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迷宮白書  作者: 深海 蒼
5/39

5話

書き方レイアウト模索中。

お見苦しいですがお付き合い下さい。

 個室の正面、というよりドーム中央に存在する支柱を囲むように配置されている長椅子に、既に座っていたガティを見つける。

拳児に気づいたガティが手を軽く挙げると拳児もそれに習い、隣へと着席する。

同じ長椅子には多くの冒険者と思わしき者だけではなく、子供連れの夫婦や年配の老人が腰掛けており、誰もが何かを待っているようだ。

手持ち無沙汰に周囲をキョロキョロとしているガティに、拳児は聞いてみる。


「ガティは何を待ってるの?」


「あ? 俺ぁ登録証待ちだ。住民登録と一緒に商売の届けも一緒にするから手間がかかるんだよ。おめぇも待ちなんだろ?」


「あ、あぁ、うん。なにか説明会があるって言われて」


「あぁ、なるほどな。っと、来たみたいだぜ」


 ガティの視線を追うと、先ほど個室で測定を行なった女性と、中年と思わしき男性がこちらへ向かい歩いてきた。

男性の風貌はやはり冒険者然としていたが、周囲を歩く多くの人と違い重厚な鎧をつけておらず、軽そうな胸当てをしている。

だが拳児がそれよりも気にしたのは、彼の左肩から先が存在していない事だった。

そして彼が近づくたびに鳴る、コツコツという硬質の音に気づき、足を見て右足が木の棒で出来ている事にも気づく。

隻腕、義足の男。

その姿に、拳児は言いようの無い不安を感じ取っていた。


 エルフの女性と共に男は拳児の前へ立つと、言葉少なに告げる。


「ケンジコバヤシだな。冒険者講習を行なう、着いて来い」


「はっ、はい」


 有無を言わせぬ威圧感に、拳児は起立して返事を返した。




迷宮白書




 コツコツと硬質な音を立てながら前を歩く男を見ながら、拳児は不安を更に膨らませながら歩く。

彼が一体誰なのか、自分がどこに連れて行かれているのか、全く把握できていないのだ。

隣を歩く女性に聞いてみようかと思いもするが、声に出せば怯えを悟られそうでみっともない。

ジレンマを感じながらも、拳児はチラチラと女性へ視線を送っていた。

そんな拳児の視線に気づいたのだろう、拳児の肩より下、胸元ぐらいにある顔を、

見上げるように拳児へと向けた彼女は少し困ったような笑みを浮かべた。


「あの方はここで新人冒険者さんの適正を見る、所謂指導官なの。

 昔は冒険者として大迷宮や街の外でギルドの討伐依頼を受けてモンスターの討伐を行なって名を馳せた人。

 グレス・ネリウスという名は、昔を知る住人なら知らない人は居ないわ」


 余程不安そうに見えたのだろうか、彼女の言葉はどこか労わるような優しさを滲ませていた。

その事に気づきながらも、拳児はそれを有難いと感じ、黙って頷く。

程なくして、前方から響く硬質な音が止まった事に気づき、拳児達は足を止めた。

視線を向けると、通路の突き当たりにある木の扉の前でグレスがこちらを見定めるように見つめていた。


「レテス、君はここで待っていろ。お前は俺の後に続け」


「わかりました」


 何の感情も窺わせないグレスの言葉に笑顔で頷き、女性――レテスは静かに拳児の背後を通り壁際へと向かう。

すれ違う一瞬、拳児はポンと背中を叩かれた事に気付き彼女を横目に見る。

レテスはにっこりと拳児へ笑みを向けると、そのまま壁際にある古びた椅子へと腰掛ける。

そのさりげない彼女の優しさに、拳を握る事で答えた。





 扉の先は物置のように雑多な部屋だった。

いくつもの剣や槍が立てかけられ、大小様々な金属片が転がっている。

壁にはいくつもの染みがあり、床には何か引きずったような跡が多く残っていた。

その物々しさに怯えを見せる拳児だが、グレスはおかまいなしに指示をする。


「ここにある物を好きに使え。準備が出来たらこちらの扉から表に出ろ」


 それだけ言うと、グレスは部屋にあった一つの椅子に腰かける。

有無を言わさぬその言葉に、拳児は焦りながらも考え、壁にかけてある剣や槍を確認する。

一つ一つを手に取り、振るい、感覚を確かめる。

ここまで来て、これから何をさせられるのか分からない訳が無い。武器を手に取り、戦う事が必要となる場面がついに来たのだ。


 これから起こるであろう事を想定し、慎重に慎重を重ね、拳児は一つ一つ確かめる。

槍を振るってはみたが、その長さから来る遠心力に自分では扱えないと決め剣を選ぶ。

