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迷宮白書  作者: 深海 蒼
43/44

43話


 フィーリアス大迷宮の坑道跡ダンジョンで、一定期間のみ採掘が可能な鉱脈が発生するという月鉱石が8年ぶりに採掘可能になった、という話は親方達が持ち帰った月鉱石の含有された鉱石を鑑定した結果明らかとなり、あっという間に情報が駆け巡った。ギルドはすぐにフィーリアスに居住している王族と貴族に通達、同時に市井の民達にも説明を行った。


「8年振りに月鉱石の鉱脈が発生した!これよりギルドは不休で冒険者の探索申請の受け付けを行い、またクエストの受け付けも行う!月鉱石の買い取りもギルドで行うので冒険者、鍛冶師諸君の月鉱石の納品も待っている!」


 冒険者の聖堂の真ん中でギルド職員がそう発表すると、冒険者達は慌てて聖堂から駆けて出ていった。月鉱石は正真正銘レアイベントの為、知り合いの鍛冶師や坑夫に話をして採掘をする準備を始めたのだ。真の意味で一攫千金が狙えるイベントの始まりに、街中がにわかに活気づいた。

 拳児達は最初の発見者の護衛をしたという事で親方達のみならずギルドからもささやかながら報酬が与えられ、財布の中身が潤った状態でその情報をガティへと持って帰った。拳児が軽く説明をすると、ガティの目がとても輝いていた。


「月鉱石が出土したんか!こりゃ運が良いな!俺も採掘してぇからお前達で護衛してくれや!!」

「ガティならそう言うと思ってたよ」

「しっかり護衛料は貰うからね?」


 前のめりに乗っかってきたガティに拳児は苦笑を浮かべ、マリエルもしっかりと護衛料の話をして契約を結ぶ。今依頼のある武具の調整が終わる予定となる2日後に拳児達の護衛でガティがダンジョンで採掘を行うという事で合意し、ガティはやる気十分で今ある仕事をまずは片付けると言って仕事にいつも以上に気合を入れていた。


 ガティの予定していた仕事が順調に終わり予定通りの2日後、拳児達は自宅からガティの家兼店舗へと足を運ぶと、背中に巨大な荷物袋を持ちデカいつるはしを携えたガティが額に鉢金と身体に軽鎧を装備した出で立ちで待っていた。その後ろではノリエラとガティの店の従業員が並んでいて、拳児達を見つけるとガティが手を振る。


「待ってたぜ、行くぞ!」

「気合が入りすぎだな」

「馬鹿野郎、月鉱石なんてレア中のレアアイテムが手に入るんだから気合も入るもんだ!!」


 ガティの力み方に拳児が苦笑するが、そんな苦笑を放っておいてガティが力説する。それほどに鍛冶師や坑夫からは月鉱石はお宝なので、ガティ共々その価値を知る店の従業員達も気合を入れて応援していた。


『親方!頑張って下さいっす!!』

「おう!おめぇらの分もキチンと採掘してやっからな!レア鉱石の修練用にたんまり持って帰ってきてやる!」

『わーいっす!!』


 ガティの威勢の良い声に従業員達が両手を挙げて笑顔で喜び、その様子にノリシラが苦笑しながら編まれた紐のブレスレットをガティの腕に付ける。


「はい、気をつけてね。無事に帰ってくるのよ、ガティ」

「当たり前だ、こんな事で死んだらかあちゃんにぶっ殺されるわ」

「マルタさんなら死んでも殺しそうだものね」


 ノリシラの言葉にガティが笑顔で答えるとノリシラも笑顔で同意しクスクス笑う。それから拳児達に笑顔を見せてノリシラが口を開く。


「無事に帰ってきたら、家で豪勢なパーティーでもしましょう。美味しい料理を作って待ってますから」

「お肉多めでお願いね、あとフルーツも沢山」

「お酒お酒!」


 ノリシラのパーティー宣言にマリエルが食事の注文を行い恵がここぞとばかりにお酒を注文する。その様子に笑顔で頷いたノリシラを見て、全員で頷いた。


「よし、じゃあ行ってきます!」

「いってらっしゃい!」


 全員で挨拶をしてガティの家から一路冒険者の聖堂へと道を進んでいく。ガティ達の店は街の東側の鍛冶場街なのだがその性質上馬車の往来が多い為道は格段に広いはずなのだが、今日はとても道が混んでいる。しかも多くの人達がガティと同じく荷物袋につるはし、そして拳児達のように武装している集団を携えて道を進んでいた。その光景に思わずフランが口を開く。


「今日は道が混んでるわね」

「拳児達がギルドに報告したのが三日前だろ?でギルドと国の政府から正式に公示があったのが二日前、そこから鍛冶師や坑夫が冒険者に護衛の依頼を出してすぐに埋まれば今日から本格的に採掘開始っていうスケジュールになるだろうな」

「じゃあ本当に、今日からお祭り本番って感じなんだね」

「道理で道に屋台が沢山出てる訳だわ」


 ガティの説明にニアが祭りの雰囲気を感じ取りマリエルが周囲を見渡して屋台の多さに納得する。道行く冒険者達に向けて串焼きや甘い物なんかを販売している屋台の数が多く、朝だというのに香ばしい香りが道には漂っていた。その光景を見ながらレテスが笑顔で続ける。


