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迷宮白書  作者: 深海 蒼
44/45

44話


 冒険者の聖堂でグレスから告げられた真偽不明の都市伝説のような話、月鉱石が採掘可能になる期間のみ坑道に現れるという謎の砦が今拳児達の目の前に姿を表した。思い切りグレスに立てられたフラグを回収した形になったが、拳児達はもう諦めて砦の攻略に乗り出す事にした。全員で身を屈めながら見通しの良い道では無く右側の少し窪んだ道を歩き、物見も兼ねている砦の門の上で哨戒をしているトロールの視線を切って門に辿り着き正面の入口から少し顔を出して門の状況を見た拳児と恵が小声で呟く。


「おかしいわね」

「うん、おかしいな」

「なにがおかしいの?」


 門の様子を見た恵と拳児が合わせて言う事にマリエルが疑問を呈すると、恵が説明をする。


「門番だったら門の前に居るのが正しいのに、門の真ん中に全身鎧の門番と思われるゴーレムが2体居るの。門の真ん中辺りから階段があって、それで門の上に登れるけれど、どう考えても侵入対策用ではない兵士の配置ね」

「侵入をさせない訳じゃなく、ゴーレム兵士が倒せるなら侵入しても良いと思っているような配置。多分試練とか腕試しみたいな形で兵士を配置している」

「なるほど、最初から侵入者を想定している、と」

「そういう事」


 恵の説明の続きを拳児が言うとレテスが納得した表情で頷く。全員が状況の理解をした所で、フランが一つガティに問いかける。


「ガティさんは攻撃手段何かある?」

「あぁ、採掘用のつるはしと魔法を組み合わせてゴーレムを砕く程度の事は出来るだろうが」

「じゃあガティさんはそれで恵さんと一緒に1体対処するとして、もう1体はあたしと拳児で処理しましょ。他のみんなは牽制射撃で」

「だな」


 ガティの攻撃手段を勘案したフランの作戦に全員で頷いて、まず素早く門の正面に流れ込んだニアが既に出現させていた光の矢を2本風を纏わせ放ちゴーレム兵士達の頭を弾く。激しい金属音と共に頭を上に向けた2体のゴーレムに向け続けてマリエルとレテスが魔法で巨大な岩を作成して勢い良く射出した。


「ロックハンマー!」

「ぶっ飛べ!」


 言葉と共に放たれた巨石にゴーレムは吹き飛び後ろに倒れた事で近接戦闘組が素早く近づきまずはフランが細剣に電流を纏わせゴーレムに接触させる。


「サンダーレイジ!」


 バチンと激しい音と共にゴーレムが一瞬身体を跳ねさせた後で拳児がジャンプから真下に突くように棍を振るう。


「ぜいっ!」


 身体能力の活性化も行った棍の一撃によりゴーレムの頭は兜ごとひしゃげ、大きな凹みを生じてその動きを止めた。一方の恵も倒れたゴーレムの胴体に両手槍を叩きつけて拘束した所に、ガティがつるはしを両手で思い切り振り上げ、その先端に細かな粒子が激しく渦巻かせながら、頭に振り下ろした。


「岩盤砕きだぁ!!」


 思い切り振り下ろされたつるはしは先端の渦巻く粒子によりゴーレムの頭をゴリッと一瞬で削り取り、その頭を貫通して地面にまで穴を開けた。そうして2体のゴーレムの処理が完了した所で、ガティがフゥーと額の汗を拭った。