剣もどれも似たり寄ったりだったが、先ほどの槍よりも扱いやすく、「いざ」という時は片手で相手に投げつけられるぐらいの軽さだった。

学生時代に授業で握った竹刀よりも重く感じるそれを持ち、グレスへ視線を向ける。

拳児の準備が出来た事を確認すると、グレスは顎で扉を指し示した。


「行け」


「はい」


 扉に近づくにつれ、鼓動が大きく感じられる。

汗ばんだ手に持つ剣を強く握り締め、拳児は指示された扉を潜った。


 中は円状の、まるで運動場のような造りをした空間だった。

四方50メートル程度の空間の中に、拳児は進み出る。そこには、二つの小さな人型が争う姿があった。

ボロ布のようなものを身に纏い、手に包丁程度の大きさをした、恐らく骨で出来ているだろう刃物を確認する。

その姿は、やはり作り物の世界で見たような、明らかに人とは違う生物だった。


「ゴブリン……」


 浅く短い息を吐きながら、拳児は呟く。

作り物の世界、実在しないはずのモンスターが自分の目の前に存在している。

その事実に愕然としながら、拳児は奥歯を噛み締め、手にした剣を強く握り締めた。

二匹のゴブリンは拳児の呟きに反応したようにぐるりと顔を向ける。

その形相は醜く歪み、目は赤く爛々と輝き、切られたのであろう頬から、ポタポタと緑色の雫を零していた。


「ギキィッ!」


 拳児の姿を確認した途端、二匹は声を挙げ拳児へと飛びかかる。


「うわぁあっ!」


 ゴブリンの持つ凶器に、拳児は手にした剣を振るより先に、右側へと走って逃げた。

全力で走り、二匹のゴブリンから距離を取り見定める。

二匹はギャアギャアと耳障りな声を出し、赤い瞳で拳児を追うように見つめていた。

視線の先に自分がいる事を感じ身震いしながら、剣を改めて握り締める。


 ガティの言葉を理解していたつもりだったが、全然分かっていなかった事を今更ながら痛感していた。

目の前の二匹は、自分を殺すというより、その先にある捕食を明らかな目的として行動している。

自分を殺そうと、食べようとしている存在がいる事が恐ろしい、怖い。


 だが、その不条理な存在に、恐怖と共に怒りを覚える。

何故自分がこのような目に遭っているのか、何故自分が食われなければいけないのか。

沸々と湧き上がるその感情に呼応し、身体が熱を持ち始める。

熱を帯びた身体は衝動を覚え、感情が暴力を行使する事を訴えていた。

ギリ、と強く奥歯を噛み、腕を前に出し剣を構える。

その途端、二匹のゴブリンは奇声と共に凶器を振り上げ飛びかかってきた。


「あああああっ!」


 奇声に答えるように喉から声を振り絞り、両手に持つ剣を振り上げゴブリンへ向かい駆ける。

二匹の跳ぶ速度は遅く、キャッチボールほどのスピードもない。

拳児は右手のゴブリンに狙いを定め、両腕を横薙ぎに振るう。

剣はゴブリンの胴へと狙い通りに当たり、ズシリとした重さを伝えてくる。

その重さを遠くへ飛ばすように、剣を振り切った。

ギシ、という音と共に狙いとしたゴブリンの身体が二つに分かれたのを見て、振るった勢いのまま振り返る。

その先ではもう一匹のゴブリンが凶器を構え、今まさに拳児に突き刺そうとしている所だった。


「うわあああっ!」


 叫び声をあげ、拳児は逆に向かっていく。

空手の試合で経験した相手の突きより、遥かに緩慢な動きだ。

ゴブリンの狙いであろう身体を横にずらしながら、今度は右腕のみで剣を振るう。

左腕に違和感が走ったが、かまわず右腕を横薙ぎに振る。

ゴブリンはゴキッという鈍い音を立てると、横からどしゃりと地面へ倒れる。

すぐさま駆け寄り、左腕の違和感を無視し、握り締めた剣を逆手に持つと、力の限り剣を降ろす。

胸を刺されて奇声をあげるゴブリンに向かい、奇声があがるのを聞いては刺し、腕が動いたのを確認してはまた刺す。

幾度も幾度も繰り返し行い、ゴブリンが動かなくなるまで、その作業は行なわれた。


 ゴブリンの完全な停止を確認すると同時に、自分の足元に転がる塊に吐き気を覚える。

醜い形相は更に歪み、腕は地面へと横たえられている。

胸からは緑色の液体が毀れ、腹は裂け内臓が地面へと広がっていた。

吐き気と共に左腕の違和感が痛みとなって蘇り、目の前がぐるぐると回る。


「――――げぇっ」


 身体の反応を堪える間も無く、拳児は足元のコブリンへ、嘔吐を繰り返した。

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