来ないのだろうとレテスは理解を示し、フランと拳児の様子を眺める。じっと四角い箱同士を繋げた状態でその様子を黙って眺めている2人の姿は、かなり奇妙な物としてレテスには見えていた。そうして数分その格好をしていた拳児とフランは、恵と似た形状の四角い物体のスイッチを入れると、恵と物と同じようにロゴが表示されてから起動された。
「フォー!!」
「ひっさしぶりにこの画面見た!!」
思わず盛り上がる拳児とフランに周囲は引き気味になって見つめるが、それを気にせずフランと拳児が語りだす。
「ネットは繋がらないけど、あーやっぱ7月10日だった」
「俺のスマホも7月10日で止まってるな、西暦2034年」
「うーん、やっぱ同じ日にこっちに来る事になったんだ、私達」
フランと拳児の話にやはり自分達は同じ日時にこちらの世界に来たという事が判明したが、恵はそれにしてはと判然としない部分を口にする。
「フランちゃんは私達が来てから10日前後の差があるんだよね。それで拳児君は更に2ヶ月位時間が空いていて、しかも私達は神殿に直積現れたのに、拳児君は街の入場口なんだよね。この差異は何なんだろう」
「時間差があるというのであれば、混沌が形を成した時間がかかったという事よ。液体を個体にする時間
が水と血液で差があるのと同じよ」
「……時間が掛かった分、力が込められている?」
「或いは今の形を形成する難易度が高かった、という事かしら。個々の特性という物があるが、特異な物であればその分力も時間もかかるだろうし」
「なるほど……」
日本時間で同一日時にこちらの世界に送り込まれ、こちらの世界に顕現したのは別の日時となったのがそれだけ形となるのに時間が掛かったという理屈は理解出来る。チョコレートを固めるのにミルクを多めに入れるか少なくするかで固まる時間が変化するのと同じ理屈だ。そういった自分達とは明らかに違う特性がフランと拳児にはあるのか、と恵は一瞬考えてから直感的に呟く。
「いや無い訳無いよね流石に。幻のダンジョン攻略に有名な竜の襲来なんて、特殊性が無いと早々お目にかかれないはずだし」
「ま、そうでしょうね。早計に決めつける事でも無いので、神と私が語らえばある程度の方向性の話は見えてくるとは思うわよ」
「じゃ、その時の神の答えに期待しておきましょうか」
「そうしておきなさい」
電源が久方ぶりに入ったスマホを弄って楽しそうにしている拳児とフランを俯瞰して、恵はカミューの言葉通り、神とカミューが語る内容に期待をする事にした。新しい何かがきっと分かるという予感を、恵は確かに感じていたのだった。