「戦闘なんて久々なもんでアレだが、何とかうまく行ったな」

「えぇ、お疲れ様」


 苦労した、といった感じでガティが言うとマリエルが笑顔で近づいてきて地面に倒れたゴーレム2体を確認し、首を傾げる。


「これ、鎧の下も金属じゃない?」

「だと思うよ、岩石ゴーレムじゃなくて金属のゴーレムだ」


 マリエルの感想に拳児も同意すると早速ガティがゴーレムから鎧を剥いで中身を確認し、首を傾げる。


「この鎧の金属もそうだが、中身の金属も触った事ねぇ材質だな。この世の全ての金属を知ってる訳じゃねぇが、割と柔らかい、銀や金に近い感じの金属だ」

「もしかしたら月鉱石かもしれませんね」

「ま、ギルドに持って帰りゃ鑑定して分かるだろ、ゴーレムごと仕舞っちまうぞ」


 ガティの感想にもしもとしてレテスが言うと、ガティが自身の大きな荷物袋にゴーレムを丸ごとそのまま仕舞ってしまった。その様子に拳児はびっくりして思わず声が出る。


「え、ゴーレム丸ごと入るってどんな荷物袋だよ」

「あぁこりゃ『大きな大袋』だよ、お前らの持ってる『小さな大袋』の超でっけー奴だ。家の1軒2軒なら平気で入るぞ」

「うわ、欲しいなぁそれ」

「帰ったら色々教えてやるよ」


 拳児の羨ましそうな言葉にガティは苦笑しながら2体のゴーレムを纏めて仕舞い、立ち上がって言葉を続ける。


「それで、この後はどうする?」

「門の上のトロールを片付けましょ。門の上に居られると内部に入っても巨大な弓で射られるだろうし、片付けた方が良いわ」

「じゃ、左から順番に片付けるか」


 マリエルの指示に従い拳児達はニアを先頭にして門の上への階段を登り、階段終わりの少し手前でニアが微かに見えたゴーレムの兜に2回連続で矢を放ったのと同時にマリエルが前に出て逆三角形に魔法陣を一瞬で3つ展開し魔法を発動させる。


「ハイプレッシャーウェイブ!」


 瞬時に発動された重力衝撃波によりゴーレムが思い切り吹き飛びトロールの足元に転がり、ゴーレムの背後で石剣を持っていたトロールも衝撃波で大きく仰け反っていた。その間にフランが前に飛び出して高々とジャンプ、仰け反ったトロールの胸に思い切りレイピアを突き刺した。


「グオオオオッ!」


 激しい痛みに絶叫を上げたトロールの足元ではまたガティが倒れたゴーレムの胴体をつるはしで砕きゴーレムを破壊し、拳児も高く飛び上がってトロールの頭に棍を思い切り振り切った。


「喰らえ!」


 棍が当たると同時に激しい衝撃音を出したトロールの首がグルリと横に180度回転、そのままトロールは息絶えた。それを確認しながら拳児は着地をしてふぅ、と息を吐く。


「割と素直な敵の配置だな」

「本当に腕試しというか、真っ向勝負って感じね」


 拳児の感想にフランも同意を示しながらトロールの解体を行い、持ち帰る魔石等をくり抜いてからまた逆の門の上へと移動し、同じように金属ゴーレム一体とトロール一体の編成だった為同じように処理をして砦門で哨戒していたトロールを全て片付けた。その作業を終え水袋で軽く喉を潤してから、拳児達は再び作戦会議を始める。


「それで、次はどうする、アレ」

「まぁ、正面衝突しか無いかな」


 門の上から砦の本丸手前にある広場を眺めた拳児の言葉に恵も苦笑しながら言葉を続ける。上から見ると真ん中の通路の左右に剣盾を持つゴーレムが居て、通路の真ん中に両手槍を持つゴーレムが立っている。そのゴーレム達は微動だにせずに正面を見続けていた。


「どう考えても待ち構えてるって感じよね」

「ここから弓で撃ったらどうなるかな?」

「止めておきましょう、相手も遠距離攻撃してくるかもしれませんし」


 マリエルの感想にニアが弓を射る提案をするが、レテスが懸念を示して止める。確かに下手に動いて余計厄介な事になっては堪らないので、大人しく正面衝突するしか無いだろうと諦める。ただ何も無策で行く訳にもいかないので、拳児が提案をした。


「どう考えても一番強そうな真ん中のゴーレムは俺が抑えるから、その間に左右のゴーレムを全員で纏めて相手して倒して欲しい。それが終わったら救援してくれればいいから」

「ま、現状の戦力だとそれが一番かしらね。接近戦が一番巧いのは拳児だし」


 接近戦に慣れている拳児が一番強そうな相手を引き付けている内に他の相手を残りが倒す、いわゆる囮でもあるがそのまま倒してしまっても、という奴である。拳児はそんなフラグをぶち立てたりはしないので全員で門の上から階段で降りて、そのまま正面から道を進む。拳児達の出現に左右の剣盾を持つゴーレムがまず盾を構えながら前に進んでくる所に、一瞬で身体の活性化を行った拳児が間をすり抜け両手槍のゴーレムへと飛び上がり大上段から棍を振り下ろす。