「この屋台達が朝は串焼きや甘い物、冒険者の力となる栄養を販売し、夜はお酒も提供して酒盛りの屋台に全部切り替わるんです。今日から鉱脈が尽きるまで、ずっとそのどんちゃん騒ぎが続きますよ」

「本当に大規模ね、鉱脈ってどの程度で尽きるの?」

「私が知りうる限りでは、一ヶ月前後だったかと。8年前は私はまだギルド員として仕事はしていませんでしたが、記録ではその程度で鉱脈が尽きると記載されていましたね」


 過去の事例をレテスに説明して貰いながら全員で冒険者の聖堂へと入りギルドカウンターを目指すと、カウンター前にはかなりの行列が出来ており、一度に10組以上の受け付けをこなしているギルド職員達の姿があった。その様子を見てフランと恵が顔を引きつらせる。


「こんな行列久しぶりに見たわ」

「日本のラーメン屋前の行列とか思い出すね……」


 フランと恵の呟きに拳児も確かにと大きく頷いていると、横から見知った声に呼びかけられた。


「おい拳児達、こっちへ来い」

「あ、グレスさん」


 列から少し外れ、聖堂の中央部モニュメント近くに立っていたグレスに呼びかけられて拳児達は言われるままトコトコと列を外れてグレスの前に到着すると、拳児はグレスから唐突に金属の板を手渡された。それを見てキョトンとしている拳児にグレスが説明する。


「お前達が第一発見者だから、その優遇措置だ。優先的にダンジョン内に進行出来る証明書だと思え」

「あ、そんなの貰えるんですね、ありがとうございます」

「優先入場権は期間中はずっと使用可能だから無くさぬように」

「分かりました」


 発見者特典としてそんな物が貰えたのかと拳児はありがたくその権利を受け取りポケットに大事にしまうと、グレスが言葉を続ける。


「あと、これは昔流れた噂話だが。月鉱石の鉱脈が発生した期間、坑道跡の探索をしたある冒険者グループが武装したトロールと月鉱石が材料と思われる鎧を身に纏ったゴーレムが守る砦に迷い込んだという噂が流れた。その冒険者グループは砦を発見した所で砦門上部の左右で哨戒していたトロールから大弓で攻撃されて一目散に逃げたのだが、そのグループ以外の誰もその砦に辿り着く事は出来なかった為、今では与太話だと言われている」

「なんでそういう事言うんですか、完全にフラグじゃないですかそれ、砦に迷い込んだらどうするんですか」

「既に珍しい月鉱石の第一発見者となっているのだから、今更かと思ってな」


 グレスが思い切りぶち立てた謎の砦という厄介なフラグに拳児が突っ込むとグレスも苦笑しながら応じる。前フリとして最高の前フリであり、むしろ厄介事に巻き込まれてしまえというグレスの意思を感じる言葉だった。その事にグレスは苦笑しながら拳児の肩をポンと叩いて声援を送る。


「砦の実在の証明とその砦の探索、お前達ならやれると思っている」

「勝手に重荷を肩に載せないで欲しいなぁ」

「もしそれが叶った場合、後の作業で忙しくなるのは俺だからな。誰も証明出来なかった事を見事証明してみせろ」

「分かりました、頑張ってどうにかなるのか分かりませんが頑張ります」


 笑顔でそんな事を言うグレスに拳児は苦笑しながら頷き返し、全員でグレスに挨拶をしてから聖堂からモノリスへの通路を進み、モノリス前でもやはり整列されている冒険者達を横目に見ながら拳児は渡された優先権を傍に居たギルド員に見せる。


「すみません、優先権を持っているんですけど」

「分かりました、それではご案内します」


 拳児の言葉に犬獣人の男性ギルド員がすぐに応じ、モノリスのすぐ傍まで拳児達を案内し、他の冒険者達が並んでいる方とは真逆の面に拳児達を誘導する。それを確認して、、ギルド員は声をかけた。


「はい、ではこちらで転移をお願いします」

「分かりました。じゃ、坑道跡へ転移!」


 ギルド員に言われるままいつも通りモノリスから坑道跡ダンジョンへと転移をし、一瞬視界が光に包まれてから空気が変わったのを感じた拳児達が目を開くと、そこは周辺が洞窟状になっている通路であった。いつもよりも高い天井にとても広い通路、そして明らかに整備されているようにしか見えない道の上である事を理解し、拳児がため息を吐く。


「うわぁ……マジか……」

「マジだねぇこれは……」


 やっぱりフラグなんて立てる物じゃないなと拳児が思っていると、恵も同意して頷く。そんな中ニアが道の先に視線を向けて上の方を見上げていた。


「砦門の左右にトロール、話通りだね。トロール相手だからまだ気付かれてないけど、このまま真っ直ぐ行ったら気付かれるよ。少し身を屈めて右から迂回して門に近付こう」

「俺ぁ鉱石が手に入りゃそれで良かったんだがなぁ……」


 ニアの警戒の言葉にガティが小声で呟きながら身を屈めてニアを先頭に移動を開始する。急に始まったスニークミッションに少し呆れながらマリエルが呟いた。


「ほんと、拳児と居ると刺激的な毎日ね」

「お褒めに預かり光栄だ」

「褒めて無いわよ」

「分かってる」


 マリエルに突っ込まれた拳児だが、こうなっては仕方無いと腹を括り砦を攻略する事を考え、まずはニアの指示通りにスニーキングで砦に近づくのであった。

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