「でぇいっ!!」


 裂帛の声と共に振り下ろした棍はその槍に防がれたが当然それも想定済みで、すぐに右足で胴体を蹴りそのまま宙返りしてゴーレムの前へと降り立つ。その間に剣盾のゴーレムに恵とフランが接近戦を仕掛け、後方から魔法と弓で残りの者が援護するという形となった。


 拳児は目の前の両手槍のゴーレムとの戦闘に専念するが、今までのゴーレムより上位存在である事が分かる程に、ゴーレムの槍捌きは流麗だ。グレスの方が戦闘する相手としてはやり難いが、このゴーレムも明らかに武術として研鑽を積んだ物を扱っていた。そんな相手と両手槍と棍という似たような属性の武器で上下左右に武器をかち合わせるが、激しい衝突の繰り返しに少し拳児の棍を持つ腕がしびれ始めてきた。そんな所に突如ゴーレムの槍が思い切り引かれたかと思えば、槍が旋風を纏い突き出された。


「ぐおぉおっ!!」


 槍の直撃こそ無かったものの、纏っていた旋風がそのまま衝撃波として拳児を貫き大きくダメージを与え、更には吹き飛ばされた事で拳児の身体が宙を舞い、背中から地面へと叩きつけられた。


「げはっ!」


 正面から衝撃波を貫かれ、また背中から落下した事による衝撃も身体を通り呼吸が出来ない程の衝撃を受け目がチカチカと弾けていた。一瞬息も出来ない状態となったが、そこに本能的な悪寒を感じて息を止めながら横にゴロンと可能な限り転がると、すぐ真横に両手槍の先端が突き刺さった。すぐに引き抜かれた槍を確かめまた転がり槍を避け、4度転がってから途中でうつ伏せになった状態から腕と胸、背筋の力で身体を跳ね上げて無理やり立ち上がり右足の裏でゴーレムに蹴りを与えながら後ろに跳ねてゴーレムから距離を取った。


「くっそ、頭がクラクラする」


 呼吸困難と全身を貫いた衝撃、そして何度も地面を転がった所為で三半規管もちょっと揺らいだ状態となった拳児だが、自分が素手なのを確認してから棍が転がっている拳児が吹き飛ばされた場所を見て、また身体の活性化を一瞬行いゴーレムの横を抜けて転がっている棍を拾い上げ、そのまま横に回転して棍を大振りにゴーレムにぶち当てた。


「どりゃぁあ!」


 拳児の渾身の振りを両手槍のゴーレムが槍を盾に防ぐがその衝撃はかなりの物だったらしくゴーレムの身体が揺らぎ、拳児の勢いに身体が横に流れた所に拳児の背後から強烈な風を纏った光の矢が飛んできてゴーレムの頭を上に跳ね上げさせた。その様子を見て一瞬で状況を判断した拳児が勢い良くしゃがんで両手で棍を持ちゴーレムの右足に棍を振るい体勢を崩させると、更に背後から魔法が飛んでくる。


「倒れろ!!」


 フランの声と共に巨大な岩がゴーレムにぶち当たりゴーレムはその勢いのまま仰向けに倒れると、そこに思い切り走ってきたガティがつるはしを叩きつける。


「岩盤、砕きだ!」


 一瞬の抵抗も無く、ドカンと音を立ててゴーレムの胴体につるはしが食い込み鎧を貫く。しっかり胴体を貫通したつるはしが再び振り上げられた時には、胴体にでかい穴の開いたゴーレムはもう微動だにしなかった。その状況を見て、拳児の肩の力が抜け、思わず座り込む。


「……普通に死ぬかと思った。本気で死ぬかと思った」


 もし仲間の援護が無かったらと思うと、拳児は冷や汗を流す事しか出来なかった。

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